(完結)閃の軌跡0   作:アルカンシェル

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85話 リィンの試練 後編

 

「どうやら結社最強の部隊ってのは伊達やないようやな」

 

「ふふ……そちらも流石は七耀教会の守護騎士ですね」

 

 ボウガンを構えるケビンと弓を構えるエンネアは互いの隙を狙う様に牽制し合う。

 

「なるほどこれが音に聞く《八葉》の使い手か……相手にとって不足ないっ!」

 

「わたしだって、あれからずっと努力して来たんだから」

 

 激しい攻防を繰り広げた、アネラスとアイネスは互いを一息つくように睨み合う。

 

「ふん……どうやらあの時よりも腕を上げたようですわね」

 

「はい、当然です」

 

 デュバリィの評価にリィンは自信を持って頷く。

 折を見てリースがアーツを放つが、三人は決してそちらの注意を怠らずに危なげなく回避する。

 一進一退の攻防。

 どちらも探る様な攻めと守りで戦況は硬直状態となっていた。

 

「埒があきませんわね。アイネス、エンネア、星洸陣を使いますわよ」

 

「何を言っているデュバリィ?」

 

「そうよ。マスターの許可がなければ使ってはいけないと厳命されていたはず。いくら雪辱を晴らしたいと言っても――」

 

「マスターへの釈明も責任も全てわたくしが負いますわ……

 私情があるのは認めますが、リィン・シュバルツァーだけではなく他の者たちも十分な使い手たち、このままではわたくしたちが負けるでしょうね」

 

「それは少し買い被り過ぎではないかしら?」

 

「同感だな……

 他の者も確かに実力者だというのは分かる……

 そしてリィン・シュバルツァーの腕前はかなりの腕なのは認めるが、おおよその底は見えた……

 マスターが負けを認めになられたのも、彼の将来性を見越してのものだろう……だからあまりムキになるな」

 

「…………貴女達の意見を聞いているつもりはありませんわ……

 やるのかやらないのか、聞いているのはそれだけですわ」

 

 まるで聞く耳を持たない様子のデュバリィにアイネスとエンネアは肩を竦め、構えを変える。

 

「何や……?」

 

 雰囲気の変わった三人にケビンは訝しむ。

 

「フフ……《星洸陣》を披露するのも久しぶりかしら」

 

「我ら《鉄機隊》が結社最強とも謳われる所以……」

 

「その身で存分に味わうといいですわ……《星洸陣》っ!」

 

 デュバリィの号令によって三人は同種の闘気に包まれる。

 

「これは……」

 

「霊的なリンクを繋げた?」

 

「な、何かすごそう……」

 

「脅威レベル上方修正します」

 

「――来るっ!」

 

 三人が一斉に動く。

 先程よりも速度を上げる。

 跳び上がったエンネアが矢の雨を降らせ、すかさずアイネスが大地を砕く一撃を叩き込み、そこに三人のデュバリィが斬り込む。

 

「ぐっ……」

 

「うおっ!?」

 

 そこで三人は止まらずに一気に畳みかけてくる。

 目配せも、掛け声もなく寸分違わない完璧な連携を駆使する鉄機隊の猛攻にリィン達は瞬く間に追い込まれていく。

 

「ケビンさんっ!」

 

「何やリィン君? 何か考えがあるんか?」

 

「俺が隙を作ります。皆さんはそれに合わせて攻撃を重ねてください」

 

「ちょ、待てやリィン君っ!」

 

 ケビンの制止の声を背後に置き去りにしてリィンは前に出る。

 狙いは後方から矢を放つエンネア。

 しかし、リィンの前にすかさずアイネスが立ち塞がる。

 

「何を考えているか知らないが無駄だ。《星洸陣》を出した以上、我らの勝利は決まった」

 

「それはどうかな? 一の型――螺旋撃っ!」

 

 庇いに来ることは折り込み済み、リィンは重い一撃を叩き込む。

 

「甘いっ!」

 

 アイネスは難なくその強襲を受け止め、彼女の肩を踏み台にしてエンネアはリィンの頭上を取る。

 

「ふふ……狙いは悪くないけど、今の私たちはその程度では崩せないわよ」

 

 降り注ぐ矢の雨をリィンは後ろに跳んで避ける。

 

「やはりこの程度か……」

 

「フフ……でも、マスターがお認めになったのも分かる気がするわね……《星洸陣》に少しも怯まない……亡くなってしまわれたのが本当に惜しいですね」

 

「二の型――《疾風》」

 

 余裕に満ちた二人の会話を無視して、リィンは速度を上げて斬りかかる。

 

