(完結)閃の軌跡0   作:アルカンシェル

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33話 根拠

 リィンは一人の男を前に肩で息を切らしていた。

 《待ち》の姿勢の男にリィンは持てる技全てを繰り出したというのにその全てを受け切られた。

 

「終わりかね?」

 

 静かな男の問いにリィンは息を飲む。

 

「それでは今度はこちらから行かせてもらおうか」

 

 男は太刀を腰に構えたまま踏み込んできた。

 

「っ……」

 

 リィンは先程の男と同じ様に受けの《伍の型》で身構える。

 男の抜刀術に全神経を集中して紙一重でやり過ごし、先程までのお返しと言わんばかりに太刀を鞘から抜き放つ。

 《八葉一刀流、伍の残月》

 だが、リィンが振り抜いた太刀は、すでに納刀されて放たれた二の太刀によって阻まれた。

 

「くっ」

 

 さらに彼の太刀はすかさず納刀され、三の太刀が放たれる。

 リィンは太刀を前に出してそれを受けるが、彼は納刀と抜刀を目にも止まらない速さで繰り返しリィンを攻め立てる。

 しかし、強引にリィンはその一太刀を見極め、迎撃する。

 大きく弾かれた太刀に彼の身体は大きく流される。

 その隙にリィンは闘気を練り上げ、カシウスの監修の下で完成させた技を繰り出した。

 が、死に体の身体で彼は素早く太刀を納刀するとリィンの技に合わせて負けじと闘気を練り上げる。

 

「終の太刀――暁っ!」

 

「散りゆくは叢雲、咲き乱れるは桜花――桜花残月っ!」

 

 繰り出される刃がぶつかり合い、そして彼の刃がリィンの喉元に突きつけられた。

 

「そこまでっ!」

 

 カシウスの声に合わせて男は太刀を引き、リィンは大きく息を吐き出すと共に自分の太刀を鞘に納めて一礼した。

 

「ありがとうございました、リシャール大佐」

 

「いや、こちらこそ剣聖の源流に位置する達人に連なる剣、とくと拝見させてもらった……

 しかし、今の私は階級を剥奪された服役中の国事犯に過ぎない。大佐と呼ぶのはやめてくれたまえ」

 

「いや、でも……」

 

 背筋を真っ直ぐ伸ばしたリシャールの立ち姿は一見して犯罪者のそれとは思えないほどに整っていた。

 事情を知っていても思わずそう呼んでしまうカリスマが彼にはあった。

 

「本来ならこんな風に剣を握ることは許されない身なのだがな」

 

「そう言うなリシャール。このことについてはお前も納得済みのはずだ」

 

 罪悪感を滲ませるリシャールにカシウスは気さくに話しかける。

 

「ですが准将やはり私は――」

 

「考え得る最悪の事態に陥った時、服役を理由にお前の腕を錆付かせて置くわけにはいかないからな……

 それにリィン君との手合わせはお前にも勉強になっただろ?」

 

 カシウスの言葉にリシャールは困ったように苦笑を浮かべる。

 

「シード中佐、手錠を」

 

 リシャールは太刀を渡し、両手を前に突き出した。

 彼が望む通り、手錠をかけられ、リシャールは兵に連れられてその場から去って行った。

 

「やれやれ、真面目過ぎると思わんか?」

 

 そんなリシャールの背中を見送りながらカシウスは肩をすくめた。

 

「でも納得できました。あんな人だから未だに情報部の人達に再起を望まれているんですよね」

 

 クーデター事件の時に会ったのはそれこそルーアンで少しだけ顔を合わせただけ。

 今日初めて言葉を交わして、剣を交えたがとてもクーデターを起こすような人物とは思えなかった。

 

「それに剣についても真っ直ぐで、本当に悪い人ではなかったんだと思います」

 

「巻き込んでしまった君にそう言ってもらえると助かるな」

 

 カシウスは安堵の息を吐き、場所を変えようと提案され、リィンはカシウスの部屋となっている司令室に案内された。

 

「さて、リィン君……君の目にはリシャールの剣はどのように映った?」

 

