俺たちの世界は間違っている。   作:ゆきわぎ

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加恋の世界

夕方、もう6時を回ったろうか、俺は迎えで来た従業員の車の中でぼーっと外を見ていた。

 

「影喰らい、もうすぐ着くぞ。にしても物好きな奴だな。わざわざあのサイコ女に逢いに行くとは。ひょっとしてタイプだったか?」

「…んなわけねぇだろ。情報が必要なだけだ。」

「はっはっ。でもまあヘリであんたをキャッチするのは楽しかったな。久々に興奮したぜ。」

「…てめぇもサイコじゃねぇか。」

「まあ否定はしとかねぇ。ちっとぐらいネジ飛んでねぇと今時やっていけねぇよ。俺はまあ会社の経費でいい車乗り回せりゃあ満足だ。どうもどんぱちやんのは性に合わん。」

「…そうかよ。」

 

そして着いたのは普通の病院、に見えるが自衛隊がやってる病院だ。

 

「ここの地下だ、受付で"山田美奈子に面会を"と言え。一字一句違わずにな。」

 

俺はぶっきらぼうに礼を言って車を出る。

 

 

受付にいるどことなく迷彩があしらわれた看護衣?を着た男に従業員から教えられた合言葉を言う。

 

男はちらりと俺の顔を見て席を立った。

 

「こちらです。」

 

連れられて奥にある扉に向かう。

 

この男が席を立って直ぐに違う人間が受付についた、どうやら俺の為だけにいた受付らしい。ご苦労様です。

 

そこまで長くない通路の真ん中ぐらいにある扉の両サイドに戦闘服に戦闘帽、着剣小銃をつれ銃をした自衛官と拳銃を腰につけた警察官が立っていた。

 

「あの部屋です。」

 

そう言った男は数歩下がって俺達が入ってきた扉の前で不動の姿勢を取った。

 

俺は軽く会釈をして前へ進む。

 

扉の前に行くと自衛官と警察官が休めの姿勢から一気に気をつけをし、敬礼をしてきた。

 

俺は若干面食らいながらへろへろの敬礼を返し、二人より先に下ろす。それを確認した二人は敬礼を下ろし、警察官の方が部屋の鍵を出す。

 

そして自衛官の方が俺に忠告する。

 

「中にいます。一応仕切りはありますがお気をつけてください。」

 

ちら、と自衛官の胸につけられたワッペン、徽章を見る。

 

ダイヤモンドと月桂樹、落下傘と翼、更に格闘まである。

 

筋金入りの自衛官だ。

 

「…頼りにしてます。」

 

ふ、と自衛官は軽く笑って会釈をした。

 

扉を開け、中に入る。

 

「お久しぶり、と言うほどの時間も無かったですか。よく来てくださいました。比企谷八幡さん。」

 

その女は、新堂加恋は椅子にゆったりと身を沈め、そこに居た。

 

ぽたぽたと彼女の左腕から伸びた点滴が液を垂らす。

 

「…それで、何を話したい。」

「挨拶ぐらい返してくれてもいいじゃないですか。」

「ちょっと自分を省みた方がいいんじゃねえのか。」

「あら、あら、手厳しい。」

 

まあ仕方がないでしょう、と女は薄く笑って目を閉じる。

 

少し顔色が悪く、頬もこけた様に見えるが、頭はしっかりしてるらしい。いや、もとからしっかりしてねぇけど。

 

ぱっと見そうは見えないが、こいつの腹は爆弾を摘出した為かなり大きな傷があるはずだ。意識が戻ったとしても、こうして椅子に座り、誰かと話すことなど出来ないはずだ。

 

そもそも、あの時屋上にいた時も、爆弾を入れる為に開いた傷もあっただろう。

 

やはり、壊れた精神力だ。

 

「ええと、何から話しましょう。そうですね、まず私達の目的とかでしょうか。」

「世界大戦を起こす事、か?」

「おや?ああ、蜘蛛ちゃんですか?あの子はあなたにつくのですかね。」

 

からからと、さも可笑しそうに彼女は笑う。

 

「ああ、私の楽しみを取られてしまいました。貴方がどんな反応をするのか見たかったのですが。」

「俺の反応?何言ってんだこいつら、だ。」

「ふふ。まあ、たしかに荒唐無稽、にわかには信じがたいお話でしょう。戦争を起こす、だなんて。」

「…」

「でも貴方はちゃんと分かっているでしょう?そもそも戦争が起きていない時期なんてわずかなもの、皆無と言ってもいいかも知れません。今この瞬間も、世界のどこかで銃声が鳴り響き、罪のある人も無い人も区別なく殺されている。私達はただ、その世界各地にある小さな火種を繋げて大きくするに過ぎないのです。」