「その意気や良しっ!」

 

 正面から突っ込んでくるリィンにアイネスは口角を釣り上げる。

 

「剛裂斬っ!」

 

 振り下ろされたハルバートが地面を割る。

 紙一重でその重撃を回避したリィンはアイネスの背後を取る――が、すかさずエンネアが放った矢が襲い掛かる。

 態勢を直したアイネスは振り返り、降り注ぐ矢の援護を受けながら突っ込む。

 

「終わりだっ!」

 

「そこだっ!」

 

 重なる様に叫んだリィンが駆け抜けた先はアイネスでもエンネアでも、ましてやデュバリィでもなかった。

 アイネスとエンネアの間の何もない空間を太刀を振り、駆け抜けたリィンに二人は何がしたいのか分からず、呆気に取られながらも追撃を仕掛け――ようとして眩暈を感じて足をもつれさせた。

 

「な――星洸陣が!?」

 

 あり得ない失敗に何事かと自分たちの状態を確かめて愕然とした。

 三人の間に構築したはずの星洸陣のリンクが不自然に断ち切れていた。

 足がもつれたのは、星洸陣による強化が唐突に途切れてしまったことによる身体能力の低下と強引に繋がりを切られたことによる精神ダメージなのだが、そこまで頭は回らなかった。

 

「六の型《孤影斬》」

 

 そんな三人にリィンは鎌鼬を放つ。

 

「ぐっ!」

 

 流石というべきか、そんな状態であっても鉄機隊はその一撃を防ぐか躱してみせる。

 しかし、そこに仲間たちの追い打ちが重なる。

 鞭のように伸びた法剣がエンネアを捉え、アネラスの螺旋撃がアイネスを叩きのめし、ケビンの矢がデュバリィに突き立つ。

 

「やりましたね」

 

 倒れ伏した鉄機隊を順に確認してリースは残心を解き法剣を――

 

「あかん、リースッ! まだやっ!!」

 

「え……?」

 

「プリズムキャリバーッ!」

 

 矢が突き立ったデュバリィは霞の様に消え、代わりに縦横無尽に目にも止まらない速度でデュバリィが駆け、ケビン達に一撃を当てていく。

 

「オライオンッ!? アネラスさんっ!?」

 

「安心しなさい峰打ちですわ」

 

 叫ぶリィンに対して、デュバリィは事もなげに言い放つ。

 

「…………何のつもりだ?」

 

 仲間たちを見渡してみても、彼女の言葉通り傷を負って血を流してはいないようだった。

 しかもあのタイミングならば、リィンも同じように斬り伏せることはできたはずなのにデュバリィはそれをしなかった。

 

「大した理由じゃありませんわ」

 

 刃を返し、デュバリィはリィンに切先を突き付ける。

 

「条件はほぼあの時と同じ……今度は手加減なしですわよ」

 

 言われて見れば琥珀の塔での戦いに近い状況とも言える。

 しかし、その状況を作るために仲間を利用したのかと思うと、納得がいかないものを感じてしまう。

 

「そのために仲間を裏切ったのか?」

 

「人聞きの悪いこと言わないでもらえませんか。星洸陣に手を抜いてはいませんでしたよ……

 ただわたくしは貴方なら何かをやるのではないかと警戒していただけ、だからこそ星洸陣を斬られてもすぐに動けたのですわ」

 

「それは偶々です……

 以前に同じような形のない力を斬ったことがあるから、同じようにしてみただけです……それに三回切り損じていました」

 

「どうやらあの時から腕を上げていたようですわね……相手にとって不足なしっ!

 さあ《鬼の力》を出しなさい! 貴方の全てを叩き潰して差し上げますわっ!」

 

「あ……それは……」

 

「別にあの時に手を抜かれたとは思っていませんわよ……

 ただマスターに負けを認めさせたのですから、使える程度には至っているのでしょう?

 ならばこそ、ここでわたくしがその力を超えてマスターの雪辱を晴らさせてもらいますわっ! さあ早くしなさいっ!」

 

 急かすデュバリィにリィンは申し訳なく思いながら言葉を返す。

 

「すいません。今は《鬼の力》はどこかに行っていて使えないんです」

 

「…………え……?」

 

 リィンの返答にデュバリィは固まって、そうとは知らずに一人で盛り上がっていた自分を振り返る。

 

「そういうことは先に――」

 

 肩を震わせる口元を痙攣させるデュバリィにリィンはすぐに言葉を続ける。

 

「だけど、仮に使えたとしても貴女にそれで挑むつもりはなかったでしょうね」

 

「何ですって?」

 

