俺たちの世界は間違っている。   作:ゆきわぎ

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なぜ?

車が爆発する5分前、フェンスを突き破ったのと同じ頃。

 

俺はその男と睨み合っていた。

 

俺はいまサブマシンガンを向けているが、十中八九当たらないだろう。島松と名乗った男は緩く気をつけの姿勢をとっているが、軽く握られた手は、手の甲が此方に向いている。多分ナイフを持っている。投げるか、もしくはスペツナズナイフみたいなやつ。おそらく毒も塗られている。

「どうしました?撃たないんですか?」

 

男はにやけながら俺を見ている。

 

「…今撃つよ。」

 

そう言って俺は引き金を引く。ダダダッと言う銃声と共に弾が発射されるが、やはり男は銃線をそれている。そのまま右手に持っていたナイフの”引き金”を叩く。

ナイフの刃の部分が発射された。やはりか。

 

俺はサブマシンガンでナイフを受ける。惜しいが、この間合いでこの男に銃は意味をなさないだろう。

 

「あれ?やっぱきづいてました?」

 

男の言葉には答えない。俺はスリングのストッパーを外し銃を投げながら体を低くして男に走り寄る。

 

「キャッチ」

 

男は銃を片手で取って、そのまま走り寄る俺に殴りかかろうとする。

 

俺は振り下ろされた右手を左手で受け、自分の右手を男の右手の肘関節に引っかける。

振り下ろされた手の勢いを殺さずに肘関節を手前に、左手は相手の手を軽く返しながら腰元に引き込む。

 

「おお!?」

 

上受け投げ。いなし、ずらし、相手の力に自分の力を乗せてすっ転ばせる。

そのまま手を捻って膝蹴りで折ろうとするが、相手の反応の方が速かった。自ら地面へ転びその勢いのまま体を捻って俺の頭に蹴りを叩き込みに来る。俺は左手を離し蹴りを受けて、右手の下段突きで顔面を殴ろうとする。

 

しかし男は俺の手をすんでで掴み、巴投げをかけてくる。俺はそれに逆らわず体を投げ出し、廻り受け身で片膝を立てた姿勢になおる。ほぼ同時に俺の顔面に足刀蹴りが飛んでくる。右手で逸らしながら左手のブレードを出す。そのまま身体のバネを使ってはね上がるようにして左手で首を狙う。

 

「ええ!?なにそれ!?」

 

ギリギリで首を反らせれ回避される。皮一枚切るに留まった。

男は俺から距離をとる。

 

「びっくりしたー。え、他にもなにか仕込んでます?」

俺は応えない。

 

息を吐き、身体の力を抜く。

 

こいつが恐らく当初の目標だった現場責任者だろう。連れて帰るのは無理そうなのでせめて殺しておくことにする。

こいつが捌いた武器で何人の人が不幸になったのか。マフィアやヤクザ同士ならまだいい。だが、一般人にも危害が及んでいる。余計な武力を持った奴らが、抵抗できない人達を苦しめている。

 

雨の音が聞こえる。

古い小屋を思い出す。

 

体重を支えることを脚が忘れてしまったかのようにぐらっと身体が落ちる。

 

踏み込み。極限まで行き渡らせた脱力から、一気に加速する。

 

「わ、はやっ」

 

一瞬で懐に入る。奴が合わせるように右フックを放ってきたのでそれを掴む。

 

「うっそぉ。」

 

男は信じられないと言うように声を零す。俺は掴んだ手を引き込みながら左膝を相手の脇腹に叩き込んだ。予想どうりスーツの下にアーマーを着込んでいたが、ちょうど隙間の部分を狙った。恐らく肋は折れただろう。

 

追撃しようとしたが、異変を感じて飛び退いた。

男は膝をついている。

 

その時、外で爆発音が聞こえた。車か何かが吹っ飛んだのだろうか。

 

「おやぁ?外もなんだか派手にやってますねえ。まさか”悪逆”まで居るとは。誰か来るだろうとは思ってましたが意外なビッグネームが来たものです。」

 

男は喋り出す。

 

「にしても今回の件は色々予想外なことが多いですねえ。ここに来るまでに影喰らいは無傷だし、マフィアは話で聴いてたより少ないし。

なんか”あの女”も来るとか言っといて来ないし。」

 

外から漏れて来る炎の光で中が少し照らされる。

 

「いやいや、言い訳とかじゃないんですよ?まあ、侮っていたところも少しはありますが。ただ…。」

 

「あなたちょっと強すぎません?」

 

男の言葉を聞いてから俺は自分の右の脇腹を見やる。

 

そこにはナイフが刺さっていた。

しかし見覚えがある。おそらく膝蹴りした時に俺のアーマーについていた投げナイフを抜いて刺したのだろう。

 

ここまでのことができるのに、俺のことを強いとは。

 

