俺たちの世界は間違っている。   作:ゆきわぎ

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特訓開始

翌日の放課後、俺は男に指定された空き地に来ていた。ここには不法投棄されたゴミが山と積まれており。大小さまざなガラクタで囲まれていた。

 

「よう、来たな」

 

そう言っていつからいたのか済崎さんが現れた。ジャージ姿である。あでぃだすだ。

 

「怪我の具合はどうかね。学校では何か言われなかったのか。」

「みんなには引かれたぐらいで。先生には色々聞かれたけど、階段から落ちたでごり押しした。」

「それでなんとかなるのか…。」

 

なんか済崎さんも引いてたけど気にしない。世の中なんとかなるものである。

 

「済崎さん、それでなにするの。」

「ん、あー、言い忘れてた。外で俺を済崎と呼ぶのはやめなさい。」

「?どうして?」

「どうしてもだ。」

 

んー、ならなんて呼ぼう。

 

「…師匠?」

「…ふむ。」

 

そう呼ばれた済崎さんは、何か噛みしめるように顎に手を当てた。

 

「もう一回呼んでみろ。」

「?師匠。」

「ふふ。」

 

なんか気持ち悪い感じで笑った。

 

「師匠かー、ふふふふふ、うん、いいな。」

 

なんかキモかった。ひょっとすると、この男は、唯の変態で、俺を騙して攫うつもりかもしれない。

 

「ん?まてまて、何処行くんだ。」

 

俺が静かに距離を取ろうとしていると。済崎さんはこっちに気付いた。

 

「ああ、そういえば、俺がお前の師匠になり得るって言う証明を見せてなかったな。うーん、どうするか…。」

 

そう言うと、師匠は、また思案顔になった。

 

「ふむ、八幡よ。強いとはどういう状況だと思う?」

「…素手でコンクリート割ったり?」

「はっは。確かに素手でコンクリートが割れる奴が居たら誰がどう見ても強いと言えるだろうなー、」

 

そう言いながら男は、手前にあったコンクリートの土管に向かって歩いて行き。

右手を引いて思い切り殴った。

 

「…はっ?」

 

いきなりなにをと言おうとした時。その土管に縦向きの線が入る。それがコンクリートにできたヒビだと気付くまで、少しの時間を要した。

 

「なっ、え?」

「だがまー、ちげーな。そんな簡単なことじゃない。」

簡単なこと?コンクリート割るのが?

 

「コンクリート割るようなパンチがあっても、あとそうだな。もの切れる様な蹴りがあっても?」

 

今度は、立て掛けられていた脚立にむかって回し蹴りを放つ。

すると、ガゴッという音とともに蹴られた部分だけが綺麗に横にふっ飛び、一瞬宙に浮いた上半分が落っこちてきた。

 

パンチも蹴りも、素人の俺から見ても綺麗な形だった。パンチは今まで見た、どのボクサーより、速く綺麗だったし、蹴りも前にテレビでやっていた、達人らしい人の型よりなお美しかった。しかし、それでも人間が素手でコンクリートを割ったり。金属製の、アルミとはいえ、脚立を足で切ったりなんかできるとは思えなかった。

 

「不思議そうな顔してるな。こんなのありえないって。でもこのくらいのことをできる奴は結構いっぱいいる。練習してコツさえ覚えれば誰でもできるからな。」

「いやいや、絶対無理だから。」

 

寧ろそんな簡単にできてたまるものか。世紀末だろ。

「できるさ。できると、心から信じられればな。」

「気の持ち様でできる様なことじゃないだろ。」

「まあ、確かに心構えだけじゃできないけど、信じられなければやる瞬間に頭が勝手に身体にブレーキをかけるのさ。出来っこない。無理するなってな。」

 

男は、そう言いながらポケットから煙草を出して、火をつけた。らっきーすとらいく?と書いてある。

 

「八幡、どんなに凄い技術があっても武器の前では大抵無力だ。間合いが命の格闘技は、どうあっても10メートル先の銃を構えた奴の前では不利と言わざるをえない。引き金を引かれる前に10メートルを詰めるのは難しいからな。」

 

ふーっ、と済崎は白い煙をはいた。

 

「ならどうやって勝つ?腕っ節ならコンクリートを割れる自分の方が強い。でも、間合いの外から銃を向けてくる相手の方が勝つ確率は高い。つまり、銃持ってる奴の方が強い。それがたとえ。人生を格闘技に捧げた男と。昨日初めて銃を持った男とでも。」

 

言われて俺は考える。確かにどれだけ肌に粗塩かなんか擦り込んで鍛えて硬くしても、結局鉛玉には、歯が立たないだろう。それを撃つ人がたとえ、子供でも、ちゃんと狙って撃てさえすれば人は簡単に殺せてしまう。そもそも銃とは、そう言う武器なのだ。

 

「強さとは、その人間の総合性だ。色んな戦いで安定して勝利を収めるには、色々な事に精通しなきゃいけない。一見すると戦うのには関係ない様な事でもな。」

 

済崎さんは、おもむろに、煙草をだした方とは逆のポケットからトランプをだした。

 

「立ち会って、お互いに武器を持って、もう殺し合うしかないって状況でも、こんな下らないことが役に立ったりする。」

 

右手に済崎さんは三枚のカードを持った。その絵柄を俺に見せてくる。ハートの3と、スペードのジャック、そしてダイヤの6だった。

 

「覚えたか?んじゃあほい、一枚引いてみろ。」

 

今度は、表を下に向けて持って、カードを差し出してきた。取り敢えず言われたとうりにする。

 

クローバーの7だった。

 

「…!?」

「はっはっはっ、驚いたか。まあ、タネは簡単なんだけどね。こんな安っぽい手品でも役に立つ時が来るのさ。」

 

いや、すごかったけど、これが?という顔で済崎さんを見る。

 

「何ができるから強いとか、これが出来る奴はやる奴だとかは無い。もちろんどんな時も諦めないやつが一番強いなんてこともありえない。」

 

「強さとは思考の事だ。どんな時も合理的に、勝てる方法を見つけられる奴が強いんだよ。」

 

「これからお前に授けるのはそういう脳みそだ。もちろん身体も、俺が出来ることをできる様になるぐらいには鍛えるが、一番には、強いと言う思考を植え付ける。」

 

「戦略戦術戦闘戦技。格闘話術知識まで。その全てをひっくるめて、俺たちは”戦闘術”と呼んでいる。」

そこで、済崎は、煙草の火を消し俺に向かってにやっと笑った。

 

「どうだ、ワクワクしてきたろ。」

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