(完結)閃の軌跡0   作:アルカンシェル

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領域の守護者登場です。
予想を的中できた人はどれくらいでしょうかね?


いつも誤字報告ありがとうございます。




86話 守護者

 

 

「巨大な浮遊都市と聞いていましたが、歩いてみるとそうではありませんでしたね……

 やはりここも他の場所と同じように空間が入れ替わっていたんですか?」

 

「ああ、本当なら都市の中の交通機関も使っても三日では探索し切れないほどに広かったからなぁ」

 

 根源区画へのエレベーターに乗って、手持ち無沙汰になったリースの疑問にケビンは答える。

 

「弟君、大丈夫?」

 

「はい……大丈夫です」

 

 中枢塔の屋上を戦場にしたシャーリィ達との戦いが終わり、その先のエレベーターに乗ってからリィンは嫌な予感が止まらない。

 同時に周囲の景色から記憶が刺激されて、何かを思い出しそうな頭痛に苛まれる。

 

「でも……」

 

「大丈夫です……大丈夫ですから……」

 

 心配するアネラスを突き放し、リィンは止まったエレベーターから長い通路に我先にと歩き出す。

 そして長い通路の先、根源区画の最奥に辿り着く。

 

「来てしまいましたか」

 

 その壇上でリィン達を待ち構えていたのは小さな女の子だった。

 

「あ……ああ……」

 

 無表情だが、どこか今にも泣き出しそうな顔をしている彼女の顔を見た瞬間、リィンは欠けていた記憶を思い出す。

 

「アルティナ……」

 

 隣にいるオライオンではない。

 共にリベールを旅して、リィンが守れなかった存在が目の前にいた。

 

「本物のアルティナちゃんなの?」

 

 感極まったリィンの言葉に続いてアネラスが期待を込めて問いにアルティナは首を横に振る。

 

「いいえ……わたしは皆さんの記憶から抽出されて作り出された、極めて本物に近い存在でしかありません」

 

「そっか……でもまた会えて嬉しいよ、アルティナちゃん……ごめんね。あの時は守ってあげられなくて」

 

「いいえ……アネラスのせいではありません。それにちゃんとわたしはリーンを守れたようで安心しました」

 

「アルティナ……」

 

 淡々と告げる言葉の奥にはオライオンとは違うものを感じることができた。

 

「アルティナ……俺は……」

 

 何かを言おうとしてリィンは言葉に詰まる。

 

「リーン……わたしは……」

 

 そして同じようにアルティナも言葉を途切れさせる。

 

「不思議ですね……リーンがここに来たら、何を言うか考えていたはずなのに何も出て来ません」

 

「アルティナ……」

 

「それに……どうやらこれ以上話をしていることはできないようです」

 

「アルティナ……」

 

「こちらへの配慮は不要です……

 今のわたしは影の王に使われる《OZ70》の影でしかありません」

 

 淡々と告げたアルティナはおもむろに手を上げると彼女の周囲に鋼色の戦術殻がいくつも現れる。

 

「戦術殻!? こんなにたくさん……?」

 

 十数体の戦術殻に身構えるが、アルティナの号令によって戦術殻は一斉にアルティナへと向き直る。

 

「トランスフォーム」

 

 その内の一つがアルティナを背後から抱き締めるように包み込むと光を発する。

 さらにそこに他の戦術殻が光の中へと入っていく。

 光が収まるとそこには鋼の鎧を纏って浮かぶアルティナがそこにいた。

 右手には長大な剣。

 左手には大盾。

 浮遊する棒状の推進器に、背面バックパックに設置された翼と一対二つの導力砲に大剣を付けた尻尾。

 さらには球体も彼女の背後に四つほど浮かんでいる。

 

「パーフェクトギア・SD……OZ総体――アルティナ。これよりこの領域の《守護者》として敵性体を排除します」

 

 

 

 

「リィン君は下がってろっ!」

 

 そう叫んだケビンは――

 

「何やこれっ!? 何なんやこれっ!?」

 

 顔を盛大に引きつらせて逃げ回っていた。

 

「くっ……これ程とは」

 

「ア、アルティナちゃん。ちょっとくらい手加減してくれないかな?」

 

「OZ総体……規格を遥かに超えた性能です」

 

