(完結)閃の軌跡0   作:アルカンシェル

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42話 《鬼》と《牙》

 

「大丈夫弟君、やっぱり私だけでも残った方がいいかな?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

 そう応えるものの、リィンの顔色は悪い。

 試練を終えてボースに戻ってきたのはいいが、張り詰めていた緊張が解けたせいなのかどうにも気分が優れなかった。

 

「なんやリィン君、調子が悪いんやったらオレが見てやろうか?」

 

「いえ……大丈夫です」

 

 気遣ってくれるケビンに返事をしながら、リィンは胸の中の騒めきを感じていた。

 

 ――なんだこれは?

 

 目の前の男を斬れ。その力を供物としてより高みへ。

 そう言葉を発しているわけではないが、そう主張するように焔が騒めく。

 アリアンロードに圧倒的な敗北を味わったせいなのか、胸の中の焔は珍しく激しく蠢いていた。

 今までそんなことがなかっただけに、リィンは困惑する。

 もっともその衝動も封じられて壁があるせいなのか、激しく燃え盛っている反面、抑え切れないものではなかった。

 

「本当に大丈夫かいな? 今だったらタダで診てやってもええんやで」

 

「いえ、本当に大丈夫ですから」

 

 詰め寄ってくるケビンからリィンは思わず距離を取る。

 焔は血に飢えているわけではない。

 衝動はケビンにだけ向けられているが、それだけに不気味だった。

 

「俺のことよりも皆さんの方こそ気をつけてください……おそらくグランセルには執行者がいるはずですから」

 

「そうかもしれないけど、弟君も気を付けてね。本当に調子が悪かったらルグラン爺さんにちゃんと言って今日は休むんだよ?」

 

「ええ、分かりました」

 

 アネラスの心配に頷きながらもリィンの中ではすでにこの後に手配魔獣と戦うことはもう決定事項だった。

 デュバリィとの戦いで得たものとアリアンロードと剣を交えて得たものを消化しておきたい気持ちが焔とは別にリィンを焦らせる。

 

「…………アルティナちゃん」

 

 じっとアネラスはリィンを見つめた後に、傍らにいるアルティナに声をかけた。

 

「はい? 何でしょうか?」

 

「弟君が無茶をしそうになったら中位アーツまでなら使っていいから、ちゃんと止めてね」

 

「任務、了解しました」

 

「え……何でアルティナにお願いするんですか? 自己管理くらいちゃんとできますよ」

 

「本当かな?」

 

「説得力はありませんね」

 

 アネラスとアルティナのジト目にリィンは思わず怯む。

 

「フフフ、アルティナちゃんに怒られたくなかったらちゃんと自分を大事にすることね」

 

 そんな様子をシェラザードが微笑ましく笑う。

 

「ははは、何やよう分からんが王都で会った時よりも随分雰囲気が変わったな二人とも」

 

「そういえば、ケビン神父はリィン君と以前に会ったことがあったんですよね?」

 

「ああ、二人して同じ悪夢を見たって教会に訪ねてきたんや」

 

 アネラスが漏らした言葉にケビンは頷く。

 

「そういえばあの時のアーティファクトはどうしたんですか?」

 

「え……ああ、あれな。きっちり封印して本国に送っといたから安心してええで」

 

「そうですか……今思えば、あれも《結社》の仕業だったのかもしれないですね」

 

「そうやな。《結社》の仕込んだもんやろな、うん、きっとそうや。全部《白面》ちゅう奴が悪い」

 

 リィンの呟きにケビンは力強く頷く。

 

「えっと……」

 

 どこか焦ったような様子のケビンだが、リィンはそれを特に不信に思わず聞き流す。

 そこで飛行船が発進するアナウンスが流れる。

 

『ロレント方面行き定期飛行船《リンデ号》まもなく離陸します。御利用の方はお急ぎください』

 

「それじゃあ、グランセルでの《お茶会》が何なのか突き止めたら、すぐにロレントに行くから、絶対に無茶しちゃダメだよ」

 

 最後まで心配してくれるアネラス達と別れ、リィンはギルドに戻り、ある依頼を受けることになる。

 情報部の残党が残した情報からグランセルで行われるだろう《お茶会》。

 そして、未だに数多くの情報部残党の目撃情報。

 その一つを確かめるために、リィンとアルティナは霧降りの峡谷へ赴くことになった。

 

