(完結)閃の軌跡0   作:アルカンシェル

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131話 クロスベルの《銀》

 星見の塔。

 ウルスラ間道の外れにある中世の建築物となる遺跡。

 内部には特殊な魔獣が徘徊しており、警備隊によって封鎖されたバリケードで中に入ることはできないようにしてあった。

 しかしロイド達がそこに辿り着いた時には、まるで異常があることを示すようにバリケードが薙ぎ倒されていた。

 

「あたしは定期巡回をしていてちょうど発見したばかりですが、皆さんはどうしてここに?」

 

 先に星見の塔の前にいたクロスベル警備隊のノエル・シーカーは特務支援課の面々に尋ねる。

 

「ああ、実は――」

 

 ロイドはここに来た経緯を説明する。

 切っ掛けは今朝、特務支援課の端末に送られてきた一通の導力メールから始まった。

 クロスベル国際銀行、IBCから送られてきたメールを調べ、ハッキング元のジオフロントを調べて、星見の塔に辿り着いたことを説明し、そのついでに《銀》のことも話す。

 

「カルバートの東方人街からやって来た暗殺者!?」

 

「ええ……そうなんです。その人物からこの塔で待っていると伝言を受け取ったんです」

 

「このタイミングであからさまに除けられたフェンス……

 どうやら本当に待ち受けているみたいだな」

 

「リィンの奴は昨日、接触することはできなかったらしいがな」

 

「昨日の今日だから無理もないだろ……

 むしろ向こうから俺達に接触してきたということは《黒月》経由で動向を掴まれているのかもしれないな」

 

「街ではそんなことが……それでどうするんですか?

 ロイドさん達はまさか本当に誘いに乗るんじゃないですよね?」

 

「いや……あえて乗ってみるつもりだ」

 

「でも、相手は危険な犯罪者でしょう?

 どんな罠があるかもしれないし、何だったらソーニャ副指令に頼んで警備隊から応援を頼みましょうか?」

 

「いや、相手は相当なプロだ。下手に大部隊を動かしたら感づいて逃げられるだけだろう」

 

「それに俺の推理が正しければ、《銀》に戦う意志はないはずだ」

 

 ランディの言葉にロイドが補足を加える。

 

「そ、それは……そうかもしれないですけど」

 

 ノエルはロイド達の言い分に言葉を詰まらせて、考え込み。

 

「分かりました。だったら止めません。その代わりあたしも助太刀します!」

 

「ええっ!?」

 

「で、でも……いいんですか?」

 

「一応、この塔の管理はクロスベル警備隊の仕事ですし。皆さんだけを危険な目に遭わせるわけには行きません……

 それにいつも妹のフランがお世話になっているみたいですし、ノエル・シーカー曹長、全力で皆さんをサポートします!」

 

 必要もないのに敬礼してやる気を見せるノエルにロイド達は断ることはできずに同行を認めてしまう。

 

「それじゃあ行こうか……」

 

 ロイドはみんなを促して、大きな扉に押して中に入る。

 その向こうにも扉があり、塔の内部に入る前の玄関のような場にそれはあった。

 

「なっ――!?」

 

「これは……」

 

 それを見た瞬間、足を止めて絶句したランディを他所にロイド達は無警戒に通路の中央に突き立てられたそれに近付いていく。

 

「何でしょうか……大型の導力ライフルにブレードを付けた武器は? こんなの警備隊でも見たことはありません」

 

「もしかして《銀》の武器かしら? でもそうだとするとどうしてこんなところに放置しているのかしら?」

 

「その可能性は低いかと、こんなゴテゴテの導力兵器は暗殺者というよりも猟兵の武器ではないでしょうか?」

 

「確かにそんな感じだな……ってランディ、どうかしたのか?」

 

 口々に意見を出す中でランディがまだ扉のところから動いてないことにロイドが気付いて声を掛ける。

 

「いや…………何でもない」

 

 再起動したランディは何とか取り繕って歩き出す。

 

「それよりそんなもの放っておいてさっさと行こうぜ」

 

「いや……でもこんな所にこんなものを放置しておくのは――」

 