 使おうと思えば、ウォークライで水増しはできるが《鬼の力》であったとしても彼女の速度を捉えるのは難しいだろう。

 

「貴女に《速さ》で挑んでも超えるのは至難ですから」

 

 リィンは太刀を納めて腰を低く抜刀術の構えを取る。

 

「伍の型《残月》……この技で《神速》に挑ませてもらう」

 

「それが貴方の答えですか……いいでしょう」

 

 速度比べではないことに少しだけ、残念に感じながらもデュバリィはリィンの剣士としての成長に感慨深いものを感じる。

 ただがむしゃらに向かってきた前の戦いと比べ、どっしりと地に足が着いた重みを感じずにはいられない。

 

「ならば受けてみなさいっ!」

 

 声を上げてデュバリィは三人に分け身を使って増え、三方に駆け出した。

 目に追えない速さでリィンの周囲を駆け回り、彼の集中を乱し、デュバリィは気を伺う。

 

「…………やっぱり速いな」

 

 琥珀の塔で戦った時を超える速度にリィンは《神速》の二つ名の意味が改めて思い知らされる。

 

「むしろ《鬼の力》がなくて良かった」

 

 いつも胸の奥で燻っていた熱がないおかげか、リィンはこの土壇場にも関わらず自分でも驚くほどに落ち着いていた。

 

 ――確かに速い……だから目で追うな……

 

 三人の内、二人は分け身。

 実体があったとしても、本体の制御が乱れれば消えてしまう幻なのは変わらない。

 

 ――感じろ……目だけじゃない。感覚の全てを使って……

 

 目の情報を蔑ろにせず、聴覚に、空気の流れ、さらには地面から伝わる震動。

 その全てをまとめ上げ――

 

「ここだっ!」

 

 本体を見極めたリィンは飛び込んでくるデュバリィの一人を狙い、太刀を振る。

 寸前でそれを察したデュバリィは剣の軌道を強引に変えて、太刀と剣が火花を散らしてぶつかり合う。

 

「くっ……」

 

「っ……」

 

 その衝撃に二人はたたらを踏んでわずかに後ずさる。

 そして――

 

「もらいましたわっ!」

 

 地面を蹴ってデュバリィが体ごと斬りかかる。

 この間合いならば、自分の剣速の方が速い。

 デュバリィは勝利を確信した、しかし――目の前に突き出された切先に急停止した。

 

 ――ここで突き!?

 

 これまでリィンの攻撃の技が斬る型ばかりだったために失念してしまったことにデュバリィは恥じる。

 鋭い突きの一撃にデュバリィは咄嗟に首を捩じり直撃を避けるが、兜が弾け飛び、まとめてあった髪が解ける。

 しかし、リィンの攻撃はそこで止まらない。

 素早く引き戻した腕からさらに突きが連続で放たれる。

 

「ぐう……」

 

 盾を剣で支えて後ろに跳ぶ。

 リィンはそれに追い縋り、さらに突きを繰り出す。

 

「――あっ」

 

 耐え切れずデュバリィは盾を持つ腕ごと弾かれる。

 

「このっ!」

 

 苦し紛れの剣の一閃をリィンは掻い潜る様に躱し、その踏み込みに《螺旋》を乗せて渾身の一撃を――

 

「烈波無双撃ッ!」

 

 かつて剣聖が八葉の技術を棒術に落とし込んだ技を、逆に太刀の技にして叩き込んだ。

 

 

 ………………

 …………

 ……

 

 

「まさか《星洸陣》を使って我らが負けるとはな」

 

 光に包まれるアイネスは呆然とした様子で敗北を噛み締める。

 

「ふん……《星洸陣》を無敵の技だと高をくくっているから、あんな無様をさらすんですわよ」

 

 同じく光に包まれ、三人の中で一番ボロボロになっているが、偉そうにデュバリィは胸を張って他の二人に説教をする。

 

「フフ……流石はマスターに負けを認めさせた少年かしらね。デュバリィがよろめいてしまうのも無理もないかもしれませんわね」

 

「よろめいてませんっ!」

 

 が、エンネアの言葉をデュバリィはムキになって否定する。

 

「そんなことよりも、最後に何か言わなくて良いのか? これが最後の邂逅なのだろ?」

 

「べ、別に……そんなことは――」

 

 アイネスの指摘をデュバリィは否定する言葉を飲み込んで、リィンに向き直る。

 

「リィン・シュバルツァー、感謝しますわ……

 勝ち逃げされることは業腹ですが、貴方のおかげでわたくしは成長することができました……

 願わくば、ここでの邂逅が本物のわたくしたちの中に残ることを祈っています」

 

