命は平等か?
そもそも何を基準に考える?
客観的になんて無理さ。どうしても主観で見るしかない。
他人と自分、どっちが大事だ?
…ああ、まあ自分だろうな。
なら他人百人と自分一人なら?
命は平等か?
お前にとってお前自身の命は他人何人分だ?
お前は何になら自分の命をかけられる?
かはは、お前は自分が一番だって言うけどな、きっとお前は、本当に選ばなきゃならなくなったら自分を捨てるよ。
それが合理的だとか言ってな。
なあ、お前は、自分を大切にする事を覚えな。
安心しろよ、お前が思ってる以上に、いざって時は誰かが助けに来てくれるもんさ。
命は平等じゃあない。
だがな、そりゃあ軽んじて良いって意味じゃ無い。そう言うのを履き違える奴らが大勢いる。
俺達は人殺しだ。
だからこそ、命の重さって奴をお前なりに考えろ。
お前自身の命も含めてな。
〜
「さあ、どうします?選んで下さい。無辜の市民か、貴方一人か。このビルはここらで一番高く、海も近いので勿論狙撃なんて出来ませんし、ヘリなんか来ようものなら直ぐに飛び降ります。」
「貴方が、選ぶしか無い。貴方の価値を、命への価値観を教えてください」
女が、俺に選択を迫る。
どう、する。
俺か、数百人か。
いつかの、師匠の質問を思い出す。
死ぬ?俺が?
いや、覚悟はあった。
後悔もない。
俺は、他人の為に死ねる人間か?
いや、いやだ。死にたくない。
死ぬわけにはいかない。
小町が独りになってしまう。
両親が死んで、小町は心が壊れてしまった。
俺まで居なくなったら今度こそ戻れないだろう。
残していけない。まだだめだ。だめなんだ。
銃を、下ろす。
女が目を細め、にぃと口を割る。
無理だ、他人の為に死ぬなんて。
会ったこともない奴らだぞ?確かに、雪ノ下達もいるが、そんなに仲が良かった訳でもないし。
悔いは、残るだろうけど。
ても、無理だ。すまん。俺には、死なない理由が。
そもそも、出来る範囲でやるつもりだったし。俺は聖人じゃない。命を代償になんて、そこまで思ってなんかなかった。
俺はなんで戦ってたんだったか。
なんで今まであんなに苦労して走り回ってたんだったか。
俺は他人を助ける為に生まれてきたのか?
救世主なんて、ふざけるな。
期待するな。出来るわけがない。
俺は、なぜ。
夕暮れの公園を思い出す。
ただ殴られていた彼を、放っておけなかった。
なぜ?
雨を思い出す。ぼろい小屋を、何かが折れる音を。
助けを求めてた。その人だけじゃどうしようもなかった。
理不尽に誰かが苦しめられるのを。
誰も助けてくれない苦しみを、俺は知ってたんだ。
助ける力があるなら。力になれる場所にいるなら。
少しぐらい何かしてもいいって思ったんだ。
そして俺にしか出来ないなら。やるのは当たり前だって思った。
理想の為に生きる少女を見た。優しくて、騒がしい少女を。兄弟の為に頑張る少女を。
そして孤独な殺し屋の少女を。
彼女達が、下に居る。
誰かの為に死ぬのは美しいだろう。そうやって生きれたら素晴らしいだろう。
俺は何の為に生きる。なぜ戦ってきた。
他人の為?俺の為か?
