「まずはお礼からだね、私達を守ってくれてありがとう。」
「いや、別に…。というか絶対あんた下にいなかったでしょ。たぶん雪ノ下も。」
「まあねー。雪乃ちゃんは私が安全が確認されるまで適当なところに連れ出してた。」
あれから車に連れ込まれ、着いたのは洒落たレストランの個室である。まあ、周りの席には護衛が陣取っているようだ。
「…」
「ああ、両親はどうしたって?まあ、どうでもいいかなー。あの二人がいると色々面倒だし。」
「…へぇ。」
家族がいると面倒ね。まあ、そう言う考えもあるか。
すると、雪ノ下さんは俺の顔をみてにやぁと、笑う。
「ああ、ごめんね。影喰らいの前で家族を軽んじるのはご法度か。」
「…いや、別に…。そこはそれぞれの価値観なんで。ていうかなんで俺呼ばれたんですか?わざわざお礼言うために連れて来たんですか?じゃあ終わったみたいなんで帰っていいっすか?」
「まあまあまあ、少しぐらいなんか食べていきなよ。ここのおいしいよ?」
と言って、彼女はメニューを開く。
「えーと、これとこれとこれ…。んー、君お酒飲める?」
「飲めないんで帰っていいですか?」
「ちょっ、そんな直ぐ帰ろうとしないで!私の乙女ハートにヒビが入るから!」
ねぇだろそんなもん、と言おうとした時。個室のドアががらっと引かれた。
「貴様にそんなものはないだろう。」
「おー、お疲れ様、"凶弾"君。」
そうして入って来たのは、眼鏡を掛けた太めの男。左脇にはオートマチックを入れている。
材木座、か。
「材木座…。」
「八幡。色々聞きたい事があるだろうが、また今度話す。」
言いながら材木座は、ドア側の椅子に腰を掛けた。
「凶弾こと材木座義輝君は、我がA&Aの稼ぎ頭。今回は依頼が急だったから彼しか来れなかったけど、影喰らいが来てるって聞いて少し安心したんだよねー。君には、我が社は何度も苦渋を舐めさせられてるから、その有用性は良く知ってる。」
雪ノ下さんは両肘をテーブルに置いて、指を組んで顎をのせ、俺の顔を覗き込む様に目を細める。
「なら、見捨ててた方があんたらのためだったんじゃないのか。」
「そんなことしたら上か下かで彼女が爆発してたし、私は上の人達と違って、君とはいい関係を持った方がいいって思ってる。」
「…はあ?」
何言ってんだこの人。俺とそんなもん持った所で、大した利益は無いだろうに。
「いやあ、君は確かにうちの邪魔をして来たけど、それはお互い様でしょう?私達はライバルであっても敵じゃ無い。正直任務先で君とぶつかるのは懲り懲りなんだよねー。でもまあ、前回の港での戦闘で"悪逆"に壊滅させられた時の担当は首切られて、後釜は私になった。そこは感謝してるけど、私の時もそんな事になったら最悪だしね。」
ああ、なるほどね。用はブッキングを回避したいと。
俺はふんと鼻を鳴らす。
「貴方のとこはさぞ俺を憎んでるでしょうね。」
「それがそうでもないんだよねー。」
と、彼女はこめかみに指を当てる。
雪ノ下と同じ仕草だ。
「確かにだいぶ頭来てる幹部も多いけど、実は影喰らいの隠れファンも多いんだよねー。たまに記録映像とかあるから。」
…は?
