クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 アドベント・オブ・チルドレン   作:オービタル

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第十話:アンジュ喪失

 

「…ん、…私は一体…?」

 

 アンジュが目を覚ますとそこは見知らぬ場所だった。

 

(どうして……たしか私、ヴィルキスのコントロールが利かなくなってスクーナー級と一緒に海に落ちて、溺れた筈なのに……)

 

不思議に思い、起き上がろうとしたアンジュだが体が言う事を聞かない。手を見るとベッドに細いロープで縛られていた。と、隣に気配を感じて顔を向けるとそこには、

 

「……?」

 

上半身裸の見知らぬ少年が横になっており、そして自分の体を見てみると何も身に付けておらず、裸であった。

 

「…え? え!?ええええええええええええええええええええええっ~~~~~~~~!?」

 

アンジュは悲鳴を上げ、たちまち顔が赤く染まっていく。そして青年の方も、

 

「ご、ごめん!念の為に縛らせてもらった。」

 

顔を赤くし、アンジュから離れると机に置いてあったポットの水をコップに入れる。アンジュが辺りを見回すとすぐ近くに自分が着ていたライダースーツが置いてあった。

 

「君はどうしてここ、にぃ!?」

 

アンジュに尋ねようとした男は床に落ちていたビンに足を取られ、バランスを崩す。そして、アンジュの股間に顔を突っ込む様にして転んでしまうのだった。これにはアンジュも顔が羞恥で真っ赤になる。

 

「ご、ごめん!これはわざとじゃ「いやあああぁぁぁ!!!」ぐえっ!」

 

男が弁解する前にアンジュは彼を足で殴り、思いっきり蹴り飛ばす。そして、手首を縛っていたロープを力づくで千切るとライダースーツを持って浜辺の方へ逃げていった。

 

「(何なの此処…、私…どうして…はっ!)」

 

アンジュはようやく自分のしていた事を思い出す。戦闘中にヴィルキスが異常を起こし、そこで海に落ちたって事を。海岸の方まで走ると砂浜にヴィルキスがあった。彼女は直ぐに乗り込んで発進しようとするが何も起きない。

 

「…? どうして動かないの?」

 

アンジュは原因を調べると、焦げている部分があり。すぐに調べてみると大量の下着が詰め込まれていた。

下着を見て、すぐにあのヒルダの仕業だと知り、アンジュは悔しながら下着を破り捨てて踏みつける。

 

「酷いじゃないか、君は命の恩人になんてことを…」

 

っと投げ飛ばしたさっきの男がやって来て、アンジュはすぐさま銃を抜いて彼の足元を撃つ。

それに男は慌てて後方に飛び退いて、両手を上げる。

 

「それ以上近づいたら撃つわ」

 

「お!落ち着け! 俺は君に危害を加えるつもりはない!それに君はもう撃ってるし…!」

 

「縛って脱がせて抱き付いておいて…!」

 

「嫌…あ、あれは…」

 

男は流石にあの事には何も言えず、顔を赤くし、アンジュは銃を握りしめながら睨む。

 

「目覚めなかったら、もっと卑猥で破廉恥なことをするつもりだったんでしょう!」

 

「もっと卑猥でハレンチ!?....ハァ、女の子が気を失っている隙に、豊満で形のいい胸の触感を味わおうとか、無防備で、体隅々まで触ろうとか、女体の神秘を存分に観察しようとか、そんな事をするような奴に見える....」

 

男は火に油を掛けるような言葉を放ち、アンジュはさらに顔が赤くなり、銃を構える。

 

「そんな事をするような奴だったの!!!?何て汚らわしい!この変態っ!!」

 

「ご!誤解だ! 俺は本当に君を助けようと!!」

 

男は弁明しようとしたが、彼の足元にカニがいて、男の足を挟む。

 

「痛ああああああ!!!」

 

突然の痛さに驚き、アンジュの方に倒れ込んで。彼女の股に埋まってしまう。

 

