(完結)閃の軌跡0   作:アルカンシェル

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18話 RFの令嬢

 

「それじゃあわたしはここで失礼します……みなさん、ありがとうございました」

 

 ツァイスに戻ると、ティータは受付の人に呼ばれ、その場で別れた。

 そして、リィンはエステルたちをギルドに案内するためにツァイスの街を歩いていた。

 

「それにしても、お二人はとっくにツァイスに来ていると思ってましたよ」

 

「確かにルーアンでの大事件を解決したことで、推薦状を貰えることには成っていたんだけどね」

 

「僕達はルーアンに着いた次の日に放火事件の調査をして、学園の手伝いをしていたからね……

 実際にルーアンで達成した仕事の数はほとんどなかった。だから規定の数の依頼をこなした後に貰えるって内定はされていたんだよ」

 

「それに市長が逮捕されて街は大騒ぎで、ギルドも大忙しだったしね」

 

「あ……」

 

 市長の逮捕と聞いて苦い記憶を思い出しそうになる。

 それを掻き消すようにリィンは慌てて話題を逸らす。

 

「エステルさん達はこれからどうするんですか? やっぱり黒いオーブメントのことですぐに中央工房へ行くんですか?」

 

「そうだね……一応はそのつもりかな。もしかしたらここにR博士がいるかもしれないし」

 

「R博士……そういえばラッセル博士の頭文字だったな……」

 

「ラッセル博士?」

 

「もしかしてあの三高弟の一人の?」

 

 エステルは誰っと首を傾げ、ヨシュアはリィンが出した名前に驚く。

 

「はい。導力技術をもたらしたエプスタイン博士の弟子の一人、リベールの導力技術の発展に大きく貢献した『導力革命の父』と言われている人です」

 

「は~なんかすごそうな人ね」

 

「ええ、いろんな意味ですごかったですよ……

 あの人ならR博士じゃなかったとしても、黒いオーブメントが何なのか、きっと突き止めてくれると思います」

 

 そんな話をしているとギルドに到着する。

 

「ここがツァイスの遊撃――」

 

 ギルドの前で振り返ったリィンはエステルたちの向こうにいた少女を見て言葉を止めた。

 

「どうしたのリィン君?」

 

 視線に釣られて二人が振り返る。

 

「いえ、あの子なんですけど。実は――」

 

 大通りの向こう側を歩いて行く金髪の少女を目で追いながら、リィンは捜索依頼が出ている少女だということを説明する。

 

「そっか、それじゃあすぐに保護しないと」

 

「ちょっと待ってエステル」

 

 早速追いかけようとしたエステルをヨシュアが止める。

 

「僕達はまだツァイス支部への転属手続きをすませてないよ。ツァイスで仕事をするのなら、まずそっちを先にやらないと」

 

「そうだった……でも……」

 

「何でしたら、俺が追い掛けましょうか? 遠巻きに見張るくらいしかできませんけど」

 

 渋るエステルにリィンがそう提案する。

 

「お願いできるかな? 手続きが終わったらすぐに行くから」

 

 エステルたちと別れてリィンは少女の後を追う。

 当然のようにアルティナもついてくる。

 

「ん」

 

 むしろアルティナの方が人混みに紛れそうになる彼女を的確に見つけてくれた。

 少女はリィンたちに気付かず、エスカレーターに慣れた様子で乗る。

 

「上層は中央工房と定期船の発着場だけど……何をするつもりなんだ?」

 

 昨日の会話を思い出せば、観光に来たわけではないと言っていた。

 しかし、家出をするにしても帝国のルーレから態々リベールのツァイスを選んだ理由が分からない。

 エスカレーターを昇りきると、少女は中央工房へ入って行った。

 ひとまず、ツァイスから出るつもりがないことにリィンは安堵しながら、その後に続く。

 その少女はすぐに見つかった。

 受付の女性と話している姿を確認して、リィンはアルティナを促し、壁際に寄って聞き耳を立てる。

 

「お願いしますっ!」

 

「そう言われても……」

 

「何でもしますからっ!」

 

「でもね、うちは結構力仕事が主なのよ。お嬢さんには少し荷が重いんじゃないかな?」

 

「大丈夫です。これでもオーブメントについてはちゃんと勉強してますから」

 

「だけど、今は工員の募集は行っていないの」

 

 どうやらここに働き手として押しかけたようだった。

 

「確かに観光じゃないけど……家出にしては無茶が過ぎるな」

 

 自分もかなりの行き当たりばったりでリベールに来たが、少女の無茶は自分以上に見えた。

 しかし、家出した先で働き口を探そうとしているところを見ると、家出の本気具合が分かる。

 

「お待たせリィン君」

 

「女の子は、何処に?」

 

 程なくしてやってきたエステルたちにリィンは今聞いたことを説明する。

 

「割と本気の家出みたいね」

 

