見た目はまさしく幼い少女。だけど、どこか儚く大人びた感じ。
それが、駆逐艦響を見た提督の第一印象だった。
「どうも司令官。今日付けでこの鎮守府に配属された、駆逐艦響だよ。経験だけは豊富だから、ある程度は役に立つと思う。存分にこき使ってくれ」
「あ、え、ええ。よろしくお願いしますね」
予想外の第一声に面食らった提督。この子は果たしてここに馴染めるだろうかと少し不安を抱えながらも、握手を交わした。
結果から言うと、その心配は杞憂だった。暁型の他の3隻が既にここに配属されていた、というのも大きかったとは思うが、彼女自身も提督が驚くほどのスピードで周りに溶け込んでいった。
今では胸を張って「うちの響」と言える程度には打ち解けられた。
———のだが。
「すみません電、ちょっとよろしいですか?」
「司令官さん? どうしたのです?」
資料室の整理が終わり、執務室に戻る途中で偶然電に出くわし、丁度相談したいこともあったので、声をかけた。二人で執務室に入ると、ドアを閉め、椅子に座って電に向く。
「最近、響の様子がおかしい気がするのですが、電は心当たりとかありませんか?」
「やっぱり司令官さんもそう思ってたのですか。電も最近響ちゃんの元気がないなって感じてたのです」
「そうですよね……最近は演習でも成績は今一つですしね……以前はMVP常連だったのに」
「なのです。それに響ちゃん、たまに上の空でお話を全然聞いてない時があるのです。心配してもはぐらかされるばかりで……」
「……本当にここ最近ですよね。最近で何か響に変わった事は……」
提督は何か心当たりを探るも、何か響の調子を狂わせるような出来事は思い当たらない。
「あ、この間響ちゃんのカレーだけ人参がたっぷり入ってていやそうな顔してたのです!」
「いや、カレーに苦手な食べ物が入ってた位でこんなに調子狂う事はないでしょう……ましてや響ですよ」
「うーん……あっ! 前に暁ちゃんと遊んでた時、響ちゃんが階段踏み外して足を怪我したことがあったのです」
「骨折してたわけでも無かったですし、流石に完治しているのでは?」
電は首を捻り、頑張って何かないか思い出そうとしているが、あんまり長く拘束しているのも申し訳ないので、提督は席を立った。
「い、電? 用事があったのでしょう? 思い出すのはまた今度でいいですから今日は———」
「……そう言えば響ちゃん、つい最近練度が70になったのです」
「……ああ、改二改装練度まで達したんですよね。しかし、それが不調の原因……? 改装後なら分かりますけど、響はまだ改装前ですよ?」
改二改装した艦娘は慣れていない新しい艤装に換装される為、一時的に弱体化する傾向にある。とは言え、練度を上げたり改修を繰り返せば改装前より強力な艦娘になる。しかし、一時的とはいえ戦線を離れることを嫌う艦娘が居ない訳ではなく、一線級の艦娘ほどそういう傾向になりやすい。
「ですよね……しかも、響ちゃんはそういう作戦に関わることならちゃんと報告するのです」
「そうなんですよね……っと電、時間は大丈夫でしたか?」
「へ? ……はわわわっ、もうこんな時間なのです! 司令官さん、失礼しました、なのです」
「いえ、こちらこそ引き留めてしまって申し訳ないです」
どうやらもう時間が来ていたらしく、電は慌ただしく執務室を出て行った。
「うーん……私も一度、響に直接聞いてみたほうが良いかもしれませんね……原因は恐らく、私が知らない響のことでしょうし……」
思い返して見れば、提督は響に関して知らないことが意外と多かったりする。響は新任艦としてこの鎮守府に来た訳ではなく、前任の鎮守府が前線の後退などの理由で取り潰しされ、彼女自身しばらく大本営の管理下にあったのだが、つい数か月前に戦力の拡張としてこの鎮守府に来たのだ。必然的に他の艦娘より接している時間が短いために、知らないことも多いのだ。
「響の過去について……教えてもらったことありませんね」
低練度時代の彼女や、前の鎮守府の事など、響に気を遣って聞かなかったことは色々ある。出会ったばかりの彼女を見ると、聞くに聞けない状態だと判断したからだ。
「———そろそろ、演習が終わりますね」
執務室を出た提督はそのまま視線を左にスライド。
「どうもですぅ! 執務室の扉を閉めてまで電ちゃんと何をしていたんですぅ?」
ペンとメモを持って出待ちしていたらしい。無駄に目をキラキラさせた重巡洋艦、青葉が提督を見上げていた。その青葉に対して提督はにっこりと微笑むと、
「なるべく他の人に聞かれたくない重要な話をしたかったので、盗み聞きする悪い子への予防策ですよ? そう、例えばあなたのように、ね?」
「きょ、恐縮です……」
笑顔を貼り付けたまま迫ってくる提督に青葉は完全に怯む。その瞬間、流れるような動作で青葉の手元のメモと、大事そうに下げている一眼レフカメラのストラップを外して本体を回収する。
「あー!」
「一眼レフは内部データを消して返却、メモは後ほど新品を支給します。これに懲りたら以後、こういうことはしないように」
「……あいぃ」
しょぼんとうな垂れる青葉を横目に提督は外へと足を向ける。やがて、玄関を出て完全に青葉の視界から外れると、
「へへーん、青葉は一枚岩じゃないんですよー! さてさて盗聴器のデータは……って破壊されてるっ!?」
執務室の中では壁に刺さったナイフが盗聴器を破壊していた。ちなみに、電気配線から電力をとって稼働するタイプだったので、これを放置した提督に届いた電気料金はとんでもない額に跳ね上がっていた。流石は青葉、二度転ばされてもタダでは起きない。