「だったら帰りにでも回収して来ればいいだろ。ほら、のんびりしていると《銀》の奴が帰っちまうかもしれないぞ」

 

 急かす様にランディはロイド達を奥の扉へと追い立てる。

 どこか腑に落ちないものを感じながらもロイド達はそれに従い、塔内部へと続く扉を開いた。

 閉まっていく扉。

 ランディは地面に突き立てられたブレードライフルを振り返り、その視線は扉が閉まって途切れた。

 

 

 

 

 塔内部には奇妙な魔獣が徘徊していた。

 それに加えて深夜のクロスベル共同墓地で経験したような、霊的な乱れが発生している上位三属性が働く場でもあった。

 

「オオオオオオッ!」

 

 そんな中、四人での連携を忘れたようにランディは雄叫びを上げて、敵陣に突撃し暴虐の限りを尽くす。

 

「ど、どうしちゃったのランディ?」

 

「塔に来るまでは普通だったはずなのに……これも上位属性の影響でしょうか?」

 

「これがランディ先輩の本気……」

 

 人が変わったかのようなランディの戦い方に女性陣は慄く。

 

「おい、ランディ! 一人で動き過ぎだっ!」

 

 周囲の魔獣が排除できたことで一息つく前にロイドはそのままランディに言い寄る。

 

「…………ああ、悪い……もう大丈夫だ」

 

 ランディは大きく息を吐き、昂った気持ちを押し殺すようにロイドの声に応える。

 

「大丈夫って……ティオが言ったみたいにこの場の空気に当てられたのか?」

 

「そんなところだ。もう問題ない」

 

 適当に誤魔化してランディは息を吐く。

 実際は処理し切れない感情が腹の中で煮えたぎっているが、それを顔には出さずに済ませる。

 

「それにしても奇妙な魔獣だな。まるで石の塊を殴っているみたいだぜ」

 

「おそらく中世の魔術師が造ったというゴーレムというものではないでしょうか?」

 

 ランディの呟きにティオが答える。

 

「何だってそんなものが動いているんだ? まさか《銀》の罠なんじゃねえか?」

 

「分からない。とにかく慎重に上を目指そう」

 

 ロイドは平静になったランディに安堵しながらも、その場を仕切りなおすのだった。

 

 

 

 

 

「ここは……」

 

 塔の屋内最上階に辿り着くと、広い空間に出た。

 

「空っぽの巨大な書棚に……あれは天球儀のようなものかしら?」

 

「フフ……古の錬金術師が造った夢の跡といったところか」

 

 エリィが漏らした呟きに応える声が響く。

 

「声……どこから!?」

 

「上ですっ!」

 

 周囲を見回すノエルにティオが答える。

 ティオが指示した巨大な書棚の上の黒い人影は暇を潰していたのか、本を片手にそこにいた。

 

「お前は……」

 

「黒装束に仮面……」

 

「出やがったな」

 

 警戒心を露わにする特務支援課と警備隊員が緊張に身構えるが、彼は落ち着いた様子で手の中の本を閉じる。

 本は次の瞬間光を伴って消滅し、彼はロイド達を見下ろしたまま言葉を掛ける。

 

「初めまして、特務支援課の諸君。どうやら余計な者が一人、紛れ込んでいるようだが」

 

「自分はただのサポートです。気にしないでください」

 

「フ……まあいいだろう」

 

 ノエルの言い分は一笑して済ませ、《銀》は人の身長の何倍もある書棚から飛び降りて、ロイド達の前に音もなく着地する。

 

「ランドルフ以外はお初にお目にかかる――《銀》という者だ……

 まずはここまで足労願ったことを労おう」

 

「……ああ、随分と引きずり回してくれたもんだな……

 ちなみに塔にいる奇妙な魔獣はあんたが用意したものなのか?」

 

「あれは元々この塔の中に徘徊していたものだ。腕を鈍らせないように、歯応えのある狩場を捜してこの塔を見つけたのだが……

 中々どうして、面白い場所だ」

 

「あんたの仕業じゃないのか?」

 