「そうなると説得は難しいかもしれないね」

 

「とは言っても、俺と同じでかなり行き当たりばったりの行動に見えるんですけど」

 

 未だに受付の人に食い下がってなんとか説得しようとしている姿はとても帝国一の大企業の御令嬢とは思えない。

 

「とにかく話を聞いてみないとね。それじゃあ行って来るから、リィン君はここで待っていて」

 

「はい」

 

 エステルの指示にリィンは素直に頷き、その場から少女に向かって行くエステルたちを見送る。

 

「あのーすいません。ちょっといいですか、アリサ・ラインフォルトさんですよね?」

 

「え……何で私の名前を?」

 

 エステルに呼ばれて少女、アリサは驚いた様子で振り返る。

 

「初めまして、あたしは遊撃士のエステル・ブライト。こっちはわたしの弟のヨシュアです」

 

「遊撃士があたしに何の用なのかしら?」

 

「えっと、実はあなたの捜索依頼があったの」

 

「捜索願……もしかして……母様が!?」

 

「いえ、依頼主はメイドの方のようです」

 

「メイド……シャロンが…………母様じゃ……ないんだ」

 

 期待した顔はヨシュアの答えで落胆に沈む。

 

「明日にそのメイドさんがここに来るみたいだから、あなたのことを保護したいんだけど――」

 

「嫌よ……」

 

「え……?」

 

「いやっ! 私は絶対に帰らないんだからっ!」

 

 エステルが差し出した手を乱暴に払ってアリサは逃げ出した。駆け出した先は玄関の前にいたリィンの方だった。

 

「リィン君、止めてっ!」

 

 咄嗟にエステルが叫ぶ。

 

「アルティナ、離れていて」

 

「ん」

 

 リィンはアルティナと繋いでいた手を放して、アリサの進路上に立ち塞がる。

 

「どきなさいっ!」

 

「っ!?」

 

 アリサは威嚇するようにトランクを振り上げる。だが、リィンが威嚇に応じないと分かるとそのまま遮二無二にトランクを振り回す。

 咄嗟にリィンはそれを白羽取りで受け止めるが、背中に冷や汗を感じた。

 

「危ないだろっ! 何を考えているんだっ!?」

 

 自分だったから良いものの、もしただの民間人が彼女を止めようとしていれば大惨事になっていた。

 しかし、リィンの叱責は彼女に届いてはいなかった。

 

「シャロン直伝、痴漢撃退術奥義っ!」

 

 次の瞬間、リィンはある場所にとてつもない衝撃を受け、膝から崩れ落ちた。

 

「り、リィン君……」

 

 エステルが呼ぶ声が静まり返ったフロアに響く。

 事の成り行きを遠巻きにしていた男性工員たちは顔を蒼褪めて息を飲む。

 

「どうしたのリィン君……たかが蹴られたくらいで」

 

「エステル……たかがじゃないんだ」

 

 意味が分からないと首を傾げるエステルにヨシュアは静かに首を横に振る。

 

「え……でも、そんなに威力がある技じゃなかったけど」

 

「だからそういう問題じゃないんだよエステル。たぶん僕や父さんもあの一撃を受けたらリィン君と同じ様になると思うから」

 

 うんうんっと周りの男性の工員達はヨシュアの言葉に頷いて、リィンに同情していた。

 と、微妙な空気が満ちていた空間で、光子の弾丸が閃いた。

 

「きゃあっ!?」

 

 しかし、狙いが甘かったのか、空属性のアーツ、フォトンシュートはアリサのすぐ脇を擦過して壁を叩いた。

 

「え……?」

 

「まさか……」

 

 唐突な攻撃にエステルとヨシュアは呆ける。

 

「…………ん」

 

 戦術オーブメントを構えたアルティナは無表情な顔のまま、もう一度同じアーツを撃つ。

 

「ひっ!」

 

 発動の瞬間、アリサはその場を飛び退くと光の弾丸が作った風圧がアリサの髪を舞い上がらせた。

 

「ん……」

 

 すかさず次弾を駆動するアルティナ。

 

「な、何なのよっ!?」

 

 堪らずアリサは逃げ出した。

 その後を追ってアーツが連射される。

 受付の奥の通路に逃げ込んだアリサを追って、アルティナが走り出す。

 その通路の奥から騒音と悲鳴が聞こえてくる。

 

「うわっ!? 何だ!? またラッセル博士かっ!?」

 

「子供っ!? ラッセル博士じゃないのか!?」

 

「いや、その子は確か昨日ラッセル博士の実験をしていた子供だっ!」

 

「何だ、やっぱりまたラッセル博士か」

 

 混乱が起きたと思ったが、声の様子だと何をすることもなく勝手に落ち着いていた。

 わらわらと通路から避難して来る職員達は慣れた様子で安全ヘルメットを被っている。

 

「えっと……」

 

