「ようガキ、おまえ、なかなかやるじゃねぇか。」
唐突にかけられた声に驚き顔を上げると、そこには、さっきまでは絶対にいなかった筈の男がニヤニヤ笑いながら立っていた。
身長は日本人にしてはかなり高い方だろう180後半はありそうで、軽く癖のあり、すこし白髪の混じった頭髪は外国人のモデルみたいにバランスよく流され、ほりが深く、鼻筋の通ったルックスと相まって、大人な渋さを売りにした俳優のようだった。服装は高価そうなダークスーツに紺色のネクタイ。よく見れば右耳に三つ、左耳に二つピアスが付いている。
しかし、やはり何より特徴的なのは目だろう。俺も目が腐っていて、相手に威圧感を与えると担任の先生に言われたことがあるが(実際には、もう少しオブラートに包んでいたが要約するとこんな感じだった。)、この男の目は種類が違う。刃の様に鋭く、全てが見えているかのように静かだった。その辺のガラの悪い奴らの、自分が強いと勘違いして、周りに敵意を撒き散らす神経質な猿の様な目ではなく。自分が強いと知っている猛禽類の様な目だった。
「かはは、にしても、最近の中学生は加減を知らんな。なかなかひでぇぞおまえ。」
全身痛すぎたのと、全く見覚えのないおっさんに話しかけられたので、咄嗟に返答できず、それでも何か言おうとした口がぱくぱくと動く。
「あー、あー泣くな、男前が台無しだぜ。まあ、止めなかったのは悪かったよ。お前がどんだけ粘るのか見たくてな。」
「…は、はあ?」
何とか絞り出した声は、我ながら返答なのか呻き声なのか判断がつかなかったが、男には聞こえたらしく。やっと帰ってきた反応に、嬉しそうに笑みを深める。
「どっかで逃げるか、立ち上がらなくなるかと思ったが、最後までくらいついてたなー。最終回ののび太君かお前は。 実はあの虐められてた子供は、未来から来たアンドロイドとか?」
「何言ってんの、おじさん。」
讃えてるのか馬鹿にしてるのか微妙なところだが、本当にこのおっさんは何者なのだろう。(心の中ではおっさんと呼んでるが、流石に面と向かって言うのは、憚られた。)
「む、おじさんとは何だ、いや、32歳じゃどう見てもおじさんか….時が経つのは早いな…。」
「だれ、なの。」
なんか遠い目をしだしたおっさんに、途切れ途切れに誰何する。
「んー?俺?俺は済崎。済崎啓介だよ。お前はなんてーのさ。」
意外にあっさりと名乗られてしまった。スミザキと言っていたがどう書くのだろうか、住崎?そして、俺自身の名前も聞かれてしまった知らないおじさんに教えてもいいのだろうか。
「ん?おいおーい、人に聞いたんだから自分も名乗んなきゃだろ?」
「え、あ、比企谷八幡です。」
俺もあっさり教えてしまった。いきなり声低くなるんだもん。敬語になっちゃったし。いやそれで正しいんだけども。
「ふーん、八幡、八幡かー。おもしれぇ名前だな、わるくない。」
確かにいい名前とは思ったことはないが、おもしろいだろうか。その後も、ふんふんと何か悩む動作をし、やがて、”そうだ、九州行こう。”ぐらいの気安さで俺に向かってこう言った。
「八幡よ、俺の弟子にならんかね。」
「…は?」