(完結)閃の軌跡0   作:アルカンシェル

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74話 罪の在り処

「ケビンさん……お話があります」

 

 封印石から解放されたヨシュアは幼くなったリィンに驚きながらも挨拶もそこそこにしてケビンと二人きりで話せるようにその場を離れた。

 

「単刀直入に聞きます。リベル=アークでリィン君を置き去りにするように仕向けたのは貴方ですね?」

 

「いきなり何ゆうとるんやヨシュア君? そもそもオレがなんでそんなことを――」

 

「《外法狩り》…… それが貴方の《守護騎士》としての渾名……

 赦されざる大罪人の処刑を一手に引き受けている代行者」

 

「はは、さすがやな……

 エステルちゃんに近寄る男の経歴くらいは徹底的に調べてるか」

 

「ええ……しかし、あなたは罪人以外、決して危害を加えた事がない。その意味で当面危険はないと判断していました。ですが……」

 

「それはヨシュア君の勘違いや……

 オレのあの時の任務はゲオルグ・ワイスマンを消すこと、その過程で君やエステルちゃんが死のうとも構わなかったんや」

 

「それは分かっています……だけど、あなたは率先して僕やエステルを囮に使いはしなかった、ですよね?」

 

「それは……」

 

「だからこそ分からないんです。あそこでリィン君……それにレーヴェを殺さなければいけない理由は何だったんですか?

 教授を消すという任務を果たしたなら、リィン君達に手を出す理由はなかったはず。それなのにどうして?」

 

 冷静な口調で問い詰めてくるが、その目には抑え切れない怒りが宿っていた。

 それは当然だろう。とケビンは自嘲し、やっと断罪者が現れてくれたことに安堵する。

 

「オレの任務は確かに最悪の破戒僧ゲオルグ・ワイスマンの抹殺やったが、その副産物みたいな仕事がもう一つあってな……

 それはゲオルグ・ワイスマンが残した遺産の始末や」

 

「遺産の始末ですか?」

 

「リベル=アークで俺が奴を滅したことも含めて、教会は四回ほどゲオルグ・ワイスマンを滅している……

 これはな、比喩なんかじゃなくて本当にゲオルグ・ワイスマンを名乗る人間が過去に三人おったんや」

 

 顔も体型、性別さえもそれぞれ違ったが、その言動や思想は間違いなくゲオルグ・ワイスマンそのものだった。

 

「教会は《洗脳聖痕》と呼んどる……

 効果は他人に自分の人格を埋め込み、その人の性格・思想などのあらゆるものを塗り潰して対象者をもう一人のワイスマンに仕立てる最悪の《聖痕》……

 ヨシュア君に刻まれた《絶対暗示》なんかよりも遥かにタチの悪い代物や」

 

「それじゃあ……リィン君を置き去りにしたのは……」

 

「教会はリィン君や《剣帝》を始末したかったんじゃない……

 何が仕込まれているか分からないゲオルグ・ワイスマンの遺産を完全に抹消し、後顧の憂いを完全に断つことが一番の目的やった……

 そういう意味では今でもヨシュア君を始末しておくべきだって、主張しておる奴もまだおったりするけどな」

 

「それじゃあ……まさか……」

 

「君が責任を感じることじゃない……オレが勝手に決めて選んだだけなんやから」

 

 察しの良いヨシュアはこれだけのやり取りで気付いたようだった。

 リィンとレーヴェを生かしておくことは、聖痕から解放されたはずのヨシュアにまで追及される原因になることを。

 そしてワイスマンの脅威をその身で知っているからこそ、ヨシュアは教会の行き過ぎた過激な行動を理解できてしまう。

 

「っ……」

 

 ケビンにぶつけようと思っていた怒りの矛先をヨシュアは見失う。

 結局のところ、ケビンは確実に守ることができるヨシュアを優先し、不確かな他の二人を切り捨てた。

 その事実にヨシュアは愕然となる。

 