「…具体的に、どうやって。」

「それは言えません。というより私もあまり知りません。私達でさえ、部分的に教えられただけ、全てのシナリオを知っているのは禁忌の愛だけでしょう。」

「そいつは何処にいるんだ。」

「知るわけないじゃ無いですか。女性って事しか分かりません。しかしラバーズは二次大戦の頃ぐらいに出来て、禁忌の愛はずっと生きているらしいので高齢だとは思うのですが、声を聞く限りでは30手前と言ったところでした。代わりに喋る人が居るのか、それとも不老なのか。」

「不老だなんてあり得るわけねぇだろ」

「さて、どうでしょう。人間不可能なんてないかも知れませんよ?」

 

くすくすと、悪戯っぽく女は笑う。

 

「…おちょくってんのか?」

「いいえ?」

 

何が楽しいんだこいつ。

 

「さて、今日貴方に教えたかったのはこの住所です。」

 

そう言って女はしきりの下の空いたところからメモを差し出す。

 

書かれていたのは住所だった。

 

「…これは?」

「"太刀屋"のアジトです。頭領の久留間蛭都はなかなかの武人で、ラバーズの抗争や暗殺で幾度となく貢献してきたグループです。」

「…何が狙いだ?」

怪しいなんてもんじゃない。いきなり殊勝に情報を開示してきた、必ず狙いがある。こいつはそういう奴だ。

 

「えー。今日はそもそもそういう話でしたでしょう?まあ裏があることは否定しませんが、しっかり心の準備をしていくといいでしょう。」

「数と装備は?」

「せいぜい2、30名、全員刀を持って居るそうです。」

「…またイロモノか…。」

「私のこと言ってます?」

「まともな殺し屋はいねーんだろうな。」

「んー、銀杏ちゃんはまともですよ?真面目ですし、依頼は必ずこなしますし、ただほぼ素手で戦うんですけど。」

はあ、と溜息を吐く。ラバーズは脳味噌溶けた連中の集まりだな。

「貴方も十分変態的な戦い方をすると思いますが。」

「は?」

 

何を言ってるんだこいつは。

 

女は何とも言えない顔をしている。

 

「まあ、良いです。太刀屋はともかく、銀杏ちゃんは手強いですよ?ファンタジーよりは強いでしょう。頑張って下さいね?」

「…情報、感謝する。本当かどうかはまだわからんが。」

「ふふ。あ!忘れてました。私の弟子が貴方に会いたがってました。もし見かけたらお願いしますね?可愛い女の子ですよ?」

「…くそったれ。」

 

ふ、と女は顔を和らげる。

 

「本当は、とてもとても悔しいです。あと、少しだったのに。」

「…。」

「雪ノ下陽乃が干渉してくるとは思っていました。しかし出来ることなどないと思っていた。爆弾の位置も、私の確保も、誰か一人が私の前に現れた時点で成功するはずだった。貴方に私の場所が分かるように、いくつか手を打っていて、蜘蛛ちゃんが貴方に場所を教えた。私を狙撃できる場所ではないと思っていた。あの条件で当てられるものなどいないと。しかし、まさかあの凶弾が貴方の友人だとは。」

「お前、…どこでそれを。」

「ふふ、ふふふふ。くやしいなぁ。あとちょっとだったのになぁ。やっぱり私は失敗する前提だったんだなぁ。」

 

女は目を虚ろにして虚空を見上げる。

 

「貴方一人なら御しきれた。でも、貴方の人生に勝てなかった。貴方が意図せず掴んだ他人との絆に勝てなかった。貴方の戦いに手を貸したいと思う人間がいた。ちょっと考えれば分かったはずなのに。」

「…買いかぶりすぎだ。あんなのは…」

「偶然?彼の目的はビルを守ることで、貴方はついでだったと?いいえ、貴方ですよ。彼を呼んだのは。殺し屋は、軍人じゃない。仲間や、同志に持つべき想いは、殺し屋には重荷になる。裏切ることが、裏切られることが前提の世界で。それでも。彼は知られても良いと、貴方を助けに来た。貴方には死んでもらった方が楽なのに。多少ビルの屋上が吹き飛ぼうが、A&Aにはそれを差し引いても貴方のことが邪魔だったはずなのに。私も、そこにつけこむはずだった。」

「…。」

「ああ、人はなんて素晴らしいんでしょうか。ごみ溜めみたいな私達の世界に、そんなものが残っているんですから。」

「…お前は、なんで爆弾魔なんかになったんだ。」

女は驚いたように目を見開き、そして顔からゆっくりと表情を消した。

 

「…どこにでもいる、只のクズの家に産まれました。ありがちな不幸を背負って生きていました。でも、その頃はそれが不幸だなんて思ってはいなかったんです。ただ、死にたかった。この世にある何もかもが、あの家と地続きだと思うと、何もかも汚れて見えたんです。あんなものと共存していられる世界が、大嫌いでした。」

 

「きっと死んだ先は美しい。この世界の素敵なところを切り取って、削り取って死にたかった。私が唯一幸せだった、気絶した後に見る、あの夢の中を生きていたかったんです。」

 

