俺たちの世界は間違っている。   作:ゆきわぎ

32 / 42
害虫

由比ヶ浜さんとはあの後軽く食事に出かけ。別れた私はタクシーを捕まえて、家の近くのコンビニで降りた。少し買うものがあるのである。

 

ふと、飲料コーナーに最近たまに、本当にたまーに飲むようになった暴力的な甘さのコーヒーを見つけた。

 

それを手に取り、最近食べたものを思い出しながらカロリーを計算する。

 

大丈夫、運動もちゃんとしているから問題ないはずだ。

 

コーヒーをカゴにいれ、ガラスの戸を閉める。

 

閉めた扉に映った自分の顔と目があった。

 

私は笑んでいた。楽しいのだろうか。

カゴに入ったコーヒーを見て、私はあの部室を思い出していた。

 

テンションが高く、私とは真逆だがとても優しくて、友達想いな少女と。

 

無口で捻くれていて、そのくせこのコーヒーを勧めていた時は異常に興奮していて。それでいて川崎さんの悩みを簡単に解決した少年。

 

ずっと一人でいたが、あの二人と三人でああしてどうでもいいことを話していれるのは、幸せなのかもしれない。

 

会計を済ませてコンビニを出る。ここから私の部屋迄は五分くらいだ。

 

そういえば肥満の確率はコンビニからの距離に比例すると聞いた事がある。

 

…いや、大丈夫。きちんとカロリーは計算している。自己管理は出来ている。

 

由比ヶ浜さんはよく食べるらしいが、テニスの時一緒に着替えたが、ウエストは美しく引き締まっていた。

 

なぜかしら。

 

上も大きいし。

 

自分の身体をチラッと見る。

 

姉は高校生の頃には確かもう。

 

いえ、まだよ。そういう所は遺伝によるところが大きい。

 

右手に感じる重みを思い出す。

 

来週分のノルマ、牛乳パック三本。

 

ええ、大丈夫。望みはあるわ。

 

私は足を進める。早く家に帰ってパンさんでも見ながらーー。

 

その時

 

私の背中に

 

冷たい感覚が走った。

 

殺すと、耳元で囁かれたように。

 

「っ!?」

私は前に飛びながら身体を反転させ、背後を見る。

 

そこには。

 

誰も居なかった。

 

 

「はろはろー。こんな夜にどうしたのー。」

 

「もしかして迷子?なんならおねーさんが送ってくよん?」

 

私は比企ヶ谷君と別れた後。車を呼んで、急いでこちらに戻って来た。

 

色々あったので間に合うか不安だったが、なんとかなってよかった。

 

「…何の用ですか。」

 

私の前にいる少女は不機嫌そうにそう聞いて来た。

 

「私のセリフだよ。ここ雪ノ下さんちの近くでしょ?そんな危ないもの袖に仕込んで、何するつもりだったのかな?」

「貴女には関係ないでしょう。」

「いやいや、雪ノ下さんとは友達になったしね。それにこの後は結衣のとこに行くつもりなんでしょ?」

 

暗い夜の闇の中にいた彼女は、ゆっくりとこちらに歩きだし。街灯が彼女を照らす。

 

黒髪の先はヘアチョークで黄色に染められており。黒地に黄色のアクセントの入ったポンチョに黒いスカート、黒と黄色のしましまハイソックスに運動靴。

 

「前から思ってたけど、特徴増やすタイプの変装とはいえ、冗談みたいな格好だよね。比企ヶ谷小町さん?」

 

あの少年の面影を待つ彼女は、真っ暗な目で私を睨む。

 

「ブラザーコンプレックスもそこまでいくと愛なのかな?中学の頃から健気にお兄ちゃんに寄ってくる女の子を追い払って来て。比企ヶ谷君の唯一の友達だった折本って言う子も殺そうとしたんだよね?まああの子は調べ屋が貴女から守るために、死なない程度に車で轢いちゃったらしいけど。」

「でも偶然ってびっくりだね。あの"影喰らい"と"蜂"が兄妹なんて」

 

彼女は、影喰らいと言う単語に反応したのか。ぎりり、と顔を歪ませる。

「同じ兄弟姉妹でも川崎さんとことは随分形が違うよねー。まあ小さい頃からの苦労を思えばしょうがないか。」

「さっきから何訳知り顔でくっちゃべってるんですか?いきなり横から邪魔して来たかと思えば。あの"愛人達の蜘蛛"がお友達の為に来たと?ああ気持ち悪い。あと顔どうかしたんですか?元から酷いのに、直視出来ないレベルになってますよ?」

 

やっと喋り出したかと思えばまあ口がお悪い。猫を被るのは兄の前だけらしい。

 

あと顔が腫れてることに関しては言わないでほしい。私だって乙女なんだぜ☆

 

「まあ、誰が死んでもいいっちゃいいんだけどさー。ちょっと君のお兄さんに借りができてね。なあに。貴女の思ってるようなことはなかったよ?ただちょっとした修羅場を二人で超えて、絆レベルがガン上がりしたぐらいでさ?この怪我も彼との共闘の証だぜ。いやぁ蜂ちゃんにも見せてあげたかったなー。」

 

びきり、と彼女から嫌な音が聞こえた。

 

「まあまあ怒んないでよ。ここは少し私達も仲を深めてさ。なんならお義姉ちゃんと呼んでくれてもいいよ?」

 

シャキッと言う音とともに、彼女の両腕の袖から、刃物が飛び出す。

 

街灯の光を鈍く反射するのは、えーとなんだったかな。劇薬に強いイリジウムかなんかでできた刃である。刃と言うか針に近い、そしてよく見れば先には穴が空いている。

 

彼女は確かな憎悪と、嫉妬と、殺意を込めて私を睨む。

 

「殺す。」

「かかって来い。殺さずに終わらせてあげよう。」

 

さてと、害虫同士馴れ合おうかな。

 




幕間な物語
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。