「はぁ!!!」

 

男はすぐに離れるも、アンジュは真っ赤な顔で男はを睨みつける。

 

「うわあああああああああああああ!!!!」

 

男が叫んだと同時に銃声が鳴り響いて、しばらくすると…。

 

「変態!ケダモノ!発情期!!」

 

怒りながら男を蔓で簀巻き状態にして吊して去って行くアンジュ。

 

「あの~もしも~し、今のは事故…」

 

男の弁明に、アンジュの耳には届いてなかった。

 

 

アルゼナルの司令室。そこではジル達が前の戦闘について話をしていた。イレギュラーな事が次々と起こって、ジル達は顔を顰めていた。

 

「ヴィルキス落ちたそうだね?やっと乗り越させそうな奴が見つかったのにね」

 

ジャスミンがため息を漏らす。サリア、メイ、マギーも沈痛の面持ちだ。そんな中、ジルはアンノウンが写った写真を食い入る様に見ていた。

 

(この色といい、形といい、あの男やグレイスの機体にそっくりだ。奴の配下だとでもいうのか?しかし、それならば何故ドラゴンではなく第一中隊を、グレイスを襲う必要がある?いや、今は墜落した機体とライダー達を回収するのが先決か。最低でもヴィルキスが無ければリベルタスを行うのは不可能だからな)

 

「機体の調子は良かったのに、どうして!?」

 

メイは拳をぶつけながらあの時の事を悔やむ。もっとアンジュに見ていておけば、あんな事には鳴らなかった筈だと。

 

「考えるのは後よ、今は機体の回収が最優先よ」

 

そうサリアがメイにそう言い、それにメイが頷いて回収班を編成させると言った時だった。

 

「アンジュも回収しろ、最悪の場合…、死体でも構わん」

 

それには流石のサリアも納得いかない様子、どうしてそこまでアンジュにこだわるのかを。っとその時ドアからノックがして来た。

 

「入れ」

 

ジルが言って、ドアからグレイスが入って来た。

 

「グレイス!どうして此処に?!」

 

サリアが驚きながら問うも、グレイスはサリアを無視してジルの前に来て言う。

 

「司令、リベリオンの使用許可を下さい」

 

「「えっ!!」」

 

グレイスが言った言葉にサリアとメイが驚く。

 

「…アンジュの捜索か?」

 

ジルがそれに問うと、グレイスは頷く。

 

「はい、アンジュさんを一人にさせて置くわけには行かない。あの人は兵士でも元皇女さんです。どうあっても一人で生きる行く事は出来ません。」

 

グレイスはジルからの許可を得て、アンジュ捜索の準備をする。そしてサリア、メイを入れた回収班が輸送機に乗り込み、準備をしていた。すると、

 

「メイち~ん!!」

 

アルゼナルからヴィヴィアン、エルシャ、レオンの方にやって来た。

 

「グレイスも捜索に参加するでしょ? あたし達も参加するよ!」

 

「やっぱりヴィヴィアンもエルシャさんも、アンジュのさん事が心配なんですね」

 

「ええ、私達はサリアちゃんたちと一緒にアンジュちゃんを探すわ。それに早く見つけてあげないとね、きっとお腹空かしてるわ♪」

 

「ほらほら!レッツゴー!」

 

「フンフフ〜ン♪」

 

そう言うと二人は輸送機の中に入っていった。サリアとメイも後に続く様に入り、輸送機はアルゼナルを離陸し、グレイスも燃料満タンにしたリベリオンを動かし、アンジュとヴィルキスの捜索任務の為、大空へと出撃した

 

 

一方アンジュはヴィルキスに非常食がないか調べていたが一向に見つからなかった。

 

「どうして非常食がないの?!」

 

っとアンジュは前にサリアやジャスミンの言葉を思い出す。

 

『私達ノーマの棺桶よ』

 

『パラメイルはノーマの棺桶』

 

