クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 アドベント・オブ・チルドレン 作:オービタル
アンジュとタスクがドラゴンを従えた女性たちとアカリと出会って少し後、何処かへ向かって空を飛行するドラゴンの集団があった。そのうちの一体がヴィルキスを足で掴み、もう一体が身体からコンテナをぶら下げている。そのコンテナの中には
「何処に連れて行く気なんでしょう…?」
グレイスが呟いた。そう、グレイス達ご一行が収容されていたのだ。と、何かあったのかコンテナが揺れる。その衝撃に、軽い悲鳴と鳴き声を上げるアンジュとヴィヴィアンとティア。タスクは慌ててアンジュの元に駆け寄った。
「ゴメン、ヴィヴィアン」
「女の子が乗っているんだ、もっと丁寧に飛んでくれ!」
思わずヴィヴィアンにぶつかってしまったアンジュが謝り、タスクは外に向かって怒鳴る。が、聞こえることはないだろう。
「大丈夫だ、アンジュ」
一応釘を刺した後、タスクがアンジュに振り返る。
「えぇ?」
「例えここがどんな世界でも、俺が君を護るから」
そのやり取りが恥ずかしくて見ていられないのか、それとも、あたしはどうでもいいの? という不満からだろうか、ヴィヴィアンとティアが両目を隠しながら軽く吼えた。
「そうね」
自分を落ち着かせるためだろうか肩に置かれたタスクの手を払い除けると、アンジュが口を開く。
「あいつら、私たちの言葉を喋ってたわ。話しさえ出来れば、この世界のことも何かわかるかもしれない…」
「あぁ…そ、そうだね…」
タスクは頷いたものの、何処か肩透かしを食ったように苦笑している。当然のように、アンジュはそれに気付いた。
「何よ?」
「あ、いや、いつものアンジュだなって…」
「はぁ? エッチ出来なくて欲求不満なの?」
何とも辛辣である。
「えっ?」
「いいところで邪魔をされたもんね」
次には蔑んだような表情になった。何処までも辛辣である。
「えっ!? ええええーっ!? いやっ」
「今はそんな場合じゃないってのに、ホントに男って…」
呆れたように吐き捨てたアンジュに、同意するかのようにヴィヴィアンやティアグレイスが頷いた。と、またもコンテナ内に振動が走る。
「ちょっ!ちょっと!?何処触ってんのよ!」
「ふ、不可抗力だって!」
「え!?タスクさんそんな事をするような人だったんですか?」
「グレイスまで〜!」
「何時まで発情してる気!?」
「そんな!してない、してないよ!」
「終了!閉店!お座り!」
「何でしょう?この会話は……」
アンジュに同意するかのようにヴィヴィアンがいななき、ティアが呟く。そんなくんずほぐれつのドタバタ劇がコンテナ内で起こっているとは知る由もなく、ドラゴンの一団は目的地へ向かって飛んでいるのだった。
「着いたわ。出なさい」
くんずほぐれつのドタバタ劇の余韻も覚めやらぬ中でコンテナが開くと、先程の女性がそう言って一行を促した。その手に得物を持っているのがどうにも恐ろしいが。
言われるがままにアンジュたちが外に出ると、そこには今まで見たこともない光景がアンジュたちの目の前に広がっていた。長い階段の上に巨大な、何処からどう見ても和風建築の建物があったのである。もっともアンジュたちは、この建物が和風建築という工法・技法のものだとは知らないだろうが。
「大巫女様がお会いになる。こちらへ」
その機体を見て衝撃を受けるアンジュ。対照的に、素直にこちらの言うことにアンジュたちが従ったことで少し警戒を解いたのか、二人は得物を外した。そしてそれとほぼ時を同じくして、ヴィヴィアンが突然悲鳴のような鳴き声を上げると意識を失ったのだった。
「ヴィヴィアン!」
異変に気づいたアンジュがすぐに振り返る。何故こんなことになったかというと、アンジュからは見えない位置に、麻酔と思われる注射器が刺さっていたからだ。
そして脇から、数人の新たな顔ぶれがヴィヴィアンの元に走ってきた。
「ヴィヴィアンに何をしたの!」
アンジュが強く詰る。が、二人は外していた得物を構え直して威嚇した。それを見て、アンジュは悔しそうに唇を噛んで口を噤んだのだった。
『連れて参りました』
建物内に入り、彼女たちの言う“大巫女様”の御前までアンジュとタスクを言葉通り連れてきた二人が報告した。
