ゲロとか吐いてたらよくわかんなくなってきました。
自分はおぶつにも劣るくそやろうです!
月曜 昼
「いやー。お疲れ様、比企谷君。ギリギリだったね。」
「…ああ。」
ベストプレイス、である。
俺の聖域は最早、誰かしらが俺に用件がある時に訪れる都合のいい窓口と成り果てた。
「恋の爆弾魔はどうなったの?」
「…話せない。」
「えー。ま、そりゃそっか。」
俺がもさもさと、小町からの愛妹弁当を食べている隣で、海老名さんはもくもくとパンを食べている。
「三浦達は?」
「適当に理由つけて出てきた。君に話もあったし…」
と、海老名さんはそこで言葉を切って振り向く。
俺も同じく、後ろから歩いてくる男の気配に目をやった。
「我を呼びつけるとはいい度胸だ、ラバーズ。我の会社にとっても敵であることは分かっているのだろう?」
材木座義輝。世界最高レベルの狙撃手が立っていた。
「まあまあ。材木座君もこんなところでやりあったりしないでしょ?座りなよ。同じ学校の、数少ない殺し屋仲間として、悪党トークでもしようよ。」
「笑えんな。」
材木座は感情のない目で海老名さんを見下ろす。
海老名さんは材木座からの殺気を肩をすくめて受け流し、食べ終わったパンの袋をビニール袋に入れて立ち上がる。
「さて、こうしてみるとそれなりにすごい面子だね。」
「類は友を呼ぶ、であるな。」
「友じゃねえけどな。」
噂に名高い殺し屋達。その三人が同じ学校で、しかも敵対組織に所属している。
胃が痛い。まあ、これまで何も起きてこなかったから、こいつらもわざわざ騒ぎを起こす事もないだろう。
「我が貴様の連絡に応えたのは、質問に答えてもらう為だ。ラバーズの目的は何だ。」
材木座が海老名さんに話を振る。
「へぇ?試しに言ってみてよ。どんな質問もはぐらかしてあげよう。」
「殺すぞ。」
「冗談冗談。それで?」
「貴様らの、ラバーズの目的は何だ。一体何が狙いだ。」
それは、まさに俺の疑問でもある。
目的が分からない。
もともと大した目的のある組織ではないのだろうが、今になっていきなり集まってきたのはなぜだ?
「うーん。それは、答えてオッケーなのかなぁ。」
「吐かせる術もあるぞ?」
「私がそんなので口を割ると思う?」
「貴様が行けなかった去年の冬コミの戦利品をやろう。我の知り合いのサークルに紹介してやってもいい。」
「………………………脅迫されたことにすればいっか。」
おい。
おい。
いいのかよそれで。つーかお前ら仲いいんじゃねぇか。
「えーと、目的だっけ。まあ、私も詳しく知ってるわけじゃ無いんだけど。」
「はあ?」
「そっち方面は"ファンタジー"とかがやってたみたいだからね。あとは加恋か。」
「…お前が知ってる範囲では?」
「さあ、なんか人類を救済するとか。」
「「は?」」
人類を、救済する?
「なんだそれ。」
「よくわかんないって。でもとりあえずそういう目的があるってこと。」
「救うって、具体的には。」
「わたしにもわかんないよ。ただ禁忌の愛が考える救いってやつがあるらしくて。。」
「…それが日本でテロ起こしたりする事とどう繋がる。」
「うん。どうもね。"人類全員が生きることにのみ必死になるように"ってゆう救いらしい。」
「はぁ?」
「まあ、そうなるよね。曰く、人類が成長を忘れて、発展を忘れて、発明を忘れて、競争を望まず、優位を望まず、劣等を知らず、つまり敗北を知らず。敵なんていない、争う意味を忘れてしまうようにする事らしい。」
「そんなこと、どうやって。」
「そうなるように人類を追い込むらしい。人類みんなが疲弊して、絶望して、救いを求めるようになった時。禁忌の愛が用意した救世主に救わせるって。」
救世主?いや、最近どっかで聞いた気がする。
「その、救世主というのは。」
「うん。ラバーズは、比企谷八幡をその時の救世主にするつもりらしい。」
は。いや、意味がわからん。救世主とか、人類を追い込むとか、そんな漫画じゃあるまいし。
「私にもよくわかんないよ。主要なラバーズ以外には比企谷八幡にちょっかいをかけると面白いってきただけだし。その救世主がどういうものなのかもわかんない。でも、これから禁忌の愛が何か大きい事を起こして、それに比企谷君を巻き込ませるって言うのはわかる。」
「ふざけんな。なんで俺を。」
「さあね。でも済崎って言うのはそもそも昔いた救世主から始まったんでしょ?どっかで目をつけられたんじゃない?」
ここで、その名前が出てくるのか。
まさか、師匠も知ってたのか?