 聞き返すロイドの言葉に銀は無言で肩を竦める。

 

「さて、色々と疑問はあるだろうが――」

 

 銀はおもむろに漆黒の大剣を構える。

 

「まずはその前に、最後の試しをさせてもらおう」

 

「なっ……!?」

 

「どういうつもり!?」

 

「弱き者には興味はない。お前達が我が望みに適う強さを持っているか……その身で証明してもらうぞ」 

 

「くっ……」

 

 銀の闘気に当てられてロイド達は身構える。

 

「それにしてもランドルフ・オルランド」

 

 一触即発の機運が張り詰める中で、銀はランディを見た。

 

「その様子だとベルゼルガーは持ってこなかったようだな……

 せっかく預け先から盗み出し、組み上げてやったというのに」

 

「やっぱりテメエの仕業か……一体何のつもりだ!?」

 

「何……リベールでの決着を改めて着けるのも一興かと考えただけだ……

 それに、それを負けた時の言い訳にされては堪らないからな」

 

「ちっ……」

 

「ランディ……?」

 

 いつも飄々としているランディが、顔をしかめつつも獰猛な表情をしていることにロイドは違和感を覚える。

 

「上等だ黒坊主。テメエなんぞベルゼルガーなしで十分だってことを思い知らせてやるぜっ!」

 

「フ……貴様があの武器を使わないというなら、こちらはこの剣だけで相手をしてやろう」

 

「っ……舐めやがって……」

 

「それはこちらの台詞だ。《影の国》の時も感じていたのだが……まあいい。貴様に何があったのかは知らんが、随分と腑抜けたようだな」

 

「うるせえっ! 黙りやがれっ!!」

 

 ランディは苛立ちを振り払うように一度大きく吠えると、スタンハルバートを振り被って突撃する。

 

「速いっ!」

 

 その踏み込みの速さはロイド達が今まで見てきたランディの動きを遥かに超えて速く、力強く、そして荒々しかった。

 ロイド達には霞むように見える速さで振り抜かれたスタンハルバートの一撃を、銀は危なげなく躱す。

 

「ちぃっ!」

 

 大きな舌打ちをしてランディは銀に追い縋る。

 荒々しい嵐のような連撃は、道中に遭遇しのゴーレムに対して繰り出していたものよりも圧倒的で、今のロイド達には近付くことができず、また絶えず目まぐるしく変わる立ち回りに遠距離からの援護すらもできない。

 そして伝説の凶手もその猛攻に手も足も出ないようで、逃げることもできずに大剣で只管防御に徹していた。

 

「す、凄い……」

 

「あ、圧倒的ね」

 

「とんでもないです……」

 

「さっきのよりも更に上があるなんて……」

 

 呆然とした様子のロイド達は、豹変したランディの戦いぶりに只々見入ってしまう。

 

「どうした黒坊主っ! 大口を叩いておいてその程度かっ!」

 

 威勢の良い声でランディは叫び、攻め手はさらに勢いを増す。

 

「もらったっ!!」

 

 下から振り上げたスタンハルバートの一撃が銀の大剣を大きく弾き、その腕ごと跳ね上げる。

 すかさずランディは無防備になった銀に追撃を放つ。

 しかし、その一撃は空を斬った。

 

「なっ!?」

 

「この程度か? リベールの時の方が遥かに強かったぞ」

 

 スタンハルバートの一撃を難なくすり抜けた銀は、容赦なく大剣を一閃してランディを吹き飛ばした。

 

「なっ!?」

 

「ランディ先輩っ!?」

 

「見えませんでした……」

 

 ランディが一方的に攻め立てていたはずなのに、たった一撃で簡単に覆してしまった銀に、エリィ達は呆気に取られる。

 

「……ランディが弱いわけじゃない。相手が余りに強過ぎるんだ」

 

 ロイドは唾を飲み、銀が繰り出した一閃から読み取れる実力の違いに身体を震わせる。

 今まで未熟な自分たちに合わせてくれていたのだと分かる程に、ランディは自分たちと比べものにならない実力を隠していた。

 仮にロイドが今のランディの前に立ったとしても、捌けて数手が限界だろう。

 反応は追い付かず、強烈な一撃を受け止め切れずに力尽くで叩き伏せられる姿が容易に想像できてしまう。

 

