クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 アドベント・オブ・チルドレン 作:オービタル
雷鳴が轟く室内に悲鳴が響いた。
豪奢なベッドの中で眼を覚ましたシルヴィアは、激しく脈打つ鼓動に呼吸を大きく乱す。夢に見たのは、数日前のあの日……金髪の男性が放ったマグナム弾がジュリオの頬の血肉を飛び散り、シルヴィアに付着したことに恐怖にする。
あれから数日経つというのに、眼を閉じればあの瞬間が何度も蘇るほど、瞼に焼き付いている。悪寒に震えるシルヴィアは、愛用の車椅子を呼び寄せ、それに乗って部屋を出た。
ミスルギ皇国……嫌、神聖ミスルギ皇国は今、混乱の中にあった。
ノーマであった皇女『アンジュリーゼ』の処刑……。その最中に割り込んだ金髪の男性と各国を脅かしていた未確認生物達で国民への被害が大きく出た。
多くの人が死に、国は暗然とした不安に包まれていた。生き残った者から恐怖が伝染し、また皇族はこの失態を犯したとして求心力を低下させていた。
皇居を守る兵士達も多くがあの中で殺され、静まり返る皇居にシルヴィアは枕を強く握り締める。
(あの人達や化物、もう来ませんよね――あれでよかったんですよね、お兄様……)
ただ必死にあの時の恐怖を追い出そうと、唯一の肉親であるジュリオの部屋に向かっていたシルヴィアは、微かな声を聞き、動きを止める。
耳をすませば、それは目的のジュリオの部屋から漏れていた。微かに開いているドアへと近づく。
「じゃあ、今度は『ママ』のお願い聞いて…」
「分かってるよ、シンギュラーポイントを開けばいいんでしょ……『あそこ』に」
交わされる会話の内容は分からなかったが、聞こえる声の片方は間違いなく兄、ジュリオのものだった。恐る恐る覗き込むと、ジュリオのベッドには二つの人影がある。
刹那、雷鳴が部屋を照らし、ベッドにいた影を壁へと写す。
その人影には、『ヒト』にはないはずの翼が生えていた。その姿を視認したシルヴィアは思わず声を上げそうになり、両手で口を覆うも、物音に気づいた人影が振り返った。
ベッドに眠っているであろうジュリオに跨っていたのは、シルヴィアの知っている人物だった。
「こ、近衛長官!?……あなた、いったい……?」
振り返った人物、ジュリオの側近であるリィザ・ランドッグは獰猛な笑みを浮かべる。
「あら、見ましたね……シルヴィア皇女殿下」
その顔は、普段見ていたものではなく、獲物を狙うような視線だった。得体の知れない恐怖にシルヴィアは即座に逃げ出そうとするも、何かに首を絞められ、息が苦しくなる。
「た、助けて……助けてー! アンジュリーゼおねぇさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
シルヴィアの悲鳴は、轟く雷鳴に掻き消される。
雷鳴のなか、暁ノ御柱が不気味に光る。新たなる戦いを齎す篝火のように……。
「シフト変更?」
アルゼナルでは、第一中隊の皆(ヒルダを除いて)が集まり、これからの計画をサリアが説明していた。
「今日はエレノア隊、明日はベティ隊へ編成になるの」
何故だか分からないが、すき焼きしながら説明を行っていた。グレイス達はすき焼きの肉を取ると、エルシャが後から肉全部を取る。説明していたサリアは肉が取れなく、ネギを頬張る。次にロザリーが脱走したヒルダの事を言う。
「脱走犯のせいで、こっちは暇だからなぁ」
「二度と出てくるな…」
「!?」
ロザリーの隣に座っていたクリスが毒舌し、ロザリーは引きながら頷く。
一方、エグナント達の方はアルゼナル最下層で部で、何やらアカリと話していた。
「諸君!今こうやって!12人の理を持つ者達が集った!」
「あの……アカリさん、まだ一人…『神羅のヒョウマ』が…」
アツマが"神羅のヒョウマ"と言う人物がいないことを確認する。
「アイツは……別の任務で"あの世界"にいる♪」