 

 

 

「何だこれは?」

 

 戦った魔獣の記録をつけ、霧降りの峡谷を一通り練り歩く。

 そうして見つけたのは情報部の特務兵の残骸だった。

 一見してバラバラ死体かと思ったが、散乱しているのは歯車などの機械部品。

 アネラス達もラヴァンヌ村の廃坑で同じものと遭遇したようだが、ここに来ている遊撃士はいないはず。

 いったい誰がやったのだろうかと、疑問を覚えながら、証拠としてリィンは現場の写真で記録を残す。

 

「破壊痕は爆発物と銃弾……それに鋭い斬撃……それから導力砲か?」

 

 人形の残骸からこれをやっただろう誰かの武装を想像する。

 他のはともかく、致命打と推測できる斬撃の使い手は《達人級》かもしれない。

 

「この太刀筋……」

 

 残骸に刻まれた傷にリィンは違和感を覚える。

 が、それが何なのか明確な答えの形にはならなかった。

 

「ともかくギルドに戻って報告だな」

 

「ん……」

 

 霧降りの峡谷の目撃情報もダミーだったことになるが、果たして本物の情報部の残党はどこで何をしているのか。

 そして特務兵の人形を破壊している第三勢力の存在。

 

「俺だけで考えても仕方ないか」

 

 今考えることではないと、割り切ってリィンは元来た道を戻る。

 霧降り峡谷。

 ボース地方の北東に位置する、呼び名の通り深い霧に包まれた峡谷。

 その奥にはかつて空賊がアジトにしていた古代の隠し砦が存在している。

 もっとも、そこには現在王国軍が駐留していると聞いているので、その周辺での調査はしなくていいと指示されていた。

 

「あれは……」

 

「軍用の導力車のようですね」

 

 リィン達が峡谷の出口に戻ってくると、ちょうど入れ違いで軍の導力車が街道から入ってきた。

 導力車が止まること十数秒。

 ここから先は導力車では危険なので歩いて行くつもりなのか、中から王国軍の制服をきた兵士と、エレボニア帝国の軍服をまとった精悍な顔つきの男が出てきた。

 

「ミュラーさん?」

 

「おや……もしかしてリィン・シュバルツァー君か……久しぶりだな。またオリビエが迷惑をかけたようですまなかったな」

 

「いえ、ミュラーさんが謝ることじゃないですよ」

 

 開口一番で頭を下げてくるミュラーにリィンは恐縮する。

 

「そう言ってもらえると助かる……確か君は遊撃士の仕事の手伝いをしているようだが」

 

「ええ、ここの調査を……それも終わったので今からボースに戻るところです」

 

「そうか……」

 

「そういうミュラーさんはどうしてこんなところに?」

 

 帝国大使館駐在武官の肩書を持つ彼が街から離れた峡谷に何の用なのだろうかと、リィンは尋ねる。

 

「確か君も関わった事件だと聞いているが、空賊が使っていた飛行艇の回収を本国から命じられてしまってな」

 

「空賊の……確か《カプア男爵家》でしたよね?」

 

 空賊事件の時には会ってないが、武術大会で会った三人と一人をリィンは思い出す。

 

「元、男爵家だ。借財で領地を失った事によりすでに爵位も剥奪されている」

 

「なんだか同じ男爵家としては肩身が狭くなる話ですね」

 

「ふ、君が責任を感じるようなことじゃない……しかし、ふむ……」

 

 ミュラーはリィンとアルティナを見て少し考え込むと、こんな提案をしてきた。

 

「シュバルツァー君。もし君が良ければ俺と一緒に来ないか?」

 

「え……?」

 

 突然の言葉にリィンは首を傾げる。

 

「君とは一度、落ち着いて話をしたいと思っていた……

 それにオリビエの奴が話さなかった部分の行動も気になる……

 互いに仕事中ではあるが、ここからならば飛行艇の調子を確かめる試運転の名目でボースまで送らせてもらうこともできる」

 

「えっと……」

 

 ミュラーの申し出は正直ありがたい。

 すでに夕方の時間帯。

 思いの外、調査に時間がかかってしまった。

 リィンもアルティナも一日中歩き回ったからといって、どうにかなるほど貧弱ではないがボースに着くのは夜遅くになるだろう。

 さらに言えば、リィンもミュラーとは個人的に話をしたいと思っていた。

 