「いやいやまじで、極秘にファンクラブもあるし。」
「いやいや。は?」
と、俺は材木座に目を向ける。
すると材木座はつまらなさそうに鼻を鳴らし、
「そう言うものがあると聞いたことはあるな。」
と言った。
つーかこいつ仕事の時キャラ変わりすぎだろ。めっちゃクールなんだけど。
「ま、と言うわけで君のブロマイドとか貰えればなーと。」
「ふざけてんですか。」
つい先ほどまで命がかかっていたとは思えないぐだぐだ感である。
なんだファンクラブって。
「でもまあ、私も君のことは凄いって思ってる。普通出来ないよ。他人と自分で他人選ぶとか。」
「…」
「戦場で、弾に当たったとか、罠にかかったとか、誰かをかばってとかならまだ、割り切れるかも知れない。その特殊な環境で、覚悟の上ならね。でも、選べと言われたらどうかな?毒入りの紅茶を差し出されて、飲んでも飲まなくても良いよと言われたら、果たして選べるかな?ましてや、家族や恋人でもない人達と自分の命を選べなんて。」
雪ノ下さんの目が、真っ直ぐ俺を見つめる。
「普通無理だよ。冷静になって考えて、それでも自分の命を差し出すなんて。漫画とかなら良くある話だけど。現実に、一個しかない命をだよ?そんなの、人間の考えじゃない。」
俺は、何も言わない。
「もし選べたとしても。ああ、やっぱり待って!って言うに決まってる。君が選んだのは、それぐらい異常な選択なんだよ。」
「君は命の重さって言うのを分かってる。命を平等に見てる。100対1なら、100の方が重いよねって。」
「簡単に、選んだわけじゃないです。」
「それはそうだよ。君には妹がいるもんね。それで、悩んで、悩んで、そしてやっぱり他人を選んだ。結果的に君は助かったけど、彼が居なかったら君は死んでたよね。あっけなく、吹き飛んでた。」
「…何が言いたいんですか?」
「君は化け物だよ。人間に限りなく似た、でも別の生き物。人類に、たまーに現れる。何かを変えてしまう異常な精神性を持った者。私は、君が怖い。だから、今のうちに取り入っておこうかなと。」
俺が、化け物。
言いたい放題だな。
ああ、だがしっくりくる。
最悪の禁忌、同族殺しの化け物。
自分すら例外じゃない。
確かに。まともじゃ、ないかも知れないな。
「だから君はー」
「そのへんにしろ。雪ノ下陽乃」
じん、と、材木座の声が響く。
「用は済んだろ。もう時間も遅い、無駄話に付き合うほど我もこの男も余裕はないぞ。」
ちら、と、雪ノ下さんが横目で材木座を見て、はあと息を吐く。
「ま、そうだね。妹さんも心配してるだろうし。解散しようか。」
と言って、彼女は荷物をまとめ始める。
「結局何も頼まなかったなー。」
雪ノ下さんが残念そうに席を立とうとする。
「一つ聞かせて下さい。雪ノ下は、あいつはー」
「雪乃ちゃんは何も関わってないよ。こんな世界、あの子が耐えられると思う?」
彼女はつまらなさそうに、口を尖らせて言った。
「…あんたは、なんでこんな仕事に?」
「…質問は一つでしょ。」
そして今度こそ、雪ノ下さんは個室を出た。
〜
すっかり暗い外に出ると、材木座がとなりに立っていた。
「送ろうか?」
「…いや、いい。」
そうか、と言って材木座は車へ行こうとする。
と、材木座が足を止める。
「ああ、八幡よ。我の仕事用の連絡先だ、何かあれば呼ぶがいい。」
ふふんと無駄に厚い胸をかるく張り、材木座が名刺を差し出す。
俺はそれを受け取りながら、ふと、質問をした。
「なあ、お前生きる意味ってなんだと思う?」
また背を向け掛けかけていた材木座は、ぴたっと動きを止める。
「生きることそのものだ。」
吐き捨てる様に、材木座はそう言った。
「意味なんぞ問うだけ無駄だとも。そんなものは、生にしがみつくための理由付けに過ぎん。」
「…そりゃあ、なんとも救いのねぇ話だな。」
ふ、と材木座は笑って俺の目を見る。
鋭く、隙のない、人殺しの目が俺を見据える。
「神など創世直後から休暇に入ったさ。"勝手にやってくれ"、とな。」
そう言って、材木座は髪を風に靡かせながら歩いて行った。
ほんと、キャラ変わりすぎだろ。
今度は店から雪ノ下さんが出てきた。中で店員と話していたらしい。
「あ、影喰らい君、これ名刺ね。デートのお誘いならいつでもいいよ。」
「…仕事して下さい。」
ぶーとむくれたように雪ノ下さんはとぼとぼと車に歩いて行った。
俺の前には、雪ノ下さんが呼んでくれたタクシーがある。お代はもう払っているらしい、どうやってかしらんが。
俺も帰るか。今日は、疲れた。
〜
無駄に広い車内で、私はあの影喰らいの事を考えていた。
戦力としてはハイレベル、恐らく店内の護衛もバレていただろう。
隙があれば殺す事も考えたが、ま、そんなものないよね。
「ここでいい。」
と、助手席に乗っていた材木座君が車を止めさせる。
「ここでいいの?家まで送るよ?運転手が。」
ここは材木座君の家からまだ距離があるはずだ。しかも人通りも少ない。
「冗談だろう。妙な噂が立っては困る。」
と言って、材木座君が車を出る。
まあ、そうだね。
私は窓を開けて頭を出す。
「そ、ならまあまた依頼が来たら連絡するね。」
「ああ。それと雪ノ下陽乃。」
彼が私を呼び止め、眼鏡を外し、冷たい目で私を見る。
「あの男に余計な真似をするようなら、俺が敵対するとだけ言っておく。」
びり、と。空気が震える、そうそう見ることなどない。本物の人殺しの殺気。
「…うん、覚えとくよ。」
それを聞いた彼は、何も言わず歩いて行った。
前を見ると、運転手が緊張したように手を震わせていた。
「出して。」
車が進み始める。彼の姿は、もう無かった。
「最近のガキは怖いなぁ。」
私はニヤつきながら。今後の事を考え始めた。
短い!
すんません!
個人的に凄く好きなキャラ、材木座義輝参戦。