(完結)閃の軌跡0   作:アルカンシェル

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132話 銀を継ぐもの

 

 

 

「何もない部屋ですが、適当に座ってください。今お茶を入れてきます」

 

 銀耀石の代金をブルブランから押し付けられたリィンはイリアを彼女の住むメゾンに送った後、リーシャ・マオが住む旧市街のアパートに強引に連れて来られた。

 

「はぁ……」

 

 ため息を吐きながらもリィンは油断なく部屋の配置を確認する。

 イリアの部屋とはまるで正反対な、生活感に乏しい部屋。

 新米とはいえ、アルカンシェルの女優の部屋なのか疑わしいものだがその正体を知っているリィンからすれば納得の行く部屋だった。

 

「それで、こんなところに連れて来て何の用なんだ?

 一通りのことは済んだんだから、事情の説明は明日、落ち着いて話しても良かったんじゃないか?」

 

 昨日と今日は脅迫状について行動を開始したばかりだったこともあり、詳しい事情を聞く余裕がなかった。

 しかし、その根回しもほぼ完了したこともあり、アルカンシェルの練習はあるものの切羽詰まった予定はもうない。

 リィンとしては《銀》に扮して特務支援課と戦ったことに言いようのない精神疲労を感じていたところにブルブランの登場で追い打ちを掛けられてさっさと休みたいのが本音だった。

 

「そういうわけにはいきません……できるだけ早くしないと、記憶が曖昧になるものですから」

 

「記憶……?」

 

「はい。リィン君がロイドさん達とどんなやり取りをしたのか話してもらいたいんです……

 もちろんこのことも含めて報酬はきちんと支払います」

 

「……確かに今後、ロイドさん達と銀として会うことがあるかもしれませんから大事なことですね」

 

 リーシャの言い分にリィンは納得する。

 リィンとしても自分が《銀》を演じていたと知られるわけにはいかないのだから協力しないわけにはいかない。

 

「それにしても報酬ですか? 別にそんなの――」

 

「ダメですよ。ある意味私はリィン君に依頼したようなものなんですから……

 そうですね……金額とすれば100万ミラくらいでどうでしょう?」

 

「100万ミラ……それは流石に貰い過ぎじゃないですか?」

 

 グラン=シャリネ二本分の値段にリィンは気後れする。

 手元には新たな一千万ミラがあるが、それはそれである。

 

「そんなことありませんよ。《銀》としての正体がそれで隠せるならむしろ安いくらいです……

 それともミラじゃなくて物の方がいいですか?」

 

「…………え……?」

 

「そうですね……今手元にあってリィン君に上げられるものは――」

 

「ちょっと待ってくださいっ!」

 

 棚を漁り始めるリーシャにリィンは思わず声を上げる。

 このパターンと百年の歴史を持つ東方人街の魔人の持ち物。

 まさかとは思いながらもある物がリィンの脳裏に浮かんでしまう。

 

「はい? どうかしましたか?」

 

 首を傾げて振り返るリーシャの手にはリィンにとって馴染みのある太刀袋だった。

 

「えっと……七耀石の結晶じゃないんですよね?」

 

「そっちの方が良いですか? ストックはいくつかありますけどどれも小粒なんですよね……だからこっちの方がリィン君には良いかと思ったんですが」

 

「いえ……何でもありません」

 

 胸を撫で下ろして安堵するリィンにリーシャはただ首を傾げる。

 

「それにしても太刀ですか? 《銀》の武器はあの大剣ではなかったんですか?」

 

「あの大剣を使えない時もありますから、別の武器もちゃんと用意しています……

 ゼムリア西部だと太刀を調達することが難しくなるのでそっちを使っていますが、太刀だってちゃんと使えますよ」

 

「それもそうですね」

 

 導力技術のおかげで、武器屋に発注すれば作って貰えるがやはり本場の技術で作られた太刀よりも一歩劣るものになってしまう。

 

「リィン君は既にかなりの業物を持っているようですが、予備の太刀があることに越したことはないでしょう?」

 

「まあ……確かにそうですけど」

 

 リィンは自分の太刀に視線を落として唸る。

 帝国宰相から頂いたゼムリアストーンの太刀。

 一度は折れてしまったが導力技術で修復され、更には影の国の特殊な場で《劫炎》の焔で何度も砕かれて修復されたことで赤く変質した太刀はもはや以前とは違う神刀や妖刀の類と化していた。

 予備の太刀もできれば用意しておきたいとは考えていたが、今の太刀の代替にするには微妙な物ばかりということにリィンは密かに頭を悩ませていた。

 

「でも、できればあの分け身に利用している《符》を頂ければ報酬として十分なんですけど」

 