「でも、いいんですか? 空賊のアジトは今王国軍の方が駐留していると聞いていますが」

 

「ああ、構わないよ」

 

 リィンの疑問にミュラーと一緒に導力車から降りてきた王国軍の兵士が答える。

 

「ギルドへの報告なら設置した通信機を使ってくれて構わない。遊撃士側での調査結果も直接聞かせてもらえるのなら我々も大歓迎だ……

 それにクーデター事件の小さな英雄の話は私も興味があるな」

 

「小さな英雄って……」

 

 尊敬の念を視線に乗せてくる兵士にリィンは苦笑いを浮かべる。

 クーデター事件についての報道ではリィンの存在はあくまでの遊撃士協会の協力者として少しだけ名前が出た程度だった。

 これは実力があったとはいえ、帝国人であるリィンが関わることの風聞の悪さを考慮しての扱いであり、リィンもそれに文句はなかった。

 しかし、王国軍の中ではあの時の《剣帝》との戦いは人づてに伝わっており、その武勇は王国軍の中で一時期話題になっていた。

 

「もちろん君の都合を優先してくれて構わない……

 このままボースに戻るなら、この導力車で送って行かせよう」

 

「そこまでしていただくのは悪いですよ」

 

「いや、君がクーデター事件の時に戦ってくれた借りを返すと思えば、これくらい大したことないさ……

 それに今の軍の方針では遊撃士とは協力することを推奨されているんだ。だから気にしなくていいし、それに車はハーケン門に戻るのだからそのついでだ」

 

「そういうことだ。俺も無理強いはしないが、この機会を逃すと今度はいつ会えるか分からないからな」

 

「そうですね……」

 

 ミュラーの言葉にリィンは頷き、改めて考え――ようとして勢いよく振り返った。

 

「どうした?」

 

 その動きにミュラーと王国軍兵士は素早く身構える。

 

「…………今、誰かの視線を感じたような気がしたんですが……」

 

 街道の脇の森は静かに風に揺られているだけでそこに何かがいる気配は特に感じない。

 

「すいません。勘違いのようです……

 それでせっかくなので同行させてもらってもいいですか?」

 

 何かの予感を感じてリィンはミュラーの提案を受け入れた。

 

 

 

 

 山猫号。

 三年前に発表されたラインフォルト社製の高速飛行艇。

 速度と機動性はリベール軍の警備飛行艇以上の性能を持つが、装甲の強度、積載性、製造コストの問題で軍用には向かない船。

 帝国ではもっぱら、貴族や資産家の道楽として使われており、この飛行艇も元々はそういった事情でカプア男爵家が所有していたものだった。

 この船も抵当に入っており、債権者が引き渡しを要求している。

 帝国政府も不戦条約の前に元帝国貴族の愚行を処理しておきたい意向により引き渡されるはずだった。

 

「こんな所でいったい何をしているんですか?」

 

 予感を感じていたリィンは侵入者の報告に周りの制止を無視して誰よりも早くそこに駆け付けた。

 そして、予感は正しく。リィンが思い浮かべた人物がそこにいた。

 怒鳴り付けたくなる激情を抑え込みリィンは尋ねる。

 が、彼は何も、一瞥すら返さない。

 そんな態度にリィンは苛立ち、続けた言葉は叫び声になっていた。

 

「何とか言ったらどうなんだ! ヨシュア・ブライトッ!」

 

 リィンの怒鳴り声に身をすくませたのは彼の背後にいた少女だった。

 見覚えがあるその姿はたしか例のカプア元男爵家の娘。

 

「知り合いなのヨシュア?」

 

 馴れ馴れしく声をかける娘にリィンは何故か苛立ちを感じた。

 

「ひっ……」

 

 それが視線に籠ったのか、娘はリィンの眼光に震え上がる。

 

「ちょっとした知り合いだよ。ここは僕が食い止める。君たちは発進準備を頼む」

 

 淡々と機械的な冷ややかな言葉。敵としてリィンを見据える瞳には冷たい光を宿していた。

 そして、何の警告もなくヨシュアはその瞳のまま踏み込んできた。

 

「っ……」

 

 驚異的な速度だったが、デュバリィで経験したものでもありリィンは余裕を持ってそれを受け止める。

 

「……どうやら、あれから随分と腕を上げたみたいだね」

 

