「…お…!おい…!」
…んあ、…なんだ…?
「おい!ハチ公!状況送れ!」
…?誰だ?今どうなって。
「ハチ公!!」
…!
覚醒。脳が目から入る状況を高速で処理し始める。
敵5人、右2人左3人、銃指向、引き金引くまで3秒。
ガバッと身体を跳ね上げる。いきなり立ち上がった俺に敵は身体を一瞬硬直させる。
まずは左、一番手前にいた奴の銃の被筒部と銃把を掴み、ひねりながら押し込む。そいつを盾にしながら直進、ゴリ押しで他2人を押しのける。そこで反転。今度はそいつの首に手を回し、膝を後ろから蹴って体制を崩す。同時に太ももから銃を抜いて発砲する。1人一発、3人死亡。
右から撃ったので一番左で手前にいた奴が残った。盾に使ってた奴を左の奴にぶつけ、両方射殺する。
死体を瞬時に観察する。私服、中国人、武器はそれぞれで種類が違う、しかし質は悪くない、少なくとも海賊版とかではないだろう。だが俺の取り囲み方から見て戦闘の訓練を受けたわけじゃなさそうだ、銃のフォームも悪かった。マフィアの構成員?
近くに積まれた段ボールの陰に身を隠し、今度は周りを観察する。爆発でかなり崩れたらしい。俺が貼り紙を見た時、左の壁が爆発した。壁の反対側に仕掛けられてたのか。
「おい!ハチ公!どうなってる!死んだのか!?」
「…生きてます。すんません、気絶してました。待ち伏せされてたみたいです。」
「くそっ、外も最悪だ、倉庫の周りを包囲された。となりの倉庫にもぎゅうぎゅう待機してたらしい。」
「…影喰らいさん!良かった、無事だったんですね!なんとか今すぐそこを離脱して下さい!」
嵌められた、俺が来ることが分かってたのか。情報漏洩?会社の中にもラバーズがいるのか。
敵の足音がする、かなりの人数、全員が武装してると思っていいだろう。
外からは車両の音、高火力火器も持っているかもしれない。
…やべぇ、これ生き残れるか…?
と、俺の頬に冷や汗が一筋流れた時。
外からアメリカ映画の冒頭に聞こえるような爆発音がした。
「おいおい、中ばっか見てっと怪我すんぞ。」
悪逆、派手好き、ハリウッド。
火力馬鹿が、反撃を開始した。
〜
カールグスタフm4、無反動砲の最新型である。より軽く、より短く、運用性に優れた型で、発射可能な弾にも幅があり、対戦車榴弾や榴弾、発煙弾も撃つことができる。ちなみに自衛隊が使っていのはこれより3つとか2つ前のやつで、とにかく重いし当たらない。早く新しいの買ってやれよ。
通常なら2人1組で運用する無反動、しかしそうも言ってられないことは多々ある。一発立ち撃ちで撃ったらすぐにしゃがみ、太ももにのせてケツの部分をスライドして開く、右下に置いておいた弾を薬室にぶち込んでまた立ち上がり、車両に撃ち込む。装甲車や戦車なら細かく狙わないとだが、乗用車ならどこ撃っても大体爆発する。
至る所で焔があがる。怒号が、悲鳴が聞こえる。
「はっはっは!一瞬冷やっとしたが。やっばこうでねぇとな!」
気分上がってきたぁ!
〜
俺の知り合いサイコパスばっかだな。
外ではぼっかんばっかん車が吹っ飛ぶ音がする。大丈夫かこれ、流石に揉み消せなくない?まあ全部マフィアのせいにするんだけど。
後ろは大丈夫そうだ。前に集中しよう。敵はあと7秒で角を曲がってくる。おおよそ6人。角と俺の間には瓦礫が散乱している。
敵が角の手前で止まったのがわかる。おそらく一番前のやつからゆっくり曲がってくるだろう。
来た。瓦礫のおかげで音がする。どんなに気をつけても素人では限界がある。あと3メートル、…2、…1、…今!