アカリの言葉に、エグナントは問う。
「あの世界と言うと……彼処か」
「そう!そして妾はこのアルゼナルにコッソリとこれを持ってきた♪」
アカリが叫ぶと、サーチライトがある戦艦を照らす。
「まさか!?」
メタリカがその戦艦に驚く。
「そうじゃ!"家"から持ってきたのじゃ!この起動特装戦艦『リュミエール』を!」
「アカリさん……まさかとは思いますけど、あのリュミエールにまた改造をしたんじゃありませんよね?」
「……したけど♪」
《やっぱり……》
「これもDr.ディメントが造ったラプソディー対策じゃ♪このリュミエールなら、可能じゃ♪ナ〜ッハハハハハ!!」
アカリは笑いながら、起動特装戦艦『リュミエール』を見上げる。
その頃、第一中隊の隊長のサリアはアルゼナルの上部で何やら花を集めていた。
ある程度集め終えたサリアが紐で花の枝を結ぶ。
「あ~、サリアお姉様だ」
サリアが呼ばれた方を見ると、幼年部の子供たちとその担当員が居た。
「サリアお姉様に敬礼~」
子供たちがサリア達に敬礼をし、サリアも子供たちに向かって敬礼をして、子供たちは「サリアお姉様綺麗~」「おっきくなったら第一中隊に入る~!」とそう言って去って行き。担当員も挨拶をして子供たちの面倒を見に行った。
そんな中でサリアは幼い頃の自分を思い出す。自分もかつては当時司令官ではなかったジルの様になりたいと幼い頃からの夢であった……。
『私、絶対お姉様の様になる~!』
昔の事を思い出しつつも、サリアはそのまま墓地へと向かう。
そしてその場にメイも居た。
メイの前にある墓にはこう書いてる。
【Zhao Fei-Ling】っと…。
サリアはメイの元に来て、結んだ花を出す。
「これ、お姉さんに」
「毎年有難う、サリア」
メイがサリアに花の礼を言い、サリアは墓に花を置く。サリアは立ち上がって微笑みを浮かべていて。
それにメイが問う。
「どうしたの?」
「幼年部の子供たちに、お姉様って呼ばれた。私…もうそんな年?」
「まだ17じゃん」
「もう17よ…、同い年になっちゃった…『アレクトラ』と」
誰かの名前を言うサリアは昔の事を再び思い出す
10年前……。
アルゼナルの海岸に、後部から煙を上げるヴィルキスが降下して来た。
ヴィルキスはそのままアルゼナルの海岸に着地する、そしてそこに乗っていたのは当時メイルライダーとして戦っていたアレクトラであるジルだった。
「アレクトラ!!」
そしてアレクトラの元に、当時司令官であったジャスミンがと部下のマギーと一緒に部下もやって来た。
ジャスミンはアレクトラの右腕が無い事を見て、すぐにマギーに命令する。
「マギー!鎮痛剤だ!! ありったけの包帯を持ってこい!!」
「い!イエス・マム!!」
その様子を上のデッキにいる、まだ当時幼かったサリアとメイが居た。
「あれは…お姉様の?」
サリアが見ている中で、ジャスミンはアレクトラをヴィルキスから下ろす。
「しっかりしろアレクトラ! 一体何があった!?」
ジャスミンはアレクトラから事情を聞く、しかしアレクトラはある者からメイに伝言があると言うばかりであった。
それを却下するジャスミンは何があったかと事情を問う。
ところがアレクトラは突然ジャスミンへと謝る。
「ごめんなさいジャスミン、私じゃあ使えなかった…。私じゃあ…ヴィルキスを使いこなせなかった…!!」
っと涙ぐんでジャスミンに謝り、それにはジャスミンは何も言えなかった。
「そんな事ないよ!」
そこにメイとやって来たサリアが居て、サリアはアレクトラの弱さを否定し、最後に「わたしが全部やっつけるんだから!」とアレクトラに向かって言う。
アレクトラはそれにサリアの頭に手を置いて撫でる。
―回想終了―
「全然覚えてないや」
「仕方ないわ、まだ3だったもの」
サリアは当時3歳のメイに覚えてない事に仕方ないと言い、メイと共に墓地を離れる。