「くそっ……」

 

 吹き飛ばされたランディは歯噛みしながらスタンハルバードを杖にして立ち上がる。

 

「――何をしている? さっさとウォークライを使ったらどうだ?」

 

「っ――」

 

「何を“畏れ”ているかは知らないが、まさか準備運動でこの銀を倒せると本気で思っていたのか?」

 

「じゅ、準備運動っ!?」

 

「まだ先があるっていうの……?」

 

「とんでもないです」

 

 ただでさえ圧倒された戦いぶりなのに、その先があると言われ絶句する。

 

「くっ――」

 

「使う気がないのならそれでも構わないが……さて、お前達は見ているだけか?」

 

 ランディから視線を外した銀は、大剣の切先をロイド達に向ける。

 

「くっ……」

 

 慌ててロイド達はそれぞれの武器を構えるが、彼らに出来たのはそこまでだった。

 圧倒的な実力差を先に見せつけられたせいで、戦う前から戦意が低下してしまっていた。

 付け加えるなら、銀に殺気がないせいで危機感が薄い。

 

「…………遅い」

 

 そんなロイド達の内面を見透かすように、気付けば銀は自分たちの目の前にいて、手に持った大剣をロイドの喉元に突き付けていた。

 

「なっ!?」

 

「ロイドッ!?」

 

「くっ――」

 

 ノエルがその場から横に跳んで射線を確保し、両手に握った導力サブマシンガンを乱射する。

 が、すでにそこに銀の姿はなかった。

 

「え……そんな何処に――」

 

「後ろだ」

 

 声を掛けられると同時にノエルは蹴り飛ばされた。

 

「ノエルさんっ!?」

 

「ダメです! エリィさん!」

 

 吹き飛ばされるノエルに向けてエリィは思わず手を伸ばすが、いつの間にか距離を詰めていた銀はその手を取ると、足を払ってエリィを床に叩きつけ、続け様流れる様に大剣を振り上げる。

 

「させるかっ!」

 

 片手で振り下ろされた一撃をロイドはトンファーを交差させて受け止め。

 

「くっ――」

 

 その一撃の重さに膝が折れた。

 

「ソウルブラーッ!」

 

 そのままトンファーごとロイドを斬り伏せようと力を込める銀に向けてティオが導力魔法を放つ。

 しかし、当の銀はそれに見向きもせずに体を退いてアーツの弾丸を意図も容易く躱してしまう。

 

「その程度か……?」

 

 倒れ膝を着く面々を睥睨した銀は、呼吸を乱した様子も無く言葉を投げかけた。

 

「強い……」

 

 ロイドはまさしく伝説の凶手に相応しい力を見せた銀に対して、敵ながら感服せずにはいられなかった。

 

「…………この程度か? これなら遊撃士たちの方に――」

 

「ざけんなぁっ!」

 

 銀の言葉を遮ってランディが咆哮する。

 闘気を爆発させ、身体能力をさらに上げて銀に迫る。

 

「ふっ――」

 

 スタンハルバートと大剣が激突し――スタンハルバートが砕け散った。

 

「なっ――」

 

 その結果に絶句したランディの動きが硬直する。

 銀は大剣を振り抜いた勢いをそのままに、体を回転させランディを蹴り飛ばした。

 

「期待外れだな特務支援課とやら。その程度の力しかなかったとは正直拍子抜けだ」

 

「っ――」

 

 吐きかけられる侮蔑の言葉にロイドは唇を噛む。

 

「せめて一撃ぐらいは入れて欲しかったのだがな」

 

「上等だ……刺し違えてでもその一撃くれてやる」

 

 柄だけとなったスタンハルバートを杖にして立ち上がったランディが血走った目で銀に牙を剥く。

 

「ランディ――」

 

「邪魔すんなロイド……ようやく体が温まってきたんだ……こいつは俺がぶっ殺す」

 