「済崎って、なんなんだ。」
「我が仕事で聞く分には、済崎とは"単独で戦況を覆すことの出来る戦力"、と。」
「私もそんな感じ。戦場に一人済崎がいると、それだけで勝敗が大体決まるとか。」
師匠から聞いている他の済崎は。先ず俺の師匠の済崎啓介。"神格"済崎精神。"決定打"済崎最護。"最年長"済崎慶覚。ほかにも何人かいるらしいが、すくなくともその三人は覚えろと。
俺自身も仕事で話ぐらいは聞く。会ってはいけない人間達だと。
「ああ、前に済崎精神なら見たことがある。中東で"明ける湖"というテロ集団と交戦した時に居たな。1キロの距離で撃った我の弾を日本刀で弾いた上に、その後全速力でこちらに走ってきたので撤退した。」
「…よく生きてたね。」
「ああ、正直もうダメかと思った。」
なんか材木座のキャラ取れてきたな。やっぱこっちが素なのか。
「まあ、あとね。救世主は君の他にもう一人いるらしい。」
「いや、俺は救世主じゃ無いんだけど。」
「まあね。んで、そのもう一人は外国人。国籍は分かんないけど白い髪に白い肌って言う事しかわかんない。」
「ふむ。二人の救世主…。死海文書か?」
「なんだそりゃ。」
「聖書の古いやつみたいなのらしいね。世界が終わりかけた時に二人の救世主が現れて、なんか色々救うみたいな。」
「ざっくりしてんな。」
「興味ないからね。でも古い予言とかが実現すると、それだけで人は信じてしまうから、禁忌の愛はそれも狙ってるのかも。」
いよいよもって眉唾な話になって来た。
しかし、ここで問題なのは、"人類を追い込む"と言うところだ。
「禁忌の愛はどうやって人類を追い込む?」
「だから、具体的にどうこうはわからないってば。でもまあ。現代でそう言う大惨事みたいなのは限られてくるよね。地震とか噴火とか。」
「そんなもの人間では起こせんだろう。」
「うん、でも人だけが起こせるものもある。」
いや、一つだけある。
人間の悪意が、善意が、正義が引き起こすもの。
「…まさか…、いや、そんな事を本当に…。」
「そう。史上最も人間を殺して来たもの、」
「戦争。禁忌の愛は世界大戦を起こそうとしてるんだと思う。」
〜
放課後、奉仕部。
「ヒッキー?どしたのぼーっとして。」
「目が腐ってるを通り越して虚無よ。」
二人の声を遠くに聞きながら、俺は海老名さん達との会話を思い出していた。
というより、ずっと考えている。
世界大戦なんて正気じゃない。
一般社会でそんな事を言えば、ただの冗談。誰もが笑い、相手にせず、最近の若者なら起こればいいねなんて言うかも知れない。
だが俺には、俺達には冗談では済まない。俺達は戦争がいつでも起こりうるもので、誰でもその引き金になりえて、むしろ起きていない状態こそ奇跡に近いと知っている。
そして、その戦争の末に、誰もが戦う事を忘てしまう理想郷が来るなど。
ありえない。
「ねぇ、ほんとに大丈夫?」
「…あぁ、いや、ちょっと考え事してた。」
「はぁ、何をそこまで思いつめているの?酷い顔よ。」
話すわけにはいかない。だが、こいつらだって何か備えをしておくべきではないだろうか。俺が止められる保証もない。そうなった時こいつらは。
「…お前ら、もしもいつか…」
と、俺が二人にある問いかけをしようとした時、がらっと部室のドアが開く。
「お前たち。先日のテロを受けて関東圏の学校で下校時間を早めるようにという通達があった。依頼も来ないようだし帰る支度をしなさい。」
「先生、ノックを…、いえ、東京で起きたテロで千葉まで?」
「ああ、私も詳しくは知らんが特に海岸に面した千葉や神奈川でそういう事にするらしい。実際、先の爆弾テロは千葉市の方でも狙われていたらしい。」
「え…。」
「まあ、そういう事だ。今週末からの夏休みに規制が入るかはまだ分からんが、流石にそこまでにはならんだろう。」
「えー。」
「ならんだろうと言ったろ。さあ、早く帰りなさい。まだ日が長いとはいえ変な輩が出らんとは限らん。」
「そうですか…。分かりました。今日は終わりにしましょう。」
「そうだねー。あ、ヒッキーさっき何言おうとしたの?」
「…いや、別に。」
そうして、結局二人には何も言えずに、その日の奉仕部は解散となった。
〜
それから雪ノ下が鍵を返却して、軽い雑談の後、雪ノ下と由比ヶ浜は二人で帰り、俺も自転車を取りに行っていた。
「あれ?先輩も帰りなんですかー?」
「うげぇ」
「うげぇはひどいですよー?」
そこで会ったのは最近噂の可愛いあの子、実態は霊長類最強の女子高生一色いろはである。
「弟子にはとらねぇって。」
「えー。」
ぶー、と一色が頬を膨らませる。可愛いがあざといので弟子には取らない。いや、そういう判断基準では無いけど。
こいつはあれ以来、事あるごとに弟子にしてくれと言ってくる。そろそろ諦めてほしい。
「お前部活は?」
「なんかテロがどうのこうので早上がりです。」
成る程、本当に全部の部活が対象なのか。
「テロねぇ。」
「はい。」
これからも彼奴らは何かを起こしてくるだろうか。戦争のトリガーなんて想像がつかない。
「………。」
すると、一色からの視線を感じた。なんか無言でこっちを見ている。
「なんだよ。」
「…もしかして先輩がテロリストですか?」
…!?