「えっと……そのことですが……」

 

「何ですの?」

 

「いえ……何でもありません」

 

 まだ確信を持てない記憶にリィンは言葉を濁す。

 

「俺の方こそ、貴女のような真っ直ぐな人と戦えたことは光栄でした……

 女神の奇蹟があればもう一度手合わせしてください」

 

 そう言ってリィンが手を差し出す。

 

「ふん……それはこちらの台詞ですわ。精々煉獄で首を洗って待っていなさい」

 

 鼻を鳴らしながらも、デュバリィは差し出された手と取って握手を交わす。

 

「それから……できればで良いんですが……」

 

「それはおそらく無理ですわね」

 

 デュバリィはオライオンの方を盗み見て言葉に迷ったリィンの意図を先読みして否定する。

 

「そうですか……いえ、ありがとうございます」

 

「それからシュバルツァー……最後に一つだけ言わせてください……

 マスターに勝ったからと言って調子に乗ったからそんなことになってしまったんですわ! ふんっ、ざまーみろですわ!」

 

「えっと……あれ……?」

 

 先程までは以前会った時とは違って落ち着きを払った大人な女性だったのだが、それが一瞬で払拭されて最初に会った時の印象が戻ってくる。

 

「フッ……気にするな」

 

「ええ、マスターに技の名前を授かったことに嫉妬しているだけですから」

 

「違いますわよ! わたくしは――」

 

 言葉はそこで途切れて、彼女たちは消えていった。

 

「結社の人間だから、もっと陰険な連中かと思っておったが、随分とさっぱりして奴等やったな」

 

「ええ、戦いには厳しい人たちですが、その志は高潔だと思います。彼女たちのマスターのことを含めて」

 

 ケビンが漏らした感想にリィンは頷く。

 

「ところで弟君、最後の技だけどいつの間にエステルちゃんの技を覚えたの?」

 

「ああ、それですか……八葉の型には突きの技がないと思ったんです。あれば戦い方の幅が増えるから良いんじゃないかと思って……

 カシウスさんがまとめた棒術の目録も目を通したことがあったので、それを逆に剣術に取り入れてみたんです」

 

「う、うーん……この半年近くで私も結構頑張ったつもりなんだけどな……」

 

「アネラスさん?」

 

「ううん、何でもないよ弟君」

 

 落ち込んだように見えたアネラスはすぐに笑顔を作ってリィンに応えた。

 

 

 

 

「あはははははっ!」

 

 歓声を上げて、エンジンが唸りを上げる機械武具の《テスタ=ロッサ》を赤毛の少女――シャーリィ・オルランドは振り回す。

 チェーンソーが回転する大振りを余裕を持ちながらもリィンは冷や汗を掻きながら躱していく。

 

「楽しいねぇリィン・シュバルツァーッ!!」

 

 満面の笑顔を浮かべるシャーリィにリィンはどうしてこうなったと嘆かずにはいられなかった。

 三番手で待ち構えていたのは《導力停止現象》の中で協力してくれたランドルフとシャーリィ、そして銀の三人だった。

 しかし、一番警戒するべきランドルフは覇気がなく、テスタ・ロッサを持つシャーリィと違ってあのブレードライフルを持ってはいなかった。

 彼の得物はベルゼルガ―と比べれば貧弱にも見えるスタンハルバート。

 もっとも、その程度の得物の差で油断できるわけではないのが猟兵なのだが、ランドルフは別人と思えるほどに覇気がなく、消極的な戦いしかしてこなかった。

 

「ああっ! もうランディ兄がいらないならシャーリィにやらせてよっ!」

 

 そんな腑抜けたランドルフを背後から銃撃して倒し、シャーリィは入れ替わる様にリィンに襲い掛かった。

 銀はそんな彼女に肩を竦め、リィン以外の四人を相手に立ち回る。

 

「猟兵の女の子といい、《神速》の子といい、モテモテやなリィン君」

 

「リィン・シュバルツァー。やはり不埒な人のようですね」

 

「誤解を招くことを言わないでくださいっ!」

 

 シャーリィの攻撃を捌きながら、勝手なことを言う仲間たちにリィンは抗議を上げる。

 

「余所見しているなんて余裕だね! あはっ……シャーリィだけしか見れないようにしてあげるよっ!」

 

 さらに攻撃を激しくするシャーリィにリィンは改めて偽物とはいえ彼女たちが敵になったことを自覚する。

 

「いや、違うか……元々その程度の関係だったか」

 

 その呟きにシャーリィは獰猛な笑みを浮かべる。

 