「《符》ですか? 別に構いませんけど、それじゃあ報酬には足りないと思うんですが……

 リィン君の太刀には数歩劣ると思いますがこの太刀も特別製の業物ですよ」

 

 どうぞ。何か含みのある笑みを浮かべながらリーシャは太刀をリィンに差し出す。

 

「……拝見させてもらいま――っ!?」

 

 首を傾げながら受け取ったリィンは武器としては細身のはずの太刀から信じられない重さの太刀を落としそうになる。

 

「驚きました? 実はその太刀、百のUマテリアルのインゴットを圧縮して造られたもので、普通の太刀の見た目であの大剣よりも重いんです」

 

 軽々と持っていたリーシャは悪戯が成功したと微笑む。

 見た目相応の純粋無垢な笑顔でリィンは感心半分、呆れ半分にため息を吐く。

 

 ――いい歳して何を考えているんだか……

 

 リィンは腹に力を込めて、前のめりに落ちた体を起こす。

 

「まあ……持てない重さではないですね」

 

「ふふ……そっちは冗談です。ちゃんとした太刀がもう一本ありますからそっちを――」

 

「いえ……折角ですからこの太刀を貰っても良いですか?」

 

 太刀を鞘から抜いて刀身を見る。

 目利きできるほどに多くの太刀を見てきたわけではないが、少なくても粗悪な造りではないことを確認する。

 

「良いんですか? 重さと頑丈さしか取り柄がない太刀なのに」

 

「学院で使うには丁度いいハンデになるでしょう……

 それに今の太刀はちょっと斬れ過ぎるくらいですから、鍛錬には向かないんです」

 

 太刀の性能とすれば論外の重量だが、重さから感じる存在感は無茶な扱い方をしても壊れない安心感を思わせてくれる。

 

「リィン君がそれで良いのなら、構いませんが……

 報酬を受け取ってもらったからには、ちゃんと話してもらいますよ」

 

「はい……分かりました」

 

 正座で座るリーシャにリィンもまた同じように正座で座り、ロイド達とのやり取りを思い出しながら語り始めた。

 

 

 

 

 

「――以上です。一応俺なりに《銀》を意識してみましたが、これで大丈夫だったでしょうか?」

 

「ええ……少なくても聞いた限りではボロはなかったと思いますから大丈夫だと思います……

 それにしても四人合わせてのコンビ――いえチームクラフトですか。ちょっとロイドさん達を過小評価していましたね」

 

「それは俺も思いましたね……一ヶ月前に会った時と比べるとかなり強くなっています」

 

「ともかくありがとうございましたリィン君。これで後は真犯人が捕まれば良いんですが」

 

「それはロイドさん達を信頼するしかないでしょう……

 それにしても隠れ蓑にしては随分と思い入れがあるみたいですけど」

 

「そう……見えますか?」

 

 リィンの指摘にリーシャは恐る恐るといった様子で聞き返す。

 

「ええ、少なくても俺には貴方が本気で舞台に取り組んでいるように見えました」

 

 彼女の練習風景を見学していたリィンは感じたことを素直に伝える。

 

「《銀》が世界に現れて100年、ランディさんのようにあなたももう足を洗ってもいいんじゃないか?

 不死者だからといって貴方はアリアンロードさんたちのように目的があるわけじゃないんでしょ?」

 

「そうはいきません……私は父から受け継いだ《銀》を――不死者?」

 

 リィンの説得を拒んだリーシャは耳慣れない言葉に首を傾げ、リィンもまたリーシャが漏らした言葉に首を傾げた。

 

「父から受け継いだ……?」

 

 リィンとリーシャは疑問符を浮かべて、顔を見合わせる。

 そのわずか数秒の沈黙が流れる中で互いの言葉の意味を考える。

 

「…………あ……もうこんな時間ですね。そろそろ御暇させてもらいます」

 

「待ってくださいリィン君。今の言葉、ちゃんと説明してください」

 

 立ち上がり踵を返したリィンの肩にリーシャは手を伸ばし――躱される。

 

「っ――」

 

 ドアに向かって駆け出したリィンだが、鈍いリィンの動きにリーシャは難なく追い付き足を払い床に叩きつけると同時に密着させて関節を極める。

 

「フフ……あの太刀を受け取ってもらったことがこんなところで役に立つとは思いませんでした……

 それでリィン君、話していただきますね」

 

「分かりました。分かりましたからどいてくださいリーシャさん」

 

 背中に覆い被さるように乗っかり、耳元で底冷えする声を囁かれてリィンは白旗を上げる。

 密着する彼女の体温と質感をリィンは誤魔化すことはできなかった。

 

 

 

 

「へえ……私が100歳を超える老婆だと思っていたんですか?」

 

 リィンはリーシャに問われるがままに己の誤解を説明した。

 床に正座したリィンは椅子に座ったリーシャに見下ろされる視線の強さに肩を小さくする。

 

「いや……あの時、身体は気功で若くしているって言ったじゃないか」

 

「言ってません。気功で胸とかの体型を操作しているって言ったんです!