「ご苦労」
アンジュたちの正面にいる、一番高い場所に鎮座している人物が労をねぎらった。御簾に隠れて姿こそ見えないものの、声質からそう年齢がいっていないことが推測される。しかしその座っている場所と、真っ先に口を開いたことから、彼女が二人の言う大巫女様であるのだろうということは容易に推察されるものだった。
「異界の女」
アンジュは不満そうに少し顔を上げ、
「それに、男か…」
タスクは緊張した面持ちで唾を飲んだ。
「名は何と申す」
尋問としてはある意味当然の質問をする。が、こういう真似をされて大人しくしていられるような性格のアンジュではない。
「人の名前を聞くときは、まず自分から名乗りなさいよ!」
この状況下で臆せずにそう言えるあたり、流石に肝が据わっている。あるいは長い皇族生活の影響かもしれない。が、いくら納得できなくてもこの場合の初手としてはあまり賢い選択ではないかもしれない。
案の定、御簾に姿を隠したその他の連中がザワザワとざわめきだしたからだ。
「大巫女様に何たる無礼!」
後ろの二人のうち、一人が激高して自分の得物に手を掛けた。
「アンジュ!」
タスクが窘める。まあ当然だろう。話し合いでいきなり喧嘩腰では纏まるものも纏まらない。だが、アンジュは不満そうな表情を崩さない。
「…特異点は開いておらぬはず。どうやってここに来た」
だが大巫女様は意に介する要素もなく、違う質問を投げかけた。自分の言葉を無視されたのが気に入らないのか、アンジュは不満そうな表情を隠そうとはしない。
「大巫女様の御前ぞ、答えよ!」
そして更にアンジュをイラつかせることに、他の連中も口々に質問を向け始めたのだった。
「あの機体、あれはお前が乗ってきたのか?」
「あのシルウィスの娘、どうしてそなたたちと一緒に「うるっさい!」」
元々高くないアンジュの沸点がすぐに噴火する。
「聞くなら一つずつにして! こっちだってわかんないことだらけなの! 大体ここは何処!? 今は何時!? 貴方たち何者!?」
「ちょ、ちょっとアンジュ!」
「そうですよ!ここは冷静に」
慌ててタスクとグレイスが宥めようとする。そんなアンジュの態度に、御簾の向こうの人影が一つ楽しそうに口元に笑みを浮かべた。
「威勢のいいことで」
そしてそのまま立ち上がると、その影はゆっくりと御簾の先から姿を現した。
「っ!貴方!」
引き続き不快な表情に染まりながらもアンジュが驚いたのは無理はない。何故なら、その姿には見覚えがあったからだ。そう、先程の人間たちによる侵攻の前に戦った人型兵器のパイロットだったからだ。
「神祖アウラの末裔にしてフレイアの一族が姫。近衛中将、サラマンディーネ」
名乗りを上げる彼女…サラマンディーネに、アンジュは敵意を隠さずにぎりりと歯軋りをすると睨みつける。グレイスはあの不明機に乗っていた女性がサラマンディーネだと知り見惚れる。
「ようこそ、真なる地球へ。偽りの星の者たちよ」
「知っておるのか?」
大巫女がサラマンディーネに尋ねると、彼女はクスッと笑って、
「この者ですわ。先の戦闘で、我が機体と互角に戦ったヴィルキスの乗り手は」
そう、答えたのだった。
「ヴィルキスの乗り手…」
その事実に、大巫女は思わず息を呑む。
「この者は危険です! 生かしておいてはなりません!」
「処分しなさい、今すぐに!」
御簾の先にいる他の面々が次々と好き勝手なことを言う。言葉通り、アンジュが危険要素だと判断したからだろうか。
「やれば? 死刑には慣れてるわ」
対してアンジュはぶっきらぼうにそう言い放つ。が、
「…但し、タダで済むとは思わないことね」
ドスを聞かせて釘を刺すのも忘れない。その迫力に飲まれたのか、御簾の先にいる連中は思わず息を呑んだり、二の句が告げなくなった。
「お待ち下さい、皆様」
そこにサラマンディーネが割って入る。そして、アンジュたちの元へと歩を進めて降りてきた。
「この者は、ヴィルキスを動かせる特別な存在。そしてリベリオンと言うエンブリヲもどきの機体。あの機体の秘密を聞き出すまで、生かしておくほうが得策かと…」
その言葉に、御簾の向こうの面々がザワつく。
「この者たちの生命…私にお預けくださいませんか?」
その事に他の者達はただ黙って聞いていた。
