これからも八幡は頑張ります!
奉仕部メンバーとかがにちじょうに絡むのはもう少し先です。
しかし原作のところはさくさく行こうかと思います。
金曜夜。
東京都 池袋某所
まだ肌寒く、俺は黒いパーカーの上に黒いジャケットを羽織っている。
ナイフは袖に入れ、拳銃は背面の腰につけている。
深夜の誰もいない立体駐車場を俺は一人で歩いていた。靴は少し高価めの黒い運動靴。変に安全靴とかを選ぶとその特徴的な足跡で痕跡を残してしまう。今履いているのは前もってこの立体駐車場に出入りする人間が履いていたのと同じ銘柄を選んだものである。
四層あるこの駐車場は、付近に上流階級の家が集まっているため、車高の低いスポーツカーや左ハンドルなど、高級車がならんでいる。
此処に並ぶ車の所有者全員が犯罪で稼いでいるとは思わない。
ほんの一部、ごく少数だけなのだろう。
今回の標的は40前半の精神科医である。
彼には家庭があり。子供がいて、立派なマンションの高層に住んでいる。
依頼の内容は暗殺。
条件は誰にも見られないことと。彼が人身売買に関わっている証拠を見つけること。
彼は数年に渡り。うつ病患者やパニック障害の患者を、自殺した事にしてマフィアに売っていたらしい。
家族に厄介払いされた患者や、そもそも何処の人間かわからないが、精神に疾患のある人間を保護と称して引き取り、薬漬けにして流していた様だ。
今回の依頼主は、その被害者の両親だ。
今までは、患者の身上をしっかり調べていた精神科医も、膨大な借金を抱え、焦っていたのだろうか。まあ、そいつの事情にそこまで興味はないが。事故に巻き込まれ、高次脳機能障害を患って入院していた女の子を、リハビリで外を散歩していた時に何処かへ行ってしまった、といって。行方不明にした。
本来ならかなり無理のある言い訳だ。当然両親も納得できずに、娘の捜索を警察に願い出るとともに、精神科医と病院に責任を追及した。
しかしその発言は、とても不自然に揉み消された。
どうやら何年にもわたって人間を売る事で組織に貢献していたその男は、それなりに守られる立場にあったらしい。
警察も一向に娘に関する事も報告してくれない。現在捜索していますの一点張りだったそうだ。
どうしようもなくなり。せめて自分達でと、必死にビラで目撃情報を募集し、色んな人に相談していた時。カトリアさんの勤めるPMCを見つけたのだという。
報酬さえ払われれば個人にも軍事力を派遣する。国家を跨いでも人を探せる組織である。
両親は自分達の貯金を全て使って捜索を依頼した。
精神科医の身辺を全て洗い。マフィアとの関係を発見し、その先の人間オークションを調べ上げた。
依頼から三週間で女の子は見つかった。
中東のよくわからない教団に買われ、儀式と称して犯され尽くし、供物と語られ中身を根こそぎ引きずり出された残骸が。
事故の前はよく笑い、頭は良くないが真っ直ぐな優しい女の子だったらしい。
なんとなく、昨日出会ったアホな少女を思い出す。
よくある話だ。
本当によくある話。
日本で起こったから異常性が際立つだけで、少し地球儀の経度をずらしてしまえば、日常に良くある事なのである。
両親は老後の為のお金と、その女の子の学費と治療費に使うはずだったお金を全て差し出してこう言った。報いを受けさせて下さい、と。
そして”そういう”殺しに慣れた俺が呼ばれた訳である。
ゆらゆらと、立体駐車場を歩く。もう上の階では取引が始まっているだろう。
この立体駐車場は、3階までは一般に利用できるが、4階は、とある組織が貸し切っている。
都心でそんなものを持つとは、なかなかに大胆である。
丁度次の取引に証拠とともに精神科医をおさえる為、今日まで待ったのだ。上には今、精神科医とその”商品”と取引先。そしてその護衛が4人の計7人。
