クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 アドベント・オブ・チルドレン   作:オービタル

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第二十話:救出作戦・中編

 

ミスルギ皇国へと連れて行かれたアンジュとモモカを救出するべく、アルゼナルからミスルギ皇国へと出発したレオン達。

本来ならこれは列記とした脱獄、救出任務として出撃している為、エマに強引に頭を縦に振らせた。勿論ローゼンブルム王国の王女"ミスティ・ローゼンブルム"も助けてほしいとの要望もあった。

 

輸送機の中でグレイスは海面を見ながら考えていて、隣に居るセシルが問う。

 

「どうしたの、グレイス?」

 

「セシルさん、ミスルギ皇国って……どう言う国なのですか?」

 

「ミスルギ皇国と言うのはね……え〜っと、お願いメタリカちゃん、グレイス君に説明してくれないかな?」

 

「仕方ありませんね。良いですか、『ミスルギ皇国』は長い歴史と様々な伝説を持ち、万世一系の皇族によって統治される巨大国家で皇帝による厳格ながら公正な統治の元、国民は平和で豊かな暮らしを享受し、学問やスポーツ、芸術活動などが非常に盛ん。国民達にとっては美しく聡明とされる皇族達は憧れと誇りであり、皇女だったアンジュを初めとするロイヤルファミリーの人気は非常に高いのです。」

 

「……もっとわかり易く」

 

「要するに、とても"美しい国"と言う事。わかった?」

 

「はい、だけど……何でアンジュやモモカ、ティアを拐うんだ?」

 

「それは分からない……念の為、あの人から聞いてみよう」

 

「あの人?」

 

「"大樹のエグナント"…別名"ハデ・キュクロプス"。私達の仲間で、実験体第一号。何もかもを全てお見通しなお爺さんなの……。因みに私は"隆岩のメタリカ"…別名"ショバテ・セルケト"実験体第七号。」

 

「私は"業火のセシル"……別名は"ティシハテ・ミスラ"なの。私達は10人であらゆる各国を移動しつつ、司令に情報を提供しているの♪」

 

「10人?正確に言えば12人だけど…」

 

「あ、そっか!グレイス君とティアちゃんも入っていたんだ!」

 

「僕やティアもですか?」

 

「司令が言ってたでしょ?『曙光のグレイス』、『宵闇のティア』……あなた達は別名"アセルテ・ハデ・ラーフ"、"アセルテ・キルテ・ケートゥ"と呼ばれる事になったのよ。」

 

「名前…長…」

 

「まぁ、短文したら…"アルデ・グレイス"と"アルテ・ティア"と名乗った方が良いと思うよ♪皆そうやって前の名前と今の名前を使って名乗っちゃっているから♪」

 

「はい……」

 

グレイスは、改めてアルデ・グレイスと名乗り、輸送機は誰も見つからない森の中へと着陸する。

着陸したグレイス達は装備を整える。メタリカはアサルトライフルと運動エネルギー弾を放つ遠距離武器『レールガン』を装備する。セシルはグレネードランチャーと、どこから持ってきたのか、バックパック使用のミニガンであった。他にもミサイルランチャー、C4、ガトリングガン、ヘビーマシンガン、ナパーム、火炎放射器、中には榴弾砲、リモートスナイパー、チェーンガン、リニアアサルトライフルまでもがあった。武器庫の中にグレイスは驚く。

 

「何だこれ?……二人共危ないなぁ!?テティスってそんなに!?」

 

「ほら、あなたはこれを使って」

 

メタリカが、グレイスに刀とマグナム、そして試作型パルスライフルを投げ渡す。

 

「一応持っておきなさい、それと。」

 

今度は、猟銃やアサルトライフルを渡される。

 

「これはアンジュ救出時に渡しておいて、劣化ウラン弾や焼夷弾を装填しているから、注意してね」

 

「え!?」

 

メタリカはそう言い、腕部のワイヤーガンを建物の屋上に撃ち込み、リモートスナイパーを持って、行動を開始する。

 

自動砲チェーンガンを四台も設置したセシルは屋上には榴弾砲二台も設置し、グレイスに光学迷彩搭載のギリースーツを渡し、着る。

 

「行動開始ね♪」

 

「ですね……」

 

二人は、ミスルギ皇国の街へ足を踏み入れた。だがこの時、輸送機が去った場所から赤い髪の少女が居た事に誰も気付きはしなかった。

 

 

