俺たちの世界は間違っている。   作:ゆきわぎ

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恋の爆弾魔

平日の残りの2日を、俺は部活を休みたいと進言した。

 

「またなの?そんな気楽に休めるものと思われては困るのだけれど。」

「すまん、だがこのバイトを続けねぇと困ったことになる。」

「…貴方バイトしてたの?」

「…言ってなかったっけ?」

「言われてないわ。…はぁ、まあ貴方の家は事情もあるし、特別に許可します。でも家で昨日渡した問題集を完璧に解けるまで反復してきなさい。…まさかあんなに酷いとは思わなかったわ。」

「…俺は文系狙いですんで…。」

「それ以前の問題よ。まあ、無理はしないように。」

「…おう。」

 

そう言って俺が荷物を持って帰ろうとした時、雪ノ下が俺を呼び止めた。

 

「ねぇ、貴方週末は空いてるかしら?」

「?いや、すまん。週末もバイトだ。」

「そう…。」

「なんかあるのか?」

「いえ、ただの家族の行事よ。姉から知り合いを呼んでもいいと言われたから。」

「…東京とかでやんのか?」

「え?いえ、千葉よ。」

「そうか、すまん。」

「いえ、いいのよ。由比ヶ浜さん達は来てくれるそうだから。」

「そうか、まあ、楽しんで来てくれ。」

「ええ、そうするわ。」

 

と、彼女は少しだけ微笑んだ。

 

 

土曜 朝 セーフハウス

 

「影喰らいさん、必要なものはありますか?」

「いや、いつも持ってるやつで行きます。」

 

今回の俺の装備は、ミリタリ系の黒のズボン、アンダーシャツの上に防弾ベスト、その上に更に厚めのシャツを着て、左の脇にワルサーPPK、ワイヤーにアサシンブレード、パーカーを羽織りチャックを閉める。そしていつものナイフである。

 

爆弾魔に会うには紙装甲だが、街中で目標を探すとなれば偽装のために薄くなるのはしょうがない。

 

「あと十分でヘリが到着します。品川駅は閉鎖できませんでした。警察犬を大量に配置し、爆弾処理班が待機。事前の捜索では爆弾は発見されなかった為。前回と同じ手口を使うと思われます。」

「なぜ閉鎖できなかったんですか。」

「起こるかどうかも分からず、今日かどうかも分からないのに閉鎖は出来ないということだそうです。」

「…くそっ」

「品川駅は1日でも機能しないと大変な経済的損失に繋がりますから…。」

「…わかってます。」

「…今日仕掛けてくると思いますか?」

「わかりません。しかし対処しないわけにはいかない。」

「…それも、そうですね。」

 

そう、俺も、多分恵理さんも、何かが引っかかっている。

 

本当に合っているのか?このままでいいのか?

 

「影喰らい!待たせたな!リムジンの到着だ!」

 

ばらららららと言う凄まじい音と共に、TV局に偽装されたヘリが到着する。

 

「見てくれがだせぇのは悪りぃが。乗り心地は保証するぞ!」

「どーも。」

 

ヘリを乗って着たのはいつかの"従業員"。大体の乗り物は何でも操縦できるらしい。

 

「緑の心臓は現在待機中です。警察では対処不可能となれば即座に出動します。まあ、サブ要員なので数は少ないですが腕は確かですよ。」

 

…待機、か。

 

大元の爆弾魔に警察を当てるのはきついだろう。今までわけわからん強さのラバーズもいた。もしそいつが海老名さんレベルの人殺しだったら、死体の山ができる。

 

かといって自衛隊のS部隊を派遣できる規模でもない。

 

そんで、今までも何人かとやってた俺が選ばれたんだろう。

 

いや、ステアから来た、"国内でのラバーズの案件は影喰らいを当たらせろ"ってやつか。

 

ぐんっという下向きのGを感じ、ヘリが離陸するのを感じる。

ここからは、あまり時間はかからんだろう。

 

ヴヴヴヴと、携帯が震えているのに気付く。

 

こちらは、プライベート用か。

 

画面に表示されていたのは。

 

「…はい。」

「あ、はろはろー。比企谷君いまどこ?」

「どこに聞こえる。」

「ヘリの中かな。うるさすぎて耳やばい。」

 

海老名さんだった。

 

なんだ?なんのようなんだこの人。

 

他の相手だったら出ないが、この人だったらまあヘリの中でもいいだろう。

 

「何の用すかね。」

「いやー、今日空いてるかなって。」

「空いてるように思うか?」

「あははは。いや、今日さー。雪ノ下さんに誘われてサキサキと結衣と一緒に雪ノ下さん家が建設に関わったって言う建物に来たんだけどー。」

「あ、そう。それで?」

 

あー、そう言えばそんな話あったな。雪ノ下姉が言ってた雪ノ下への週末どうこうはこれか?