段ボールで身体をカバーしながら膝撃ちの姿勢で半身を出し射撃する。一番手前の奴から腹の高さで狙い、引き金を引いたまま跳ね上がりを抑えて全員の腹部を流す。当たった奴は腹を抑えて蹲るが、弾の貫通力が低く、重なっていて前の奴が盾になったらしく、2人だけ残る。
陰から飛び出し2人いた内の右側の奴を蹴り飛ばす。左の奴は慌てて銃を向けるが、身体を落として銃線を外れ、そのまま懐に入り左手のブレードを出す。
喉をひと突き、こぽっと水っぽい音がしてそいつは膝から崩れ落ちる。
飛び出してからここまで1秒。
蹴られた奴が起き上がろうとする。右手で拳銃を抜いて頭を撃ち抜いた。
さて、どっから出るか。と考えながらまだ息のある奴らを射殺する。
この程度なら大体逃げ切れるだろう。1人ならきついが千川さんもいる。
と、俺が具体的な離脱方法を考えていると。無線から恵理さんの声がした。
「影喰らいさん、今千川さんが南西方向を中心に道を開いてくれてるので、そこをなんとか突破して下さい。」
「了解。」
経路も決まった。さて、強行突破か、何か車両とか奪うか。
「…!!影喰らいさん!まずいです!そっちにヘリが向かってます!軍用ではありませんが、恐らく戦闘部隊が乗っていると思われます!到着までおよそ5分です!」
え、まじ?ガチじゃん相手。
俺を殺すためだけにこんなことを?なぜだ。確かに俺はあいつらにとっては邪魔かもしれないけど、ここまで金をかけるほどか?武器も弾薬もタダじゃない、1人のためにこれほどの人員を投じるのか?
「任せろ!俺が撃ち落としてや…っておお!?」
千川さんの通信が入ったと思ったら耳が割れるかと言うほどの爆音が聞こえる。
「千川さん?!大丈夫ですか!」
「…おお!俺も車も無事だ!だが砲は置いて来ちまって使えなくなった!弾薬は無事だが単体じゃ役に立たん!
俺もそっちに合流する!なあに任せろ!殴り合いの方が得意だ!」
銃相手に殴り合うな、そもそも合えないし、一方通行だし。
まあ、それはともかく、白兵戦での千川さんの強さはよく知っている。助けに来てくれるのは普通にありがたい。
「…影喰らいさん。ヘリから戦闘員が降下してます。装備から見て、同業会社のスペシャルフォース級かと。」
「この近くでっつったらA&Aか?マフィアがPMC雇いやがったのか。」
「日本のヤクザだって戦闘指南にPMCを雇ったことがあります。でもスペシャルフォース級はかなりお金かかると思いますけど…。」
「とにかく。交戦したら殺してもいいんですよね?」
「もちろん!こう言うのはお互い様ですから。気兼ねなくぶっ殺しちゃって下さい!」
まあ、仕方がない。金を貰ってる以上、お互いに給料に見合う仕事をしなければならない。恨みっこなしだ、俺も死ぬわけにはいかない。いや、スペシャルフォースと戦わないといけない依頼ではなかった筈なので給料は別に請求するが。
そもそもおかしい。なぜ俺がくる前提で奴らは準備してたんだ?あのはりがみといい、罠やPMCといい。それなりに準備しているようだった。
俺を殺そうとしてるのはラバーズか?それともマフィアか?どっちにしたってなぜ俺にこだわる。
有利に戦える地形を探しながら倉庫内を移動する。千川さんの援護か無ければ、外の包囲を突破するのは難しい。しかしプロを相手にしなければならないのはきついので早く出たい。勝てないとは言わないが苦戦を強いられる。無傷では済まない。学校もあるので出来るだけ戦いたくはないがーー
「こんばんわ!」
唐突にかけられた挨拶。俺がそちらを向くより早く右半身に衝撃を感じる。
それが蹴りだと理解する前に、条件反射で右肘が脇腹をガードした。
「ぐっ!」
勢いを殺さず、自ら飛んで衝撃を減らし、あえて地面を廻り受け身で転がり距離をとって態勢を直し。同時にMP7を指向する。
「いやいや、お待ちしてましたよー。影喰らいさんですよね?」
「…あんた、誰だ。」
なんとかそう返す。脇腹が痛む。しっかりガードしたのに、衝撃だけがあばらに突き抜けている。
男はスーツ姿だった。身長は高め、整った顔立ちは不気味なほど完璧なビジネススマイルに固められている。髪は七三分け、テンプレートなサラリーマンだった。
しかし、先程の蹴りが、その異様な雰囲気が俺の警戒を高めさせる。
「ラバーズより参りました。島松晴人です。この業界には珍しく、普通の名前でしょ?」
「まあ、貴方に対して個人的な恨みは驚くほど皆無ですが、
貴方に嫌がらせすると面白いらしいので。」
一切表情を変えず、淡々と男はしゃべる。
「ちょっと死んで見てくれません?比企谷八幡さん。」
その台詞に、俺の日常は崩されたと直感した。