「ヒッキー!怪我大丈夫なの!?」
「貴方、それは誰にやられたの?」
放課後、奉仕部
扉を開け、顔を合わせた瞬間、俺の挨拶より早く2人は俺に向かって問い詰めてきた。
「ずっと気になってたんだけどなかなか声かけられなくて…。何かあったの?」
「貴方は多少心得があるようだけど、敵わない相手とそうゆう事はするべきではないわ。」
心配、してくれてるのだろうか。
まあ本当の事を言うわけにもいかない、適当に誤魔化すしか無い。
「いや、階段から落ちたんだよ。うちのマンションの。」
「嘘ね、殴られた跡かどうかくらいわかるわ。今回はその程度の怪我で済んだからいいものの。平塚先生も心配してたわよ?」
「そうだよ。ヒッキーあんまり強くなさそうだし、やめといた方がいいよ。」
その程度っていうかお腹に穴空いてるけどね。もちろん言わないけど。
もうめんどくさいからそういうことにしとこう。て言うか負けた前提なんですね。まあ分かるけど。
まあ思春期の男の子だし、これからはそういう路線で誤魔化していくか。
その後は雪ノ下から効果的な護身術だったりを習っていた。まあ正直、自分で言うのもなんだが釈迦に説法だ。殆どの技術は俺も知っているものである。
しかし、女性特有の力のなさなどから来る工夫など、まあ知ってはいたが参考になるところもあった。
最後らへんはほぼ由比ヶ浜への講義だった。
由比ヶ浜も興味のあるところらしくきゃっきゃっ言いながら習っていた。雪ノ下も教えるの上手いしな。
その日は特に依頼人も来ず、下校時間となった。
〜
放課後、サイゼリヤ
俺は妹の小町から今日は外で食べるのでお兄ちゃんも適当に食べてきてと言う絶望的なメールが来ていたので、しぶしぶファミレスに来ていた。
まあ良いけどね?サイゼ好きだし、小町も学校の友達とかいるだろうし。
小町はいろいろあって最近まで俺に依存気味だったのだが、最近は少しずつ昔の明るさを取り戻しつつあり、友達と遊びに行ったりもする様になった。
喜ばしいが、少し寂しかったり。
まあ、小町の事はいったん置いておこう。
ミラノ風ドリアをつつきながら考えるのは”蜘蛛”の事である。
彼女の目的は何なのか。本当に面白い事をしたいだけだとしても(ふざけだ理由だが)、何をして来るのか。
報告すべきか?あのままにして良いのだろうか。やはり殺すべきか。手荒になっても情報を引き出すべきか?
クラスメイト、しかもあの由比ヶ浜の友達だと言う事が、俺の判断を鈍らせる。
早く手を打たなければ、俺の身の回りの人に危害が及ぶかも知れない。家の場所も特定されかねない。一応学校にはダミーの住所を使っているが、彼女相手には意味を成さないだろう。
小町に危険が及んでしまうかも知れない。
考えれば考えるほど戦うという選択肢に絞られる気がする。
そう、躊躇う必要があるのか?何時ものように証拠を残さず、パッとやって仕舞えばーー
「怖い顔してるよ?ヒキタニ君。ちょっと自分の世界に沈みすぎじゃない?」
彼女の声が真横から聞こえた。
俺は瞬時に背中の腰からナイフを抜く。が。
「ワンキル」
俺の目の前にピストルの形を取った手の指先があった。
「だめだなあー、油断しちゃだめだよ。私だから良かったものの、他のラバーズだったら殺されちゃってたよ?ここがファミレスとか関係なく。」
彼女は勝ち誇った表情で、指先をフッと硝煙を吹き飛ばすような仕草をし、俺の対面に座った。
全く気配が無かった。油断してた訳ではないのに。
昼のは本気じゃなかった?
その気になればいつでも殺せるってことか?
