俺たちの世界は間違っている。   作:ゆきわぎ

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愛人達の蜘蛛

昼休み、

俺は一年の頃から使っていた、昼飯の定位置。通称ベストプレイスに来ていた。

視線の先には昼練をする戸塚がいる。こうしてみると、成る程テニスとは貴族発祥と言うだけあって、それをする人の美しさを際立たせるらしい。

 

テニスコートには戸塚が舞っている。チームがやる気になっているとは本当のことらしく、前は誰もいなかった昼練は何人かのテニス部員が参加している。

 

戸塚がチームメイトと笑いあっているのを見ると心が暖かくなる。

 

いや割とキモいな俺。

 

そんなアホな思考をしていると。後ろから近づく気配に気づいた。思ったより接近されてしまったらしい。

 

「動くな。」

 

俺は短く”彼女”に注意した。

 

気配が足を止める。

距離はおよそ4メートル。おそらく、相手の間合いにも入っている。

「やっぱ気付くんだねー。」

 

その人は、そんな気の抜けた声をあげる。

 

俺は首だけで後ろを振り向いた。あえて背中をむけて、右手をポケットに近づける。

 

「あんたが”蜘蛛”だな、海老名姫名。」

「せーいかーい。正式には”愛人達の蜘蛛”、海老名姫名です。」

 

「よろしくね?”影喰らい”の比企谷八幡さん。」

 

彼女はそう名乗った。

 

パンはすでに食い終わってる。右脚は階段に投げ出しているように見えるがしっかり足先を地面につけている。左脚は折りたたみ、右脚の下にいれ、思いっきり力を入れれば瞬時に立ち上がれる。身体を一瞬で反転させナイフを投げる想像をする。

 

殺せる。おそらく確実に。

 

「わーわー。待ってよ、戦う気なんてないよ!?私だって影喰らいに正面から戦って勝てるなんて思ってないから!」

 

蜘蛛は焦ったように両手を前に出して待ったをかける。

 

「…じゃあなんで接触してきた。とゆうかお前ら全員何がしたい。俺の正体知ってんのどんくらいいんだ。」

「質問が多いよ。えーと、最初のは面白そうだからだで、二つ目は面白いことしたいで。三つ目は、昨日の今日で比企谷君の顔が面白かったからかな。」

 

あれ?最後喧嘩売られた?

唐突な罵倒に一瞬ビビったがなるほど、昨日の倉庫の事を知っているなら俺の顔を見てなんとなく繋げたのだろう。

しかし事件は神奈川であった、俺と決めるには根拠に乏しい。

 

「まあ、前からなんとなく同業者かなとは思ってたんだよね。んで、メールが来てティンと来た感じ。」

 

と言いながら彼女は俺のとなりに座る。目線は前に向けている。

うわ近い近いやばいいい匂い近い。

 

とゆうか俺全然気づいてなかった。

その事実に軽く背筋が凍る。もしこの人が敵意を持っていたら。いや、どこかのタイミングで気づいたろうけど先手を打たれたのは間違いない。

いや、今打たれてないとも限らない。

 

「大丈夫だよ。君の事喋ったりしない。」

「…信じる根拠がない。」

 

俺がそう言うと、海老名さんは妖しげな笑みを浮かべて俺の顔を覗き込む。

 

「私は面白い事を独り占めしときたいタイプだから。」

 

彼女としっかり目があった時、俺はあろうことか固まってしまった。

 

その眼鏡の奥の、真っ暗な目に引きずり込まれるような感覚。

思考が停止し、彼女の目だけが俺の脳内を占領する。

 

間違いなく彼女は一定のレベル以上の殺し屋だ。一対一の殴り合いなら俺が勝つが、彼女の土俵では絶対に敵わない。

 

どのくらいそうしていたのだろう。とても長く感じたが、実際にはほんの一瞬だったと思う。

 

「君は面白いね。うん。私達が狙うには十分だよ。」

彼女が顔を戻す。横目で俺を見ていた。

 

息すら忘れていたのか、俺は荒い息を吐く。

 

「興奮しちゃった?ごめんね、さすがにここじゃ何もしてあげられない。」

 