「エステルは二人を追って、僕はリィン君を診てから行く」

 

 あまりのことに思考停止して立ち尽くしていたエステルにヨシュアが一足早く動く。

 

「わ、分かった」

 

 ヨシュアの指示にエステルは後ろ髪を引かれながらも二人の後を追いかける。

 それを見送り、ヨシュアが未だに蹲ったまま動かないリィンに話しかける。

 その言葉にリィンはすぐに応えることはできなかった。

 

 

 

 

「こらっ! 大人しくしなさいアルティナッ!」

 

 リィンは後ろからアルティナを羽交い絞めにして叱るように叫ぶ。

 

「う~」

 

「俺なら大丈夫だから、な……」

 

 最初こそジタバタと抵抗されたが、リィンの説得にようやくアルティナは落ち着いてくれる。

 大人しくなったアルティナにリィンは息を吐く。

 まさか普段大人しいアルティナがあんなに激しい行動に出るとは思ってもみなかった。

 自分を怒ったことを含め、彼女の感情が治ってきていることだと思えば喜ばしいことなのだが、状況はそうも言ってられなかった。

 

「ヨシュアさん、どうですか?」

 

「うん……どうやら鍾乳洞の方へ行ってしまったみたいだね」

 

 二つの分かれ道を前に、ヨシュアが地面に残る痕跡を見て判断する。

 歩幅の違いのおかげでアルティナには追いつく事ができたが、彼女から逃げた少女は未だに見つかっていない。

 

「ああ、もう! 何でこんなことになるのっ!」

 

「すいません。ほら、アルティナも謝って」

 

「ぷいっ……」

 

 叫ぶエステルにリィンは頭を下げ、アルティナもそうしろと促す。が、当のアルティナはそっぽを向いてしまう。

 

「いや、リィン君のせいじゃないけど……とにかく急いで保護しないと」

 

 愚痴をもらしたエステルは頭を下げるリィンに慌てて取り繕う。

 

「俺も協力します。いえ、させてください」

 

「リィン君……その大丈夫なのかい? あんなことをされたのに」

 

「確かに思うことはありますけど、だからって見捨てることとは話が別ですよ……

 それに今回のことはアルティナのせいでもありますから、保護者としてはその不始末のけじめはつけないと」

 

 リィンの主張にヨシュアは考え込む。

 

「いいじゃない、ヨシュア。協力してもらいましょう」

 

「でも、エステル。リィン君にはルーアンですごい迷惑をかけたし」

 

「それはそれよ。すぐにあの子を見つけないと危ないのは事実で人手は多い方がいい……

 リィン君の実力は知っているし、アルティナちゃんもすごいアーツが使えるのはさっき見たでしょ」

 

「…………まあここで問答している時間も惜しいか」

 

 エステルの言い分を認めて、ヨシュアはリィンたちの協力を受け入れる。

 そうしてリィンたちはカルデア鍾乳洞へ踏み入った。

 

 

 

 

「もう……何なのよ……」

 

 ぐすりとアリサ・ラインフォルトは涙ぐみながら彷徨い歩く。

 荷物のトランクは何処かに落としてしまったのか、手元にない。

 あの中には着替えにミラ、それに武器の弓が入っていた。

 つまりは今は完全に丸腰の状態で、アリサは魔獣の気配がする洞窟の中にいた。

 ほのかに光っている壁は幻想的で神秘的な情景を作っているが、それに見惚れている余裕はない。

 

「何でこんな所にいるんだろ、あたし……」

 

 自分がどっちから来たのか分からずにアリサは途方に暮れる。

 

「ぐす……」

 

 そういえば、遠い昔にこんなことがあったような気がした。

 

「あれは……確か……雪が……」

 

 記憶を振り返ろうとしたところで、アリサは口を押さえて息を止めた。

 じゃり、じゃりと足音が近付いてくる。

 

「ま、魔獣……」

 

 アリサは岩の陰に身を隠し、頭を抱えて息を潜める。

 弓がないアリサは無力な女の子に過ぎない。

 恐怖で身体が震え、歯が鳴りそうになるのを必死に押さえる。

 足音が次第に大きくなり、唐突に止まった。

 恐る恐るアリサは顔を上げると、魔獣よりも恐ろしい銀髪の女の子と目が合った。

 

「いやああああああっ!」

 

「あ、ちょっとっ!」

 

 男の子の声を無視してアリサは駆け出した。

 がむしゃらに足を動かしてとにかく走る。しかし足場の悪い鍾乳洞でそんなことをすれば当然段差に足を取られる。

 

「きゃっ!?」

 

 派手に転んだアリサは膝と手の平を地面に強かに打ち付ける。

 

「もう……やだ……」

 

 膝や手の平の痛みにアリサは涙ぐむ。

 しかし、涙の原因はそれだけではなかった。

 それまで我慢していた感情が、洞窟の中だという環境に孤独を強調されて歯止めが利かなくなる。

 