 底冷えを感じさせる笑みを浮かべるランディにロイドは顔をしかめる。

 

「さあ、続けようぜ銀っ!」

 

「いい加減にしろっ!」

 

 そんなランディの肩をロイドは掴んで強引に振り向かせると、そのままその顔面に拳を叩き込んだ。

 

「がっ――ロイド……テメエいきなり何しやがる!?」

 

 しりもちをついてしまったランディは、銀に向けていた覇気をロイドに叩き付けるように叫ぶ。

 

「それはこっちの台詞だ。一人で策もなしに突撃して勝てる相手じゃないって分かるだろっ!」

 

 その圧に怯まずにロイドは言い返す。

 

「そんなの関係ねえ……昔の俺ならこの程度の修羅場は修羅場の内に入らねえんだよ」

 

「だけど今は手も足も出てないだろっ!」

 

「ぐ――だからここからだって言ってんだろ邪魔すんなっ!

 それともテメエに何か策があるっていうのかよ!? 無いならすっこんでろっ!」

 

 一方的に言い捨てるランディにロイドは目を伏せ、それ見た事かとランディはそんなロイドに背を向け――

 

「策ならある」

 

「は……たかが警察官の浅知恵で考えた策がアイツに通用すると思っているのかよ?」

 

「それは分からない……だけど従ってもらう……

 特務支援課のリーダーは俺だ。そうだろランディ・オルランドッ!」

 

「なっ……」

 

 有無を言わせない一喝にランディは思わず目を丸くして振り返る。

 熱い意志に満ちた眼差しはランディには眩し過ぎたが、その反面荒ぶっていた炎はその勢いを弱める。

 

「…………はっ……良いぜリーダー……どんな策だか知らねえが乗ってやる」

 

「ありがとう、ランディ……

 ティオ、エリィ、まだ戦えるな? それからノエル曹長は下がっていてくれ」

 

「え……ええ……でも――」

 

「正直、勝てる気がしません」

 

「あたしは皆さんの連携の邪魔になるということですね……ランディ先輩。あたしのスタンハルバートを使ってください」

 

「おう、サンキュ……で、ロイドいったいどうするつもりだ?」

 

 こちらの様子を観察する様に静かに佇む銀を警戒しながらも、特務支援課の四人は身を寄せて、ロイドは即席で考えた策を三人に話す。

 

「本気なのロイド?」

 

「それは流石に……」

 

「いくら何でもぶっつけ本番でそれは無茶が過ぎるぜ……だいたいお前、俺に合わせるって時点で無理だろ」

 

 ロイドの案に三人は一様に難色を示す。

 

「無茶なのは分かっている。でも銀に一矢報いるにはこれしかないと俺は思う……それに――」

 

「それに?」

 

「まだみんなと会って三ヶ月程度だけど、俺たちならきっとできるはずだ」

 

 真っ直ぐ自分たちの力を信じて疑わないロイドの眼差しに三人は言葉を失う。

 全幅の信頼を感じさせるそれに三人は呆れながらも、悪い気はしなかった。

 

「しゃーねえ。ここは玉砕覚悟で行くとするか」

 

「ですね……ここまで言われて退くのは女が廃るという奴です」

 

「はあ……もうどうなっても知らないわよ」

 

 そんな諦観を感じさせながらも士気が上がった特務支援課に、銀は言葉を掛ける。

 

「覚悟は決まったようだな」

 

「ああ……俺達の全力で銀の《壁》を乗り越えさせてもらうぞっ!」

 

 啖呵を切って、ロイドとランディが並び立つ。

 

「オオオオオオオオッ!」

 

「うおおおおおおおっ!」

 

 ランディが闘気を解放し、それに倣う様にロイドも闘気を燃やす。

 

「いくぞランディッ!」

 

「ガッテン承知だっ!」

 

 ロイドとランディは同時に左右に分かれ銀に同時に殴りかかる。

 あえてランディは全力で連撃を繰り出し、ロイドはそれに負けじと気合いでそれに追従する。

 驚くべきことに銀は大剣と身のこなしを巧みに使い、二人の猛攻を捌き切る。

 