下にいる人達と、俺。
重さの違いは歴然だろう。
ああ、すまん小町。俺は駄目な兄だ。
事ここに至ってなお、俺は家族を優先できないのか。
放っておけない。死なせたくない。
こんな奴らの快楽の為に。誰かの都合で人が死ぬのを見てられない。
ここで引けば。俺は二度と立ち直れない。
俺はこいつらとは違う。
ああ、くそ。死んでやるよ。一人も死なせてやるか。
お前らみたいなやつが、いるから、どいつもこいつも不幸になんなきゃいけねぇんだ。
「残念です、影喰らいさん。でもそれもまたいいでしょう。そう、他人の為に死ぬことなんてないんですよ。みんながみんな。無関係に、無責任に生きるのです。生きて、死ぬんです。」
女が、一歩、一歩と後ずさる。あと数歩で、落ちてしまう。
俺は銃を女の頭に向ける。
「!あら?考え直したのですか?」
「…ああ、付き合ってやるよ。クソ野郎。」
女が、今度こそ、声を上げて笑った。
「あはは、は、あはははははははははは!そう!そうですか!ああなんて素晴らしい人生でしょうか!一緒に死んでくれる人がいるなんて!それが貴方とは!私は!私の人生は幸福だったと心から言える!」
「なっ!?だ、駄目です!影喰らいさん!そんなことする必要ないでしょう!なんで貴方は自分をそんな簡単に割り切れるんですか!」
簡単なんかじゃない。
ああだめだ。手が震える。
死にたくねぇなぁ。
ごめんな、小町。本当に、ごめん。
「恵理さん。小町を頼みます。」
「ふざけないでください!そんな、そんなの…!」
俺が命を張ることなど誰も知ることはないだろう。ステアが隠滅して、俺は違うところで事故死したことになるだろう。
それでいい。知られたくもない。こんな死に方。
俺が今まで貯めた金で小町は大学までいけるし、それからもそこそこ余裕を持てるだろう。
「ああ、素晴らしい。あなたに、感謝します。そして、貴方にも、良い最期を。」
後悔ならある。
だが決めた。
女が手を広げる。
「さあ。どこでもどうぞ?一発で、終わらせてください。」
狙いを定める。
「ああ、あばよ。」
そして、俺は、ゆっくりと、引き金を
「死なせはせんさ。友よ。」
その時。無線に男の声が入った。
ぱぁぁんと、銃声が響く。
血が舞う。くるくると、"リモコンを握っている女の手"が飛んでいる。
「ーーえ?」
呆然とした、女の声がする。
「合わせろ!影喰らい!」
さっきの声とは違う男の声がした。これは、従業員か!
ドンッ、と駆け出す。女がこちらに目を向けて、即座に歯を噛み締めようとする。
かごっと口に手を突っ込む。
そのまま、俺はビルの縁から飛び降りた。
「ーー!!?!」
女が目を剥く。何の、つもりかと。
がんっと女の背が、"ヘリの床にぶつかる"。
女が状況を理解し、俺を思いっきり睨みつける。
「俺も予想外だったよ。」
ごっと女の頭を殴りつけ、女は意識を手放した。
〜
ばらららららと、はるか上空で飛ぶヘリを見ていた。
ほんの少し前、ビルの縁から、二人の男女が飛び降りていた場所だ。
「無茶するなぁ。まあ、ありがとね。」
ふ、と目を前に戻すと。
ばつっ、とテープが切られ、拍手が上がる。
みんなが、新しい物をみて、上を見ている人なんて居なかった。
結衣とサキサキも、すごいねと言いながら私の渡した双眼鏡を覗き込んでいた。
「君の献身を誰も知ることはないけど。君はそれで良いんだよね。」
誰にも見えないところで戦った少年を思う。
さて、彼は君の助けになったかな。
狙われるところが幸いして彼への依頼はすんなり行った。
まあ、彼一人でも、比企谷君だけでもどうしようもなかっただろう。
関係者席に目を向けると、ある女性が雪ノ下さんを連れて歩いてきた。
「あ!ゆきのんだ!」
「うわ、高価そうなドレス…。」
「川崎さんも似合うと思うよ!」
「い、いや、私は別に…。」
彼女が雪ノ下さんを連れ出してたか。
さあ、比企谷君の守った場所だ。ありがたく出店でも回ろうかな。
〜
「はっはっは!かなりひやひやしたが。何とかなるもんだな!」
従業員がげらげらと笑っている。