そう思い出しながらヴィルキスを見る。

 

「ノーマの棺桶か…」

 

アンジュは目を細めていると、海水が増している事に気付く。

どうやら満潮が来たらしく、アンジュは急いでその場を離れる。

 

そして空が薄暗くなり、嵐の雨が降って来た。

雷鳴がとどろく中でアンジュは雨宿り出来る所を探していた、すると大木の穴を見つけて雨宿りする。しかしそこにある物がゆっくりと忍び寄っていた。

 

飢えと雨の寒さで体が震える中で、アンジュはある痛みを感じる。

 

「痛っ!」

 

アンジュは下を見ると、どうやら蛇が噛みついていて、急いで振り払い、その場から走り出す。

彼女はどのくらい歩いたのか分からないが、だんだんと体力が低下してきた。

そして先ほどの蛇に毒があったのか、徐々に身体がだるくなり。おまけに雨による体温低下にアンジュは倒れてしまう。

 

「…だれか」

 

助けを呼ぼうにも、彼女を助けにくる仲間はいない。

 

「…誰も、来る訳…ない」

 

助けが来ない事に涙を流すアンジュは、起き上がろうとするもぼんやりとしていて上手く立ち上がれない。

 

「あの…大丈夫?」

 

声がした方を振り向くと、先ほど縛り上げた男がいた。どうやらアンジュは同じ場所に辿り着いてしまった様だ。

男はアンジュの苦しい表情を見て、何かあったと聞く。

 

「たす…け…て」

 

手を男の方に伸ばした直後に意識を失い、その様子に男は急いで蔓を切り、アンジュの元に向かい抱きかかえて容体を調べる。

太腿に蛇にかまれた所を見つけ、蛇にかまれたことを知り、急所口で傷口から毒を吸い出して処置をする。

 

そして男はアンジュを隠れ家に抱いて連れて帰って、泥で汚れた身体を拭いていた。

その時にアンジュの指輪を見て、自分の幼い頃の事を思い出す。

 

 

紅蓮の炎が破壊された街を覆い尽くし。彼方此方に破壊されたパラメイルとバラバラになったメイルライダーたちの姿もあった。

 

そしてそこに両親も息絶えて、幼い頃の自分は泣いていた。

 

《父さん…母さん!》

 

泣いている自分は違う方向を見ると、片腕を無くして歩いてくる黒髪の女性と女神のオブジェがついていた白い機体が目に映った。

 

 

「…ヴィルキス」

 

呟きながら男は呼吸が安定し寝ているアンジュを見る。

何故彼女がヴィルキスに乗っているのか、何故あの女性の機体を彼女が受け継いでいるのかそう思う男であった。

 

 

一方、アンジュ捜索のアンジュとヴィルキスを捜索していたグレイスは報告を行っていた。

 

「こちらグレイス、M空域にはアンジュとヴィルキスの姿はなし。引き続き、捜索を行う。」

 

『了解』

 

報告を終え、海を見るグレイスはあの時の事を思い出す。

 

「(やっぱり気になる。あれって僕?…にしては何か憎む様な目だった……それにあの娘は……)」

 

『……コードネーム"MMD-008"』

 

突然ラルスがその娘の名前を発し、グレイスは首を傾げる。

 

「え?」

 

『何でもありません…』

 

「……ほんとに?」

 

『はい……』

 

「……それなら、良いんだけど…(MMD-008か、何か良い名前とかないのかなぁ……)」

 

グレイスはそう考えながらも、アンジュの捜索を続けるのであった。

 

 

夜となり、アンジュが目を覚ます。気が付くと、最初に目覚めた洞窟だ。

 

「無理しない方が良いよ? 毒は吸い出したけど痺れは残ってから」

 

男がアンジュにそう言い、アンジュが身体を起こす。っとライダースーツじゃなくワイシャツ姿を見て気付き。思わず男を睨む。

 

「言っておくけど、動けない女の子にエッチな事なんてしてないからね」

 