「また……僕は……僕だけがみんなを犠牲にして……」

 

「だからヨシュア君が責任を感じる必要はない言っとるやろ。悪いのは直接手を下したオレなんやから」

 

「でもっ!」

 

「楽な仕事だったなぁ……二人ともボロボロで……

 まともにやり合ったら、苦労したはずやろうけど、赤子の手を捻るよりも簡単に――んがっ!」

 

「……貴方は……最低だっ!」

 

 口元に悪い笑みを浮かべてその時の事を語るケビンにヨシュアは固めていた拳を振り抜いていた。

 肩を怒らせてヨシュアは踵を返し、その場から立ち去る。

 石造りの通路にケビンは大の字に寝そべりながらヨシュアの叫びに遅れて答えた。

 

「そんなんずっと前から分かっとるって……」

 

 心地の良い頬の罰の痛みにケビンは自嘲を浮かべた。

 

 

 

 

 

 異界化した王都から王宮へと探索範囲を広げたケビン達は封鎖区画の最奥でそれと対面した。

 

「ようやくお出ましか。あんたが影の皇子が言っていた《王》ってヤツやな?」

 

 時代がかかった衣装をまとい、アルカイックな仮面を身に付けた怪しい人物。

 その風貌はいかにも《影の皇子》や《黒騎士》と似ていて一目で仲間だと分かる。

 

「フフ、そうだな……

 この《影の国》を統べているという意味ではまさにその通りだろうな……

 私のことは《影の王》とでも呼ぶが良い……

 しかし……《影の皇子》か……彼もなかなか凝った名乗りをしたものだ」

 

「その口振り……まるで別の呼び方があるみたいやな?」

 

「はは、それは君が一番良く知っているのではないかな?

 それとも気付かないふりをしているのかな?」

 

「生憎だが、オレはあんな奴と会ったこともない。変な言い掛かりはやめてもらおうか」

 

「……おっと失礼……そういうことにしておくとしよう」

 

 人を喰った口調にケビンは顔をしかめる。

 

「それにしても……影の王……」

 

「その名の由来は聖典に存在していないはず。そうだろう? リース・アルジェント」

 

「私のことまで……」

 

「フン、よっぽど念入りに探りを入れたみたいやな」

 

 意味深なことばかりを言う《影の王》にケビンは苛立ちを吐き捨てる。

 そしてそれは同行していたユリアも同じだった。

 ユリアは剣を《影の王》に突き付けて叫ぶ。

 

「《影の王》と言ったな……

 もし貴様が、この状況を引き起こした黒幕ならば……

 即刻、王都を元に戻してもらおう! さもなくばこの場で斬る!」

 

「フフ、そなたの要求はあまりに空しく意味がない……

 敬愛の心も度が過ぎれば真実を捉える妨げとなろう。分かるかねユリア・シュバルツ」

 

「な、なに……!?」

 

「やはりそういうことか……

 オレらがさっきまでいたグランセルは全部偽物……

 いや、《影の国》の中に再現されたパチモンやな?」

 

「なるほど、確かにそれなら王都の異常も説明できる……

 要するに、貴様の悪趣味な舞台に付き合わされていたということか」

 

「フフ、その通りだ……

 役者と観客の気分を一度に味わえる醍醐味。得難い体験だっただろう。ミュラー・ヴァンダール」

 

「フン……下らんな」

 

 含みを持たせた言葉をミュラーは一蹴する。

 そしてユリアは《影の王》の言葉に一先ずの安堵を得る。しかし――

 

「そうか……陛下と殿下は今も無事で……」

 

「おやおや……何を安心している?