 それにしたって常識的に考えて100歳で現役の暗殺者なんているはずないじゃないですか」

 

「帝国には250歳の伝説や800歳の幼女がいたから、てっきり《銀》もその類かと思ったんですけど」

 

「え……帝国はいつからそんな魔境になったんですか?」

 

「それにあの時の《銀》にはそれだけの貫禄があって、とても同じくらいの歳の女の子だとは思えませんでしたし」

 

「そ、そうですか……」

 

 思わぬ誉め言葉にリーシャは照れる。

 

「まあ、導力停止現象の時は別人かと思いましたけど」

 

「あう……それは言わないでください」

 

 当時のことを思い出したリーシャはそのまま赤面する。

 

「とにかく私は17歳です。二度と間違えないでください。良いですね」

 

「はい……肝に銘じておきます」

 

 許しが出てリィンは肩の力を抜いて、足を崩す。

 

「それにしても《銀》は襲名性だったんですね……

 だから、あんなに手順よく俺に銀をさせることができたんですね」

 

「ノウハウは父が私に教えてくれたことを真似しました……

 次の《銀》を育てる時の予行演習と思えば私にとってもいい経験になりましたね」

 

「リーシャさんの父親ですか……やっぱり《銀》だったんですか?」

 

「父は代々の《銀》の中でも卓越した力の持ち主でした」

 

 リィンの質問にリーシャは目を閉じ、今まで溜め込んでいたものを吐き出すように口を開いた。

 

「でも、不治の病に倒れ、抗うことも延命のための手術を受けることもせず……ある日、私を呼んで命じました……

 自分を殺して《銀》を継ぐようにと」

 

「リーシャさん……」

 

「リィン君、貴方が私に抱いた《銀》の印象はどちらも正しいんです……

 《銀》としての技術・知識を全て受け継いだ私ですが、私は父を殺せなかった……

 殺さずに見殺しにして《銀》を受け継いでしまった出来損ないなんです……あなたと戦ってそれを痛感しました」

 

 素顔を見られたこと、不意の一撃でやられてしまったこと。

 もしも父を殺せていた《銀》ならば、そんな不覚は取らなかっただろう。

 

「今回の黒月との契約、クロスベルの覇権奪取への協力……もしかしたらこれを最後の仕事にした方が良いのかもしれないですね……

 《銀》としての役目を疎かにしてアルカンシェルの舞台に立つことを選んでしまった……

 これ以上《銀》を続けても、父や祖父が繋いできた《銀》の名に泥を塗ることになってしまうならいっそう――」

 

「あまり思い詰めない方がいいんじゃないですか?」

 

「え……?」

 

「《銀》はミラさえ払えば何でもする、誰でも殺すなんて言われているけどちゃんと仕事は選んでいる……

 確かに褒められた仕事の内容ではないですけど、決して殺しを楽しんでいる外道ではありません……

 誇り高き凶手、少なくとも俺はあの時から貴女のことをそう思っています」

 

「リィン君……」

 

「リーシャさん、何か代々《銀》が受け継いでいる品物などはありませんか?」

 

「え……何ですかいきなり?」

 

 突然のリィンの要求にリーシャは困惑する。

 

「生憎ですが、そう言った類のものはありません……

 仮面も黒衣、剣も消耗したら代わりを用意していましたから」

 

「そうですか……」

 

 想念が篭った品物があれば、ガイの時のように箱庭で彼女の父親の記憶を具現化できたのではないかと思ったが、そううまく事が運ぶはずは――

 

「え……? 協力してくれる?」

 

「リィン君……?」

 

 一人で誰かと話し始めるリィンにリーシャは首を傾げる。

 

「えっと……リーシャさん……夢の中でですけど貴女のお父さんに会わせることができます」

 

「…………え?」

 

 突然の言葉にリーシャは理解できなかった。

 

「説明はちょっと難しいんですけど……

 そういう力を持っている子と知り合いなんです」

 

「力……法術による催眠術の一種でしょうか?」

 

「それよりも遥かに強力なものです……

 本来は幸せな夢を見せるだけのものなんですけど、どうしますか?」

 

「はあ……」

 

