俺たちの世界は間違っている。   作:ゆきわぎ

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くっきー

自販機で無事ジュースを買った俺は、奉仕部のドアの前に来ていた。もう話も終わっている頃だろう。

やってる?と、今度は常連さんの様にガラガラとドアを開ける。

 

「あ、ヒッキー。」

「おかえり、比企谷君。いくらだった?」

「…金はいらねーよ。」

 

ぶっきらぼうに言いすてる。これはこれで負けた気になるな…。

俺がかなり小さいことを考えていると、やはり雪ノ下は勝ち誇って。

 

「あら、比企谷君にしては良い心がけね。」

 

と、やはり。雪ノ下は偉そうである。だがしかし。俺がタダでやられると思ったら大間違いだ。

 

「ほらよ。」

「ええ、ありが…」

 

貰った雪ノ下が硬直する。

 

「比企谷君。これは…?」

 

ククク、驚いて声もでないらしい。俺はわざとらしい含み笑いとともにその正体を告げる。

 

「ふっふっふっ…。なんとそいつはぁ…、マックスコーヒーだ!」

 

そう、千葉のソウルドリンク、マックスコーヒーである!

俺は、アハァ❤︎と変な吐息が出そうな程高らかに宣言する。

「いえ、私は何故マックスコーヒーなのか聞いてるのよ。」

「それはなぁ、ミックスジュースが売り切れてたからだ!」

 

自分でもよく分からないほどテンションが上がっている。なんか由比ヶ浜はかなり引いた目でこっちを見てるが気にしない。

 

「まあ、飲んでみろ?ほら、名前も似てるし。マジでうまいから。」

雪ノ下は観念した様にはあとため息をついて、ちみっと飲む。

まあ、雪ノ下がおごらせようとしてたと本気で思っていたわけでは無い。実際ミックスジュースは売り切れていたし、マックスコーヒーならいけると思ったのだ。

どうですかね…。と、雪ノ下の反応をドキドキしながら見守る。

味見するように飲んだ雪ノ下は、うっと顔をしかめて口を抑える。

 

「…暴力的な甘さね…。」

 

ちょっと微妙そうな反応だった。あれー、おかしいな、美味しいと思うんだけどなー。女子って甘いものとか好きなんじゃないすかね?

ふん、素人にはこの良さはわからん!と少し拗ねて俺も自分のマッカンを開ける。由比ヶ浜にもりんごジュースを渡しておいた。

 

「…まあ、飲めない程でもないわ。」

 

と、そんなことを言って雪ノ下はまたちみちみと飲み始める。

おいおーい!素直じゃないなー雪ノ下さんはぁ!と、俄然俺のテンションは上がる。

ふふんと俺は何処かほこらしげに自分のマッカンを飲み干す。

 

すると、今まで蚊帳の外にしてしまっていた依頼人がぼそっと呟く。

 

「なんか二人とも仲いいね…。」

 

そう言う由比ヶ浜には、何処か拗ねるような、妬むような色があった。俺のいない間に雪ノ下と仲良くなっていたのだろうか。

 

「由比ヶ浜さん、冗談でもやめて頂戴。こんな自分の嗜好を女子に強要する鬼畜男と仲が良いなんてありえないわ。」

 

そう言われると俺結構ヤバい奴に感じるな。まあ実際結構ヤバいけど。にしても言い過ぎじゃないですかね…。

そういえば話が全然進んでないなと、俺は本筋に話を戻す。

「で。結局何の話だったんだ?」

 

 

依頼の内容は、由比ヶ浜が前に世話になった人にお礼をしたいらしく。クッキーの作り方を習いたいのだそうだ。

 

「いやー、私料理とかちょっと苦手でさー。それで平塚先生に相談したらここに…。」

 

なるほど。なら今回の仕事は、こいつにクッキーの作り方を教えれば良いわけか。ちょっと苦手ぐらいならすぐ何とかなるだろうし。俺自身も一通り料理については習っている。あるもの全てを使うのが”戦闘術”だ。少しも悟らせずに毒殺したこともある。

初依頼にしては簡単だな、とたかをくくった。

くくってしまったのである。

 

 

所変わって家庭科室である。

毒殺されかけた。

見ればわかる毒毒しさ。

まさか学校にまで敵が来たのかと思った。

俺の目の前には、名状しがたき木炭の様なものがある。

 

「あ、あれー?」

 

と、由比ヶ浜は首を傾げている。

は?わかんないとこあったか?初っ端からだいぶやばかったぞ?

ある種才能レベルの失敗の連続に、完璧美少女雪ノ下SANも頭を抱えていた。

「やっぱり私才能とかないのかなー…。」

 

あるある、自信持って?うちで働かない?