「あ……うあ――」

 

「よかった追いついた」

 

 声を上げて泣こうとした瞬間、聞き覚えのある男の子の声がかけられた。

 

「ふえ……?」

 

 振り返るとそこに昨日エスカレーターの前でぶつかった少年がいた。

 

 

 

 

「ふう……手間を掛けさせないでくれ」

 

 膝を着いて呆然としているアリサ・ラインフォルトにリィンはため息を吐く。

 アルティナが彼女を見つけたと思ったら、突然悲鳴を上げて逃げ出した。

 制止の声も空しく慌てて追い駆けると、数秒もかからずに転んだ彼女に追いついた。

 

「あ……あ、あ……あな……」

 

「俺は遊撃士ギルドの民間協力者のリィンだ。こっちはアルティナ、訳有って俺が世話をしている子供だ」

 

 軽く自己紹介をするも、アルティナはそっぽを向いてアリサと顔を合わせようとしない。

 リィンはやれやれと肩をすくめながら、ざっとアリサの様子を見る。

 

「派手に転んだみたいだけど、立てるかい?」

 

「あ……そ、その……」

 

 今にも泣き出しそうだった少女は徐々に正気を取り戻し、そして――

 

「な…………何なのよその子はっ!?」

 

 思わずリィンはその大声に耳を塞ぐ。

 鍾乳洞に木霊した咆哮にリィンはもう一度ため息を吐く。

 

「アルティナが君にアーツを撃ったことは謝るが、元はといえば君が突然暴れ出したのがそもそもの原因だろ」

 

「何よっ! わたしが悪いって言うの!?」

 

「君にも言い分があるかもしれないけど、それが暴力を振るっていい理由にはならないだろ……

 最初のトランクの一撃だって相当に危なかったんだぞ」

 

「で、でも……あれはシャロンに教えてもらった護身術で……」

 

「その護身術は真っ先に抵抗しろっていう教えなのか? 違うだろ?

 護身術って言うのは、暴漢を倒すための技術じゃなくて自分の身を守るためのものだ……

 君の軽率な行動は相手を挑発するだけにしかならない。現にアルティナを怒らせただろ」

 

 悪びれないアリサにリィンも口調を強くして言い返していた。

 

「少しは自分の行動を反省しろ」

 

「何よ偉そうにっ! 私と同じくらいの歳のくせに」

 

「歳は関係ないだろ。それに偉そうになんてしていない」

 

「そういえばあなた……昨日のエスカレーターでぶつかった……」

 

「そうだよ」

 

「そういうこと……あの時からずっと私のことつけてたのね、シャロンの差し金だったのね」

 

「何でそうなる?」

 

 半眼でアリサを睨みリィンは呆れる。

 確かに依頼主の差し金と言われればその通りなのだが、どうにもアリサの言葉では彼女の後をずっとつけていたように聞こえる。

 

「はぁ……とにかくここは危ないからツァイスに戻ろう」

 

 なんだか馬鹿らしくなってリィンは会話を切り上げる。

 

「わたしは絶対に家に帰らないわよっ!」

 

「それじゃあここに住むのか?」

 

「え……?」

 

 リィンの言葉にアリサは周囲を見回す。

 ここが何処かを思い出したアリサは顔を蒼くする。が、すぐに反論はしなかった。

 その強情ぶりにリィンは肩をすくめる。

 

「生憎と俺は遊撃士じゃなくて、あくまでも協力者でしかないから君を保護する義務はない」

 

「ま、まさか置いていくつもりっ!? この人でなしっ!」

 

「そうじゃないっ! 何か言いたいことがあるなら、さっきの二人が君の話を聞くから! とにかく今はここから――ちっ」

 

 周囲から集まってくる魔獣の気配にリィンは思わず舌打ちした。

 

「大きな声で話しすぎたか……」

 

 色とりどりのペンギン型魔獣が前後の道からわらわらと現れる。

 

「囲まれた……ど、どうするのよっ!?」

 

「壁際に寄ってくれ。アルティナは――」

 

「ん……」

 

 その子と一緒にさがっていてくれ、リィンはそう言おうとしたがアルティナは戦術オーブメントを構える。

 その姿に止めて無駄だと悟り、指示を出す。

 

「高位アーツはダメだ。とにかく自分に近付けないようにすればいい」

 

「ん」

 

 了解したと言わんばかりにアルティナは頷く。

 リィンは太刀を抜く。

 

「くえーっ!」

 

 その声を号令にして魔獣たちは一斉に襲い掛かってくる。

 太刀を振り、拳を打ち込み、時には足蹴にする。

 とにかく近付けさせないことを徹底し、リィンは時間を稼ぐ。

 

「ちょっと大丈夫なの? 押されてない?」

 

「うるさいっ! 騒ぐなっ!」

 