 要領を得ない説明にリーシャはただ戸惑う。

 リィンが適当なデタラメを言うような人間でないことはリーシャも分かっている。

 慰めるにしてもあまりに荒唐無稽過ぎて、訳が分からないが、少なくても本気で言っていることは分かる。

 

「そうですね……例え夢でも父にもう一度会えるなら嬉しいですね」

 

 今の自分の情けない姿を見たら失望されるだろうが、そうなればリーシャも踏ん切りがつく。

 半ば自暴自棄になりながらも、リーシャは深く考えるのをやめてリィンの申し出を受け入れた。

 

「それじゃあ、この魔法陣の中に入ってください」

 

 リーシャは促され、着の身着のまま魔法陣に入り箱庭へと招かれた。

 

 

 

 

「え……?」

 

 いつの間にかリーシャは《銀》の黒衣を纏ってそこに立っていた。

 

「ほう……お前が今代の《銀》か」

 

 目の前から掛けられた声に自分の姿を見下ろしていたリーシャは一抹の期待を胸に顔を上げ――

 

「…………どちら様でしょうか?」

 

 全く見覚えのない壮年の男に首を傾げた。

 

「ハハハ。私を知らないか、まあ無理もあるまい」

 

 男は笑い、半身をずらして背後を見せる。

 

「あ…………」

 

 彼の背後には五人の男たちが並んでいた。

 その中の右端の一人を見てリーシャは思わず涙がこぼれた。

 

「お……父さん……」

 

「久しいなリーシャ」

 

 記憶に残る声が更なる涙を誘う。

 

「それにしても女子(おなご)に《銀》を継がせるとは……

 六代目……娘に背負わせるには重過ぎたのではないか?」

 

「リーシャは私以上に才能に恵まれた子でした。他の後継者など考えられない程に」

 

「お……お父さん……!?」

 

 生前、褒められた記憶のないリーシャは父から出て来た言葉に耳を疑う。

 

「確かに才能は一級品のようだが、心を鍛えることを疎かにしたようだな……

 知識だけを伝聞したところで所詮は張りぼてにしか過ぎんというのに」

 

「恐縮です」

 

「お父さんっ!?」

 

 偉そうなことを言う男に対して父は腰を低くして頭を下げる。

 

「誰だか知りませんが、父を悪く言わないでください。私が《銀》になり切れなかったのは私のせいなんですから」

 

「ハハハ! 威勢が良い嬢ちゃんだ」

 

 まるで子供のような扱いにリーシャは眦を上げ、大剣に手を伸ばす。

 

「やめなさいリーシャ」

 

「止めないでくださいお父さん……私のことを侮辱されるのは良いんです……

 でも《銀》として最も優れていたお父さんを侮辱するのは誰であっても許せません」

 

「ほう……最も優れていたか……」

 

「リーシャ……」

 

 リーシャの言葉に男は笑い、父は肩身狭そうに項垂れる。

 

「我らを前によく言った。ならば名乗らせてもらおうか、私の名は《銀》……初代《銀》だ」

 

「…………え?」

 

 何を言われたのか理解できず、リーシャは呆ける。

 そんなリーシャの様子を男はくくくと楽し気に喉を鳴らす。

 

「《八葉の小僧》と《空の至宝》、そして六代目に感謝するんだな……

 我らをこの《箱庭》に顕現できたのはお前が継いだ《銀》の技術と知識の中から不足なく想念として汲み取ることができたから……

 つまり六代目が言った通り、正しく《銀》を継いでいる証明に他ならないということだ」

 

 《八葉の小僧》はリィン・シュバルツァー。

 そういえば彼は何処に行ったのだろうかと視線を巡らせると、背後に苦笑いを浮かべて立っていた。

 その横には見知らぬ、リィンに似ている雰囲気の女性が得意げな顔をして立っていた。

 

「故に何も恥じずに誇るが良い」

 

「ですが、私は父を殺せませんでした」

 

「それが何だと言うのだ?」

 

 視線を落としたリーシャに初代は事も無げに言った。

 

「《銀》は言われるがままに動くカラクリなどではない……

 汝が迷い、悩み、答えを出したのなら、それこそが《銀》の答え……

 名に縛られるな。汝の前に《銀》の道があるのではない、汝が迷いながら歩んだ道こそが《銀》になるのだ。努々それを忘れるな」

 

「っ……はい」

 

 初代の言葉を噛み締めるようにリーシャは頷く。

 

「さて、せっかくこのような奇妙な縁で邂逅ができたのだ……

 お前には伝えきれなかった《銀》の秘伝を教えてやろう」

 

「…………え?」

 

 怪しい雲行きになったことにリーシャは首を傾げる。

 