ゆるゆると、階段を登る。
マスクを鼻まで上げる。
ナイフの留め具を袖の上から外す。もう一つのストッパーは腕を振った時の遠心力で外れる仕組みだ。
4階の、一番奥。
標的の位置、人数を補足する。事前の情報と変化なし。
ふっと体を下げ、体重を落とした勢いで走り出す。音は出さない。真っ直ぐ、一瞬で間が詰まる。
一番手前にいて、此方に背を向けていた身体のでかいやつを陰にして緊迫し、腕を振ってナイフを出し、人差し指と中指で挟む。
ひぅっと腕を振る、あの日から何度も繰り返した腕の軌道。
男が前のめりに倒れこむ。首の後ろがぱっかりと割れている。
我ながら、いい出来だ。
五組の目が俺を見る。真ん中の右が精神科医、左は取引先。”人が入れるくらい”の、蓋にいくつかの穴が空いたクーラーボックスは、既に取引先側にある。
その二人を囲むようにして、残りの3人。
一瞬呆気にとられていたようだが、なんとか持ち直し、スーツの中から銃を出そうとする。
ああ、おそい。
一番右の護衛にナイフを投擲。近かった左の奴に飛び蹴りを食らわせ後ろにいた3人目に当てる。
ぐえ、と言いながらすっ転んだ二人を腰から抜いた銃で射殺する。もちろんサイレンサーはつけている。
精神科医は顔を青ざめさせて後ずさる。取引先の奴は、なんとか銃を抜けたらしい。
引き金を引くタイミングに合わせて体を沈める。一回の踏み込みで懐に入り込み顎を左の掌底で突き上げる。
のけぞったところで頭部に一発。スマートだ。
飛び散った脳みそがかかったらしい。顔が汚れた精神科医が尻餅をついている。
こういう時は必死こいて逃げるべきじゃねぇかな。
「なあ、お前は自分が死なせた人間の事をどのくらい覚えてられるんだ?」
俺は、そいつに話しかける。
「最初に売ったやつのことは覚えてるか?2番目は、3番目は。」
「なんでこんなことをする。お前は普通に生きられただろ。」
「まあまあ裕福に、そこそこ幸せに。家族の為に。患者の為に生きられたんだ。」
「本当にわからないんだよ。なんでお前らがこんな事をするのか。」
「なんでこんな事をして、これを忘れてのうのうと生きてられる?」
「みんな幸せに生きればいいのに。せめて不幸にならずにいればいいのに。」
「誰かを少しでも幸せにすればいいのに。せめて不幸にせずにいればいいのに。」
「これはお前の選んだ結末だ。お前が俺を呼んだ。自業自得だ。分かんだろ?」
「死ぬのが怖いなんて言うなよ?お前は他人にただ死ぬよりも酷い事を押し付けたんだ。」
「ここが終わりだよ。いつかこうなるってわかってたんだろ?」
俺は銃を指向する。あの人から貰った銃を、俺が初めて持った銃を。
精神科医は後悔してるのか。それとも最後を見たくないのか泣きながら目を閉じた。
「…一言ぐらい喋れよ。」
引き金を引く。
ごとりと頭が落ちるおと。
煮え切らない死に方だ。
〜
クーラーボックスはそのままだ。実は取引先の奴に一発撃たせたのはわざとである。
あれを合図に会社から派遣された支援要員が警察に通報する。
警察力どころか。国家権力そのものと密接に関係してきたPMCからの要請だ。マフィアの脅しは軽く上回る。
今頃は、警察が現場を押さえているだろう。
もちろん現場を守る為俺も寸前まで残っていた。誰も来なかったが。
顔を見られるわけにもいかなかったのでクーラーボックスも開けなかった。まあ、中の人は眠らされていただろうが。
道を歩いていると、後ろからタクシーが来たので手を挙げて止める。
中に乗り込むと運転手の男がにやにやしながらバックミラー越しに俺を見る。
「よう”影喰らい”。首尾は?」
運転手に扮した”従業員”は俺にそう聞いて来た。
この質問も何度目か。
「いつも通りだよ。」
吐き捨てるように、俺は返した。