 思わずリィンは乱暴な口調でアリサの声に怒鳴り返していた。

 前後からの挟撃。

 ただでさえ手が放せないのに、彼女が声を上げて魔獣の注意が向かれたら困る。

 アルティナがアーツを駆使して撃ち抜き、リィンは自分で倒しながらも彼女の駆動時間を確保する。

 とはいえアリサの言う通り、徐々に戦線は押されている。

 しかも、最初に来た群れの後に、新たな群れが現れる。

 

「くっ……こうなったら――」

 

 鬼の力を使うしかない。

 そう考えた瞬間、目の前のペングーは一斉に吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。

 

「お待たせ、よく持ち堪えたね」

 

「ヨシュアさん」

 

「リィン君はあの子達のところまで下がって、一気に片付けるから」

 

 ヨシュアの指示にリィンは頷いて、アリサたちのところに戻る。

 

「危ないっ!」

 

 魔獣の群れの真っ只中に取り残されたヨシュアにペングーたちが一斉に殺到する。

 それを見てアリサは悲鳴を上げる。

 しかし、次の瞬間リィンたちの目からヨシュアの姿は消えていた。

 

「えっ!?」

 

 アリサが訳が分からないと声を漏らす横でリィンは目を凝らしてその動きを追う。

 ヨシュアは魔獣の包囲など関係ないと言わんばかりに、洞窟の壁や天井を足場にして縦横無尽に駆け、ペングーたちをそれぞれ一撃していく。

 わずか数秒。

 包囲していた魔獣は強烈な一撃を受けて、敵わない相手だと悟ったペングーたちは一斉に逃げ出した。

 

「怪我はないようだね、三人とも?」

 

「ええ、助かりましたヨシュアさん」

 

 ヨシュアが周囲の安全を確かめて双剣を納めるのに倣って、リィンも太刀を鞘に納める。

 

「アリサさん?」

 

 アリサはへたり込んだまま、どこか夢を見るような表情でヨシュアをじっと見つめて動かない。

 目の前で手を振っても反応はない。

 瞬きさえも忘れたかのような彼女の姿にリィンはヨシュアと顔を見合わせて首を傾げる。

 

「もしかして怪我をしたかな?」

 

 ヨシュアは軽くアリサを診る。

 

「あ……」

 

 ヨシュアは転んで擦りむいた膝と手の平の傷を見つけると慣れた様子で手当てをする。

 

「とりあえず今はこれで……ツァイスに戻ったら改めてちゃんと手当てしよう。歩けるかい?」

 

「は、はいっ!」

 

 上擦った声で返事をして、アリサは差し出されたヨシュアの手を取って立ち上がる。

 

「それじゃあエステルと合流しよう。いつまでもこんな場所にいるのは危険だからね」

 

「は、はい」

 

 素直にヨシュアの言葉に頷くアリサの殊勝な態度にリィンはため息を吐く。

 

「随分と素直だな。俺の時は文句ばかりだったのに」

 

「う、うるさ――じゃなかった。何のことかしら?」

 

 突然猫を被り出したアリサにリィンは首を傾げる。

 先導するように歩き出すヨシュアに続いて、アリサも歩き出す。

 リィンは背後を警戒しながらその後に続く。

 

「……ねえ……」

 

「ん?」

 

 不意に話しかけてきたアリサにリィンは何事かと身構える。

 

「あの人の名前って何て言うの?」

 

「君は……会った時にちゃんと聞いてなかったのか?」

 

 場違いな質問の意図が分からずリィンは呆れる。

 

「いいじゃない。それでなんて言うの?」

 

「ヨシュア・ブライト……リベールの準遊撃士だよ」

 

「ヨシュアさんか……」

 

 ぼうっとした様子でアリサはその名前を自分の口で呟く。

 やはりアリサの意図が分からないリィンはただ首を傾げることしかできなかった。

 

 

 

 

 エステルと合流して、一行はツァイスに戻る。

 アリサの手当てを済ませ、食堂の《フォーゲル》で腰を落ち着けて彼女の事情を聞くことになったのだが……

 

「エステルさん、どうしてそんなに不機嫌そうなんですか?」

 

 ヨシュアとアリサが向き合って話しているのを離れた席で見守ることになったリィンは向かいの席に座るエステルに尋ねる。

 

「べ、別に不機嫌になんてなってないわよ」

 

 と、言うがその口調は固い。

 エステルは目の前の遅めのランチには手を付けず、チラチラと何度も二人の様子を窺う。

 いつもの明るい表情も今は険しく曇っていた。

 

「ヨシュアさんなら大丈夫だと思いますよ」

 

 大人数の前では事情を話しにくいのでは、と判断してヨシュアが一人でアリサと話をすることになった。

 ここからでは何を話しているのか分からないが、見ている限りはアリサがヨシュアとの話を拒絶している様子はない。

 むしろ家には帰らないと、息巻いていたはずなのに借りてきた猫のように大人しい。

 