男はそういいながら、煮込んでいたスープを器に盛り付ける。

 

「もう少し治療が遅かったら危ない所だったんだ。これに懲りたら迂闊な格好で雨の森に入ったらダメだよ」

 

「…余計なお世話だわ」

 

アンジュは頼んでもいない顔をしながら明後日の方向を向き、男はスープの具をスプーンにのせてアンジュに向ける。

 

「はい」

 

「…え、何?」

 

「食事、君何も食べてないだろ?」

 

「いらないわよ! そんな訳の分からい物!」

 

アンジュはそう言うが腹が空腹で鳴っている。身体が正直なのが彼女は恨めしくなってきた。

 

「変な物は入ってないよ、ほら」

 

渋々と口を開けて、食す。

 

「…不味い」

 

そう言いながらも口をアーンッとあけるアンジュ。

男はクスリッと笑う。

 

「気に入ってもらえてよかったよ、ウミヘビのスープ」

 

ウミヘビと言う言葉にギョッとし、一気に飲みこむアンジュ。

 

「少しは信用してくれた?」

 

「…」

 

アンジュはまだ信用出来ない様で男見て、男は少し困った表情をする。

 

「出来ればもう殴ったり撃ったり、簀巻きにしないでくれると嬉しんだけど…」

 

「考えとく…」

 

そう言いながらまたアーンッとし、食べる。するとある言葉を思い出す。確か、蛇にかまれた部分は…。っと少しばかり頬を赤くする。

 

「どうしたの?痛む?」

 

男は心配そうでアンジュに言う。

 

「さっき、毒を吸ったと言った…?」

 

「うん、そうだけど…」

 

「口で?」

 

「うん…ハッ! そ!それは…!」

 

男は気が付き弁明するが……。

 

「いだだだだだだだだだ!!!!」

 

「噛まないとは言ってない!!!」

 

何処を噛まれたのかは知らないが、何やら良い雰囲気な様子だった。

 

 

補給の為に帰還したリベリオンはアルゼナルに着陸し、グレイスは休息を取る為に飲み物を飲んでいた。

そこに先に戻っていたエルシャがグレイスの隣にやって来る。

 

「お疲れ様」

 

「ああ、それでそっちはどうだ?」

 

「こっちも見つからない」

 

それを聞いたグレイスは「そうか」と呟きながら飲み物を飲む、そこにヒルダがやって来る。

 

「晴が出る事で」

 

「ヒルダちゃん」

 

「わっかんないね~、何であんな女を助けようとしてんのか、エルシャお得意のお節介な奴? それにあんたも態々ご苦労様な事で」

 

っとヒルダはグレイスとエルシャに向けて笑みを浮かばせながら言って壁にもたれる。

ヒルダの言葉にグレイスはどうも頭の中に引っかかっていた疑問を問う。

 

「仲間だもの、心配するのは当然でしょ。ヒルダちゃん達がアンジュちゃんを憎むのは分かるわ。

…機体を落としたくなるのもね」

 

「え!?」

 

グレイスはエルシャの言った言葉に思わず振り向き、ヒルダの方を向くと、ヒルダは不敵な笑みを浮かべる。

手に持っている飲み物の容器を少々握りつぶし、ヒルダを少しばかり睨む。

 

そう言うエルシャの顔は普段と違い、とても険しいものだった。

 

「でもそれでも誰かが受け入れてあげないと、彼女はずっと独りぼっち。そんなの寂しいじゃない、同じノーマ同士なのに」

 

グレイスが言った後に笑顔で話すエルシャの言葉に、どうも納得ができないヒルダ。

 

「それにね、アンジュちゃんと似てるのよ。昔のヒルダちゃんに、だからお姉さん放っておけないの」

 

「(似てる? アンジュさんとヒルダさんが…?)」

 

エルシャの言葉にグレイスはすぐに引っかかり、それにヒルダは笑う。

 