 

「空いてたら比企谷君もどうかなって。」

「だから空いてないって。」

「そう?残念。あ、因みに、その建物がさー。ホテルとオフィスビル、それからショッピングモールの複合なんだけど。なんと名前がねー。」

「人の話聞いてた?だから行けないって…」

ほんとマイペースに喋るなこの人。何が言いたいのだろうか。

 

「ニューエラって言うらしいよ?」

「…は?」

「日本語だと"新時代"、だっけ?」

「なっ!それって…!」

「あと一時間半くらいでテープが切られるんだけど、結構人も集まってるね。テレビも来てる。」

「海老名さん!そこをーー」

「来るなら早めにね?」

 

ぷつっと電話が切れる。

 

今のは、まさか。

 

「従業員!行き先変更だ!」

「あん?どちらまで?」

「今日オープンの千葉の高層ビル、ニューエラまで!」

「あいよー。」

 

まずい、まさかそんな。

 

「ちょっ、影喰らいさん!?何をー」

「あいつらの狙う場所がわかった!今日オープンするのは品川駅だけじゃない!」

すると、無線に砂上さんの声が入る。

 

「千葉市に出来たビルだね。雪ノ下建設と他三社が建設して、アメリカのロス・イーストが投資、オフィス部は完売の期待の星だよ。」

「彼奴らの狙いはそこだ!」

「ーっ!!緑の心臓を派遣します。影喰らいさんは目標を捜索して下さい。」

「いや、ビンゴだね。誰も入れない筈のビルの屋上に誰かいる。」

「はい!?誰ですか!?」

「いや、上からじゃ顔わかんないね。ヘリポートの端の方に座ってる。これは…、妊婦、かな?」

「意味わからんこと尽くしじゃないですか!」

「爆弾はどこに?」

「ビルは55階建、上30階はホテルだけど、これでオフィス完売って相当だよ。」

「そんなもん倒壊させんのどんくらいいるんですか。」

「うーん。いや、玄関側だけ吹き飛ばせば瓦礫で下の人達は大体死ぬね。」

「んじゃあ、それが狙いか…。」

「ではその仮定で捜索させます。とりあえず下の人の避難を…。」

「いや、間に合うかな。仕込みは終わってるだろうし、下が動き始めた時点で爆破させるかも。」

「くそっ、じゃあ知らせずやるしかねぇのか。」

「私が話を通しておきます、影喰らいさんは屋上の人間の方に行ってください。」

「了解。」

 

ばらららららと、ヘリが進む。

 

くそが、なんでもっと早く気付かなかった!

 

 

「姫名ー、どうしたの?」

通話終了の画面が表示される携帯を見ていた私は結衣に呼ばれて振り向いた。

 

「…いや、なんでも?それよりここ人いっぱいで見えにくいからさ、ちょっと後ろのあの高くなってるとこ行こうよ。」

「えー、ゆきのん遠くならない?」

「ちゃんと双眼鏡も持って来たからさー。」

「…あんたなんでそんなもん持ってんの…。」

 

そんなことを言いながら、私たちは後ろに下がっていく。

 

雪ノ下さんは関係者席、かなり前の方にいる。

 

少し前の彼女なら、家族の行事に友達を連れて来たりはしなかったろうけど…。

 

私が爆弾魔の犯行予告を知ったのは今日の朝。このビルのオープンには、結構な数の人がいた。ビルの売名の意味もあるのだろう。

 

…さて、流石に雪ノ下さんは連れ出せない。よろしく頼むよ?ヒーロー君。

 

 

「はぁっはぁっ…、くそっ!」

 

俺は走っていた。流石にこのビル自体にヘリをつけるわけにはいかず、近くのヘリポートから車を使い、ビルに入った。

 

ビルの屋上に直通するエレベーターは無い。いくつかのエレベーターをあみだくじのように経由する。

 

フロアを走り回るせいで無駄に疲れる。だがもう時間はない。

 

カンカンと屋上につながる階段を登る。お偉いさんも使うだろうに、味気のない階段だ。

 

屋上に出る扉のパスコードを砂上さんが解き、扉を開く。

 

目を覆いたくなるような、日の光。その奥に、椅子に座った女性を見つけた。

 

「お待ちしてました。影喰らいさん。」

 

その人は俺の姿を見て、すっと立ち上がる。

 

一番目を引くのは、ポッコリとした腹部。胸ぐらいまである髪と、大きめな胸。母性と言うものを体現したような、柔和な笑みを浮かべた女性だった。

 

俺は銃を抜き、女に向ける。

 

「"爆弾魔"だな。お前を捕獲する。」

 

それに対し、やはり女は微笑んだまま。

 

「あらあら、捕獲だなんて。珍獣みたいな扱いですね。」

「似たようなもんだろう。無駄に抵抗すんな。」

女は、微笑んだまま、すっと目を細める。

 

「私は貴方が来るのを待ってたんですよ?少しぐらいお話させてくれてもいいじゃないですか。」

「だまれ、俺がお前に聞きたいことなんてーー。」

 

と、俺が言いかけた時。無線に恵理さんの声が入る。

 

「…やられました、影喰らいさん。品川駅でテロが発生しました。」

「…なっ」

俺は女に顔を向ける。

 

「品川駅に電車が入るタイミングで、二階を走る線路の柱が爆破され、脱線した電車が駅に突っ込んだそうです。」

「そんな、どうやって…。」

「間違いなくそれまでは爆弾はありませんでした。しかし爆破の直前、大量のドローンが飛んでいるのを見たと。おそらく爆弾を括り付けたドローンを柱に…、被害は甚大、だそうです。」

 

俺は女に銃を向けなおす。

 

「てめぇ!」

 

ぎちり、と、女の笑みが色を変える。

 

「ああ、向こうも上手くやってくれたのですね…。それは、それはとてもいいことです。自分達が死ねなかったのは悔しいでしょうが…。」

「ふざけんじゃねえ!自殺ならてめぇらだけでやれ!」

 

女はそっと、お腹を撫でる。

 

「あぁ、そういえば自己紹介がまだでした。私は、暫定的に"爆弾魔"の指導者をやらせていただいております。」

 

女は少し顎を引き、艶めかしく上目遣いに俺を見る。

 

「新堂加恋と申します。これから少しの間ではありますが、どうかご記憶なさいませ?」




頑張れ八幡
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