「あの様子なら説得は時間の問題ですね」

 

「うん……そうみたいだけど……」

 

「もしかして、エステルさんは彼女のような人は嫌いですか?」

 

 彼女の家出の理由は、仕事一辺倒で家庭を顧みない家族への当てつけのようなものだった。

 厳しい言い方をすれば、ただ家族に構って欲しいという我侭に過ぎない。

 

「嫌いっていうわけじゃないんだけど……う~ん、なんかもやもやするのよね」

 

 そんなエステルを見て、リィンはふと思ったことをそのまま口にしていた。

 

「エステルさんって……」

 

「うん……?」

 

「なんだか綺麗になりましたね」

 

「なっ!? いいいいきなり何言い出すのよリィン君っ!?」

 

 リィンの言葉に虚を突かれたエステルは思わずテーブルを叩いて立ち上がる。

 何事かと、店内の視線がエステルに集中する。

 

「あ……」

 

 すいませんとエステルは周りに頭を下げながら椅子に座り直す。

 

「いきなり変なこと言わないでよ。びっくりした……」

 

「すいません。そんなに驚くとは思いませんでした」

 

「別にそんなに変わってないと思うけど……」

 

 自分の姿を見下ろしてエステルは首を傾げる。

 

「いや、見た目はそうなんですけど……すいません。俺も何が変わったのかはよく分かりません」

 

 自分で言い出しておいて、具体的に何が変わったのか分からずにリィンも首を傾げる。

 そんなリィンにエステルは苦笑して、言い返した。

 

「そういうリィン君は、少し見ない間にすっかりお父さんね」

 

「その呼び方はやめてください」

 

 何が悲しくて十四歳で父親にならなければいけないのだろうか。

 嘆きながらも、リィンはアルティナの頬についたクリームを拭ってやる。

 

「その子……このまま親御さんが見つからなかったらどうするのかな?」

 

「アネラスさんやメイベル市長が引き取るって息巻いてますよ」

 

「リィン君は立候補しないの?」

 

「それは無理ですよ」

 

「どうして? こんなにリィン君に懐いているのに?」

 

「懐いてくれていたって、俺はまだ十四の子供ですよ。この子を育てるなんて色々な意味で余裕はないですよ」

 

「じゃあリィン君のお家は?」

 

「忘れたんですか、俺自身が拾われた浮浪児だってことを?」

 

「あ……」

 

「両親が俺を育ててくれたことには感謝しています。だけど俺を拾ったせいで被った不利益は決して小さいものではありませんでした……

 それに俺もこの子の世話をすることで思ったんです……子供の世話って本当に大変なんだって」

 

 アルティナは比較的大人しい子供だからまだ楽だが、自分は得体の知れない異能を持っていた。

 両親が自分を育てる上でした苦労はまだまだ想像できない。

 もっとも、この子にも得体の知れないものはあるのだが。

 

「ただでさえ我侭でリベールにいるんです。それなのに子供を一人引き取って欲しいなんて、言えるわけないじゃないですか」

 

「そっか……うん、それがリィン君の考えなんだね」

 

 リィンの考えにエステルは頷き、そして――

 

「でも、考え過ぎじゃないかな?」

 

「え……?」

 

「確かに気軽に引き取るって言える事じゃないけど、家族と相談したわけじゃないでしょ?」

 

「……ええ、アルティナのことはまだ手紙に書いていません」

 

「だったらさ、まずは話してみたらどうかな?」

 

「そんなの父さんは家で引き取るって言うに決まってます」

 

 もしも父がアルティナの境遇を知れば、自分の時のようにそれこそ快く受け入れてくれるだろう。

 

「だけど、それに甘えていいはずがないでしょ」

 

「どうして? 甘えればいいじゃない」

 

「そんなこと――」

 

「だって家族なんだよ」

 

「あ……」

 

 エステルの指摘にリィンは言葉を失う。

 

「一人で抱え込んで無理に答えを出そうとしなくてもいいんじゃないかな……

 それとも、リィン君はアルティナちゃんみたいな子を放っておくように育てられたのかな?」

 

「…………その言い方は卑怯ですよ、エステルさん」

 

 改めてリィンはアルティナを見る。

 パンケーキを頬張る姿は年相応の女の子。

 だが、出所不明の戦術オーブメントとそれを操る戦闘技術を持つ怪しさ。

 どうしてもリィンはアルティナに自分を重ねてしまい、シュバルツァー家に掛かる不利益のことが頭に過ぎってしまう。

 

「一人で抱え込んでか……」

 

 その指摘にリィンは自嘲する。

 手紙のやり取りをして、鬼の力に対しての自分の胸の内を明かしたはずなのに。

 気が付けば、また同じ様に一人で悩み、勝手な答えを出そうとしていた。

 