「そこ――捉えましたっ!」

 

 ティオの言葉を合図にロイドとランディは全力を傾けていた猛攻を切り上げてその場から飛び退く。

 直後、銀の足元に魔法陣が広がり結界となってその場に閉じ込める。

 

「この程度の拘束で私を止めたつもりか?」

 

「っ……皆さん早くっ! 長くは持ちません!」

 

 結界を破壊しようとする内側からの圧力に対抗するために魔導杖、そしてエイオンシステムをフル稼働して結界をより強固にする。

 

「二人とも、覚悟はいい?」

 

 エリィは二丁の拳銃に二つの魔法陣を展開し、それぞれの銃口の前に立つ炎の闘気を宿したロイドとランディに声を掛ける。

 

「ああ、頼むっ!」

 

「よし来い! お嬢っ!」

 

 エリィはオーバルエネルギーを全開にした二つの銃を二人の背中に照準し、引き金を引いた。

 発射されたエネルギー弾を背中に受け推進力にしたロイドとランディは、弾丸のように飛翔する。

 

「「オオオオオオオッ!!」」

 

 四人合わせての合技。

 名付けるとすれば、バーニング・Ω・ブラスト。

 炎を宿した二人の一撃が銀へと結界を砕く勢いそのままで叩き込まれ、大剣ごと銀を砕いた。

 

 

 

 

「やったっ! って――ええっ!?」

 

 一矢報いるどころか銀を爆発四散させてしまった結果にノエルは歓声を一転、悲鳴を上げた。

 しかし次の瞬間、弾け飛んだ黒装束は霞となって消え、一枚の符に変わる。

 

「なっ……!?」

 

「《符》……!?」

 

「ちっ……奴はどこだっ!?」

 

「ふっ……そう慌てるな、今ので最後の試しは終わりだ安心しろ」

 

 その声は頭上から響いてきた。

 その場にいた面々が見上げると、最初にいた巨大な書棚の上に銀は悠然と佇んでいた。

 

「まさか……最初から私たちは分身を相手にしていたの?」

 

「それは君たちの好きに想像するといい」

 

 絶望で顔を染めるエリィに銀は素っ気ない言葉を返す。

 そんな銀の様子にロイドは構えたトンファーを下ろす。

 

「…………あんたの強さは良く分かった。今の俺達じゃ勝てないだろう。そんなあんたが、俺達に何の用だ?」

 

「フフ……ロイド・バニングス。その様子なら、見当はついているのだろう?」

 

「それを確かめるために来たんだ……

 やはりアルカンシェルへの脅迫状を送った人物……それは、あんたじゃないんだな?」

 

 ロイドの答えに銀は頷いた。

 

「その通り……

 あれをイリア・プラティエに送ったのは、この《銀》ではない。私の名を騙る何者かというわけだ」

 

「ならどうしてわざわざ俺達をこんなところに呼び出したんだ?

 それを伝えるならリィン君と接触することもできたはずじゃないのか?」

 

「こちらにも少々複雑な事情があるだけだ。

 別に私が犯人を見つけて処理しても構わないのだが…… まぁその時はどんな人物だったとしても命の保証はできないがな」

 

「それは……真犯人が何かを企んでいる者じゃない、ただの愉快犯だったとしてもか?」

 

「当然だ。真犯人はこの《銀》の名を騙ったのだ。相応の報いを受けるのが道理と言うもの……

 だが、このクロスベルで人死を出すのは、雇い主の意向からもあまりよろしくないのでな。業腹だが妥協することにしたのだよ」

 

「妥協?」

 

「特務支援課、改めてお前たちに依頼する……

 我が名を騙った何者かの企みを阻止してもらいたい」

 

「なに……!?」

 

「おいおい。何、ムシのいい事言ってやがる」

 

「フフ……嫌なら断ればいい。その時はリィン・シュバルツァーを経由して遊撃士協会に依頼を出すだけだ……

 さあ、依頼を受けるか否か――答えてもらおう」

 

 答えを促され、ロイドは一度仲間たちを見回してから頷いた。

 

「分かった……あんたの頼みに応じるわけじゃないが真犯人を捕まえることには協力しよう」

 

「ふふ……それでいい」

 

 銀が頷くと、未だに張り詰めていた空気が和らいだ。

 

「でも、どうするんですか?