「お陰様で、貴方の元同僚たちと戦う機会に恵まれて……ねっ!」

 

 刃を押し返し、リィンは太刀を一閃する。

 ヨシュアは危なげなく後ろに跳んでそれを躱し、リィンは着地する前に追い打ちに駆ける。

 が、彼の足が地面に着いたかと思うと、その姿が揺らいで消える。そしてリィンの背後に現れたヨシュアは背後から双剣を挟むように走らせる。

 その場に身を屈め、背後からの脅威をやり過ごしたリィンはそのまま地面に手を着いて背後に蹴り足を放つ。

 それを受けたヨシュアは後ろへ飛ばされる。

 が、立ち上がろうとしたリィンの目の前で缶が床に跳ねて、煙がそこから噴き出した。

 

「煙幕……」

 

 視界が黒い煙に覆い隠され、リィンは太刀を三度振り、煙に紛れて飛んで来た三つのナイフを弾く。

 

「孤影斬」

 

 リィンは風を巻き込むように太刀を一閃し、外へと斬撃を飛ばす。

 煙が晴れたそこにはヨシュアの姿はない。

 

「っ……」

 

 リィンが後ろに跳んだ直後、ヨシュアが頭上から急降下と言わんばかりの速度で落ちてきて彼の刃がリィンの胸を掠める。

 服を斬られ身体にも浅くない傷を受けたが、戦闘に支障はない。

 しかし、本気で殺しにきた一撃にリィンは苛立ちを余計に募らせる。

 

「何なんだよ……何がしたいんだよ、貴方はっ!」

 

 激情をぶつけるようにリィンは太刀を振り下ろし、ヨシュアは剣を交差して受け止める。

 

「自分が何をしているのか分かっているのか!?」

 

 鍔迫り合い。顔を突き合わせてリィンは叫ぶ。

 が、冷たい目をしたヨシュアはやはり何も答えない。

 

「傷付けたら許さないって言ったくせに……エステルさんは泣いていたんだぞっ!」

 

「っ……」

 

 彼女の名前を出すとヨシュアのその目は揺らいだ。

 

「何とか言ったらどうなんだ!?」

 

「君には関係ないことだ」

 

 冷淡にヨシュアは言葉を返すと、押し合っていた剣からいきなり力を抜いた。

 前のめりになった所をヨシュアは狙い澄まして蹴りを放つ。

 が、それより早く前のめりになった体勢からリィンは太刀を斬り上げる。

 

「っ……!?」

 

 咄嗟に剣を戻してヨシュアはそれを防ぐが受け止めきれず、剣は彼の手から弾き飛ばされた。

 さらにリィンは踏み込み刃を斬り返す。

 振り下ろされた一撃に、もう一方の剣も弾き飛ばし、リィンはヨシュアの喉元に切っ先を突き付けた。

 

「驚いたな……まさかここまで腕を上げているなんて」

 

 切っ先を突き付けられながらもヨシュアは動じた様子もなく、リィンの成長を賞賛する。

 

「そういう貴方も準遊撃士の頃とは比べ物にならないくらいの強さですね……ずっと手加減をしていたんですか?」

 

「別に手加減はしていない。《スイッチ》が入っていなかったくらいさ」

 

「スイッチ?」

 

「分かり易く説明すると……

 そのスイッチが入ると僕は極限まで目的を達成するための合理的な思考・行動をすることができる……ただ、それだけの違いなんだ」

 

「使える力は同じ……ただ、その力を無駄なく有効活用できるというわけですか?」

 

「そう思ってくれて構わない」

 

「…………ともかく大人しく捕まってもらいます……

 嫌だと言うなら、両手両足の骨を砕いてでもエステルさんの前に連れて行きます」

 

「悪いけど、それはできない相談だ……それに君にそれをするのは無理だ」

 

 ヨシュアは無造作に突き付けられていた太刀に手を触れると横にずらした。

 リィンはそれに抵抗できず、身体のバランスが崩れたかと思うと眩暈を感じて膝を着いた。

 

「な、何を……」

 

 体が痺れて言うことを聞かない。さらには視界が歪み立っていられない。

 

「毒を使わせてもらった」

 

 事も無げにヨシュアは言い、落ちた双剣を拾って鞘に納める。

 

「対執行者のために用意していたとっておきだったけど、まさか君に使う羽目になるとは思わなかったよ」

 

「っ……」

 