「…お前らは、なんなんだ。なぜここまでして俺を殺そうとした。俺の名前まで。」

言いながら俺はナイフを抜く。一応腹には出血防止、脱腸防止用のバンドをあらかじめ巻いている。

 

「…ふふふ、実は最近、ラバーズの中でも一部の有力者にこの間とあるメールが届きまして。内容は”影喰らいにちょっかいをかけろ。”でした。”禁忌の愛”からの指令なんてなかなかないですから、退屈してた我々は喜び勇んで日本に集結してると言うわけです。因みに指令には影喰らいは日本の関東地方を中心に活動する、”ステア・セキュリティパートナーズ”の暗殺要員で、若い日本人男性。と言う情報もありました。名前までわかったのは別口の裏技があるんですがね。あ、ご安心下さい。今の所貴方の正体を知っているのは私だけですので。」

 

男は予想外にも色々話してくれた。

 

「…意外に喋ってくれるんすね。何人ぐらい来てるんですか。」

 

なんとなく敬語になってしまう。

 

「今は気分が良いので。でもこれ以上は話しません。」

 

男はそう言って目を細める。

 

「続きは、…戦いが終わってからにしましょう!」

 

言いながら男はこっちに向かって凄まじい速さで走って来る。

 

これで最後だろう。腹の痛みを堪えながら構える。

 

右左のコンビネーション、両方を受け切るがその流れのまま左足の前蹴りが脇腹に来る。なんとか右足で受けるが腹に激痛が走り、血液が喉に登って来る。

 

腰だめにした右こぶしで相手の胸骨付近を突く。かはっと息が漏れ出たのが聞こえ、男はよろめく。追撃を加えようと踏み込むが大きく外から来た右フックに頬を撃ち抜かれる。

 

リーチが違う。もっと入り込まなければ勝てない。

 

更に踏み込み喉に左手で手刀を突き込む。右手でそらされ左の肘が俺の顎にせまり、それを右手でガードする。

 

突くたびに、受けるたびに激痛が走り、力が抜ける。

 

踏み込む、踏み込む、踏み込む。

 

至近距離で攻撃を捌きながら流れるように反撃する。

 

手を廻すように運用する。相手の攻撃を自分の流れに組み込む。

 

捌ききれなかった攻撃が身体に突き刺さるが無視する。

 

やがて俺の拳が相手の顔を捉え始めた。胸を、腹を打ち続ける。

 

「っつあああああ!」

 

やがて壁際に追い込み、顔面に拳を叩き込んだ。

 

壁と拳に挟まれ、とうとう男の手が止まった。

 

拳を戻す。これで平然と立って来たらいよいよしんどい。俺お腹に穴空いてるし。

 

「う、く、ふふふ。すごいなあ。」

 

男は壁に背中を預けてずるずると座り込んだ。

 

「強すぎ。さすが済崎の弟子だ。ヒーローみたいですね。」

「…教えろ。お前はなぜ、今日俺がここに来ると分かってた?まさかあの張り紙も、爆弾も取引のたびつけてたわけじゃないだろ。あのマフィア達だって。」

 

男は、顔の至る所か出血しながらも、やはりニヤケながら俺を見上げる。

 

「さあ?私の携帯に今日影喰らいが来るとメールがあったので、急いで準備したまでですよ。」

 

まえもって言って欲しいですよねー。と男は言った。

 

「…影喰らいさん、貴方はすごい人だ。その歳で、その強さ、冷静さ、知識、そして恐ろしく強い精神力を持っている。」

「…何言ってんだ、あんた。」

 

男は笑みを更に深めながら続ける。

 

「貴方の経歴、戦歴を調べました。凄まじいの一言です。一体何が貴方にそうさせるのか。どんな絶望的な状況も、貴方は不屈の精神で生還して来た。」

 

男は自分で喋りながらヒートアップする。

 

「さらに驚くべきは、貴方はそのまま学校に通っているということです。”ご両親はいないとしても”。二日間不眠不休でゲリラ戦闘をして、週明け平然と通学し、誰にも悟られない。はっきり言って正気じゃないですよ。ぼっちだからとかそんな次元じゃない。貴方は、何のためにそこまで?あの”啓発者”、済崎啓介の影響ですか?」

 

俺ははあ、と息を吐く。

 

「みんな幸せにしてりゃあ良い。せめて不幸にならなければ良い。目の前に問題があって、それに対処できる能力があれば、そりゃやんだろ。」

「…やはり貴方は面白いな。そんな普通の考えを、当たり前の考えを、我々の世界で貫こうとする。」

 

男は眩しいものを見るように目を細める。

 

「影喰らいさん、日本に居るラバーズの中で私が分かるのは”銀杏”、”ゴールデンライアン”、”篠霧姉妹”、”蜘蛛”、”蜂”、”爆弾魔”、それから”太刀屋”ですかね。まあ、基本的に日本に元々いた人達ですが、これから増えるかもしれません。」

 

「…あんたらは、なんでこんな事をする。普通には、生きられなかったのか。」

 