「そうそう……あの時はたまたま手を貸しただけなんだから、状況が違えばあたしたちは簡単に敵になるんだよ」

 

「そうだな……」

 

 シャーリィの言葉にリィンは頷く。

 一時的とはいえ、共闘して相手の人となりを知ってしまったからこそ戦い辛いと思ってしまった。

 だが、それはリィンだけの考えでしかない。

 相手はミラを対価に戦争をする猟兵と伝説の凶手。

 リィンの常識では計れない存在だったとしても、彼らのルールは少ない時間を過ごして分かっているつもりだった。

 

「シャーリィ・オルランド……」

 

「やっとやる気になったみたいだね。じゃあここからが――」

 

「悪いがすぐに終わらせてもらう」

 

 ランドルフはシャーリィに背後から撃たれた時点で消えてしまったが、まだ銀がいる。

 彼女が様子見を終える前にリィンはシャーリィを倒すことを決める。

 

「軽く言ってくれるじゃない。やれるもんならやってみせてよっ!」

 

「一の型《螺旋撃》」

 

「っ!」

 

 無造作に懐にまで踏み込まれたシャーリィは慌ててテスタ・ロッサを盾にして受け止める。

 

「このっ!」

 

 すぐ目の前のリィンにシャーリィはマシンガンを乱射して突き放す。

 リィンは左右にステップを刻みマシンガンの掃射を躱して距離を取り――

 

「二の型《疾風》」

 

 弾幕がわずかに途切れた瞬間を狙い澄まし、開いた距離を助走に使ってシャーリィに一太刀を浴びせる。

 

「っ……まだっ!」

 

 シャーリィは怯まずにチェーンソーを振り回す。

 

「三の型《業炎撃》」

 

 それを躱して、炎を纏った振り下ろしの一撃がシャーリィを捉える。

 

「四の型《紅葉斬り》」

 

 鋭い一太刀がテスタ・ロッサを完全に両断しながら、シャーリィの体に打ち込まれる。

 

「伍の型――」

 

 さらなる追撃を仕掛けようとして、リィンは手を止めた。

 追撃を仕掛けるまでもなく、ボロボロになったシャーリィは仰け反って倒れていく。

 

「――まだまだっ!」

 

 傾いた体をギリギリのところで踏み止まり、シャーリィは赤黒い闘気を全身に漲らせてリィンに抱き着いた。

 

「アーツ駆動……こういうのは趣味じゃないけど仕方ないよね」

 

 シャーリィの導力魔法によって二人の頭上に巨大な火球が現れる。

 

「さあ我慢比べを――」

 

「八の型《破甲拳》」

 

 次の瞬間、抱き着いて剣も拳も振る距離もないはずなのにシャーリィは脇腹を抉られる衝撃を受けた。

 

「が――」

 

 駆動は途切れ、火球は霧散する。

 

「これで終わりだ」

 

 もはや拘束力のない腕を振り解こうとして――シャーリィは最後の力を振り絞る様にリィンの肩に噛みついた。

 

「なっ!?」

 

 人間では考え付かない攻撃手段にリィンは一瞬対処に遅れ、シャーリィは噛みついた肩を服ごと喰い千切る。

 

「ぐっ……」

 

 リィンはシャーリィを突き飛ばし、本能的な恐怖を感じて距離を取る。

 

「あは……」

 

 食いちぎった肉を吐き捨て口元を真っ赤に染め、足を震わせながらもシャーリィは少しも衰えない眼光で楽しそうに笑う。

 圧倒的な狂気に気押されそうになるが、リィンは腹に力を込めて耐える。

 

「終の太刀――暁」

 

 最後まで容赦せず、リィンはシャーリィに必殺技を叩き込み、言葉を交わす間も与えずに消滅させた。

 そして、同時に銀もまたアネラスの一撃を受けて倒された。

 

 

 

 




いつかのケルディックIF

ラウラ
「甲殻型の魔獣か……ここは私が――」

リィン
「破甲拳――よし、崩れた。ラウラ追撃をっ!」

ラウラ
「…………」

アリサ
「飛行型の魔獣ね……ここは私が――」

リィン
「突影撃(突きでの孤影斬)――よし、崩れた。アリサ追撃をっ!」

アリサ
「…………」

リィン
「エリオット、二人はどうしたんだ?」

エリオット
「えっとね……リィン……あれは崩したって言うよりも倒したって言うんじゃないのかな?」



追伸
もしかしたら突っ込まれるかもしれないので、86話のサブタイトルは「守護者」とだけ告知させてもらいます。


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