 いつ、誰が何をしようとしているのか全く見当も付かないというのに……

 その上、ただの愉快犯なら何もしない可能性だってあるじゃないですか?」

 

「いつ、というのは心当たりがある。もし真犯人がアルカンシェルに関することで何かを仕掛けてくるとすれば……

 本公演か、プレ公演だろう……

 愉快犯の場合なら、《黒月》とお前達に免じて今回は見逃すとしよう」

 

「そう言ってもらえると助かる。それで俺達は具体的に何をすればいいんだ?」

 

「その両日の警戒活動……真犯人が捜査一課の介入を想定していたとすればその裏をかく自信があるということだろう……

 お前たちにはいざという時のための迅速な対応をしてもらいたい」

 

「分かった……依頼は以上か?」

 

「ああ、引き受けてくれて何よりだ」

 

 銀はそう言って、ロイド達に背を向けた。

 

「――それではこのあたりで失礼しよう」

 

「おい、待て銀っ! 俺はまだお前をちゃんとぶん殴ってないぞ!」

 

「ふっ……吠えるなランドルフ・オルランド……“欺瞞”を抱えた今の貴様の一撃など私に届くことはない」

 

「欺瞞だと……」

 

「力は所詮、力……

 使いこなせなければ意味はなく、ただ空しいだけ」

 

「っ……」

 

「そして在るものを否定することなど、“欺瞞”と言わずに何と言う?」

 

「分かったようなこと……言ってんじゃねえ……」

 

「剣も銃も所詮は人殺しの道具でしかない……

 それをどう扱うかは、“人”が決めるべきことのはず」

 

「…………やけに饒舌じゃねえか……何のつもりだ?」

 

「フ……単なる老婆心からの忠告だ……例え忌むべき力であっても、気の持ちようで未来を拓く力になってくれるものだというだけだ……

 お前が知るリィン・シュバルツァーの力がそうだったようにな」

 

「……ちっ……」

 

 何かが胸に落ちる心地を誤魔化すようにランディは舌打ちをする。

 

「それでは朗報を期待しているぞ」

 

 そう言い残して銀は駆け出した。

 

「ま、待てっ!」

 

 ロイド達は慌ててその後を追い駆ける。

 銀が向かった先は、屋上へと続く階段。

 しかし、鐘楼が鎮座するそこに銀の姿は何処にもなかった。

 

 

 

 

 

「はあ……」

 

 ウルスラ間道の森の中、《銀》の黒装束と仮面を脱いだリィンはため息を吐いた。

 

「フフ……中々に堂に入った演技だったじゃない」

 

「茶化さないでくださいルフィナさん」

 

 リーシャから預かった長大なトランクケースに衣装と大剣をしまい、自分の普段着に着替えてようやく安堵の息を吐く。

 

「まさか俺が《銀》を騙ることになるなんて……」

 

 本人の許可があったとはいえ、複雑な気分になる。

 イリアが戦技を覚えるために練習時間を増やしたせいで、《銀》であるリーシャはそれに付き合わされ、すでに呼び出す算段をつけていたロイド達と会うことが出来なくなってしまった。

 その代役として、このクロスベルで唯一《銀》の正体を知るリィンを替え玉としてリーシャは送り出した。

 

「女優はクロスベルで過ごすための仮の身分じゃなかったのか?」

 

「最初はそのつもりだったのに、始めたら熱が入っちゃったのかもしれないわね」

 

「あの《銀》がですか? 百年の伝説を作っておいて、そんな簡単に足抜けを考えますかね?」

 

 トランクケースを茂みに隠し、リィンは歩きながら首を傾げる。

 猟兵団から抜けたランディはともかく、文字通り《銀》として生涯を生きていた彼女が今更そんなものに心を動かされたりするのだろうか。

 