背中を嫌な汗が通る。彼女の言う通り、もしあれが俺に敵意をもっていたやつだったら。
「まあ、気付かれなかったのは私に殺意が一ミリも無かったからって言うのもあるかも知れないけど。それにしたって警戒度低いよ?そんなんじゃこの先生き残れないぜ?」
海老名さんは机に両肘をついて指を組み、それに顎を乗せる。
俺の顔を覗き込むその表情は、まさしく人殺しのそれだった。
「何の、用だよ。」
この人には最初から上を行かれている。俺は本当にこんなひとがいながら気付けていなかったのか。
「別にー?たまたま見かけたから声かけただけだよ。暇なら私とお茶しようぜー。」
「ふざけんな、そんな仲じゃねえだろ。」
「ありゃ、嫌われてるなー、私。まだ何もしてないじゃん。と言うか、本当に敵意とかないよ?仲良くしたいって思ってる。」
信じられるか。
くそ、ペースが乱れてる。何を、何をすればいい。
そんな俺を彼女はじっと見ている。
「…ラバーズ内での影喰らいの評価は”高い潜在性を感じさせるが、精神面が未熟。その戦闘技術は既にある程度完成されており、単独で組織単位の敵と交戦し勝利を収める程であるが、時として冷静さを欠き、その身を危険に晒すことが多々ある。本質的に正義感が強く献身的。他人の心に寄り添う共感性を持っている。”ってとこ。」
「…は?」
「これまでの貴方の経歴とかを調べたラバーズの1人がそんな感じの評価を出した。まあ、私も見てみておんなじイメージを抱いた。見るからに強いし、私なんか到底及ばないけど、自分の家族とか友人のことが絡み始めると途端に冷静さを欠く。失うのが怖いんだね。他人が苦しんでても心が痛むのに、それが身近な人だったら君は耐えられないかも知れない。今だって何時もの君なら多分気付けてたのに、自分の生活圏で事が起こってるから集中力を欠いてる。」
「…俺に友人なんかいねえし、大切な人もいない。勘違いすんなよ。自分以外の人間気にかける程余裕ある生活してねえし、仮になんか思うとこがあったとしてもそこまで必死になってねえ。」
その言葉に海老名さんは、やはり妖しげな笑みで俺を見る。
「その怪我で何言ってるのかなぁ。まあ、君はご両親を事故で亡くしてるもんね。妹さんの学費も稼がないといけない。若いのに苦労が絶えないねー。でも、例えばあそこにいる君の妹の小町ちゃんがラバーズの誰かに酷いことされたら君はどうする?何故か偶然ここに来てる結衣や雪ノ下さんがそうなったら?」
海老名さんは、俺の左肩の後ろに目をやった。
俺は跳ねる様に目線の先に顔を向け、そこに小町達の姿を確認する。
「…お前…!」
「わーわー、待ってよ。私なんにも関与してないよ?ただの偶然だってば。」
すると、俺の背後から誰かが近寄ってくる気配がした。
もう一度俺は後ろを見る。
「あれ?やっぱりヒッキーだ。どしたのこんなところで…。と、ひ、姫名…?え、二人って、え…?」
近づいて来ていたのは由比ヶ浜だった。俺と海老名さんが一緒にいるのを見て困惑しているらしい。
「はろはろ〜。いやぁヒキタニ君とは昼休みにお互いの共通の趣味があることを知ってねー。たまたまここでも会ったから、親交を深めてたんだよ。とは言え結衣の思ってる様なことはひとつもないから安心してよー。」
「え!?いや、私は別に…。」
由比ヶ浜はなんかごにょごにょ言ってる。海老名さんはそれをみてなんか知らんがにやついている。
すると由比ヶ浜の後ろから今度は黒髪ロングの女子高生が出て来た。
「貴方はたしか…、由比ヶ浜さんと同じクラスの海老名さんだったかしら?その男はやめておいた方がいいわよ?暴力に走る危険な男だから。」
やかましい。と言うか、海老名さん相手だとどっちにしろ、いざとなったら実力行使ぐらいしか出来ないので間違ってはないかも知れないが。
「…まあ、確かに”ちょっと”危険かもねー。」
と、海老名さんは流し目で俺を見る。
俺はその目を逸らしこそしないが、引いてるのがおそらく顔に出てたと思う。
鳥肌立ちそう。
そんな俺達を見て由比ヶ浜が焦った様に切り出す。
「あ、えと。私達も今日勉強会で来たからさ、どうせなら一緒にしない?」
すると海老名さんは笑顔を由比ヶ浜に向けて。
「いいねー。それならあそこにいるヒキタニ君の妹さんも呼ばない?」
と、海老名さんがそんなことを言い出す。
すると。
「あれ?こっちからお兄ちゃんの気配がする。」
「はい?何言ってんすか比企谷さん。」
聞き慣れた妹の声と、聞き覚えのない男の声が聞こえた。
声のした方向に首を向ける。
小町が、男と一緒…?
「おお!?やっぱりお兄ちゃんだ!気配までわかるとか小町ポイント高い!」
「え、ほんとにいらっしゃったんですか。」
まず、かなり普通な感じの男子中学生が目に入る。
危険度は限りなくゼロ。多分間違いなくカタギだ。
その横にいたのは俺の最愛にして唯一の家族。
「あれ…?なんか女の人がいっぱいいるんだけど、なにこれ?」
比企谷小町、俺の妹である。
「説明あるよね?お兄ちゃん。」
俺の妹はそう言って凄惨に笑った。