そしてミスルギ皇国へと到着したグレイス達は既に夜へとなっていた。屋上では、エグナントの他に、『鍛鉄のオボロ』『精金のミカ』、そして無人島で出会ったり、再会したタスクがいた。

 

「タスクさん!」

 

「グレイス、久しぶりだね」

 

タスクとグレイスが握手で交わすと、老人がグレイスを見る。

 

「……そやつが、曙光のグレイスかい?」

 

そして長身で身体中が傷や入れ墨だらけの男性"オボロ"とメイよりも、小さな茶髪の女の子"ミカ"もグレイスを見つめる。

 

「……本当に、俺達の事を覚えていないのか?」

 

「え?」

 

「ふ〜ん…肌や髪や目の色は違うけど、やっぱりお前じゃん。」

 

「何が?」

 

「やはり……わしらの事は覚えていないのか、10年前にあの騒動を起こし、醜いわしらを奴らから助け解放し、タスクを助けた事も……」

 

「ちょっと待って?一体何のこと?」

 

「すまない、覚えているかどうか確認したのじゃ。覚えていないのなら、無理もするな……今はそれより、これであの……"暁ノ御柱"(アケノミハシラ)を見るのじゃ。」

 

エグナントが双眼鏡を渡し、グレイスはアケノミハシラのその下を見る。

 

「っ!!?」

 

双眼鏡で見ていたグレイスが驚きの声を上げる。

 

アンジュがボロボロの服の処刑着を着せられ、腕を吊るされていた。そしてマナの電動車いすに乗っている少女『シルヴィア・斑鳩・ミスルギ』がムチでアンジュの身体に打ち付けて痛みつけ、それにアンジュが悲鳴を上げる。

それを見ていた国民達は喜びの声援を上げていた。

 

見ていたグレイスは信じられない事に怒りがこみ上げて来た。

 

「……けるな」

 

「?」

 

「…ふざけるなよ。これが……人間?」

 

グレイスは思い返す。メタリカが説明してくれたミスルギ皇国の事。ココが憧れる夢と魔法の国。世界をドラゴンから守る事。

 

「『美しい国』……」

 

「『本当にあったんだ!魔法の国♪』」

 

二人の言葉に疑問を抱くと同時に、目の前の光景がグレイスをさらに怒りを込み上げさせた。そこにはアンジュと共にボロボロの服の処刑着を着せられ、腕を吊るされているティアの姿がいた。しかもティアは人間の姿ではなく、本来あるべきの人魚の姿であった。そして彼女の近くに、青いアーマーをした女性がスピアで、ティアの四肢を突き刺す。突き刺された穴が再生し、流れていた血も干上がるかのように、消えていく。グレイスは歯を食いしばり、持っていた双眼鏡を握り壊した。

 

「僕達は……こんな豚みたいな奴らの為に世界を守っていたのか?……」

 

 

 

 

そして一方、アンジュの方では……。

 

 

(クサってるわ……こんな世界―――)

 

アンジュは、心のなかで呪うように言葉を吐き捨てた。

 

だが、それも背中に響く痛みに掻き消される。背中は赤く腫れ、熱を伴ってアンジュを苦しめる。そして、またもや衝撃が襲い掛かり、アンジュは苦悶を噛み殺す。

 

そんなアンジュの醜態を嗤うように鞭を振るうのは、車椅子に乗った最愛――いや、己の妹だった少女だった。アンジュを罵りながら鞭を振るうシルヴィアは、醜悪な笑みを見せる。

 

「ほら、謝りなさい? 自分のせいだって? あなたが生まれてきたせいで、こうなったって?」

 

記憶にある己に向けていた笑顔と同じ顔で嗤うそのシルヴィアは、醜く見えた。いや…ここにあるすべてがクサっている―――アンジュは冷めた心持ちだった。

 

その思考のなかで、アンジュはこの数日の一部始終を思い出す。

 

シルヴィアの助けを求める声に、妹への贖罪を胸にアルゼナルを脱走した。シルヴィアを歩けなくしてしまった己の過去への懺悔と、妹を守らなければならないという責任感から、飛び出してきた。

 

あれ程帰りたいと願っていた故郷に戻り、シルヴィアを助けるために行動する中、かつての学友であり親友とも思っていたアキホからは『化け物』と怯えられ、見逃してくれと頼んだが通報された。

 

その仕打ちに憤る間もなく、追っ手を掻い潜り、そして懐かしい皇居へと辿り着いた。そこにシルヴィアはいた。衛兵達に取り囲まれ、助けを求める声に必死になり、ようやく手が届いたと思った瞬間―――

 

アンジュはシルヴィアにナイフを突きつけられた……―――世界が止まった。

 

まるで悪夢のように何も知覚することもできず、アンジュは呆然となるしかなかった。だが、それは夢でも幻でもなかった。こちらを見るシルヴィアは――最愛の妹が向けたのは、明確な憎しみだった。

 

シルヴィアは私を罵った。

 

姉でも何でもない、『化け物』と。どうした産まれて来たのだ、自分さえ存在しなければ父も母も死なずに皆幸せだった。自分の足も動かなくならずに済んだのだ、と―――母を返せ! 化け物! 大嫌い!