こいつは俺が飛び降りるタイミングに合わせ、ヘリを高速で近づけつつ機体を傾け俺たちをキャッチした。
死ぬかと思った。いや、死のうとしてたんだけども。
「二度とごめんだくそ。」
「ほんとですよ!もう絶対勝手に死のうとなんかしないで下さい!貴方はもっと自分を大切にすべきなんです!」
「いや、あれはしょうがないというか…。」
「何百人死ぬぐらいなんですか!私は貴方の方が大事です!」
「…すんません。」
ふぅふぅと、無線から恵理さんの息が聞こえる。
ふと手を見ると、震えているのが分かった。
ああ、本当に、二度とごめんだ。
帰って小町抱きしめたい。
「…はあ。それにしても。さっきのは一体…」
…くそが、本当にうちの学校魔境すぎんだろ。
「さあ。他にも誰か雇われてたんじゃないすかね。」
「ステアではなさそうですが…。取り敢えず調べておきま…」
「ハチ君、大、丈夫…!?」
「あ!詩織ちゃんちょっと…!」
「良かった…!良かったよぉ…!」
「…すんませんでした…。」
「無理しちゃ、だめ、だよ…。」
「…はい。」
「ちょっと!なんで私の時より殊勝な態度なんですか!あとで話があります!」
ちら、と。女を見る。
「それで、こいつはどうなるんですか。」
「…取り敢えず外科手術で爆弾を取り出して、その後は警察に引き渡しですね。向こうもバタついてはいると思いますが、一応、ある程度依頼達成、ですね。」
はぁぁ、と息を吐く。
阻止できなかった品川駅では。かなりの人数が死んだらしい。
なんとも、嫌な気分の最後だった。
〜
その後のことについて、少し恵理さんと話をして、俺は帰路についた。
ぶるる、と俺の携帯がなる。プライベートの方だ。
出ると、嫌に良い男の声が出て来た。
「比企ヶ谷だ。」
「八幡か。」
「…あん時のは、お前だな。材木座。」
俺はその男の名前を呼ぶ、あのメガネをかけた、あの冴えない、あのデブの、材木座義輝だ。
「…そうだ。」
「…知ってたのか。」
「当日になって会社を通して依頼が来た。上司があの建物の関係者でな、休みだったところを叩き起こされたのだ。」
軍用銃を長く使う奴は肩が下がる、反動の大きい狙撃銃なんかは特に。
「あのふざけた手袋も豆や痣を隠すためか。」
「ああ、まあな。」
「どこの所属だ。」
「A&Aだ。」
あんな条件で当てられる奴が居たとは。しかも腕を正確に撃ち抜いて、吹き飛ばした。
「…なんで無線に割り込んだ。声でバレかねないとは思わなかったのか。」
「お前たちの近くに飛ばしていたドローンで状況は把握していた。せっかく女がビルの縁に立って狙える様になったのに。八幡が死のうとしていたのでな。口を挟ませてもらった。」
「…」
「八幡。お前ならそうするだろうとは思っていた。」
「…うるせぇ。」
「ふっ。義を見てせざるは勇なきなり、だ。友の危機なら、手ぐらい貸すさ。」
「…ああ。」
くそったれ、どいつもこいつも、人のこと大事にしやがって。
「…ありがとよ。」
「ふむん。なりたけ一回で手を打とう。」
「ああ。わかった。」
だが、助かった。本当に。
死にたくは、なかったからな。
「して、八幡よ。お前に会わせたい人が居る。」
「あ?」
「お前も面識はあるだろうよ。」
「…?」
その時、後ろから車のライトが近づいて居るのが分かった。
その車は、俺の横に停車する。
「その車だ。」
「…見てんのかよ。」
「まあな。」
がちゃりと、ドアが開く。
「ひゃっはろ〜。今回はありがとね。比企谷八幡君。」
降りて来たのは、とても、とても見覚えのある顔にそっくりな。しかし首から下がかけ離れた女性。
女性的な、美しいスタイルに、高価そうなドレスを着ている。
「雪ノ下、陽乃…?」
「はいはーい。A&A所属のオペレーター兼雪ノ下建設専務の、雪ノ下陽乃だよ。」
にこりと彼女は微笑んだ。
「ちょっとお姉さんとお茶しよ?影喰らい君。」
やったねはちまん!なかまがふえるよ!
材木座さんもエントリー。
爆ぜることなく彼女は終わり。
ああ、かわいそうに。
がんばります!