「とりあえず、今度の手紙にアルティナのことを書くようにします」

 

「うん。そうしてあげるといいよ」

 

 そう言って笑うエステルにリィンは笑みを返す。

 

「っと、ヨシュアの方も終わったみたいね」

 

「そうみたいですね」

 

 エステルに言われて、リィンはヨシュアたちの方を見る。

 こちらに向けて拳に親指を立てるヨシュアの報せにリィンは自分の仕事ではないが安堵した。

 

 

 

 

 ベッドに横たわり穏やかな呼吸で寝入ってしまったアルティナにリィンは苦笑して、その頭を撫でてやる。

 

「ん……んん……」

 

 気持ち良さそうにその手を受け入れるアルティナに、やはりリィンは笑みを浮かべる。

 

「今日はいろいろなことがあったからな」

 

 疲れていたのだろう。夕食を食べている頃からアルティナは舟をこぎ始めた。

 おんぶをして部屋に運んだが、アルティナはリィンの背中で眠ってしまっていた。

 彼女をベッドに寝かして、リィンは椅子に座り、自分用の戦術オーブメントを取り出した。

 ラッセル博士が改造した最新型の戦術オーブメント。

 その中央には《鬼の力》で作り出した黒いマスタークォーツがはまっている。

 

「本当に……いろいろあったな……」

 

 まだこれで《鬼の力》が制御できると決まったわけではないが、確かな結果にリィンは胸に込み上げてくるものを感じる。

 そのせいなのか、目が妙に覚めてしまって、眠る気にはなれなかった。

 

「ん……」

 

 ふと、隣の部屋のドアが開く気配を感じた。

 リィンはアルティナを起こさないように静かに動き、ドアを開けて廊下を覗き込む。

 金色の長い髪の少女が階段を降りて行くのが見えた。

 

「あれは……」

 

 リィンはアルティナがよく眠っていることを確認してから、部屋を出る。

 そこかしこに設置されている導力灯のおかげなのか、日が落ちたのにまだ人々の往来は完全になくなっていない。

 ツァイスの夜の光景。

 その中でリィンは目的の人物の姿を探し、エスカレーターを昇った先で彼女、アリサに追いついた。

 

「俺が言うことじゃないけど、あまり一人で出歩かないでほしいな」

 

「あ……何であなたがここにいるのよっ!? やっぱりストーカー?」

 

 警戒するアリサにリィンは必要以上に近付かない。

 特に彼女の足の間合いに最大限の警戒をする。

 

「違う……君がこっそりと出て行く気配を感じたんだよ」

 

「気配って……本当かしら?」

 

 疑いの眼差しを向けてくるが、リィンは無視する。

 

「…………あの子は一緒じゃないの?」

 

「アルティナは今日誰かさんを追い駆け回したせいで、疲れてもう寝ているよ」

 

「そ、そう……」

 

 アルティナの姿がないことに、アリサは安堵する。

 

「荷物は遊撃士の人が探してくれている。それでも見つからなかったら素直に諦めるべきだ」

 

「別に一人であそこに行くつもりはないわよ……ただ風に当たりに来ただけよ」

 

「そうか……」

 

「何よ?」

 

「これでも君のお目付け役だからね。それにこの時間に女の子の一人歩きは危ないだろ?」

 

「あら意外と紳士なのね」

 

「養子だけどこれでも一応貴族だからね」

 

「……養子……もしかしてそれがあなたの家出した理由?」

 

 ヨシュアと話している時に聞いたのか、アリサの質問にリィンは星空を仰いでから頷いた。

 

「半分はそれが理由かな」

 

「もう半分は?」

 

「強いて言うなら、自分を探すためかな……

 そういう君は? 家出をするにしてもルーレからリベールは遠過ぎるだろ?」

 

「ユミルから家出しているあなたに言われたくないわよ」

 

「俺はこの国に兄弟子がいるからだよ」

 

 淀みなく応えたリィンに対してアリサは黙り込む。

 

「言いたくないなら言わなくてもいい」

 

 アリサの沈黙にリィンは無理強いをせずにそう言った。

 そして数分の間をおいてアリサは口を開いた。

 

「私ね…………この間、誕生日だったの」

 

「それは……おめでとう」

 

「ありがと……でも、家族はみんなそのことを忘れてた」

 

「…………それは……」

 

「仕事ばかりで家にほとんど帰って来なくなった母様……家を出て行って何処にいるのかも分からないお祖父様……

 本当のお姉ちゃんのように慕っていたメイドのシャロンも、私には何も言わずに里帰りしていた」

 

 訥々とゆっくりアリサは語り出す。

 

「少しだけ期待してたの……

 普段は滅多に帰ってこない母様もその日だけはちゃんと帰ってきてくれるんじゃないか……

 シャロンの里帰りも、私を驚かすパーティーの準備をするための嘘……そう思ってた……でも、違った」

 