「はい……八葉一刀流の伍の型《残月》……多少のアレンジは加わっていますが、抜刀術を基本とした構えでした……

 もしかして、リシャールさんは《皆伝》を授かっているんでしょうか?」

 

「いや、奴に剣を教えたのは十年前だからな……

 おそらくはその十年であいつなりに試行錯誤して今の型になったんだろうな……

 そういう意味ではもう純粋な八葉一刀流とは言えないかもしれないが、勉強になっただろう?」

 

「そうですね……今まで漠然と技を使っていましたが、改めて型の欠点や有用性が見えてきました」

 

 例えば二の型《疾風》。

 高速で動き回り、斬りかかる使い勝手の良い技だが、伍の型《残月》のようなカウンターには相性が悪い。

 かと言って、伍の型に相性が良いと思われる斬撃を飛ばす型もリィンの今の腕ではリシャールの守りを崩すことはできなかった。

 

「それは何よりだ……だが、そういう意味では俺もリシャールを見習わなければならないな」

 

「それはどういう意味ですか?」

 

 カシウスの呟きにリィンは首を傾げる。

 彼とリシャールは師弟の関係であり、カシウス自身は《皆伝》を賜り《理》に至った剣士。

 そんな彼が弟子から学ぶものがあるとは思えない。

 

「知っての通り俺は今、剣を置き、棒術を学び直した……

 だが、それは八葉一刀流の技を棒術の枠に落とし込んだに過ぎん。《皆伝》の先にある俺だけの《八葉》を極めたわけではないからな」

 

「《皆伝》の先……カシウスさんの《八葉》……」

 

「リィン君にはまだ想像もできないか?

 《皆伝》は終着地点にあらず、ここから先は自分で歩め……

 それがユン先生から《皆伝》を賜った時に一緒に頂いた御言葉だ」

 

「それは……とても言いそうなお言葉ですね」

 

「だいたい、周りは俺のことを《剣聖》だと崇めるが、それは八葉の一つの型を極めただけに過ぎないんだぞ?

 八つの型全てを皆伝していると言っても過言ではないユン先生にはとてもではないが、まだ勝てる気がしないな……

 と、すまない。つまらない愚痴を聞かせてしまったな」

 

「いえ、共通の師だということでもらしたい愚痴もあるでしょう……

 俺もアネラスさんも、よく互いに老師への愚痴を言い合っていました」

 

「そうか……ともかく、自分の道を切り拓いたという点では、リシャールの方が俺よりも前に行っていることは確かだ」

 

 その言葉にリィンは改めて自分のことを考える。

 これまで教えられた技を覚え極めることばかり考えていたが、曲がりなりにも一通りの技が使えるようになったと思っていた。

 しかし、伍の型一つとって見ても、リシャールと自分の《残月》の完成度は雲泥の差があった。

 

「俺だけの《八葉》か……」

 

 まだまだ未熟なのは分かっている。そんなことで悩むこと事態がおこがましいとユン老師には怒られるかもしれない。

 しかし、それでもリィンは考えずにはいられなかった。

 

 ――今のままじゃ、《剣帝》と戦えば確実に負ける……

 

 もうすぐ二ヶ月経ち、カシウスやサラから直接の指導を受けているにも関わらずその考えは日に日に大きくなっていく。

 あの時、どうして一矢報いることができたのか分からない。

 力も、速さも、技も、全てが劣っている自覚はある。

 頼みの《鬼の力》も今は当てにできない。

 勝てる要素は微塵もないからこそ、リィンは何かを求めずにはいられない。

 

「そう難しく考えるな……

 君の実力と才覚は本物だ。次にユン先生に会うことになれば《中伝》を授かることはできるだろう……

 何だったら俺のとっておきを伝授してやるのもいいぞ」

 

「カシウスさんのとっておきって《鳳凰烈波》ですか? 自分にはまだあれだけの規模の焔を練るのは無理ですよ」

 