 そなたの案ずる者たちが無事だと誰が言ったかな?」

 

 そう言うと《影の王》は右手を前に差し伸べると、その上に封印石が現れる。

 

「まさか……その石の中には!?」

 

 彼の言動とグランセルという場所から連想してユリアは狼狽した言葉をもらす。

 

「フフ……この《第二星層》における最後の宝物といったところか……

 そして無論、宝物には試練が付き物だ」

 

 《影の王》が左手を掲げるとケビン達の横に巨大な魔法陣が描かれ、巨大な悪魔が現れる。

 

「聖典に記された七十七の悪魔の一匹……

 煉獄を守る門番の一柱にして数多の魔を従える軍の団長、《暴虐》のロストルム!」

 

 その外見的な特徴からリースは叫ぶ。

 

「何考えてんねん! こんなもん実体化させたら貴様もタダではすまへんぞ!」

 

「フフ、それを何とかするのがそなたらに与えられた役回りだ……

 さあ、せいぜい――おや?」

 

 《影の王》は不自然に言葉を止めて上を見上げた。

 

「何や?」

 

 罠を警戒しつつもケビンもその視線を追い駆ける。

 そこにはあの《影の皇子》が重力に任せて落ちて来た。

 

「んな!?」

 

 驚く一同を他所に《影の皇子》は細身の剣をその手に落ちる勢いを乗せて剣を一閃。

 頭上から真っ二つに斬られた悪魔は断末魔の叫びを上げて消滅していく。

 

「おやおや、これはどういったことかな?

 私の催しの邪魔をするのは契約違反ではないかな?」

 

「フフ……せっかくの機会なのだから、悪魔などよりも俺が相手をしてやろうと思ってな」

 

 《影の王》に対して悪びれた様子もなく《影の皇子》は応える。

 

「俺もこの体のならしをしたいと思っていたところでな。それに何も貴方の仕込みを無駄にするつもりもないさ」

 

 《影の皇子》は傷痕のある右腕を掲げると、光となって消滅していく悪魔の粒子がその腕に集まっていく。

 

「これは……」

 

「まさか《悪魔》を喰っとるのか!? 正気かっ!?」

 

 信じられない光景にリースとケビンは目を剥く。

 悪魔をその身に宿す外法は存在している。

 しかしそんなことをすれば取り込んだ悪魔に逆に取り込まれ人として壊れてしまう。

 

「さあ、始めるとしようか」

 

 しかし、当たり前のようにその力だけを飲み込み、自分の中で悪魔を調伏した《影の皇子》は剣を構える。

 

「っ……何て奴や……」

 

「だが、相手にとって不足ない」

 

 悪魔などよりもずっと戦い易いとミュラーは大剣を構える。

 

「相手が誰であろうと、私は負けるわけにはいかん」

 

 ユリアもまた気合いを入れ直して《影の皇子》と対峙する。

 

 

 ………………

 …………

 ……

 

 

「おおおおおっ!」

 

 ミュラーの剛剣が《影の皇子》を大きく弾き、すかさずユリアが斬り込み、さらにリースの攻撃が重なる。

 

「行け! インフィニティスパロー!」

 

 法剣の刃が分裂して飛び交い《影の皇子》に殺到する。

 

「これでもくらえや!」

 

 そして態勢を崩した一瞬の隙をついてケビンが邪気を纏わせた矢を放つ。

 

「くっ……」

 

 矢は《影の皇子》の肩を捉えて彼に膝を着かせる。

 

「ここまでのようやな」

 

 悪魔を宿した《影の皇子》の力は絶大だったが、それでも四人で協力して何とか決定的なダメージを与えることができた。

 剣を振るう右腕を貫いた矢には特殊な戦技を込めている。

 少なくてもこの戦闘ではもう動かせないだろう。

 

「フフ……思っていたよりもやるようだな。良いだろうならば俺の本当の《力》を見せてやろう」

 

「は……強がりを――っ!?」

 

 余裕の態度を崩さない《影の皇子》の雰囲気が変わる。

 黒かった髪が白く染まり、ゴーグルの奥に赤い光が灯る。

 

「っ……あかんっ!」

 