 アリサは俯いたまま言葉を続ける。

 

「母様はその日も帰ってこなかった……

 毎年、その日に贈られて来るお祖父様のプレゼントも今年はなかった……

 シャロンも帰って来てくれなかった……

 あの広い家で、誰も祝ってくれない一人ぼっちの誕生日……気が付いたら私は家を飛び出していた」

 

 慰めの言葉を思いつかない。

 例え、養子だったとしても慈しみ育てられたリィンに今のアリサの孤独を分かってあげることはできない。

 

「リベールを選んだのはここなら働き口を見つけられると思ったからよ……

 独学だけど導力については少しは自信があったし、帝国だとラインフォルトの手から逃げれない気がしたから……

 実は少しだけ期待していたの……家出をすれば母様が探しにきてくれるんじゃないかって……

 でも、迎えに来てくれたのはメイドのシャロンだった……それが嬉しくない訳じゃないけど……でも…………」

 

 そこから先の言葉はいつまで経っても作られることはなかった。

 

「…………帰るわ」

 

 結局、続く言葉は語らずにアリサは踵を返した。

 

「あ、おい……」

 

 思わず呼び止めるがアリサは聞かずに歩き出す。

 リィンは肩を竦めて、その後を追いエスカレーターに乗る。

 

「くす……そんなに怖がらなくてもいいじゃない」

 

 笑う彼女は弱音を吐いたことが嘘のように無邪気な顔をしていた。

 

「仕方ないだろ、足場が勝手に動くなんて経験したことがないんだから」

 

 リィンはステップに立って、不安そうに足場と一緒に動いている手すりに掴まる。

 そんな様子を面白そうにからかうアリサは物怖じせずにこちらを振り返ってくる。

 

「前を見ていないと危ないんじゃないか?」

 

「大丈夫よ。まだ下に着くのにはだいぶ――」

 

 その瞬間、それは起きた。

 何の前触れもなく、周囲の街灯が次々に消え、それに伴ってエスカレーターもがくんと止まる。

 

「きゃ!?」

 

「危ないっ!」

 

 後ろを向いていたアリサは小さなその衝撃に体勢を崩す。

 咄嗟にリィンは彼女の伸ばした手を取って、力任せに引き寄せた。

 しかし、勢い余ってアリサの身体を受け止めきれずにリィンは後ろに倒れ、アリサはそんな彼に覆い被さる。

 

「いたたた……何なのよ、まったく……」

 

 アリサは何が起こったのか分からずにそのまま辺りを見回す。

 先程まで導力灯の光が照らしていた夜が完全な闇となってそこにあった。

 

「な……何これ……?」

 

 本能的な恐怖にアリサは思わず、手近にあったそれを抱き寄せるようにして身を縮ませる。

 

「……その……放してくれないか?」

 

「え……?」

 

 抱き寄せたそれがしゃべったことにアリサは訳も分からずに、見下ろした。

 目が慣れて、月明かりが照らしたのは人の頭の後頭部だった。

 

「ええっ!?」

 

 アリサは驚き、抱き締めていたリィンの頭を解放して後ずさる。が、すぐにエスカレーターの側面の壁に背中が当たった。

 

「えっと……何と言ったらいいのか……」

 

 ぷるぷると顔を赤く染めて震えるアリサに、リィンは気の利いたセリフを探すが何も思いつかない。

 

「とりあえず、申し訳ない。でも良かった。無事で何よりだった――」

 

 アリサは怒りと羞恥を露わにして、右手を振り被った。

 自分の頬に向かって来る手の平をリィンは甘んじて受け入れた。

 

 ――はぁ、厄日だ……帝国人と関わると碌なことにならないな……

 

 内心でリィンは嘆く。

 オリビエといい、レクターといい、そしてこのアリサ。

 リベールに来てから呪われているのではないかというくらいに帝国人と縁がない。

 それはともかく、この場にアルティナがいなかったことにリィンは安堵して――パンッと乾いた音が頬を鳴らした。

 

 

 

 

 




 いつかのトールズ士官学院

パトリック
「くそっ! シュバルツァーめっ! オリヴァルト殿下のお気に入りだからって調子に乗って!
 だが、今の段階ではあいつの力は俺よりも上なのは確か……何か弱点はないものか……」

アリサ
「リィン? 別にみんなが言うほど大したことないわよ……
 二年前なんて私がちょっと蹴ったくらいで大げさに倒れたんだから」

パトリック
「それは情けないな。たかが女の一蹴りで倒れるなど、やはり何処とも分からない血筋の人間は軟弱で困る……
 それで具体的にはどうしたのかね?」

アリサ
「こう、足の間をちょっと蹴り上げただけよ」

パトリック
「…………え?」

リィン
「なんだか急にパトリックからの当たりが柔らかくなったんだけど、何か知らないか?」

アリサ
「さあ?」



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