 逃げ惑っているのはケビンだけではなくリース達も同じだった。

 それはさながら小さな要塞。

 

「ブリリアントレイ」

 

 距離を取れば背中に設置された鋼の翼が大きく開くとその先端から無数の光線が撃ち上げられる。

 それは鋭角に屈折すると降り注ぎ、屈折を繰り返して追い駆けてくる。

 

「インフィニティスパロー」

 

「ハーミットシェル」

 

 ホーミングレーザーを躱して、苦し紛れに放ったリースの剣片による全方位からの攻撃は浮遊する棒状の推進器が張った防御結界に弾かれる。

 そして左手の盾の先端の突起をリースに無造作に向けたかと思うと、そこから法剣と同じ蛇腹の刃が発射される。

 

「なっ!?」

 

 予想外の攻撃にリースは剣片が戻ってきた法剣で受け止めるが、蛇腹剣は法剣を絡みとってリースごと引き寄せる。

 

「エクステンドギア」

 

 鞭のようにしなる蛇腹剣を連続で振り回し、剣状にした刃の一突きにリースは吹き飛ばされた。

 

「リースッ!!」

 

 叫んだケビンは矢を連射する。

 

「ラムダショット」

 

 飛来する矢は四つの球体から撃ち出された光弾に撃ち落され、さらに撃ち込まれた光弾はケビンに降り注ぐ。

 

「グラールスフィアッ!」

 

 堪らず防御結界で光弾を受け止めるが、アルティナは背中に背負った導力砲を両肩に乗せるように突き出す。

 

「零式カタストロフィ」

 

 二条の極大のレーザーが防御結界を突き破り爆炎を作り出す。

 

「ごめんアルティナちゃん」

 

 その隙に背後から忍び寄ったアネラスが剣を一閃するが、その一撃が大剣の尻尾に受け止められた。

 

「フレアスラッシュ」

 

 そのまま薙ぎ払われた炎の斬撃にアネラスは吹き飛ばされる。

 

「クラウ=ソラス――トランスフォーム」

 

 オライオンが剣に変形させた戦術殻で加速をつけて強襲する。

 アルティナは鋼の翼を開いて飛び上がり、突撃を躱して――

 

「セラフィムハーツ」

 

 風を纏った突進攻撃で縦横無尽にオライオンを手に持った剣で斬りつけ、ダメ押しに大量の光線を浴びせて撃墜する。

 

「ア、アルティナちゃん……ちょっと強すぎない?」

 

「その質問には語弊があります……

 今のわたしは確かに《OZ70》を主人格にしていますが、名乗りの通りわたしは《OZシリーズ》の総体……

 わたしを含めた前任の70の《OZ》の戦術殻達を想念を利用してまとめているに過ぎません」

 

「えっと……つまりオライオンちゃんも同じことができるの?」

 

「できません。複数との戦術殻との同期なんてわたしたちの仕様には存在しません……

 そんなことをすればおそらく戦術殻からの情報を処理し切れずに廃人となるでしょう」

 

「そんな……アルティナちゃん」

 

「このわたしは記憶再現されたものなので物理的な不都合はなかったことにしています」

 

「そんな無茶苦茶な……」

 

 アネラスはあまりの壊れた性能に乾いた笑みを浮かべる。

 距離を取れば翼からの追尾レーザーに光弾の弾幕と導力砲。

 こちらの遠距離攻撃は防御結界に阻まれ、中距離のチェーンウィップに近接戦用の剣。

 背後から忍び寄っても尻尾と一体化した大剣が彼女の死角を守っている。

 しかも機動力もあり空を飛ぶことができる。

 どう考えても勝つイメージが思い浮かばない。

 そんなアネラスに背後からリィンが声を掛けた。

 

「アネラスさん、下がってください。後は俺がやります」

 

「弟君!? でも――」

 

「大丈夫です……もう落ち着きました」

 

 突然のアルティナの登場で戦闘メンバーから外されたが、時間を置いてなんとかリィンはアルティナの存在を受け入れることができた。

 

「だけど……」

 

「安心してください。俺なら大丈夫です……それに……」

 

「それに?」

 

「これが有り得ない邂逅で、彼女が本物のアルティナでなかったとしても最後に見せる姿を無様で終わらせるわけにはいきません」

 