 煙幕かそれとも胸の傷か。どこで毒を盛られたかは分からないが、話しかけてきたのは毒が回るまでの時間稼ぎだったと気付き、リィンは歯噛みする。

 ヨシュアはそんなリィンの存在などすでに意識の外にして、山猫号へと言葉をかける。

 

「まだ発進できないんですか?」

 

「えっと……あと少しだってっ!」

 

 ヨシュアの声に中でやり取りをしてカプアの娘が答える。

 

「くっ……」

 

 少しでも気を抜けば意識が落ちそうになる中でリィンは必死にヨシュアを止める方法を考える。

 

「俺は……俺は……」

 

 朦朧とする意識の中で考えたものはまともではなく、リィンは普段なら決して言わないことを叫んでいた。

 

「俺はエステルさんのことが好きだっ!」

 

「え……?」

 

 それまでまともに見ようともしなかったヨシュアが虚を突かれたように振り返り、リィンを見た。

 

「この事件が終わったら告白してやる! それでも良いのか!?」

 

「こいつ……いきなり何を言ってるの?」

 

 カプアの娘が喚き散らすリィンに困惑するが、リィンはヨシュアだけを睨む。

 

 ――何て顔をしているんだ……そんな顔ができるのならどうして帰らない?

 

「俺は――ゴホゴホ……」

 

 さらに言葉を続けようとしたが、うまく呼吸ができずに咳き込む。

 どうやら相当強い毒を使われたようだ。

 

「もう……いい」

 

 ヨシュアは改めて振り返り、双剣を抜いた。

 戸惑いの顔を冷酷なそれに戻し、ヨシュアはリィンに尋ねる。

 

「言い残すことはあるかい?」

 

「……………………この大馬鹿野郎」

 

 目に精一杯の力を込めてリィンはヨシュアを睨み付ける。

 ヨシュアはそれに言葉を返さず踏み込み、刃を返した剣を一閃しリィンの意識を刈り取る――はずだった。

 

「やれやれ……騒がしいので来てみれば」

 

 ヨシュアの一撃を剣で受け止めたミュラーはヨシュアと飛行艇に群がる空賊を順に見て肩を竦める。

 

「《カプア空賊団》……このタイミングで現れたか。しかも君が同行しているとはな」

 

 剣を弾き、横薙ぎのミュラーの一閃をヨシュアはその場で屈んでやり過ごしてから距離を取る。

 

「帝国軍人!? どうしてここに!?」

 

 ミュラーの登場にカプアの娘は驚く。

 

「帝国軍第七機甲師団所属、ミュラー・ヴァンダール少佐だ……

 元帝国貴族がやらかした尻ぬぐいをさせられている最中にまさか本人たちがのこのこ現れるとは思ってもみなかったぞ」

 

 ミュラーに睨まれて空賊たちが竦み上がる。

 しかし、ヨシュアは動じた素振りもなく言葉を返す。

 

「《達人級》……それから《ヴァンダール》の姓……オリビエさんの正体、だいたい見当がつきましたよ」

 

 ――オリビエさんの正体……?

 

 ヨシュアが漏らした言葉にリィンは遅れてやってきたアルティナの解毒のアーツを受けながら首を傾げる。

 

「それを言うなら君の正体もなかなか驚きだ。《ハーメル》の遺児、ヨシュア・アストレイ君」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ヨシュアの気配が激変した。

 その反応に改めて確信を得たようにミュラーは続ける。

 

「やはりか……どうやらお調子者の勘もたまには当たるらしい」

 

「聞かせてもらいましょうか……」

 

 それまで冷淡で無関心とも取れたヨシュアの気配に殺意が混じる。

 

「どうしてあなたたちがそれを知っているのかを……」

 

「どうやら本気にさせてしまったようだな……」

 

 ヨシュアが双剣を、ミュラーは大剣をそれぞれ構え睨み合う。

 しかし、一触即発の空気は重く響き渡ったエンジン音に遮られた。

 見れば停泊していた空賊艇にライトが灯り、中からカプアの次男が顔を出して叫ぶ。

 

「準備完了だ! 飛び乗れ!」

 

「ヨシュアッ!」

 

 空賊艇の翼の上にいたカプアの娘がヨシュアに向かって手を伸ばす。

 

「くっ……」

 