 

彼女は泣いていた……本気で、狂ってしまったのは、全てお前のせいだと――そう、訴えるように―――次の瞬間、アンジュはモモカと共に捕らえられた。

 

そんな自分を嘲笑ったのは、自分を『ノーマ』だと暴いた兄だった。ジュリオは告げた――すべて、自分を誘き出すための罠だと。

 

アンジュは愕然となった。『裏切り』――そんな陳腐な表現しか出ないほど、思考が考えることを放棄していたのだ。

 

自分は一体、何のために脱走行為を働き、危険を冒してまでここに来たのか。………茫然のあまり、自分を気遣うモモカの声もまるで異国の言葉のように聞こえ、アンジュには届いていなかった。

 

そして―――ようやく気がついた時には、アンジュは処刑台へと繋がれていた。ジュリオとシルヴィアに罪人のようにアンジュは布きれ一枚にされ処刑台に送られた。

 

そして、処刑台の前にはミスルギ皇国の国民達が喝采を上げている。シルヴィアの振るう鞭に痛めつけられるアンジュを見て歓声を上げているのだ。

 

まるで、これから始めるショーの余興のように―――その醜態を高みから見下ろすジュリオ。この男は、あろうことかアンジュを排斥しただけに飽きたらず、皇帝にのし上がるために父を絞首刑したと、堂々と告げた。

 

母ばかりか父までも死んでいたことにアンジュはショックを隠せなかった。さらにそれをしたのが、実の息子――なのに、この男は罪悪感どころか、父を蔑むように罵った。

 

シルヴィアはそれすらもアンジュのせいだと怒り、鞭を振るう。それを必死に止めようとするモモカも捕らえられており、そんなモモカにジュリオは無情に告げた。

 

モモカがアルゼナルに行けるように取り計らったのは、すべてこのためだと―――なかなか死なない自分のしぶとさに業を煮やし、失墜したミスルギ皇室の権威を取り戻すため、汚点であるアンジュを処刑するために――その言葉にモモカは愕然となる。

 

敬愛する主の危機をそうとは知らず、招き寄せてしまったことに―――こんな男が兄だというのか、鞭を振るうこの少女が妹だというのか――それだけには留まらず、公開処刑を見に来たかつての友人達に国民、それらはすべて己を忌まわしき存在と罵る。

 

よくも騙してくれたな、と。お前の存在そのものが忌まわしいのだ――だから死ね、と………アンジュは悔しさと怒りに歯噛みする。

 

こんな幼稚で滑稽な者達をかつて、自分は愛していたというのか――こんな国に帰りたいと願っていたのか………心のどこかで、未だに思っていた。

 

ミスルギ皇国は平和を愛する国だと――そこに生きる者達は皆、尊い存在だと……それがどうだ? ノーマだというだけで何もかもが悪いと、責任転嫁する思考。それに何の躊躇いもなく、声を上げる姿は人間ではなく、ただの獣だった。

 

(いや―――こいつら皆、人間の皮を被った家畜よ!)

 

そしてアンジュの所に、全身ボロボロのティアが転がる。

 

「ティア!」

 

「あ〜ら?元皇女さん、この魚ちゃんの知り合い?」

 

テティスがティアを踏みつけながら、処刑台へ上がってくる。

 

「知り合いも何も!その子は関係ないでしょ!?」

 

「ふ〜ん、あんた……」

 

テティスは微笑ましい表情を浮かばせながら、アンジュに近づく。

 

「何も知らないのね?……」

 

テティスがアンジュを見下すように告げる。

 

「!!?(何!?……この殺気!?明らかに普通じゃない!?)」

 

テティスからただならぬ殺気を感じ、警戒する。テティスはティアの髪を掴み上げ、国民に見せつける。

 