女は、新堂加恋は、夢の世界に恋焦がれた爆弾魔は、疲れたような、諦めたような、そんな表情をしていた。

 

きっとそれこそが、本当の、新堂加恋なのだろう。世界に産み落とされたことを憎み、ぼろぼろになりながら生きてきた、一人の人間の貌だった。

 

「…貴方が居れば、私は何か違う未来を生きていれたのですかね…。」

 

新堂加恋は、そう言って哀しそうに笑った。

 

俺は目を閉じて、静かに息を吸う。

 

「…さあな、だが多分、お前の隣りに、独りがもう一人増えてただけだと思うぞ。」

 

女はまた、驚いたように目を開く。

 

そして、ふっと笑った。

 

「ああ、それは心強いですね。」

 

 

病院を出て、従業員の迎えの車に乗り、適当な雑談があって俺は近所についた。

 

「じゃ、また仕事でな。」

「…ああ。」

ばたん、とクラウンの扉を閉めて出る。

 

近所と言っても家から3キロぐらい離れたコンビニだ、少し歩くが仕方ない。

 

ふー、と息を吐いてコンビニに入る。適当に何か買って帰ろう。

 

もう8時を過ぎている。しかしこの時間ならまだ小町が待っているかもしれない、プリンでも買って帰ってやろう。お兄ちゃん的にポイント高い。

 

「おや?比企谷か?」

 

知った声に体がびくっと跳ねそうになるのをなんとか抑える。

 

「…平塚先生。」

「ああ。どうしたこんな時間に。全く、下校時間が早くなったからとぶらぶらしていたら部活が休止している意味がないだろう?」

「…すんません。」

 

車から降りたとこは見られてない、か?

 

因みにここのコンビニはカメラの角度の関係で端っこの方は映らないのでこのコンビニをちょくちょく降りるとこに使っている。優しい。

 

いや、そんなこと言っている場合では無い。

 

「平塚先生は何でここに?いつもここでしたっけ。」

「見廻りだよ。全く、若手とはいえ女子にこんなことさせるかね。」

と言いながらもぱっと見でわかるぐらいやる気に満ちている。

 

やっぱこうゆう展開好きなんですね。あと女子って年齢じゃ何でもありません。

 

ズォッと平塚先生から殺気が出てきたので思考を停止する。怖い。

 

「何でもいいが、早く帰りなさい。あぁ、送ろうか?」

「いえ、そこまでは大丈夫っす。自分狙う物好きもいないでしょうし。」

「遠慮することはないぞ?」

「ほんとに大丈夫ですよ。先生も忙しいでしょうし。」

 

むう、と先生は考え込む。

 

「まあ、たしかに夏休み明けの修学旅行に向けて仕事はあるが…。」

「あれ、修学旅行ってそんなに早かったでしたっけ。」

「今年は旅行先の兼ね合いで早くしか取れなかったのだよ。ま、楽しみにしていなさい。」

 

先生は気を付けろよ、と軽く手を振って帰って言った。コンビニ袋からはちらっとジャンプが見えた。

 

あの人は…。

 

俺も買い物を済ませ帰路につく。

 

少し、あの爆弾魔を思い出していた。

 

あいつの、その望みを完全に否定する気にはなれなかった。

 

この世界を生きて、その裏路地を見て、それでも臆面もなく世界は希望で満たされていると言えるほど俺は盲目ではない。

 

あの雨の中の小屋の様に、醜い場所と此処は地続きだ、先生も、雪ノ下も、由比ヶ浜やあのうるさい後輩も、同じ世界で同じ空気を吸っている。

 

それが、たまらなく憎い。

 

だが、俺にはどうすることもできない。俺は何かを変えられるほど強くない。

 

せめて、あいつらと醜い場所を切り分けていくしか、ないのだ。

 

人気の無い、そこそこでかい公園に入る。此処を通って少しすれば家だ。

 

だが、その前にする事がある。

 

「誰だ、あんた。」

 

俺は目の前の女に声をかける。

 

そいつはいつのまにかそこにいて、真っ直ぐに俺を見ていた。

 

すらっとした女性にしては高めの身長に、きちっとしたスーツを着ている。顔は暗くいうえに少し俯いているようでよく見えないが、輪郭は美しく、多分美人だと思う。

 

「何、もう加恋あたりから聞いているだろう?」

よく響くハスキーな声。女はゆっくり顔を上げる。

 

釣り上がり気味で、気の強そうな目に、鼻筋が通ったモデルの様な女だった。

 

「銀杏だな。」

「ああ、そうだ。悪いんだがな、影喰らい、お前自身の為にも、お前は此処で死んでおいた方が良い。」

「どいつもこいつも勝手ばっかだな。」

 

女はすっ、と構える。

 

本当に武器らしいものは見えない。しかし脚と腕にプレートを入れているらしい。

 

「まあ、別に会話を楽しむ趣味はないし。とりあえず死ね。」

 

ゆるり、と、女が踏み込んだ。




サイフ無くしました。

更新せんですいません…。
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