「あはは!似てる?あのクソ女と? 殺しちゃうよ~、あんたも…」

 

そうエルシャに脅して言い聞かせて、その場を去って行くヒルダ。

 

「補給~補給っと♪ってあれヒルダ?」

 

入れ違いにヴィヴィアンは去って行くヒルダの方を向き、グレイスはヒルダの行動に少々怒りがこみ上げて来た。

 

「(ヒルダ…お前のやり方、俺は絶対に認めはしないからな)」

 

グレイスが怒りを湧き上って来る怒りを抑えている所にメイがやって来る。

 

「グレイス〜!パドルデーゲンの修理が終わったよ!」

 

「ホントですか!?」

 

「うん!」

 

リベリオンの右腕に、修理されたパルスガン兼用の折り畳み式高周波ソード『パドルデーゲン』が装備されていた。

 

「良し!これなら、接近戦になっても安心だ!」

 

グレイスはパドルデーゲンに喜ぶ。そして夜になり、グレイスが星空を見ていると、

 

「グレイス君♪」

 

「あ…エルシャさん」

 

声がした方を振り向くとそこにはエルシャが立っていた。

 

「エルシャさん、どうしたの?もしかして、僕を探してた?」

 

「いいえ、私も星を見に来たの。コーヒーを持ってきたけど飲む?」

 

「うん。あそこで座って飲もうか」

 

2人はグラウンドにあるベンチに腰掛ける。エルシャは持っていた水筒に入っていたコーヒーをコップに移し、グレイスに渡す。コーヒーはブラックだったが不思議とそんなに苦くは無かった。

 

「このコーヒー、ブラックなのに苦く無くて美味しい」

 

「でしょ。これは私の特製ブレンドなの。疲れている時に飲むととてもリラックスするわよ」

 

2人はコーヒーを飲みながら星空を眺める。空には数多の星が輝いていた。

 

「私も小さい頃から此処へ来ては星を眺めてるの。此処へ来ると辛い事や悲しい事を忘れる事ができるから」

 

「星って不思議ですよね。僕達が生まれるずっと、ずっと、ずーっと昔から空で輝いてるんだもんね」

 

「そうね。人や世界は変わっても、この星空は昔から変わらない。こうして輝きを讃えているのよね」

 

2人が話をしていると空に一筋の流れ星が流れていった。

 

「あ、流れ星!流れ星に願うと願い事が叶うって言うらしいよ」

 

「グレイス君は何を願うのかしら?」

 

「私は、やっぱり自分の記憶が戻る事を願うかな。エルシャさんは何をお願いする?」

 

「私はアルゼナルのみんながいつまでも無事で毎日を過ごせます様に、ってお願いするわね」

 

「あはは、エルシャさんらしいね」

 

それからグレイスはエルシャにある事を聞く。

 

「ねえ、エルシャさん。エルシャさんはどうしてメイルライダーになったの?」

 

「どうしたの?突然、そんな事を聞くなんて」

 

「うん。だってさ、エルシャさんってアンジュさんやヒルダさん達と違って性格も荒々しくないし、料理だって上手でしょ。それに幼年部の子供達にもお母さんみたいに慕われているし」

 

「それを言うなら、グレイス君もどちらかと言ったら大人しい方じゃないかしら?」

 

「まあ、僕はメイルライダーになるしかなかったからね。でも、エルシャさんならコックや幼年部の指導員になる事もできたんじゃないのかな、って思ったんだ。それなのにどうして危険なメイルライダーをしているのかなって」

 

グレイスが尋ねるとエルシャは答える。

 

「そうです。確かに僕もコックになってみんなに料理を作ってあげたり、幼年部の子達に色々教えたりするのもいいんじゃないかなって、思う事はあります…」

 

「なら、どうして?」

 

「私は……もっと強くなりたいんです。強くなって、アルゼナルのみんなを守りたい。ドラゴンや色んな脅威からみんなをです。守られるだけなんて私は嫌なの」

 