「伝えきれなかったって……《銀》は全てを継ぐはずではなかったのですか?」

 

「知識や経験は確かに伝えることはできただろう……

 しかし、個人技能の中にはあまりにも難度が高過ぎて継ぐことができず、失伝した技も多くある……

 お前も、父の技を全て再現できてはいないと痛感しているはずだ」

 

「それは……はい。その通りです」

 

 《銀》を滞りなく継いだとしても、まだその実力は前任の父には遠く及んでいないことは自覚している。

 当然、その中には父の代で生まれた新たな技も自分は使いこなせていないと自覚している。

 

「一代に少なくとも一つ、奥の手とも言える技がある……

 六代目が絶賛する今代の才なら私たちの技も修得できるだろう」

 

「え……え……」

 

「そしてユンの弟子もついでに少し教えてやろう」

 

「俺もですか……それにユン老師を知っているんですか?」

 

「知っているも何もあやつは――」

 

「オホンッ!」

 

 初代の言葉を、おそらく二代目の銀が大きな咳払いをして掻き消した。

 

「ふむ……今のは聞かなかったことにしてくれ」

 

「え……いや……聞かなかったことって……え……?」

 

 ユン老師の謎が深まりリィンは困惑する。

 

「ま、待ってください初代様! 教えていただけるのは光栄ですが、そのような時間は――」

 

「何、安心するが良い。ここは箱庭の中にして夢の中、現実界とは時の流れの異なる空間故に時間はたっぷりあるからの」

 

「なっ!?」

 

 逃げ道を塞がれたリーシャは絶句する。

 

「さて、では最高の《銀》を育てるとしようか」

 

 楽しそうに笑う初代の背後でそれぞれの《銀》も同じように笑う。

 唯一、リーシャの父は複雑そうに顔をしかめていたが、葛藤しながらも歴代《銀》を止める素振りはない。

 

「リィン君っ!? どうしてくれるんですかっ!」

 

「いや……俺に言われても……」

 

「リィンは強くなりたいと願っていた。リーシャも完璧な《銀》になりたいと願っていた……

 だからこの場を用意した……何か間違っていた?」

 

 リィンに似た女性は無垢に首を傾げる。

 そのあまりにも純粋過ぎて悪意の欠片もない言葉に、リーシャは毒気を抜かれつつ大剣を構えた。

 

「もういいです。最後まで付き合ってもらいますよリィン君っ!」

 

「はは……まあ俺も強くなる機会を得られるのは願ったりだけど……後でちゃんと反省会だからな《空の至宝》」

 

「はい、分かりました」

 

 リィンの言葉に素直に女は頷く。

 

「とりあえず、お前達の今の実力を見せてもらうために軽く打ち合うとしようか」

 

 初代は何処からともなく太刀をその手に出現させ、歴代の銀達はそれぞれ暗器や拳、大剣を構える。

 

「…………軽く……なんですよね?」

 

 静謐な殺気が場の空気を研ぎ澄ませていく中で、リーシャは思わず聞き返した。

 

「さあ、征くぞ。まずは生き残ってみせるがいいっ!」

 

 リーシャの疑問に答えず、初代の号令によって歴代の銀達は一斉に動き出す。

 

「どうしてこんなことに……」

 

 嘆きながらもリーシャの思考は戦闘の、銀のそれに切り替わる。

 

「恨むぞリィン・シュバルツァー」

 

「そんな理不尽な……」

 

 恨み言だがそこに怨嗟はない。

 一種の照れ隠しと読み取ったリィンは肩を竦め、ゼムリアストーンの太刀を抜きリーシャの隣に立って《銀》達と対峙した。

 

 

 

 







本日のリザルトIF
もしも初代《銀》の本名がイン・カーファイで、ユン老師が二代目《銀》の兄弟だったら。

リーシャ:歴代銀の六つの秘伝の技を修得。
リィン:裏八葉――修羅の極致に至る殺人剣――を修得。

空の至宝
「どやっ!」

鋼の至宝
「ぐぬぬ……」

リーシャ
「私が姉弟子………………リィン君、私の事はリーシャお姉ちゃんと呼んでくれてもいいんですよ?」

アネラス
「はっ!? なんだか新しいライバルができたような気がする!」

ランディ
「この弟ブルジョワジーがっ!!」




いつかの湿地帯IF

アリアンロード
「私の槍を受け切るとはすでに“先代”を超えているようですね」


「ふ…………リィン・シュバルツァーのおかげと言えば納得してもらえるかな?」

アリアンロード
「なるほど、それなら納得です」

ロイド
「納得するんだ……」

ランディ
「お前が言うか?」


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