「自分でそう言えるなら、一安心だな……

 分かっていると思うが、今は焦らずじっくりと基礎を固めるべきだ……

 そこでだが、リィン君。クロスベルに行く気はないか?」

 

「クロスベルですか?」

 

 カシウスの突然の申し出にリィンが首を傾げる。

 帝国と共和国の境にある自治州。

 そこには《風の剣聖》がいることでリベールとどちらに行くか迷った場所だった。

 

「ああ、あそこには俺と同じ《皆伝》に至ったアリオスがいる……

 軍務に追われて滅多に相手をしてやれない俺よりもアリオスの下へ行けば得られるものは多いはずだ……

 それに、聖ウルスラ医科大学という医療機関もある。そこでなら君の封じられた《鬼の力》について何か分かるかもしれないだろ?」

 

「カシウスさん……」

 

 確かに現状でリベールに留まってもこれ以上の進展は望めないかもしれない。

 そういう意味ではカシウスの提案は妥当なのだが、その奥に隠した意図をリィンは見逃さなかった。

 リィンの眼差しにカシウスはため息を吐く。

 

「察しの通り、とある筋からの情報で《結社》が動き始めたという情報を得た……

 この情報は遊撃士協会へも伝え、外国で訓練を行っているエステルとアネラスの二人には最終試験を行い呼び戻すようにしている」

 

「そうですか……」

 

 二人の名前を聞いて最初に思い出したのは、女王生誕祭の翌朝の出来事。

 アルティナの口から名前を聞いた後、カシウスとエステルが現れてリィンはヨシュアがいなくなったことを知った。

 あのいつも明るく前向きで、お日様のような彼女が痛々しく泣く様にリィンは胸を締め付けられたような気持ちを感じた。

 

「そして今の内に君を帝国へ帰すべきだという意見も出ている」

 

「それは――」

 

「まあ、最後まで聞いてくれ……

 君はまだ十五歳……十六歳から望めば社会に出る風潮なのだから君はまだ護られるべき子供であり、民間人だ……

 それに加えて、君は帝国人であり、リベールのために戦う理由は極めて薄い……

 クーデター事件は成り行きだったかもしれない……

 だが、予想される《結社》との戦いにおいて命の危険はクーデターの時以上だ」

 

「はい……」

 

 有り得ないと思いたいが、《剣帝》レオンハルトが結社の先兵でしかなければ彼以上の達人が次には来る。

 

「俺個人としては君程の実力者が協力してくれるのはありがたいと思っている……

 だが、同時に軍人として、元遊撃士としてもその意見に理解もできる……

 このままリベールに留まり、《結社》と刃を交えると言うなら。そうする君自身の“根拠”を示してほしい」

 

 威圧するような言葉にリィンは黙り込む。

 カシウスの主張はもっともだろうと納得する。

 自国民ならともかく、帝国人の自分が命の危険を省みずに戦う義務はない。

 

「俺自身の“根拠”……」

 

 最初に思いつくのはやはり恩返し。

 ユミルから逃げ出した自分を受け入れてくれたこの国が荒らされる様を見たくはない。

 次に浮かぶのはエステルだった。

 リベールに来たばかりの時、《鬼の力》を暴走させた自分を救い上げてくれた恩人。

 彼女はヨシュアがいなくなったことに泣き、そして立ち上がった。

 母ルシアには好きな人だと指摘されたが、まだそれが本当にそうなのかはリィンは計り切れていない。

 それでも彼女の力になりたいという気持ちは確かにある。

 

「俺は……」

 

 様々な理由がリィンの頭の中に思い浮かぶ、そして最初に口から出てきたのはリィンが優先順位が低いと思っていたことだった。

 

「俺は……とにかくヨシュアさんを一発殴りたいです」

 

「ヨシュアを……殴る……?」

 

「あ……すいません。そうじゃなくて、えっと……」

 

 すぐに失言に気付き、取り繕うように“根拠”を探すが、それはカシウスの笑い声に阻まれた。

 

「はははっ! ヨシュアを殴りたいかっ! なるほど十分だ」

 

「えっ?」

 

