(完結)閃の軌跡0   作:アルカンシェル

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 他の人の呼び方を考えるとリシャール大佐はアランと書くべきなのだろうけど、それで通じるのかと常々思っています。




81話 第六の記憶

 隠者の庭園の一角で黒い軍服の男、リシャールとリィンが激しく剣を交えていた。

 

「連の型《疾風・業炎》」

 

 二の型の速さと参の型の焔を合わせた猛攻にリシャールは《伍の型》の構えを解いて防戦に徹する。

 紙一重の見切りから後の先を取る受けの技も撒き散らされる焔に《待ち》ではいられない程の勢いがあった。

 

「これ程とは……」

 

 リシャールは一年前に剣を交えた彼との仕合を思い出しながら、もはや進化と言っても過言ではないリィンの進歩に感心すると共に無念を感じてしまう。

 が、そんな感想を胸に納めてリシャールは《受け》から《攻め》に戦い方を切り替える。

 

「ふっ!」

 

 振り下ろされる太刀を狙い澄まして神速の抜き打ちで弾く。

 その程度は予想済みだったのか、リィンは弾かれた剣の反動を利用するように回転の力に変える。

 

「螺旋撃っ!」

 

 流れるような型の繋ぎに目を見張りつつも、すでに納刀した太刀の抜き打ちで力の斬撃を逸らす。

 しかし、そこでもリィンは止まらない。

 受け流された剣の刃を返して、すかさず斬り返す。

 対するリシャールも次の太刀の準備は整っていた。

 

「無想覇斬っ!」

 

「光連斬っ!」

 

 一息で何度も剣を交え、二人とも後ろに飛び退く。

 

「光輪斬っ!」

 

 後ろに跳ぶと同時にリシャールは闘気の光輪を放つ。

 それをリィンは着地すると共に断ち切り、その闘気を剣に取り込み、鞘に用意しておいた自分の闘気と混ぜ合わせる。

 

「むっ……」

 

 見たことのない技にリシャールは期待と警戒を半々にしながら、いつでも最高の技が放てるように身構える。

 

「鏡火水月の――」

 

 リシャールの闘気とリィンの闘気を混ぜ合わせた《焔》を解き放とうとした瞬間、破壊音が鳴り響いた。

 

「……え?」

 

 手応えがおかしくなった手を見下ろすと、闘気の圧力に耐えられなかったのかリィンの太刀は鞘ごと音を立てて砕け散った。

 

「…………ここまでのようだな」

 

 リシャールは構えを解いて、仕合の終わりを宣言する。

 

「はぁ……今回は勝てると思ったのに」

 

 ため息を吐いて、年相応に肩を落とすリィンにリシャールは苦笑する。

 

「恥じることはない。一年前と比べて今の君は全てにおいて遥かに凌駕している……

 最後の技も武器が壊れていなければ、どうなっていたことか……」

 

 偽らざる本音でリシャールはリィンの成長を褒める。

 一年前に感じていた《畏れ》や《迷い》はなく、《八葉の型》の理をより深く理解しての戦いぶりに感服する。

 そして剣を交えた時にも思ったが、この剣が失われてしまったことを残念に思う。

 

「やはり私もまだまだ未熟のようだ」

 

「そんなリシャール大佐の剣も、ますます磨きが掛かっていましたよ」

 

「ふふ、軍務に追われていた時間を剣の鍛錬に費やせるようになったおかげだな……しかし私はもう大佐じゃないんだよ」

 

「それは分かっていますが、その格好だとつい……」

 

 困った顔をするリシャールにリィンも同じような顔をする。

 アラン・リシャール。

 元・王国軍情報部の大佐にして、クーデター事件を企てた逆賊。

 しかし、今では民間の調査会社を経営しており、それこそ大佐などと呼ばれる身分ではなくなっていた。

 彼が《影の国》に取り込まれた時の姿も違っていたのだが、何故か封印石から解放されたリシャールは軍服を纏っておりリィンだけでなくエステル達もそれにつられて大佐と思わず呼んでしまっていた。

 

「しかし……」

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、何でもない」

 