茶室へ案内されたグレイス達はそこで、サラマンディーネとアカリは四人に抹茶を作って差し出した。
「あの…アカリさん」
「んむ、何じゃ?」
「アカリさんが言っていた協力者って…サラマンディーネさんなんですね?」
「そうじゃ、悪いか?」
「いえいえ、僕はそう言う……」
「無理もありませんはアカリ殿……グレイス殿はエグナント老師から聞きました。彼は私達の味方になってくれる筈♪」
「味方?どういう「ちょっと聞きたいんだけど」ん?」
突然アンジュが話の途中に割り込み、アカリを見る。
「この子、誰?」
「この子は…「聞いて驚け!」え?」
「妾の名はアカリ・ヤマツ!この『真実の地球』のモーント・ウィガーの管理者なのじゃ♪」
「モーント・ウィガー?」
「何それ?」
「気にするな♪」
「俺はタスク、アンジュの騎士だ、聞いても良いかな?サラマンディーネさん」
「何なりと、タスク殿」
「ここは…本当に地球なのか?」
それにサラマンディーネは「ええ」と頷く。
「それじゃ君達は?」
「人間…ですわ」
「人間? でもドラゴンの羽と尻尾があるが…?」
「ああ、それに地球は俺達の星で、人間は俺達だ。だとしたらここは…」
レオンとタスクがそう言う中でヒュウガがある事を言う。
「お主ら、『地球が二つある』っとしたら?」
「「「…えっ!?」」」
アカリが言った言葉にレオン達は驚き、サラマンディーネが答える。
「並行宇宙に存在したもう一つの地球、一部の人間がこの星を捨てて移り住んだのが、別宇宙にあるもう一つの星、それがあなた達の地球なのです」
「地球を…捨てた?!」
「何のためにだ!?」
「お主らはあの廃墟を見て来たんじゃないのか? この星で何が起きたのかを」
「この世界の戦争…」
「そして環境汚染…」
「そうさせたのは……グレイス…嫌、本名は『リベロ』かよく聞け…」
「は、はい」
「この世界を一回滅ぼしたのは……間違いなく、お前の父親であるエンブリヲなのじゃ」
「!?」
「それにこの"ティア"と言う娘は…この真実の地球の生まれたUMA(未確認生物)であるのじゃ」
「「「えぇっ!?」」」
グレイス達は、ここがティアの生まれ故郷だと言う事に驚く。
「……はい、私やお姉様、お兄様はここより北西の彼方にある国の物でした。そこ深海は穏やかで温かい水で…他に深海生物と共に暮らしていました。ところがある日……統合経済連合の者達とエンブリヲがお姉様と私、お兄様を誘拐したのです…」
「誘拐!?…一体何のために!?」
「分かりません……エンブリヲやDr.ディメントによって、当時の記憶を消されたので……」
「「「……」」」
三人は黙っていると、サラがグレイス達に問う。
「グレイス殿…」
「はい……?」
「あなた方に…見せたいものがあります」
そう言ってサラマンディーネとアカリはグレイス達を連れて行き、ある場所へと向かう。
グレイス達はサラマンディーネが呼んだガレオン級の頭に乗ってある場所へと向かった。
「着きましたわ」
サラマンディーネが示す場所の先を見るグレイス達、そこはアケノミハシラと同じ塔だった。
「アケノミハシラが…ここにも?」
「『アウラの塔』とわたくし達は呼んでいます。嘗てのドラグニウムの制御施設ですわ」
「ドラグニウム…?」
グレイスは聞き覚えのない物を問い、サラマンディーネ達は制御施設内を進みながら説明していた。
「ドラグニウム、22世紀末に発見された強大なエネルギーを持つ超対称性粒子の一種」
そしてあるエレベーターの場所に着き、サラマンディーネがそれを操作して下へと向かって行く。
「世界を照らす筈だったその力は、すぐに戦争へと投入されました。そして環境汚染、民族対立、貧困、格差、どれ一つも解決しないまま人類社会は滅んだのです」
「…よくある話です」
グレイスの問いにティアも頷く。人は強大なエネルギーをすぐに兵器にする事を優先とする本質がある、しかし間違いだと知るのはいつも後になり後悔するばかりであった。
「そんな地球に見切りをつけた一部の人間たちは、新天地を求めて旅立ちました」
「似たような話、聞いた事あるわ」
っとアンジュはその事をサラマンディーネに言い、それにグレイスはタスクの方を向き、タスクは頷くと同時に分かった。教えたのはあのジルだと。
そして目的地へと到着したエレベーターは止まり、サラマンディーネはエレベーターを降りながら言う。