俺はそう問うた。すると男は吹き出してこう言った。

 

「貴方がそれを言いますか。なあに、生まれた意味を見つけたかっただけですよ。私にとってそれが、”人生を楽しむこと”だっただけです。」

 

「…満足したのか。」

「…ええ、とてつもなく。」

 

それを聞いて。俺は右手のナイフの留め具を外し、右手にナイフを落とした。

 

男に歩み寄る。殺さない選択肢はない。

 

そいつはやはり笑っていた。

 

腕を振る。血が舞って、決着した。

 

 

「千川さん!急いで!」

「分かってるよくそっ!」

 

表での戦闘が終わった俺は倉庫の入り口に駆け寄る。恵理ちゃん曰く、ハチ公と連絡がつかないらしい。中に入ってったマフィアは出てこないが、警察の到着もある。一刻も早く離脱しなくてはならない。

 

俺は扉に手をかけ、勢いよく開き、中に銃を向ける。

 

と、そこに死人が立っていた。

 

「うおお!?」

「あ、千川さん。ちょっ、俺ですよ!銃向けないで!」

 

よく見たら死んだ目をしたハチ公だった。俺は慌てて銃を下ろす。

 

「ハチ公!良かった!お前無線は?」

「あ、すんません。顔に一発貰った時に壊れました。」

 

俺ははあ〜と息を吐く。しかしすぐに持ち直して、ハチ公の後ろを確認する。

 

「中に入った奴らは?」

「大体なんとかなりました。」

 

と、倉庫の中からは凄まじい程の血の匂いがした。

 

…1人で、やったのか?

 

「おま、怪我してんじゃねえか!」

「はい、めちゃくちゃ痛いんで早く帰りましょう。」

 

ハチ公は脇腹から出血していた、恐らく刺し傷。少なくとも平然としてられる怪我じゃない。

 

「影喰らいさん!?良かった!生きてたんですね!海岸に迎えのボートが来てます。急いで乗って下さい!」

 

無線から大音量で恵理ちゃんの声がする。そう、今はとにかく離脱だ。

 

「ハチ公!乗れ!」

「は?」

「背負ってやる!急げ!」

「えぇ…。」

 

なんか嫌そうにしてたが気にしない。出血が酷くならないよう気をつけて走る。

 

俺は背中に乗ったハチ公に声をかける。

 

「なあ、ハチ公。お前大丈夫か。」

「はい?いや、大丈夫ですけど…。」

 

そいつはやはり、平然とそう言った。

 

 

2人が居なくなった倉庫の前に一台の車が停まった。

中から出て来たのは2人の男女。

男の方は半袖にジーパンと言う、どこにでもありそうなラフな格好である。

 

「あの、姐さん、本当にいるんですか?」

 

男は女にそう話しかけ、姐さんと呼ばれた女は返答する。

 

「いいから来い。」

 

女はリクルートスーツ姿で、背が高め。髪はポニーテールにしており。気の強そうな目と綺麗な顔立ちから、変に威圧感がある。

 

2人は倉庫の中に入り、死体がそこらじゅうに転がった床を歩く。

 

「うっげー、やべえな影喰らい。高校生ぐらいのガキって話じゃなかったでしたっけ?」

 

女は返答しない。男も気にしたふうではない。

 

やがて、首から血を流した跡があるスーツ姿の男の死体の前で2人は立ち止まる。

 

「うわあ、”ファンタジー”の兄貴がマジで死んでる。いい人だったのに…。」

 

そう言って男は胸の前で十字をきった。

 

「ふん、味見などと欲張るからこうなる。まあ、気持ちはわからんでもないが。」

 

と言いながら女はスーツ姿の男の死体を観察する。そして、右手を見た時、にやあ、と顔を歪めた。

 

「うわ、なんすか姐さん、気持ち悪いっすよ。」

「殺すぞ貴様、いいから早くこいつを連れて行って治療しろ。」

 

男はその言葉に、へ?と首をかしげる。

 

「いや、治療って言っても。もう死んでません?」

「馬鹿が、右手を見ろ。」

 

言われて男は死体の右手を見る。そこには何か筒状のものが握られていた。

 

「…注射器?押し当てると勝手に針が出るやつ?」

「そうだ、恐らく睡眠薬だろう。こいつは首を切られた時、すぐにこいつを打って自分から昏倒し、出血を抑えたんだろう。」

「いや、でも影喰らいがそんな浅く切りますかね?」

 

女はすっと目を細める。

 

「この男は、恐らく自分と話した影喰らいが”躊躇ってしまう”だろうと予想してたんだろうな。刃物で切られるのも影喰らいの殺し方の偏りを知っていたんだろう。影喰らいは、ナイフで首を切ることにこだわっている。特に、自分の印象に残った相手に対しては。」

 

何かトラウマでもあるのかね。と、女は笑う。

 

「私も会ってみたいな、影喰らい。」

 

彼女は心底楽しそうにそう笑った。

 

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