 よりにもよって最後の相手にアルティナを使った影の王への憤りもあるが、やはりどんな形であったとしても彼女との再会は喜ばしいものだった。

 アルティナと戦わなければならない拒絶感は、自分のことを待っている彼女の目を見て振り払う。

 

「待たせたなアルティナ……」

 

「はい……待っていましたリーン」

 

 リィンの言葉に感情のない言葉が返ってくるが、物騒な大剣の尻尾は嬉しそうに左右に揺れていた。

 そんな様子にリィンは苦笑する。

 そのリィンの笑みにアルティナはムッと顔をしかめる。

 

「何だか不埒な気配を感じました」

 

「気のせいだろ」

 

「そうですか……そういうことにしておきます」

 

 リィンの答えに一応アルティナは納得して頷く。

 

「一つ聞いていいか?」

 

「はい。何ですか?」

 

「最後のあの時、アルティナは俺に何を言おうとしていたんだ?」

 

 無理矢理他人の戦術殻に接続したせいなのか、結社の魔の手から逃がそうとしたアルティナは言葉を話すことができなくなってしまった。

 何かを伝えようとして、それができずにアルティナはリィンの頬に触れて儚い、それでいて満ち足りた笑顔を浮かべた。

 最初で最後の笑顔。

 彼女が何を伝えたかったのか、それを確かめる最後の機会は――

 アルティナはジト目でリィンを睨んでそれを拒絶した。

 

「不埒ですね」

 

「どうしてそうなる?」

 

 返ってきた言葉にリィンは肩を竦める。

 

「教えてあげません」

 

「……そうか」

 

 気になるが、それがアルティナの答えならばそれでもいいかとリィンは納得する。

 深呼吸を一つして、リィンは太刀を抜く。

 

「八葉一刀流《初伝》リィン・シュバルツァー……」

 

 リィンの名乗りに対してアルティナは改めて名乗りを上げる。

 

「《OZ総体》アルティナ……アルティナ・シュバルツァー」

 

 そう名乗ったことにリィンは目を見張る。が、すぐに気を引き締める。

 

「参るっ!」

 

「行きますっ!」

 

 ………………

 …………

 ……

 

 焔を纏った刃と冷気を纏った刃がぶつかり合う。

 纏っている戦術殻による作用なのか、その剣撃は頭一つ以上小さな女の子から繰り出されたとは思えない程に強く重い。

 それに加え他の武装も驚異的なものばかりのはずなのに、リィンはアルティナの思考を当たり前のように読んで見切る。

 無表情な顔に不貞腐れた影が見える。

 

「ふふ……」

 

 そんなアルティナの様子に、激しい攻防の中だというのにリィンは笑みをこぼす。

 

「むぅ……」

 

 唸りながらもアルティナは不快ではなさそうだった。

 できることならいつまでも剣を交えていたい。

 そう思えるほどの一時だったが、その誘惑を振り払いリィンは気を張り直す。

 

「終わりにしようアルティナ」

 

「…………はい、分かりました」

 

 リィンの言葉にアルティナは頷き、全身の武装をフル稼働する。

 

「先手を取らせていただきます」

 

 そう言うがいなや、アルティナは冷気を纏って肉薄すると剣を一閃、二閃、三閃。

 そして背後に飛び退いて――

 

「クリミナルブランドッ!」

 

 冷気を込めた剣を投げつける。

 受ければ剣に溜め込んだ冷気が解放されて周囲一帯を氷漬けにするだろう戦技をリィンは――

 

「伍の型《残月》」

 

 鋭い抜刀が投擲された剣を砕く。

 その隙を突くようにアルティナは翼を広げ、二門の導力砲と球体の砲身を向ける。

 

「エネルギーライン、全段直結……アイゼンロック」

 

 尻尾の大剣が床に突き刺さり、反動に備える。

 

「エネルギー充填120%」

 

 二つの砲口の先端にそれぞれ黒と白のエネルギーの球体を作り出して溜め込む。

 

「ハイペリオン・バスターッ!」

 

 導力砲の発射と同時に翼と球体からは光線が発射される。

 黒と白の二つの光の奔流は空中で一つになって黄金の一撃となる。

 その一撃を前にリィンは投げられた剣に込められたアルティナの闘気を取り込んで鞘に納め――

 