「フフ……まだまだ修行が足りないようね」

 

「ルフィナさん? それはどういう意味ですか?」

 

「さあ、どういう意味かは宿題にしておきましょう。もしかするとすぐに答えは向こうが教えてくれるかもしれないけど」

 

 意味深なことを言うルフィナにリィンは首を傾げる。

 結局ルフィナは何も教えてくれず、クロスベルが見えてくると人形ごと《箱庭》に引っ込んでしまった。

 

「遅くなりました」

 

 リィンはそのまま真っ直ぐアルカンシェルに向かった。

 

「ああ、リィン君……御苦労様。それで《銀》とは会う事はできたのかね?」

 

「ええ……一応……ただロイドさん達と接触するようなことを言っていたので、報告は後でロイドさん達が来てからにさせてもらえますか?」

 

「それで構わないよ。ところで先程リィン君の知り合いだという人が訪ねて来たんだけど……」

 

「俺の知り合い……?」

 

 アバン劇団長から出て来た言葉にリィンは首を傾げる。

 

「ええ、改めて来ると言っていたんだが、リィン君の知り合いだということでイリア君が声を掛けたんだが、何故かそのまま意気投合してしまって……その……」

 

 歯切れの悪いアバン劇団長の言葉にリィンは猛烈に嫌な予感がしてきた。

 緊張に唾を飲みながら、リィンは玄関ホールの扉を少しだけ開いて中の様子をうかがう。

 

「ハッハッハッ! 素晴らしいっ! 流石イリア・プラティエッ!

 ならば刮目して見よっ! これぞ私が長年の研究の末に編み出した美しく花びらを舞い散らせる奇術の戦技!」

 

「あははは、やるじゃない! それじゃあこれはどう!? 写し身っ!」

 

 リィンは無言で扉を閉めた。

 

「リィン君……?」

 

「すみません。用事を思い出しました。報告は後でします。それでは」

 

「リィン君っ!?」

 

 突然のリィンの態度の急変にアバン劇団長は狼狽えるが、懇切丁寧に説明をする気も起きないリィンは駆け出し――肩を掴まれた。

 

「お帰りなさいリィン君……」

 

 リーシャは笑顔でリィンを迎えるが、肩を握る握力が彼女の心境を表していた。

 

 

 

 

 

「くくく……予定通りだ……」

 

 アルカンシェルに捜査一課の警備体制が敷かれたことに彼はほくそ笑む。

 

「捜査一課といっても所詮は無能な警官にしかすぎん……

 ルヴァーチェも黒月も本物の《銀》とやらも……全員、私の掌の上で踊っているようなもの……

 くくく……こうなると、プレ公演の日が待ち遠しいな」

 

 すでに計画の成功を全く疑わず自信満々に彼は悦に浸る。

 

 ――――

 

「っ……」

 

 しかし次の瞬間、その愉悦の笑みを突然の頭痛で歪めた。

 

「くそ……」

 

 日に日に強くなっていく頭痛。

 おそらくはストレスによるものだと診断され、医者に処方してもらった蒼い錠剤を飲む。

 その効果はすぐに現れ、頭痛はすぐに治まる。

 だが、その代わり幻聴がはっきりと耳に聞こえてくる。

 

 ――ヨコセ――

 

「わ、私は……私は絶対に……絶対に次期市長になるんだっ!」

 

 幻聴に対抗するように彼は叫ぶ。

 しかし、その言葉に応える声があった。

 

「フフ……それは無理というものだよ」

 

 次の瞬間、彼の意識は白く染まった。

 

 

 




 いつかのクロスベルIF

ロイド
「行くぞ、みんなっ!」

 特務支援課一同+リーシャ+クルト
「真・バーニング・Ω・ブラスト・ブレイカーッ!!」

アリアンロード
「なるほど八人がかりの必殺技ですか、見事です……
 ロランの後継者もいることですし、相応の技で応えるとしましょう……神技――」

 ………………
 …………
 ……

アリアンロード
「申し訳ありません。《至宝》の御子殿、やり過ぎてしまいました」

キーア
「ええっ!?」


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