せめて名刺だけでも、と心の中でお辞儀していると。

雪ノ下は、一点の淀みなくこう言った。

「料理は才能の問題ではないわ。練習あるのみよ。」

 

…ん、まあ、そうだな。才能に左右されることなんてそうそうない。万人が嗜む料理なんか特に。

 

「いやー、でもさ、やっぱこう言うのガチでやるのとか、引かれるし。無理そうならいっかなーって。」

 

最近は確かにそう言う風潮が強い。努力する事は美徳とは思われない。妬まれ、蔑まれ。何一人でガチになってんの?と、外野は好き勝手に後ろ指を指す。誰も悪いとは言わない。言うことなど出来ない。人は集団の雰囲気に立ち向かえる程強くない。

だからこそ、孤高に生きる彼女は。凛々しくそれを否定する。

 

「…由比ヶ浜さん。あなたは周りを見ないと何も決められないの?誰かにいちいち許可を得ないと料理すら練習できないの?本気になるのがカッコ悪いですって?誰が何を言おうと関係ないでしょう。やりたいと思った事を、突き詰めたいと思ったことを成すことに誰に憚る必要があるの?そんな風にビクビク生きるのやめてもらっていいかしら。

はっきり言って、不快だわ。」

 

ふ、と。笑みがこぼれてしまった。

こんな人間もいる。強く、気高く、正しい理想を持つ人間も。

 

ちら、と雪ノ下が俺を横目で見る。ああ、違う。悪い意味で笑ったんじゃない。少し嬉しくなってしまっただけなのだ。

 

由比ヶ浜は、驚いたように目を見開き、そのまま固まってしまった。

 

まあ、仕方がない。今日はお開きだろう。

と、俺が由比ヶ浜に声を掛けようとした時。

 

「かっこいい…。」

「「は?」」

「なんか今のグッと来ちゃった!そうだよね、私が決めるんだよね。」

 

そんな事を言い出した。

え?何この人。どんな叱責も力にして行っちゃう人?

プリキュアかな?と俺が呆気に取られてアホなことを考えていると。

 

「…由比ヶ浜さん?私結構きついこと言ったと思うのだけど…。」

「ううん、そんな風にちゃんと言ってくれる人っていなかったからさ。ちょっと嬉しかったんだよね。」

 

「失礼なこと言ってごめんね?雪ノ下さん。もう一回教えて貰える?」

 

そんな言葉を聞いた雪ノ下は、大きく目を見開いて、ふっと顔を崩れさせた。

 

「わかったわ。由比ヶ浜さん。ちゃんと指示を聞く様にね?」

 

そう言いながら二人は、もう一度クッキー作りに取り組む。

あれやこれやと言いながら少しして。今度は少しだけマシな木炭ができた。

由比ヶ浜は、やっぱりかー、と肩を落として。雪ノ下はこれからよ、と慰める。

一つ手に取ってかじって見る。二人が俺に注目する。まあ、食えなくはない。

俺は二人に向き直る。

 

「なあ二人とも、食べ物贈る上で一番大事な事って何かわかるか?」

 

 

由比ヶ浜は、もうちょっと一人でも頑張って見るね、と家に帰った。残った俺たちも部室に鍵をかけて帰る支度をする。

そこでふと、気になった事を聞いて見た。

 

「なあ、雪ノ下。お前、将来の目標とかあんのか。」

 

それを聞いた雪ノ下は、いきなりなにを、と俺を見る。

いや、まあ。深い意味は無いんだけどね。

 

「すまん、なんでもな…。」

「…世界を変える事よ。

この間違った世界全部を、正しく導くの。」

 

彼女は、やはり少しも迷わずそう言った。

この世界を、変える。

 

「そっか…。」

「ええ、そうよ。」

彼女は表情を変えなかった。

俺も雪ノ下も、それ以上の会話はなかった。

 

 

通学路、すっかり赤くなった景色の中で先ほどの会話を思い出す。

 

世界を変える。

 

それがどれだけ難しいか。俺はよくわかっている。

 

今まで何人も、何十人も、何百何千と殺したのに、やはり世界は変わらなかった。

 

俺が殺すまでもなく。毎日何万人と死んでいるのに。世界はゆるゆると時間を刻む。

 

ゆるゆると。いつまでも沢山の人が理不尽に殺されていく。

 

飢えで、戦争で、レイプで、病気で、諍いで。

 

誰かの快楽の為に。利益のために。そして時には意味も無く。

 

ああ、雪ノ下。お前の言う通りだ。

 

俺たちの生きてる世界は、

 

どうしようも無く。

 

間違っている。

 

 

 

 

 

携帯に、メッセージが表示される。

集合場所と、その時間。

かくして俺は、日常に戻る。




にちじょう。
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