っがサリアはこの時に思った。その時から数年がたち、司令となったジルはサリアにヴィルキスの搭乗を許さない事にかなり不満感が抱いていた。
アンジュに出来てサリアに出来ない事は何か…。
サリアは格納庫に付いて、ヴィルキスを見る。
「(一体私に何が足りないの…? アンジュと私に一体何が違うって言うの…? …あの子に…ヴィルキスは渡さない!)」
「あれ?あなた」
っとメイが誰かに話しかけているのを聞いたサリアは前を向くと、ヴィルキスの横に置いてあるタスクの飛行艇を整備しているタスクの姿が見えた。タスクはメイの方を見て、スパナを置く。
「やあ、何?」
「何をしてるの?それもう整備終えてるよ?」
「ああ、でもちょっとだけ自分でやらないと、どうも落ち着かない所があってね」
タスクは出来るだけ飛行艇を自分で整備したいと言って作業を続け、メイはなるほどと頷き、サリアは目を細めながらタスクを見る。
「メイ、ちょっと彼と二人っきりで話をさせて」
「え? いいよ…?」
メイはそう言ってその場を離れ、タスクはサリアを見て言う。
「君は…」
「サリアよ、ヴィルキスの騎士…タスク」
それにタスクは表情を硬くし、作業を進める。サリアはタスクに近づいて言う。
「あなた…どうしてアンジュの事を庇う訳?」
「…どう言う意味?」
「貴方はヴィルキスの騎士…ヴィルキスを護る戦士なのよ、なのにどうしてアンジュばかり助けようとするの?」
サリアはアンジュを庇うタスクに向かってそう言い、それにタスクは手を止める。
「…ジルがそう命じたんだよ」
「ジルが…?」
「ああ、アンジュを死なせるなってね。詳しい事はジルに聞くと言いよ、俺はそれ以上の事は知らないから」
そう言って再び作業を再開するタスク、サリアは納得いかない表情をするもそのままタスクの元を離れて行き、タスクはサリアが去ったのを確認してすぐに思いつめる表情をする。
「それに俺は…ヴィルキスの騎士じゃない」
そして同時にアルゼナルの司令室、レーダーに何かをキャッチした。
「これは…シンギュラー反応です!」
「場所は?」
ジルが出現地を特定しろと命令を言い、それにパメラが急いで特定する。
「それが…アルゼナル上空です!」
何と出現場所はアルゼナル上空、そしてアルゼナルの上空にゲートが出現し、そこから大量のドラゴン達が現れる。
「スクーナー級、数は…20…45…70…120…、数特定不能!」
「電話もなっていないのにどうして?!」
エマが司令室に到着して、電話が鳴らなかった事に疑問を感じていた。しかし今はそんな事を考えてる場合ではない。
ジルはするに基地全体放送で、アルゼナルの皆に言う。
「こちらは司令官のジルだ、総員第一戦闘態勢を発令、シンギュラーが基地直上に展開、大量のドラゴンが効果接近中だ。パラメイル第二、第三中隊全機出撃。総員白兵戦準備、対空火器重火器の使用を許可する、総力を持ってドラゴンを撃破せよ」
その放送を聞いて、食堂に居たグレイス達は直ぐに武器を持って格納庫へとむかう。
そしてアルゼナルの対空火器が展開して上空に居るドラゴンを撃ち落として行く。
しかし数が多いのか一向に数が減って行かない。そして一体のドラゴンが司令室へと向かって行き、そのまま突っ込んでいく。
パメラとヒカルは慌てて離れて行き、ドラゴンは司令室へと突っ込んだ。
「ひっ!!」
エマは怯えながら後ずさりをするも、ドラゴンは吠えた時に瞳のハイライトが消えて、マシンガンを構える。
「悪い奴…死んじゃえ!!」
そのままマシンガンを撃ちまくり、辺り構わずばらまいていく。それもその筈今の彼女は意識が飛んで行ってしまって暴走している状態なのだ。
それにジルはエマに手刀で首を打ち、気絶させて、マグナムを構えドラゴンの頭部に撃ちこみ、それによりドラゴンはそのまま絶命する。
すぐさまパメラがコンソールを調べる。
「司令!通信機とレーダーが!」