 しかもその理由をカシウスは認めてしまったことにリィンは困惑する。

 《結社》と戦う根拠を問われたのに、それと関係ないことを口走ってしまったのに納得されてしまった。

 しかし、困惑しているリィンを他所にカシウスは話を進めていく。

 

「心意気は了解した……だが、もう一つだけ試験を受けてもらおう」

 

「試験……ですか?」

 

「ああ、例え気持ちが十分だったとしても、そこに実力が伴っていなければやはり協力してもらうわけにはいかない……

 どうかな? 君にその試験を受ける覚悟はあるかね?」

 

 リィンは大きく息を吸って、頷いた。

 

「やらせてください」

 

「よろしい。内容はギルドに伝えてある。詳しいことはキリカに聞いてくれ」

 

 

 

 

 レイストン要塞を後にしたリィンは一人でリッター街道を歩く。

 少し前まではどこに行くのにもついてきたアルティナはいない。

 軍事基地に行く時は遠慮してなのか、今頃はツァイスで留守番をしているだろう。

 そのことに一抹の寂しさを感じながらも、自立し始めた彼女の行動が嬉しく思う。

 少ないながらもお小遣いも渡してあるから、今頃は何をしているかと思いを馳せながらリィンはツァイスの街に入り、それを聞きつけた。

 

「――アルティナ君。もう一度言ってもらえるかな?」

 

「はい、よろこんで」

 

 聞こえてきたオリビエとアルティナの声にリィンは思わず身を隠した。

 

「ふふ……それじゃあ行こうか」

 

「はい、よろこんで」

 

 妖しげな笑みを浮かべてオリビエはアルティナを促し歩き出す。

 リィンは思わず太刀に手が伸びるが、それを抑える。

 

「待て早まるな……普段があれでもオリビエさんも超えてはいけない一線は弁えているはずだ」

 

 言葉に出してリィンは動揺を抑え込む。

 きっと何かの間違いだと思いながら、リィンは気配を消して二人の後を尾行する。

 

「さあ、アルティナ君。お兄さんが好きなものを買ってあげようじゃないか」

 

 爽やかな笑顔を浮かべるオリビエにリィンは――

 

「もう斬っていいよな」

 

 誰に言うでもなくリィンは呟き、物陰から出た。

 

「あ……リーン」

 

 すぐにアルティナが気付き名前を呼ぶと、オリビエは固まった。

 

「や、やあリィン君。こんなところで奇遇だね」

 

「言い残すことはそれだけですか、オリビエさん?」

 

「待ってくれたまえリィン君。話せば分かる」

 

「言い残すことはそれだけですね、オリビエさん?」

 

 リィンは鯉口を切って柄に手を添える。

 気持ちは《剣帝》と戦った時のように昂ぶり、今ならリシャール大佐を越える《残月》を放てる気さえする。

 

「ちょ、本当に待ってくれたまえ誓ってボクはやましいことはしていない」

 

 こちらの本気を察してか、冗談を交えることなくオリビエは弁明する。

 

「…………本当ですか?」

 

 リィンの問いかけにオリビエは壊れた人形のように何度も頷く。

 

「はぁ……」

 

 溜めた呼気を吐き出してリィンは構えを解く。

 そうするとすかさずオリビエはいつもの調子に戻る。

 

「ふふふ……リィン君ってばアルティナ君にボクが取られると思って、嫉妬深い君の顔も魅力的だよ」

 

「やっぱり斬っておいた方が後の帝国のためじゃないかな、これ……」

 

 呆れたぼやきを呟き、冷静さを取り戻したリィンは改めて嘆く。

 

「それで何をしているんだアルティナ? 知っている人かもしれないけど、変な人について行っちゃいけないって教えておいただろ」

 

「はい。ですが今回はわたしの方からオリビエさんに用がありましたので」

 

「アルティナがオリビエさんに用?」

 

 その言葉に少なからずリィンはショックを受ける。

 最初に頼られるのは自分だとどこかで思っていただけに、オリビエに先を越されたことが信じられなかった。

 

「オリビエさん……まさかアルティナのお願いを聞く代わりに不埒なことをするつもりですか?」

 