「見よ!ミスルギの国民!そして全国民よ!!この国の姫……人間の皮を被ったノーマの他に、こんな奴もいるんだ!!」

 

テティスはそう言い、腰に身につけていた剣を抜く。テティスは後ろからティアを突き刺した。

 

「ティア!!!!」

 

「アアアアアアアァァァァァァァァ!!!!!!」

 

胸から大量の血が噴き出し、さらにテティスはテティスはティアの喉をナイフで掻っ切った。

 

「何て事を!!ティアは関係ないでしょ!!?」

 

「関係?……大アリなのよ♪」

 

すると吊り下げられているティアに異変が起きる。足から鱗、尾ビレ、首エラ、水掻きが出てくる。前に集まっている国民や全国で中継されている映像を見ている各国の国民、ジュリオとシルヴィア、リィザ、そしてアンジュとモモカはティアの姿に驚く。そしてテティスがティアの首を掴み上げる。すると突き刺された筈の胸の傷と喉が再生し、血が干上がるかのように消える。アンジュやモモカはティアの驚く力に驚いていると、

 

「ば……ば!……化物だァァァァ!!!」

 

国民の一人が悲鳴を上げ、民達一斉に悲鳴を上げる。

 

「おい!マナの光無しで再生したよな!!?」

 

「何でノーマ、というかあれってノーマ?人魚の間違いじゃ?」

 

「とにかく、あの様な怪物は殺さなきゃ!きっとあんな化物の仲間がいる筈!」

 

「ノーマであったアンジュと!あの魚みたいな化物を殺せ!!」

 

「そうだ!!お前達化物は世界から処分だ!!」

 

国民の圧倒な声援に、ティアは悲しむ。その姿にアンジュは怒りを込み上げていると、

 

「あっははは、惨め」

 

「私たちを騙していた罰よ!」

 

その後ろ姿に、侮蔑の言葉を投げかけるのはかつての友の姿。

 

「どうして…」

 

思わず立ち止まり、アンジュが呟いた。

 

「どうして私が処刑されなければいけないの!? 何の罪で…」

 

振り返り、己の想いを主張しようとしたアンジュだったが、そうしようとする前にそれは中断された。突然投げつけられた生卵が彼女の顔にぶつけられ、中身が割れたのである。

 

「黙れノーマ! 私に何をしたか忘れたの!?」

 

投げつけた人物…かつての友の一人、アキホが憎々しい目でアンジュを睨みつけた。

 

「ちょっと蹴飛ばして簀巻きにしただけでしょ。大げさなのよ」

 

「ちょっと!? …酷い、酷いわ!」

 

アンジュの返答にアキホは泣き出してその場にへたり込んでしまった。慌ててその周りに友が集う。

 

「死刑にされるほどの罪じゃない」

 

だが、アンジュはそんな光景を見ても最早何の痛痒も感じないのだろう。フン、とばかりにそっぽを向いた。

 

「それは人間の場合でしょう!?」

 

「あんたはノーマ! 人間じゃない!」

 

「たくさんの人たちを不快に、不幸にしたの! だから死刑なの!」

 

「それで黙って殺されろって言うの!? 家畜みたいに!?」

 

「悪いのはノーマよ! だから全部貴方が悪いの!」

 

「ジュリオ様が死刑って言ってるんだから、死刑でいいじゃない!」

 

両者の応酬は何処までも平行線だった。そして、そこかしこからアンジュの旧友…彼女は最早友とさえ呼びたくないだろうが…に賛同する歓声が上がる。

 

「悪くありません! アンジュリーゼ様は何も悪くありません!」

 

その状況にいたたまれなくなったのだろうか、モモカがアンジュをかばうように両者の間に入って声を張り上げる。

 

「私は、アンジュリーゼ様のおかげで幸せに…」

 

しかし、そこまでだった。何故なら観衆の間から自然発生的に悪意が押し寄せてきたからだ。

 

『『『吊ーるーせ!吊ーるーせ!』』』

 

そしてそれは瞬く間に手拍子と共に観衆の間に広がっていった。

 

「どうして…? どうしてアンジュリーゼ様だけが、こんな酷い目に…」

 

目の前の光景が信じられないのだろうか、はたまた理解できないのだろうか、モモカはそれ以上二の句が告げなかった。

 

「モモカ…」

 

そんなモモカに、アンジュが慈しむような視線を向けた。

 

「貴方と…あそこの人たちだけね。差別や偏見、ノーマだとか人間だとか関係なく、私を受け入れてくれたのは」

 

脳裏に浮かぶのはアルゼナルの面々の姿。恐らくはもう二度と逢えないのだろう。共に過ごした期間は短くとも、その姿は強烈に、印象は鮮烈にアンジュの頭の中に残る。

 

(それに比べて…っ!)

