俺たちの世界は間違っている。   作:ゆきわぎ

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時は経つ

特訓は、驚くほど効率的に行われた。俺がギリギリこなせるぐらいのメニューで、毎日色んな部位をきたえた。格闘の訓練や、戦闘に関する知識も、とてもわかりやすく教育された。

 

「八幡、筋トレは、鍛えてるところを意識しながらやってみろ。どこに一番キてるかとかな。」

 

「柔軟は大事だぞ、だがトレーニングの前にやるのは間違いだ、全部終わった後に、身体を柔らかくするトレーニングとしてやるんだ。これは毎日やれよ。」

 

「相手と向かい合った時は自分の立ち位置に注意しろ、相手が左構えなら相手の左前、特に前の手の更に外側に右構えで構える、これだけで有利に戦えるんだ。」

 

「蹴り技は、此処ぞとゆー時の必殺技だが、素早く打つ練習をしとけばジャブみたいな使い方もできる。自然に構えながらも後ろ体重で前足をいつまでも出せる様にする。前蹴りは、相手の虚をつくのに最適だぞ。」

 

「ナイフの握り方にはいろいろある。刺すための握り、切るための握り、逆手に持ったり、指で挟んだりな。刺す時には、普通に握るより親指を鍔につけて親指から手首までを真っ直ぐに持ったりする、逆手はそのままパンチの要領で振り抜けばガードされない、あと組み付いた時にも刺しやすいな。状況に合わせてすぐに持ち替えらる様に練習しとけ。最初の内はこれな、刃を潰してある。そんな顔すんな、刃つきはまだ早い。」

 

「弾丸が身体に当たると大変なことになる。弾の大きさに入って弾の大きさに出てく訳じゃない。身体に入ったら中で真空ができて、中身がズタズタになる。骨に当たったりしたら最悪だ、砕けた骨が身体ん中で飛散しちまう。ちゃんと治すのは困難だ。弾種や、口径によっても違う、先が丸くなった弾や、尖った弾。めちゃくちゃでかい弾とかもある。音で弾種や距離を聞き分けられるようにできるといいな。」

 

「これはワイヤートラップだ、今はもうセンサーとかが主流だけど、そうもいかない状況も多々ある、バレないような仕掛けとか、爆弾を指向する方向にも注意しろ。」

 

この男は本当に何者なんだろうか、軍人だったりするのだろうか。

 

「かはははは、まあ傭兵に近いな。今はもうあんまやってないけど。」

 

なんだかかっこいい気がした。

 

 

少しずつ俺の身体は変わっていった、日常生活の端々に武術的な動きをするようになった時にはこう言われた。

 

「いー感じだな、でも学校とかでは絶対に見せるな。俺が教えてる事は、見せびらかしていいようなもんじゃない。」

 

 

3年ぐらいの月日が経った、師匠はたまに来れない日もあったけど、俺は一応毎日訓練した。単純に強くなる感じが好きだったのだ。

 

組手とかもした、怪我して帰る時もあったけど、親は心配そうにはしてたけど絆創膏をくれたりするだけだった、なんとなく、何か感じとっているらしく、よく頭を撫でてくれた。小町は可愛かった。

 

毎日が充実していた、格闘の技術も、ナイフを含めてそれなりの練度になった。すると。

 

「八幡、ほら」

 

いきなり師匠は、俺にナイフをくれた。

 

「お前はそれなりに強くなった、だからこれをやる。いいか、これは武器だ、もちろんナイフはいろんなことに使えるが、人を殺す道具だ、人を殺す権利は誰にもないが、それでも人は人を殺すことができる。殺さずにいることもできる。なんのために殺すか、誰を生かすか。人を殺してもいいのかどうか。常に良く考えろ。そして殺すなら手を抜くな、命を奪う重みを忘れるな、人を殺す事は、殺される可能性を孕む事を忘れるな。命は、軽く扱われていいもんじゃない、八幡、これは戦うのに一番大事なことだぜ。」

 

言われて俺は不安になった。そんな重いものを背負いたくはない。

そう言うと師匠は破顔した。

 

「ま、そんな重く捉えんな、武器持つ時の心構えみたいなもんだ。さ、続きやんぞ。」

 

もらったナイフは、刃渡り13センチくらい、刃先の方が少し重い。デザインはオーソドックスなタクティカルナイフだったが、刃の根元に”慶”と書いてあった。

 

「あ、忘れてた、それ道端でぶら下げてたら捕まるから隠しとけよ。」

 

俺はナイフを大事にかかえ、はい。と返事した。

 

この二ヶ月後、俺に第2の転機が訪れる。俺の少し特殊ではあるけど、まだ”普通”の域だった人生は、その日から、大きく逸脱するのである。

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