「八幡よ、俺の弟子にならんかね。」
「…は?」
こいつはなにを言っているんだと目を見開く。(今気づいたが左目が開ききらない、まぶたが腫れているのだろうか。)
「かはははは。いやあ、さっきのお前の喧嘩見てたらなんか気分上がってな。こんなに気合いのはいったやつが強くなっちまったらどーなんのかとおもってな。」
こいつは、何となく強そうと言うのはわかるが、他人もそうできると確信しているのだろうか。
「別に、喧嘩したいわけでも。喧嘩がうまくなりたいわけでもない。」
「ほーん。強く、ではなく。うまく。まあ、そこはいーや。なりたくないって?」
「わさわざ、練習してまで、やるようなことじゃない。」
というか、喋るのも疲れて来た。ねむい。
「小学生にしちゃあ、悟った考えだ。ふつうなら、結構食いつくと思うんだがなあ。ベストキッド的な。」
まあ、俺が見るからに怪しいのもあるかなー、と男は笑った。
「まあまあ、もうちょい話を聞いてからでも遅くは…、て、あら?」
しかし、その言葉を最後まで聞く前に、俺の疲労は限界に達したらしい。
〜
「んぁ、んん?」
「お、起きたか。」
眼を開けると、そこはおっさんだった。
「ひっ、たべないでください!?」
「たべないよ。」
やべえ、おっさんに喰われる。と、体を飛び起こして逃げようとするが、頭を押さえられて、失敗する。
「おいおい、俺の膝枕なんてお金積んだってなかなか体験できねぇぞ?もうちょいゆっくりしていけよ。」
「いやいや、本当にお気遣いなく家も心配してるんでこれで。」
何とか拘束を解こうとするがそこで自分の体の痛みに気づく。
(あー、なんか思い出してきた。確か中学生に絡まれてるタケル君見つけてそれで…)
「よー、思い出したか。まあ、無理すんな。そんままでいい。」
「すいません、どんくらい寝てましたか。」
焦って周りを見渡すが、辺りはまだ明るい。(今が夏のはじめというのもあるが。)そんなに時間は経ってないはずだ。
「んー、30分ぐらいだ。回復がはやいな。」
それを聞いてほっと胸を撫で下ろす。
「そーいえば、あの虐められてたのは、知り合いか?実は親友だったとかか?」
一応知り合いではあるが、話してしまって良いものか迷ってしまう。すこし考えた末に。俺が起きるまで見ていてくれた恩もあるので、話すことにした。といってもあんまり情報はないが。
「さっきのは、タケル君です。同じ学校のひまわり学級の子で、多分、あの中学生の服にジュースとか零しちゃったんだとおもいます。タケル君自身とは俺は直接話したこととかないですけど。」
なんならほとんど誰とも話した事ないまである。
「話したこともない人の為にそこまでやったのか。」
男は驚いたように眼を見開く。
「別に、タケル君の為にやった訳じゃないです。ただの自己満足ですよ。」
「自己満足でも、その結果に誰か助かってんなら立派なもんだ。」
「だがまあ、弱けりゃあ、自分すらも満足させきらないがね。」
男はそう言って挑発的に笑った。
「八幡よ、今回はお前の根性で追い返せたけど、次もそうとは限らないぜ?あの中坊どもはガラ悪そうだが、それでも日本の義務教育でもたらされた道徳心をほんの少しでも持ってる。だけど、世の中にはそんなもん欠片も持ってない奴らがうじゃうじゃいるんだぜ?」
「そんな奴らと関わったりしないよ。」
「いーや、お前はいつか必ず出会う、そしてその時、お前は我慢できない。きっと眼をそらせず。首を突っ込んじまうよ。」
男はそう断言した。確信を持って。まるで見てきたかのように。そして俺は、その言葉にすぐには反論できなかった。
「お前は強いよ。きっと、弱い人が苦しんでる時、見て見ぬふりをできない。たとえさっきのより酷い状況で、勝てる見込みがなくても。」
男はそう言って俺の頭をなでた。その手はごつごつしてて。それでいて熱かった。気付けばあたりは赤くなっている。普通の家庭なら親が心配する時間だろう。だが俺はその時、そんな事は頭になくて。ただ、男の目を見ていた。
「さあ、どうする。お前の人生に、きっと強さは必要だ。」
それからほんの少し考えて、俺は男に答えを出した。