「鏡火水月の太刀――《光翼烈破》――」

 

 光の翼を纏った一撃が極大の砲撃を斬り裂き、アルティナを飲み込んだ。

 

 

 

 

 音を立ててアルティナが纏っていた鎧も武装も全てが砕け散り、それまで相対して来た者たちと同じ光にアルティナは包まれる。

 

「どうやらお別れのようですね」

 

 自分の手を見下ろしてアルティナはやはり淡々とした口調で事実を口にする。

 

「アルティナちゃん……」

 

 今にも泣き出しそうな顔でアネラスは口元を手で覆って嗚咽を堪える。

 

「リーンやみなさんと戦わされたことは不快でしたが、この機会をくれた影の王に感謝ですね」

 

 アルティナは改めてリィン達に向き直る。

 

「わたしは幸せでした。リーンやアネラス、みなさんとリベールで過ごした日々はわたしの宝物です」

 

「それは俺も同じだ……

 アルティナがいてくれたから、俺はここまで来れたんだと思う」

 

「そう言ってくれるだけで嬉しいです……心残りは一つだけありますが、それまで望むのはわがままでしょう」

 

「アルティナ……」

 

「リーン……人形だったわたしを受け入れてくれて、ありがとう……」

 

「ああ……」

 

「家族みたいにわたしと接してくれて、ありがとう……」

 

「ああ……」

 

「それから…………わたしを《ヒト》にしてくれて、ありがとう……」

 

 微笑みを浮かべると共にアルティナの頬に涙が流れ落ちる。

 

「これがきっとわたしの笑顔です……涙が止まりませんが、ちゃんと笑えていますか?」

 

「っ……ああ……ああ……」

 

 嗚咽を堪えてリィンはアルティナの言葉に頷く。

 彼女の浮かべる表情は涙に濡れていても、紛れもない笑顔だった。

 むしろ今の自分の方がちゃんと笑えているのかリィンは分からなかった。

 アルティナはそのままリィンの腰に抱き着く。

 そんなアルティナの肩を抱き締めてリィンは言葉を掛ける。

 

「君のことは忘れない」

 

「……うん……リーンに会えてよかった……」

 

 アルティナはリィンを見上げ、両手でその頬に触れて、少しだけ持ち上げる。

 それは以前、無表情な彼女がレンに教わった笑顔の作り方だった。

 

「ありがとう、さようなら――大好きだったよリーン」

 

 その言葉を最後にアルティナはリィンの腕の中から消え去った。

 そしてリィンの手には銀のハーモニカが残されていた。

 

 

 

 

「それじゃあ一旦周遊道に戻って他のみんなと合流して拠点に戻ろうか」

 

 ケビンに促されて、その場からそれぞれが後ろ髪を引かれながら歩き出す。

 オライオンもまた、自分が殺した前任のアルティナが消えた場所を表現できない感情を胸に感じていた。

 

「オライオンちゃん?」

 

「……今、行きます」

 

 振り返って呼んでくるアネラスに返事をして、振り返って歩き始める。

 と、そこで違和感を覚えて振り返る。

 

「クラウ=ソラス?」

 

 いつも自分の後ろについて来るはずの戦術殻は直前のオライオンと同じようにアルティナが消えた場所に視線を固定して微動だにしなかった。

 

「クラウ=ソラス?」

 

 一度の呼び掛けで応えない初めての反応にオライオンは首を傾げる。

 そこでクラウ=ソラスは顔を上げて、いつものようにオライオンの背後の定位置に着く。

 

「…………再調整が必要ですね」

 

 相棒の誤作動と自分の中の何かにオライオンはそう結論付け、自分を待ってくれているリィン達に速足で駆け寄った。

 

 

 

 

 

 






パーフェクトギア・SD(ソウルデバイス)
鎧は後のアルティナのものですが、他の武装は某異界探索ゲームの武具から流用したフル装備です。
鎧―アルカディス・ギア。
剣―エクセリオン・ハーツ。
盾―レイジング・ギア。
四つの球体―カルバリー・メイスの副兵装。
棒状推進器―ミスティック・ノード。
翼―セラフィム・レイヤー。
尻尾―ヴォーパル・ウェポン。
導力砲―アーク=トリニティ。

ヴァリアント・アーム……ごめんなさい……



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