「いやいや、そんなつもりはこれっぽっちもないよ」

 

「だったら変な言葉を教えたのはどうしてですか?」

 

「あー……あれを聞いていたのか? アルティナ君、さっきの言葉をもう一度言ってもらえるかな?」

 

「はい、よろこんで……ですか?」

 

 先程の言葉をアルティナは無表情のまま繰り返す。

 

「オリビエさん……」

 

 リィンは非難するようにオリビエを半眼に睨む。

 

「いや、ボクが教えたわけじゃないよ。どうやら先日のキャンプの時にレン君に教わっていたらしいんだ」

 

「レンちゃんに?」

 

 聞き返すリィンにアルティナは頷く。

 

「ん……『はい、よろこんで』そう言うととてもよろこんでくれるのだと教わりました……

 現にオリビエさんはそう言われて喜んでいました」

 

「…………オリビエさん」

 

「リィン君……君も分かるだろ?

 小さな女の子が何を言っても『はい、よろこんで』と返してくれる背徳感……

 ボクは思わず新しい境地に目覚めてしまいそうだったよ」

 

 思わず拳を握り締めて、いつものように殴ろうとしてリィンは押し留まる。

 いろいろと問題だが、今回は彼に非は一応ない。

 

「ませた子供だと思っていたけど、変なことを知っているな」

 

 果たしてレンがどういう意図でその言葉を使っているかは分からない。

 それでもどんな教育をしているのか、ハロルド夫妻を問い詰めたくなる。

 

「アルティナ、そういう事は軽々しく口にしない方がいい」

 

「そうなんですか? リーンはよろこばないんですか?」

 

「ああ、そんな畏まった言葉じゃなくてアルティナが一番言いやすい言葉の方が嬉しいよ」

 

「……分かりました」

 

 リィンの言葉にアルティナは少し考えてから頷く。

 無事に矯正できたことにリィンは安堵しながらも、改めてオリビエを睨む。

 

「それでオリビエさんはアルティナを何処に連れて行くつもりだったんですか?」

 

 そもそも自己主張がほとんどないアルティナが自分から何かをすることは珍しい。

 最初に自分を頼ってくれないことに寂しさを感じながらも、リィンは尋ねる。

 

「何処も何ももう着いているよ」

 

 オリビエはリィンの背後を指差し、リィンは振り返る。

 そこにあったのは――

 

「楽器屋?」

 

 ショーウインドに並べられた様々な楽器。

 どこからどう見ても普通の楽器屋だった。

 

「どうやらアルティナ君はボクのリュートに興味を持ったみたいでね……

 だがこれは生憎大人用、アルティナ君のちっちゃくてかわいらしい手には合わなくてね……

 それでなくても最初の楽器にリュートはいささか難易度が高いと思って、アルティナ君のために簡単な楽器を買って上げることにしたんだ」

 

「そうだったんですか……」

 

 オリビエの説明にリィンは納得する。

 女王生誕祭の後から時々、アルティナは《星の在り処》を口ずさむようになった。

 まだまだメロディーになっていない下手なものだがリィンはその歌に耳を傾けるのが近頃の楽しみだった。

 

「すいません。そうとは知らずに」

 

「いやいや音楽を普及させるのも天才演奏家の勤め、これくらい当然だよ」

 

 気を悪くした素振りもなく、オリビエは気取った様子で前髪を掻き上げる。

 

「アルティナはどんな楽器に興味があるんだ?」

 

「分かりません。ですが……」

 

「ですが?」

 

「オリビエさんにはリコーダーという縦笛にするべきだと強く勧められました」

 

「………………オリビエさん?」

 

「今日も良い天気だな。ははは……」

 

 明後日の方向を向くオリビエにやっぱり斬っておくべきなのか、リィンは悩んだ。

 

 

 

 

 依頼内容 宝物の回収

 依頼主  キリカ・ロウラン

 

 紅蓮の塔を捜索し、宝箱に収められているものを回収してくること。

 詳しくはサラまで。

 

 

 


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