なんだこいついきなり何言ってんだまじで。
「…は?」
「いや、なんかこう、上手く言えないんですけど、そういう、アウトローって言うか。一線越えた人みたいな雰囲気があるんですよね。あの格闘術しかり、どう見てもカタギじゃないっていうか。」
「…何言ってんだお前。あれか?高校生にもなって中二病か?やめとけお前どっかの材木さんみたいな体型になるぞ?」
「いや、材木さんが誰かわかんないですけど、っていうか中二は失礼です。でもぶっちゃけ人一人ぐらい殺した事ありますよね?」
くっ、と腰をまげ、俺の顔を覗き込んでくる。
「…逆に俺が人殺しだったらなんだ?人の殺し方を教えてくださいとか言うつもりか?」
「…わたしは、人を殺さずに生きていけるでしょうか。」
「は?」
「偶に思うんです。日本に生まれたとは言え、私は、私のそこそこ長いであろう人生を、誰も殺さずに終えることが出来るんでしょうか。」
「…じゃあ、お前は"いつか人を殺すかも知れないので人の殺し方を教えてください"って言うのか?」
すると、一色は少しだけ目を伏せた。
「…そう言うわけでは無いです。…でも、きっとそれが必要になる日は来る気がするんです。先輩なら…、わかるんじゃないですか?」
一色は躊躇いかがちに俺の目を見る。確証のない、理由も分からない感覚に駆られている。そんな目だった。
「…ともかく、お前になんかを教える気はねぇ。最近は物騒だから早く帰れ。」
「あっ!それならせめて送ってくださいよー!」
「それは断る」
「それも!でしょう!もー!」
わーわーと後ろで騒ぐ一色を置いて、俺は自転車を漕ぎだした。
〜
自転車の速度を落とし、ゆっくりと家に向かう。
一色の持つものは一級品だ。どこを探してもそうそう見ない素質を持っている。
恐らくスポーツ格闘なら大体の種目で世界を狙えるだろう。
あいつを始めて見てから、一瞬も隙を見たことがない。
本人も無意識に、常に戦闘状態なのだ。そしてそれを誰にも悟らせない。完全な自然体。
あいつが戦闘術を覚えたら。
それはきっと、殺し屋の世界でも一目置かれる存在になるだろう。
だが、だからこそあいつにそれを教える訳にはいかない。
あいつは良くも悪くも純粋だ。
こんな鉄火場では、きっと自分を保てないだろう。
ブブ、と携帯が震える。
内ポケットから仕事用の携帯を取り出し、画面に恵理さんとと出てるのを確認して電話に出る。
「はい。」
「お疲れ様です、影喰らいさん。」
「今度は何が?」
「はい。あの爆弾魔が目を覚ましました。かなり負担の大きい手術でしたが。直ぐに起きたらしく。」
「…あいつはなんて?」
「身柄は警察にあるのですが、どうも貴方を呼んで欲しいと。貴方にだけ情報を話すと。」
あの女が、俺に?
「あの、無理していかなくても大丈夫だと…。」
「いえ、行きます。場所を教えてください。」
「…分かりました。一応場所のデータを送りますが、場所を指定して下されば迎えが行きます。」
「ありがとうございます。」
「いえ、…その。気をしっかり持ってください。」
「…はい。」
そして電話が切れ、俺は従業員に電話をかけた。