「…現時刻を持って司令部を破棄、以降通信は臨時司令部にて行う」
「「「イエス・マム!」」」
その頃格納庫で、グレイス達は侵入してくるドラゴンを撃退していた、多少は減って来たものの今だ数の多いドラゴンの方が有利であった。
タスクの隣に居たアンジュはドラゴンに向けて怒りをぶつけて、ライフルを撃っていた。
「もう!折角帰って来たと思ったら何よ!!」
「まあまあ…、アンジュ落ち着きなよ」
そうタスクもライフルを撃ちながらドラゴンを落として行く。
「数が多すぎる!ヒルダさんを連れてくる!!」
「ちょっと!グレイス!?」
グレイスがヒルダを連れに反省房へと向かい、それに気づいたアンジュとタスクも行く。
「グレイス!……!?」
《"彼女達"が来ます……急いで戦っている仲間達をここへ退避するように…》
ティアの耳からに雄大な女性の声が語り掛け、ティアは直ぐに上空を見上げる。
「もしかして!?」
「ティア!危ないよ!!」
サリアがティアを引き戻し、ドラゴンに向けてアサルトライフルを乱射する。
「大分減ってきたね」
「エレノア隊とベティ隊に感謝ね」
「アタシ等の分も稼ぎやがって!…?」
突然ロザリーとクリスは不思議な光景を見る。
それはドラゴン達が突如アルゼナルから離れて行く光景が目にして、それにヴィヴィアンが指をさす。
「あれ? 逃げるよ?」
「どういう事でしょう?」
ココがドラゴン達の行動に疑問を感じる中、ヒルダを呼びに行ったレオン達はその中である物が聞こえて来た。
それは物と言うより・・・。
「何だ…?」
「…歌?」
「このメロディは?」
そして上空に居るドラゴン立はゲートの回りを飛び回ると、そのゲートから三機のパラメイルがゆっくりと降下してきた。
その内の一機の紅いパラメイルはヴィルキスと同じ間接部が金色のパラメイルであり、そこから歌が流れていた。
「♪~♪~♪」
その光景を臨時司令部にいるジルが双眼鏡で見ていた。
「パラメイルだと…」
同じ様にアルゼナルの上空で戦っている中隊の隊長のエレノアもその機体に目を奪われる。
「何こいつ? 何処の機体?」
皆が見ていると、その機体がいきなり金色の染まり始め、そしてその両肩が露出展開し、そこから光学兵器が発射されてそれにエレノアを含め第二中隊と第三中隊の数名を含むメンバーは消し炭へとなっていた。
中隊を消し去った光学兵器はそのままアルゼナルに直撃し、強烈な光が包み込む。
そして静まり返り、サリアは近くに居たティアを起こし立ち上がらせる。
「大丈夫?」
「はい…え!?」
二人は目の前の光景を目にする。
そこには半分ほど削られたアルゼナルを目にした。それをチャンスとしたドラゴン達は一斉に向かって行き、サリア達はすぐに体制と整えてライフルを構える。
そしてアルゼナル内で、先ほどの衝撃に倒れていたグレイス達は起き上がる。
「いたたたた…! 大丈夫ですか!アンジュさん!タスクさん!」
「ええ…ってええええ~~~!!??」
アンジュは今の光景に目を奪われる、何とまたしても意識を失っていたタスクがアンジュの股間に頭を突っ込んでいて、それを見たグレイスは頭を抑えて「あなたという人は…」と言う。
っとタスクが意識を取り戻して、今の状況を理解し慌てて離れて謝る。
「ご!ゴメンアンジュ!!!わざとじゃ!!?」
「五月蠅い!このスーパー発情期!!!」
ドガァァ!!
「ぶはっ!!」
タスクはアンジュの強烈な右ストレートを左頬に貰ってしまった。
もし今の状態が非常事態でなければ完璧なお約束のシーンなのだが、今はそれどころではないと判断したグレイスは言う。
「アンジュさん、タスクさん。今はいちゃつくのは後にしてください! 今はヒルダさんを呼びに行くのが先です!!」
「分かってるわよ! ほら行くわよタスク!!」
「ま!待ってよ~! グレイス!アンジュ~!?」
殴られた頬を抑えながら立ち上がるタスクは先に行くグレイスとアンジュの後を追いかけて行った。