 

アンジュは元は自分の臣民だったミスルギの観衆に目を向けた。吊るせコールと手拍子は止むことなく続いている。

 

「さっさと殺せよ!」

 

「早く帰りたいんだけど」

 

「魚は焼いて殺してまえ」

 

そしてそんな揶揄が、尚もアンジュに浴びせられる。

 

(これが、平和と正義を愛する、ミスルギ皇国の民? …ブタよ! こいつらみんな、言葉の通じない、醜くて無能なブタどもよ!)

 

アンジュの視線は一層鋭くなり、ギリッと歯噛みする。

 

(こんな連中を生かすために、私たちノーマは…っ!)

 

悔しさからか、兄であるジュリオにそのまま視線を向けた。と、ジュリオが自分の指輪を弄んでいるのが視界に入ってきた。

その瞬間、アンジュは今は亡き母のことを思い出していた。

 

『アンジュリーゼ…貴方にこれを。どうか、光のご加護があらんことを』

 

洗礼の儀の前夜、母から譲り受けた指輪を見たアンジュは何かを思い出したのか、今までの険しい表情が嘘のように納まった。そして

 

「♪〜♪〜♪〜」

 

歌を口ずさみ始めたのだ。永久語りという、ミスルギ皇家に代々伝わるものだった。アンジュはその永久語りを口ずさみながら、処刑台へと自ら歩いていく。途中、リィザに命じられた近衛兵が止めさせようとするが、アンジュの気迫に圧されてか、手出し出来なかった。

永久語りを口ずさみながらゆっくりと歩くアンジュの脳裏には、二人の人物の顔が浮かんでいた。

 

「(タスク…)」

 

一人はかつて無人島に不時着したとき、その島で数日を共に過ごした青年、タスクだった。あのときの思い出が脳裏に幾つも蘇る。

決して楽しい思い出だけではなったけど、それでもあの数日間は今迄で一番生き生きとしていたときだったかもしれない。

 

「(会いたいな、もう一度…)」

 

もう一度その顔を思い浮かべ、アンジュは吹っ切っていた。

 

(道を示す光。お母様が私に残してくれたもの)

 

未だ永久語りを口ずさみながら、アンジュは一歩一歩処刑台へと向かって歩く。

 

(私は死なない。諦めない。殺せるものなら、殺してみろ!)

 

いつからかそんなアンジュに呑まれたかのように、広場に集まった観衆は静まり返っていた。

 

 

そしてアンジュの歌は、グレイス達の所まで響き渡っていた。

 

「?」

 

「これは……永遠語りか…」

 

「綺麗な…歌…」

 

「美しい歌だ……」

 

するとグレイスの頭の中で、ある映像が浮かび上がる。アンジュの父と母であるジュライ・飛鳥・ミスルギとソフィア・斑鳩・ミスルギがアンジュをどれだけ愛しく思ったのか……洗礼の義の日に、ソフィアがアンジュを庇い、アンジュに告げる。

 

《生きない、アンジュリーゼ…》

 

最後を遂げたソフィアに、グレイスはいつの間にか涙を流していた。グレイスは涙を拭くと、彼に異変が起きた。銀の短髪が黄金の長髪、蒼眼から碧眼、褐色肌が白く変色した。

 

「グレイス?」

 

「……タスクさん、先ずアンジュさんを救出してください。」

 

グレイスはそう呟き、鞘から刀を引き抜く。

 

 

「っ! 早くしろ!」

 

先程までと一変した状況に苛立ったジュリオが近衛兵に命令した。弾かれたように近衛兵が、未だ永久語りを歌っているアンジュに近寄って絞首に顔を叩き込む。

 

「さらばだ、アンジュリーゼ」

 

ジュリオがそう呟いたのが合図のように、刑が執行される。足元の感覚がなくなり、アンジュは観衆が望んだ通り吊るされることとなった。

 

「アンジュリーゼ様ーっ!!!」

 

モモカの悲痛な悲鳴が響き渡る。そしてそれとほぼ同時に、近隣の森から一発の閃光弾が発射され、中庭を昼のように照らした。

突然の事態に悲鳴を上げて目を押さえる観衆たち。そんな彼らの隙を突くかのように漆黒の機影が夜の空に舞う。

その時にジュリオの横を通り、搭乗している人物から手裏剣が投げ込まれ、アンジュを吊していたロープを切り。その者は落ちて行くアンジュをキャッチする。

っが…。

 