 ふと頭に過った可能性をリシャールは否定する。

 一年前よりも進歩したリィンの剣。結社の動きが本格化する前に手合わせし、彼の戦いを見たのも王都襲撃の場面しかない。

 あの時も劇的な成長をしていると感じたが、今のリィンはさらにその先を行っているようにも感じた。

 しかし、崩壊するリベル=アークに取り残され、先日彼が使っていた太刀もヴァレリア湖から引き揚げられた。

 彼の生存が絶望的な根拠は揃っているはずなのに、剣を通じてリィンが生きている可能性を感じた。

 その根拠のない思い付きをリシャールは言葉にしなかった。

 

 

 

 

「それじゃあ、俺が肩を叩くか異常を感じるまで絶対に目を開けないで下さいよ」

 

「うん。それでいいよ」

 

「はい。私もそれで構いません」

 

 リィンの念押しにアネラスとクローゼは頷く。

 そして今回記憶の扉を見るのとは別に《影の国》を見たいと言ってついて来たリシャールは別の方法を提案する。

 

「そこまでしなくても、私はここで待っていても構わないんだが?」

 

「いえ、どれくらいの時間が掛かるのか分かりませんから。それならみんなで入った方が安全でしょう」

 

 偽りのサントクロワの森の一角。

 霧が立ち込めた場所にあった扉の視界はお世辞にも良いとは言えない。

 そんな場所で一人で待たせる危険を考えれば、多少の恥も飲み込むしかない。

 それなら初めから一人で来れば良かったのだが、アネラスとクローゼの過保護にそれを許してもらえず、そしてただの好奇心によるものではない別の考えがあるようだった。

 それが何なのかは教えてもらえなかったが、結局二人に押し切られて新たな扉に来てしまった。

 

「それじゃあ……行きます」

 

 覚悟を決めてリィンは扉に入り、アネラス達、そして当たり前のようについてきたオライオンが続いた。

 扉を潜るが、景色の変化は一見すればないように見えた。

 しかし、その時の出来事を思い出したリィンは見せても良い記憶に安堵した。

 

「皆さん、大丈夫です」

 

 ちゃんと目と耳を塞いでくれている三人の肩を叩いてそれをやめさせる。

 最初からそれをしていないオライオンにため息を吐きながら、リィンは霧の中に目を凝らす。

 

「ここは……もしかして霧降りの谷?」

 

 地元のアネラスはすぐにその場所を言い当てる。

 

「それは確か空賊事件の時の砦があった場所ですよね?」

 

「はい。でも、今回のは砦ではなく――」

 

『剣を取りなさい。リィン君』

 

「え……?」

 

 唐突に聞こえてきた自分の声にアネラスは間の抜けた声をもらした。

 声の先には厳しい面持ちのアネラスと髪を白く、目を金に染めたリィンが対峙していた。

 

「もしかして、あの時の……」

 

 続く記憶の中のアネラスの言葉に、第三者からの視点で見ることになったアネラスは恥ずかしそうに俯く。

 

「あの……これはいったいどういう状況なんですか?」

 

「時期的にはエステルさん達が準遊撃士の時にツァイスにいた時ですね……

 その時ボースではちょっとした事件があったんです」

 

 思い出した記憶をなぞる様にリィンは説明する。

 ハーケン門に《怪盗B》が現れ、保管してあった火薬式の銃火器が盗まれたことが始まりだった。

 何故か軍は動けず、遊撃士が中心となってボース地方全域に隠された銃火器を探すことになったのだが、それはリィンを孤立させるための罠だった。

 《怪盗B》は《西風の旅団》を雇い、ボース市を襲わせようとした。

 それを食い止めるために単身で猟兵団に挑み、《鬼の力》を後戻りできないほどに引き出した。

 

「すまない。軍が動かなかったのは私のせいだ」

 

「いえ、例え軍が動けたとしてもおそらく結果は変わらなかったと思います」

 

 リシャールは当時、ハーケン門の責任者であるモルガン将軍の孫を人質にし、彼を中心にした軍内部の人間が外部と接触しないように厳しい監視態勢を敷いていた。

 もっとも《怪盗B》の目的がリィンだった以上、仮に軍が正常に動けたとしてもリィンと《西風の旅団》の衝突は避けられなかっただろう。

 