「エルシャさん……」

 

静かだが強い決意がエルシャから感じられた。フィオナは彼女は強い人だな、と心から思うのだった。

 

「…夢々めぐる…蒼いel ragna

ゆらゆら眠る…最果ての海へ…

 

風もなく 星もない…

暗闇に 迷っても…

泣かないで 夢見れば…

いつかは 帰るよ…

 

星々めぐる 夢のel ragna

やがて朽ち果て 光の海へ……

 

旅にでて 恋をして…

寂しさに 震えても…

いつまでも 忘れない…

まだ見ぬ ふるさと……

 

夢々めぐる 蒼いelragna

ゆらゆら眠る 最果ての海へ…

 

星々めぐる 夢のelragna

やがて朽ち果て 光の海へ………」

 

グレイスが突然、歌を歌い出し、エルシャが

 

「いい歌ね…まるで海が心を癒やしているみたいだわ…なんていう歌なの?」

 

「……分からない、何故か歌えた……だけど、歌っていると、"何か大切な人を守ってやらないと"と……」

 

「大切な人?」

 

「あの戦闘時に…あの未確認機を見ていたら……薄々と思い出していくんだ……その記憶に不思議な少女と僕みたいな青年が映っていたんだ…。」

 

グレイスの言葉に、エルシャが疑問に思う。

 

「不思議な少女?」

 

グレイスはポーチからスケッチブックと万年筆、色ペンを取り出し、スラスラその少女を思い浮かべながら改善し、描いていく。絵を描き終えると、エルシャに見せる。それは、クラゲとクリオネの様な透き通った体、足は人間やノーマの様な、二本足ではなく、足全体が尾ビレ、この世とは思えない程の絶世の美少女と言うより……"人魚姫"でもあった。(イメージはモンストの"キスキラリル"です。)

 

「綺麗……私がまだメイルライダーになる前、絵本に出てくる人魚姫みたい」

 

「人魚姫?」

 

エルシャは説明する。"人魚"とは、人間の上半身と魚の下半身を持ち合わせる空想上の生物の名称。

人間と同じく男女の別があり、男の人魚を『マーマン』。女の人魚を『マーメイド』と呼ばれている。モチーフとしては、どちらかと言うとマーメイドの方が好まれる。 特に人魚の頂点にして君臨するのが人魚のお姫様。水中を自在に泳ぎ回り、海中でも魚のように呼吸が出来るとされる。

そして水泳能力も高く、嵐の海でも平然と泳ぎ、日の光の当たらない深海まで潜ることが出来、その上潜航速度も極めて速いという。

また人魚から派生した能力なのか、「歌で人の心を魅了する」能力を有する。

この力によって、人魚の詩を不用意に聞いてしまった船が数多沈没していったという。

昔の大航海時代では、人魚の存在を警戒する船乗りも多かったらしい。

 

「そんな伝説があるんだ……」

 

「そう、それに涙はどんな傷や症状も癒やしたり、人魚の肉は不老不死の妙薬とされていて、食べたら永遠の若さと命を得るってなるの…」

 

「永遠の若さと命を得る!?」

 

「うん……本には1000年の寿命を得るらしいの」

 

「1000年も!?」

 

「…私は"人魚姫"に会ってみたい……ドラゴンの様に、絵本の中で語られた本物に会って、幼年部の子供達と一緒に人魚姫さんの綺麗な歌を聞いてみたいの♪」

 

「良いですね♪僕も会って、歌を聞いてみたいです……人魚姫に…」

 

「じゃあ、もう遅いしそろそろ戻りましょうか?」

 

「そうしましょう」

 

グレイスとエルシャは自分の部屋へと戻っていった。

 

 

一方、アンジュと男性がいる島の隣島では、砂浜に横腹から血を流している少女が倒れていた。

 

「やっと…陸地………」

 

少女は陸地に着いた事に安心し、気を失うのであった。

 

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