 それが何なのか分からないが、ケビンは危険を察して叫ぶ。

 次の瞬間、黒い焔を纏った斬撃にケビン達は薙ぎ払われた。

 

「がっ!?」

 

 状況は一瞬で覆り、ケビン達の方が倒れた。

 

「……ここまでのようだな」

 

 《影の皇子》が剣を鞘に納めると、その場を《影の王》に譲った。

 

「フフ……なかなかの見世物だった。結果は残念だったが敢闘賞と言ったところか……受け取るがいい」

 

 封印石は転移してユリアの前に現れる。

 

「……よかった……これで……」

 

 屈辱を噛み締めながらユリアは石を大切そうに握り締める。

 

「くそ……あんたの目的はなんや!? オレたちに何を望んでいる!?」

 

「はは、ケビン・グラハム……

 これ以上私を失望させないで欲しいものだ。我が名は影――なればその真実もまたそなたらの中にのみ存在する……

 解るかな、この意味が……?」

 

「…………フン、戯言を。思わせぶりな事言って茶を濁そうなんてしても無駄やで」

 

「そう、我が言の葉はすべて戯れで出来ている……

 そなたがそう思うのならば私はそういうものなのだろう。いっそ《影の王》改め《戯言王》と名乗るとしようか?」

 

「ざけんなっ!」

 

 ケビンは激昂してボウガンを構えて連射する。

 《影の王》は微動だにせず、しかし全ての矢は《影の皇子》によって切り払われた。

 

「フフ……この《第二星層》におけるそなたらの役目は終わりだ……

 いざ、白き翼を手に入れさらなる深淵へと挑むがいい。はは……次なる邂逅を楽しみにしているぞ」

 

 二人を包む転移陣が現れたかと思うと、止める間もなく《影の王》と《影の皇子》はその場から消え去った。

 

 

 

 

「ああ……」

 

 解放されたクローゼはその姿を見て思わず涙をこぼした。

 直前まで自室にいたはずなのだが、光に飲み込まれたと思った瞬間には全く見覚えのない幻想的な空間にいた。

 そこにはあり得ない人達がいた。

 ケビンを始めとし、浮遊都市で共に戦った仲間たち。

 全員が集合しているわけではないが、クローゼは思わずあの少年の姿を探してしまい、その面影を持つ男の子に言葉を失った。

 

「殿下、彼についてはまだ我々も全てが分かっているわけではありません……」

 

「そう……ですか……」

 

 縋りつき、謝りたい気持ちをクローゼはぐっと堪える。

 何があったのか分からないが、ティータの陰に隠れて警戒している幼いリィンの姿にクローゼは今まで感じていた胸のつっかえが晴れるような気分になる。

 

「初めましてリィン君」

 

 彼が覚えていないことに少し残念な気持ちになりながらクローゼは名乗る。

 

「私はクローディア・フォン・アウスレーゼといいます」

 

「……はじめまして、りぃん・しゅばるつぁーです……くろーであ……くろーだ……」

 

「ふふ、クローゼって呼んでくれていいですよ」

 

 言いにくそうに繰り返す幼いリィンにクローゼは笑みを浮かべて、その頭を優しく撫でた。

 

 

 

 




いつかのパンタグリュエルIF

クローゼ
「ふふ……久しぶりですねリィン君。すっかり背は追い越されてしまいましたね」

リィン
「クローゼさん、頭を撫でないでください。俺はもうそんなことをされる歳じゃないんですけど」

ユウナ
「他国の王太女様まで顔見知りって……もう本当になんなのこの人?」

クルト
「いや、それも驚きだがごく自然に頭を撫でられていたが……」

アッシュ
「はっ……まさか帝国の至宝に飽き足らず、リベールの至宝にまで手を出していたとはな。恐れ入るぜ」

ミュゼ
「これがリベール次期女王ですか……これは流石に読めませんでした」

アルティナ
「やはりリィン教官は不埒ですね」


追記
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