「それよりもリィン君。《鬼の力》を後戻りできないくらいに引き出したって、大丈夫だったんですか?」

 

「はい。それはアネラスさんのおかげで」

 

『諦めたくなくても、もうどうしようもないんだ……』

 

 過去のリィンが弱音を漏らす。

 傍から見ても危険な状態だと分かる。我ながら良くここから持ち直せたものだと感心する。

 

『どうしようもなくなんてない』

 

 アネラスはそんなリィンを前に少しも怯まずに応える。

 その姿にエステルとは別種の眩しさを感じてリィンは目を細める。

 

『お姉ちゃんに任せなさい』

 

「うわ……」

 

 自信満々な過去のアネラスに対して、現在のアネラスは恥ずかしそうに顔を伏せてその場にしゃがみ込む。

 忘我の鬼と化したリィンとアネラスが激突する。

 過去のアネラスは《鬼》の攻撃に瞬く間にボロボロにされるが、その眼光は少しも曇らない。

 時間にすれば、わずか数分の短い戦いだった。

 彼女のトレードマークのリボンが引き裂かれたことも構わず、アネラスは《鬼》の喉元に自分の勝ちだと言わんばかりに刃を突き付けた。

 

『わ……私は……お祖父ちゃんや……カシウスさん……みたいに……

 私はお祖父ちゃんやカシウスさんみたいに『理』に至ってないから、大したことは言えない……

 でも未熟者の私にもできることはないかって、ずっと考えて一つだけ見つけた』

 

 息も絶え絶えに、全力を振り絞って届かせてくれたアネラスの言葉をリィンは改めて心に刻み込む。

 

『リィン君、私は勝ったよ』

 

「あわわわ……」

 

 満面の笑みを浮かべる過去のアネラスに現在のアネラスはやはり身悶える。

 

『人は鬼の力なんかに負けない……私は勝ったよ……だから、リィン君も負けないで』

 

「えっと……これはその……」

 

 別に恥ずかしい場面ではないのだが、冷静な状況で振り返ると大それたことを言う自分に恥ずかしくなってくる。

 

「すごいですアネラスさん!」

 

「ああ、剣に込めた《想い》といい……《理》に囚われない金言……はは、つくづく自分の未熟さを思い知らされるな」

 

「クローゼさんもリシャール大佐もやめてくださいっ!」

 

 二人の絶賛の言葉と尊敬の眼差しにアネラスは謙遜する。

 

「リィン・シュバルツァー」

 

 とそこで、オライオンがリィンを呼んだ。

 

「ん? どうした?」

 

「この二人は同一人物なんですか?」

 

「オライオンちゃんっ!?」

 

 過去と現在のアネラスを見比べて不思議そうにオライオンは首を傾げる。

 が、次の瞬間に過去のアネラスは胸を張ったまま、後ろへと傾いた。

 

『あ……もうダメ……きゅう~』

 

 目を回して気絶したアネラスをオライオンは一瞥して頷いた。

 

「どうやら同一人物で間違いないようです」

 

「どこで判断したの!?」

 

「それは……」

 

「違うからね、私はそんな格好悪い方が基本なんかじゃないんだからねっ!」

 

 口ごもるオライオンの肩をアネラスは掴んで弁明する。

 その光景にリィンは苦笑しながら、周囲の景色が白く染まっていくのを確認した。

 記憶の再生が終わる兆候。

 その中でリィンは過去の自分と同じ言葉を小さく呟いた――

 

 

 




 いつかのミシュラムIF もしもアネラスがいたら

ヴィクター
「ほう……君がリィン君の姉弟子のアネラス・エルフィード殿か」

ラウラ
「学生時代でもリィンが自分よりも強いと誇らしげに語っていましたね」

エマ
「それに《鬼の力》を暴走させてしまったリィンさんをお一人で、それも力尽くで鎮めたんでしたよね?」

フィー
「その時のリィンは《初伝》であの強さだったけど、リィンより強い《中伝》……」

オーレリア
「それは興味深い……是非とも、一つ手合わせしてみたいものだな」

アネラス
「……………………え?」


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