酔響【艦ショート!】   作:春宮 祭典

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サンプル2

青葉にカメラと新しいメモを返して、やってきた電気料金の明細書で提督と雷が顔をそろえて青ざめた、そんな日。いつも通りに演習が終わり、艦隊が帰って来る。

 

「響、少しいいですか?」

「いいよ。どうしたのかな、司令官?」

 

演習から戻ってきた響に声を掛け、昼食に誘う事にした提督。先行する提督をやや後ろから響がついて行く。

 

「すみません、歩くのが速すぎましたか?」

「いや、大丈夫だよ。気遣いありがとう」

 

二人は鎮守府近くの食堂に入る。ここは鎮守府の関係者がよく利用する食堂で、経営しているのは昔この鎮守府で提督をやっていたという経歴の持ち主だ。

 

「お、いらっしゃい提督さん。何にしますかね?」

 

浅黒く焼けた肌に対照的な白い歯を見せて陽気に提督へ挨拶をする店主。提督と響も会釈で返す。

 

「ささみ揚げ定食を。響はどうします?」

「私も同じのが良いな。司令官が普段どんなものを食べてるのか気になるし」

 

提督がささみ揚げ定食を2つ頼むと、厨房に居る店主から「あいよー」と軽い返事が返ってくる。店主が元提督という事もあり、艦娘を連れてきても歓迎されるこの食堂は提督の密かなお気に入りだった。

 

「どうぞ、ささみ揚げ定食2つね」

「……とりあえず食べましょうか」

 

二人で「いただきます」を揃え、ささみを口に運ぶ。揚げたてのささみの中には梅肉と大葉が挟まれており、爽やかな酸味と香りが広がる。

 

「これ、美味しいね」

「そうですか。お口に合って良かったです」

 

笑顔を浮かべる二人に、店主が「おいおい提督さん、そいつは俺の台詞だろーが」と軽口が飛んできて、それでまた、二人そろってくすくすと笑った。

 

「本当に奢って貰ってよかったのかい?」

「ささみ揚げ定食くらいご馳走出来ないと上司の面目が立たないでしょう?」

「違いないね。じゃあ、甘えるよ」

 

鎮守府までの帰り道は並木道になっており、春や新緑に覆われ木漏れ日を感じながら散歩するにうってつけのコースだが、今は秋から冬に差し掛かろうという所で、葉は一部を残し、全て散ってしまっている。それでも昼時という事でまだ暖かいが。

 

「で? 司令官。私に話したいことがあるんだよね」

「へっ?あ、はい。そう、ですね」

 

今度は前を歩いていた響が鎮守府の中に入るなり振り返って尋ねた。まさか向こうから切り出されるとは思わなかった提督は面食らってしまう。

 

「ええ、話というのは、ですね。その、最近響は演習で調子が悪いと感じませんか?」

「そうかな? 3回に1回はMVP取れてるし、そんなことはないと思うだけど……」

 

響はそう言いつつも、なんとなく気まずそうに提督から視線を外す。

 

「響がMVP常連なのはいつもの事ですが、私が木にしているのは被弾率です。なんと言うか、勝負を焦り過ぎているように見えるんですよ」

「……」

 

今度は押し黙った響。難しい顔で提督を見上げる。言うべきか隠すべきか迷っているかのような表情だ。

 

「今は演習だから良いですが、実戦では被弾が生死に直結します。戦果を競うのが演習ではありません。実戦の為の訓練なのですよ」

「……分かってるさ、そのくらいは」

 

厳しい物言いになってしまったのか、響は少し俯いた様子でぼそぼそと呟いた。しかし、拗ねているようには見えず、なにか別のことで悩んでいるように見えた。提督からしても、駆逐艦として鎮守府の第一線で活躍してきた彼女がその程度の事を理解していないなどとは思っていなかった。

 

「私は、提督として、皆の事を知りたいと思っています。不安な時や、悩んでいる時に、私が力になれるかもしれないからです」

 

響は提督が何を言いたいのか測りかねている様子。提督も本当に聞きたい事をなかなか切り出せず、婉曲な言い方になっている事に気づいてはいた。

 

「……司令官? 詰まるところ、司令官は一体何が言いたいのかな?」

「あ……そう、ですね。すみません、混乱させてしまいました」

 

響の疑問の一言に、提督は何も伝わっていないことを察して、ストレートに切り出す事にする。

 

「私は響の過去を知りません。私が知っているのはこの鎮守府に来てからの3ヶ月間の響だけです。もし、不調の原因がその過去にあるなら、私はそれを知りたい。そしてそれを解決したいのです」

「私の過去……か」

 

響はまた難しい顔になり、黙った。言うべきかどうか迷っているのだろうか、と提督が考えていると、響の頬をなにか光るものが伝った。

 

「っ、すみません響、泣かせるつもりでは……」

「えっ? あれ、おかしいな……あれっ」

 

響は提督の言葉に一瞬疑問の色を浮かべて頬を擦る。手についたそれが自分の流した涙である事と、何故かそれが止まらない事を理解するのにそう時間はかからなかった。

 

「……ごめん、司令官。今日はもうそっとして置いてくれないかな……」

「……分かり、ました。すみません……」

 

焦燥と不安を抱えた響の表情に、胸が締め付けられる。寮舎へと足早に戻って行く響を見送りながら、提督は拳を握り締めた。

 

「……失敗、ですね」

 

まだ自分に対する信頼と、響の過去が釣り合っていなかった事にショックを受けながら、それほどの過去を一人で抱え込む響の心情を想い、いよいよ胸が痛む。

 

しかし、1度拒絶された以上、しばらくはこの話題を蒸し返す事が出来なくなった。それは今日、提督の小さいようで大きかった作戦が完全敗北に終わった事を示していた。

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