「うわっ!」

 

思わずバランスを崩してしまい落ちてしまって、

 

「う、うえ~~~!!?」

 

何とアンジュの股間に頭を突っ込んいて、それにレオンは思わずドン引きしアンジュは真っ赤な顔になる。

そいつはもがいていて、アンジュはさらに真っ赤にある。

 

「こ…こっの~~!!!」

 

「ぐほっ!!」

 

アンジュはその人物の腹を蹴り飛ばし、壁に激突した瞬間頭に被っていたローブが取れてタスクの顔が現れる。

 

「えっ?!タ…タスク!!?」

 

「近衛兵!何をしている!早く取り押さえろ!!」

 

くらんだ目から回復したリィザは、近衛兵にアンジュを捕獲を命令する。アンジュは急いでタスクを飛行艇へと運び出す。

 

「ノーマを助けるあの男たち、一体…」

「反乱分子だ。ノーマに与するテロリストどもめ!」

 

忌々しげにジュリオが吐き捨てる。その間に新たな近衛兵たちがアンジュ(と、タスク)を囲んでいた。新たな敵の出現に、アンジュの表情に緊張が走る。

 

「アンジュリーゼ様ーっ!」

 

そんな彼女の元に、拘束を解かれたモモカが駆け寄ってきた。

 

「モモカ!」

 

マナの手錠を破壊するアンジュ。マナの力でアンジュの手錠を解除するモモカ。

 

「解錠!」

 

そんな二人に、近衛兵たちは照準を定めて銃の引き鉄を弾こうとする。

 

「そうはさせん!!」

 

「「「!?」」」

 

何処からともなく声が響くと、近衛兵の頭上から影が舞い降り、刀で近衛兵の首を切り落とした。切られた首根から血が噴水の様に噴き出し、影はゆっくりと顔を上げる。黄金の髪、白き肌、翡翠の碧眼のグレイスは、身体中が血に染まっており、国民に恐怖を轟かせる。

 

「フッ♪」

 

グレイスは笑うと、疾風の如く速さで、近衛兵を次々に切り倒していく。迎撃しようと、近衛兵が猟銃を構えると、背後から巨獣化したエグナント、オボロ、ミカが現れた。

 

「ば!化物っ!!」

 

近衛兵の最後の言葉なのか、エグナントの樹木の足によって、近衛兵が下敷きになる。オボロは金属の四足と身にまとった鋼鉄の鎧、両手には巨大な双剣で迎撃してくるレギオロイドを粉砕する。ミカは身体中がオボロと同じ鋼鉄の鎧を身にまとっており、全身がクルクルと周り、鎖の触手でレギオロイドや近衛兵を叩き切る。そして上空からは、複数のジェットパックを装備したレギオロイドが向かっていたが、セシル、メタリカが仕掛けた榴弾砲、リモートスナイパー、チェーンガンに足止めされていた。

 

 

大きく弧を描きながら逃げ惑う民衆の中心に落ちた瞬間、巨大な爆発が民衆を呑み込んだ。眩い閃光にアンジュは思わず眼を覆い、ジュリオやシルヴィア達も視界を隠す。

 

轟音が響き、アンジュが眼を開くと、そこには巨大な穴ができており、周囲には爆発で四肢を吹き飛ばされた民衆の死体が無残に転がっている。

 

その光景に痛みも一瞬忘れて茫然となっていたアキホの前に先程逃げた友人の腕が落ち、悲鳴を上げる。

 

中心にいた者達は木っ端微塵、巻き込まれた者も既に半死半生の状態であり、所々で呻き声が聞こえる。まさに阿鼻叫喚の地獄絵図に、ジュリオやシルヴィアは慄き、言葉を失っている。

 

反対にアンジュはどこか唖然となっているだけで、さして動揺もしていなかった。しかし、テティスの目の前に、全身が血に染まっているグレイスを睨む。

 

「"RBLー1272"!!ノコノコと現れたな!!この殺人鬼!裏切り者!血の悪魔め!!」

 

「……どの口がそれを言う」

 

グレイスはそう呟き、刀をテティスに向ける。

 

「10年前の恨み……倍にして返す!!」

 

「ほざけぇっ!!」

 

テティスは怒鳴りながらスピアを構え、グレイスに槍先を向けるのであった。

 

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