彼女はいたずらっぽくそう言った。

その表情が、悔しいが可愛らしく感じた。

 

海老名さんは間違いなく、男の心を揺さぶる術を知っている。いや、恐らく女性も籠絡することができるのだろう。

 

彼女にとっては、しゃべるという行為がそのまま攻撃なのだ。

 

「…俺を狙ってるラバーズの情報を寄越せ。」

俺は絞り出すようにそう言った。

情けない。今までこういった敵が出てこなかったから耐性が出来ていないのだろうか。それとも彼女自身の殺し屋としてのスキルなのだろうか。

 

絶対的に俺の方が有利な筈のこの場で、主導権は確実に彼女が握っていた。

 

「さすがに人の情報は売れないなあ。意外にも人付き合いが命の業界でもあるし。ラバーズで反感買うと割とマジでやばいしね。」

「尋問するって言ったら?」

彼女は首を傾げてこっちを見る。

「そんなので喋ると思う?君が私でも喋らないよね。そもそも君そんな事できなさそうだし。」

 

ニヤニヤ笑いながら彼女は言った。

 

クソが、喋ってて勝てる気がしない。

この人には本当に敵対する気はないのか?じゃあ、まだいいのか?

「んふふー。結衣には悪いけどつまみ食いしたいなー。」

 

そう言っていつの間にか俺の二の腕を触っていた。

ちょっ、何してんのこの人。うわっ、振りほどけないし。

 

「おおー、なかなか鍛えてますなー。見た目暗いのに服の下には鍛え上げられた筋肉が。2人きりの教室で2人は禁断の恋を成就させる!組んず解れつの愛情のぶつけ合い!これはやばいよ、来てるよほんと。ハチハヤ来てるよ今!」

 

なんの話?

…え、そっちの話?

 

「しまった、いつの間にか隼人君で再生されてた。でもいいなー、比企谷君。食べたいなー。あ、みんなの前ではヒキタニ君って呼ぶから、キャラ付の一環で。」

ここで特別扱いを嗅ぐわせる、やな手口だ。

殺し屋としての下心しか見えない。

 

「あれ。疑ってる?私仕事とプライベートは分ける方だよ?」

「プライベートで俺殺そうとしてんだろ。」

 

俺は吐き捨てるように言う、とりあえず戦う気が無いなら無理に殺したくは無い。どうせいつかは殺し合うだろうけれど。海老名さんは一応由比ヶ浜の友達でもあるし、今はどうこうとはいかないだろう。

 

「んー、本当に君の事気に入ってるんだけどなー。

あ。」

 

海老名さんが何か思いついたのかすっと身体をあげて、顔を俺の耳に近づける。

 

何、やっばりやるのか、やるのかおらあ!

 

そんな俺の動揺などお構い無しに、彼女は艶っぽい息を吐いて囁くようにこう言った。

 

「私まだ処女だよ?」

 

俺はもう一度固まった。

 

 

”禁忌の愛”からメールが来て次の月曜日、学校に元から目をつけていた男子生徒が遅刻して登校してきた。

 

顔は明らかに殴られた跡があり、脇腹も庇いながら歩いている。間違いなく彼だ。

 

すごい偶然もあったものだと思う。まさかあの影喰らいがクラスメイトとは。

 

彼の資料を読んだ。彼の事は一年の頃からなんとなく見ていたが、あんな馬鹿みたいにきつい仕事を捌いていたとは知らなかった。

 

まるでヒーローみたいだ。

自分の身を省みず、彼は沢山の人を助け、同じくらい殺してきた。

 

すごいなあ。こんな人が現実にいるんだ。

 

見たい、すごく見たい。

比企谷君が壊れちゃうところが見てみたい。

 

私はまだ手を出さないでおこう。敢えて正体をバラして一番近くで見ることにする。

 

”蜂”ちゃんには悪いけど、彼がおかしくなっちゃうところが見れるように、いい感じに立ち回ろう。

 

ああ、神様はきっといるのかも知れない。丁度学校に飽きてきてたとこだったんです。

 

楽しいなあ。本当に。




書けたので投稿します!

ラバーズ全員出せるのか…
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