俺たちの世界は間違っている。   作:ゆきわぎ

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修正をいただきましので直したいと思います!
拳銃をしまうのがホルスター、ナイフをしまうのはシース、と言うそうです。
ありがとうございます!
作者の知識不足!


パンドラ

「あなたが比企谷八幡君?」

 

中学からの帰り道、そんなふうに俺に声をかけて来たのは、グラマラスでセクシーな30歳前後の女の人だった。

 

中世の貴族みたいな服装で、胸元は大きく開いており、否応なく人の目線を吸い寄せる。日傘を差して艶めかしく笑うその人からは、説明できない恐怖を感じた。この人は関わっちゃいけない。

 

「人違いですすいません、親が心配してるんでこれで。」

「待って」

 

瞬時に判断し、身体を切り返して離脱しようとしたが、動き出しで肩を抑えられてしまった。

 

身体から嫌な汗が出て来る。まだまだ訓練中とはいえ、女の人に片手で抑えらるような錬成はしてこなかったつもりだった。

 

「まあまあ、怖がらないで?おねーさんかなしいわ。」

「いえいえ、本当に大丈夫ですんで、用事あるんでこれで。」

 

一刻も早くここを離れなくては。絶対師匠がらみだろこれ、他に心当たりがない。

 

「なぁに?啓介から何か聞いてないの?」

 

ほら名前出てきた。

 

「…何者なんですか。」

 

ようやく抵抗をやめた俺に、その人は満足そうに。

 

「私はカトリア・イーストレイク、啓介とは仕事仲間よ。突然だけど八幡君、あなたに仕事を頼みたいの。」

 

その人はそう切り出した。

 

 

あれやこれやと言うまに俺はお洒落な喫茶店に連れてこられた。残念ながらサイゼではない。

 

「あなたにお願いしたいのは、この住所にいる男達を無力化すること、生死問わず。捕まえてもいいし殺してもいい。ただし逃したら失敗。その時は、警察とかに追われても助けないわ。」

 

そして唐突に”仕事”の話が始まった。

 

「いやいや、ちょっと待ってくださいよ。やるとか言ってないし、師匠からも何も聞いてないし。生死問わずとか言われても意味分かんないんですが。」

「師匠、ねえ…」

 

カトリアさんは師匠という言葉に少し眉をひそめる。

 

「…あの?どうかしました?」

「ふふ、なんでもないわ。いい?比企谷君、遅かれ早かれいつかあなたは仕事を受けることになるわ。今のうちにこの簡単な仕事で練習しておくべきよ?」

「…なんで、そんなこと。」

「なぜって、それはあなたが”済崎”の弟子だからよ。」

 

カトリアさんは当然のようにそう言った。

 

「…本当に何も聞いてないのね。彼はどういうつもりなのかしら。」

 

済崎とはなんなんだろうか。師匠とは何者なんだろうか。

 

「八幡君、彼はあなたに人を殺す事について話さなかった?」

 

あの、ナイフをもらった日を思い出した。

 

「もうあんまり時間はないわ。貴方は答えを出さなくてはならない。今日貴方に頼むのは、本当に簡単な仕事よ。馬鹿なガキを締め上げるだけだからね。でもこれは貴方にとって、とても意味のある事だわ。」

 

言われて俺は考える、でもそんなにいきなり言われても何も出てこない。

 

「ちゃんと報酬も出す。貴方は初めてだから、んー、二百万円くらいかしら。安いなんて言わないでね。済崎の弟子と言えど仕事の経験もない中学生に払えるのはこのくらいよ。」

 

それを聞いて俺は心臓が止まるかと思った。二百万で、安い?

どんどん不安になってくる。俺はひょっとして、かなりヤバい人達と関わってしまっているのではないだろうか。

 

「それで、どうする?」

 

 

俺は家で服を着替えていた。外は喫茶店を出た辺りから雨が降り始めていた。夏特有の激しい夕立は、俺の心を表してるようにも思えた。

 

前金よ、と言って喫茶店の会計を済ませてくれたカトリアさんは、啓介には私から言っておくから、と何処かへ行ってしまった。

 

黒いズボンに、黒いシャツ、その上にまた黒いパーカーを着て師匠に貰ったナイフをシース(さや)に入れて、背中側の腰に横向きに入れる。

 

家からでる時にはコンビニで買った安いポンチョを羽織った。

 

母さんに、コンビニに行ってくると言って家を出る。中学進級の時に親が買ってくれたマウンテンバイクに跨り、出発する。

 

荷物は黒いアサルトリュックに、縄と特殊警棒を入れてある。全部師匠がくれたものだ。

 

8キロほど走って目的地につく。夕方以降は、誰も近づかない小さな山で、奥の方には、柵に囲まれた小屋がある。

 

私有地と書かれた柵をよじ登って超える。センサーがあるわけでもなければ、鉄条網すらない。

 

小屋に近づくほど帰りたくなってくる。不安で心が一杯になる。なんでこんな事を引き受けてしまったのだろうか。お金に目が眩んだ?いや、一番は、師匠の世界に近づきたかったのだ。

 

小屋まで10メートルを切った。そこでくぐもった声と、皮膚がぶつかり合う様な音がしだす。

 

窓は全て布で覆われている。俺は音を立てないように。扉の前まですすむ。

 

この扉を開けてはいけないと理性が言っている。知ってしまったら、見てしまったらもう元の自分には戻れないと。

 

中から小枝を折る様な音がした。その後に、男達の生理的嫌悪感を引きずり出すような笑い声と。誰かが暴れる音がした。

 

俺はドアノブに手を掛けた。

 

中にあったのは。地獄だった。




にく
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