 ヨシュアは歯噛みしながら懐から缶を取り出し、先端のピンを抜いてミュラーに向かって投げる。

 

「む……」

 

 缶は破裂すると同時に閃光を生み出す。

 作り出した隙を使ってヨシュアは動き出した空賊艇の翼に飛び乗り、そのまま空賊艇は前方に加速を始めた。

 遅れてやってきた王国軍の兵士たちによる銃撃を受けながらも空賊艇は発着場から夜の渓谷へと飛び出して脱出した。

 

「はわわ~! シャッターチャンスです~!」

 

「くそっ!」

 

「隊長殿はどうした!?」

 

「ハーケン門に連絡を取れ!」

 

 騒然とする兵士たちを尻目にミュラーは剣を鞘に納めるとリィンに歩み寄る。

 

「大丈夫か? リィン君」

 

「すいません。ミュラーさん……」

 

 勇んで突っ込んだものの返り討ちにされたことをリィンは恥じる。

 

「恥じる必要はない。俺もあのまま戦っていればどうなっていたか分からん……それよりも体は大丈夫なのか?」

 

「分かりません。アルティナに解毒のアーツをかけてもらいましたが、あまり効果がなくて特殊な毒かもしれません」

 

 命にかかわるものなのか、流石にヨシュアがそこまでするとは思いたくないが、先程の彼の姿を思い出すと一抹の不安が残る。

 

「すいません。少し下がっていてもらえますか? アルティナも」

 

 二人を促してからリィンは鈍い動きで戦術オーブメントに触れ、アーツを発動させてみる。

 先程は戦闘中でヨシュアに隙がなかったからできなかったが、今なら何の問題もなくそれが使える。

 

「神気合一」

 

 それを発動させ、数十秒の効果時間を経て元に戻る。

 

「……うまくいったみたいだな」

 

 巡っていた毒素を焔で除去し、身体の自由を取り戻したリィンは何事もなかったかのように立ち上がる。

 

「それがあのお調子者が言っていた《超帝国人》の力か。話半分に思っていたがあいつの言っていた通りの力のようだな」

 

「うぐ……ミュラーさん。その呼び方はやめてください」

 

 結社の人間だけだと思っていた呼び名を不意打ちで食らってリィンは思わず呻く。

 伝えたお調子者は今度殴ると決意しながらリィンは項垂れる。

 

「それよりミュラーさん、さっきハーメルと言っていましたけど」

 

 その名前にはリィンも聞き覚えがあった。

 クーデター事件の時、《剣帝》が漏らした地名。十年前に山崩れで壊滅した国境付近にあった帝国の村。

 それがどうして今、出てくるのかとリィンは首を傾げる。

 

「ああ、どうやらあいつの手伝いをするしかなさそうだ」

 

 ミュラーは顔をしかめて、そしてリィンに告げた。

 

「リィン君、すまないが明日、俺に付き合ってもらえるか?」

 

「一度、ギルドに戻ってからで良ければ……でもいったい何をするつもりですか?」

 

「これからそのハーメル村に行こうと思う」

 

 いぶかしむリィンにミュラーはそう告げた。

 ちなみに余談になるが、この後冷静になったリィンは自分が口走ったことを思い出して、頭を抱えることとなる。

 





 舞台裏の一幕

気絶したリィンを回収する際のアネラスとデュバリィたちの会話。

アネラス
「そっか、デュバリィちゃんは弟君と特別な関係になったんだね?」

デュバリィ
「と、特別な関係って……いったい何を言ってやがりますの!?」

アネラス
「でも、歳も近いし、武術の腕も互角だったみたいだし、敵同士かもしれないけどこれってライバルって関係じゃないかな?」

デュバリィ
「……特別な関係って、そういう意味ですか……
 ふん、今回遅れを取ったのはハンデのせいです。ましてやマスターの一撃に無様に気を失った子供と張り合うつもりはありませんわ……
 わたくしは大人ですから」

アリアンロード
「そうですか、では後で貴女も私の聖技を受けてみますか?」

デュバリィ
「…………え?」

アリアンロード
「思えば貴女にはまだこの技で応えたことはありませんでしたね……
 ちょうどいい機会です。戻ったらさっそく手合わせをしましょう」

デュバリィ
「……………………え?」






 鬼の力
「…………もっと力を……そのためには…………ネギ……」

 外法狩り
「ぞくり……あれ? なんか墓穴掘った?」


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