「残された人類は汚された地球で生きて行く為に一つの決断を下します」
「一つの決断?」
ティアの言葉にサラマンディーネは頷いて言い続ける。
「自らの身体を作り変え、環境に適応する事」
「作り変える?」
アンジュはサラマンディーネが言った言葉を聞き、それにサラマンディーネは頷く。
「そう、遺伝子操作による生態系ごと…」
そしてグレイス達の前に巨大な空洞が広がり、それにグレイスは問う。
「ここは?」
「ここに『アウラ』が居たのです」
「アウラ…?」
アンジュはその事を問うと、サラマンディーネはヒュウガの方を向いてそれにアカリはマナの光である物を映し出す、するとグレイス達の目の前に見た事もない白く巨大なドラゴンが現れる。
「これは…」
「アウラ、汚染された世界に適応する為、自らの肉体を改造した偉大なる子孫。あなた達の言葉で言うなら、『最初のドラゴン』ですね」
サラマンディーネの説明にグレイス達はまたしても驚きの表情を隠せない。
これ程の真実を聞かされて、戸惑いを表さない者はいない。
「私達は罪深い人類の歴史を受け入れ、食材と浄化の為に生きる事を決めたのです、アウラと共に。男達は巨大なドラゴンへと姿を変え、その身を世界の浄化の為にささげた」
「浄化…?」
アンジュがその事を問い、それをサラマンディーネが説明する。
「ドラグニウムを取り込み、体内で安定化した結晶体にしているのです。女たちは時に姿を変えて、男達と共に働き、時が来れば子を宿し産み育てる、アウラと共に私達は浄化と再生へと道を歩み始めたのです」
アカリはマナを消し、元の景色に戻すとサラマンディーネが少しばかり重い表情をする。
「ですが…、アウラはもういません」
「どうして?」
「奴が連れて行ったのじゃ」
アンジュがそれを問うとサラマンディーネの代わりにアカリが言う。
「彼? 誰ですか?」
「グレイス殿、もう分かって居る筈です。ドラグニウムを発見し、ラグナメイルを作り、世界を壊し捨てた。この破滅の元凶を…"エンブリヲ"」
「っ!!」
「…あなた達の世界は、どんな力で動いているか知っていますか?」
唐突に問いで返され、眼を剥く。
「え?……マナの光よ」
困惑しながらアンジュが答えるとサラマンディーネはやや表情を硬くし、更に問い掛ける。
「なら、そのエネルギーの根源は?」
「何言ってるのよ、マナの光は無限に生み出される…「そういうことですね」グレイス?」
「アンジュさん…無限のエネルギーなんて、ありはしないのです。どんなものにでも必ずそれを生み出す要因があります」
グレイスは『マナ』というものを不思議に思っていた。
無限に生み出される万能の光…『人間』であれば、如何なる者だろうと使用できる夢の物質。だが、それが『まやかし』であるとしたら?『無』から『有』は生み出せないエンブリヲという男が、あの世界を創った。ジルが言った争いを好まない人類のためには与えてやる必要があるのだ。
だが、そのために必要となったのだ。『餌』を生み出す『贄』が『マナ』という餌をグレイスの態度にアンジュも察したのか、眼を瞬かせる。
「マナの光、理想郷、魔法の世界。それを支えているのはアウラが放つ、ドラグニウムのエネルギーなのです」
「っ!!」
「アウラのエネルギーを利用し、あなた方の世界の力の元である『マナ』を発展させたのもその理由の一つです。……そしてエネルギーはいずれ尽き、補充する必要がある。ドラゴンを殺し、結晶化したドラグニウムを取り出し、アウラに与える必要があるのです。それがあなた達の戦い。あなた達が命を懸けていた戦いの真実です。」
ノーマがドラゴンと戦わされていたのは、『ドラグニウム』を体よく手にれるため――『マナ』を維持し続けるために……人間の世界を『守る』ために―――――告げられた事実にアンジュは衝撃を隠せず、掠れた声を漏らす。
「つまり僕達はエンブリヲの使い捨ての道具、か。僕達はあなた達との戦争に何も知らず駆り出されていたってわけですね」
あまりの下らなさに、自嘲するようにグレイスは肩を竦める。
「あなた達の世界のエネルギーを維持するため、私達の仲間は殺され、心臓を抉られ、結晶化したドラグニウムを取り出された」
「大型のドラゴンを回収していたのはそういう理由か」
ドラグニウムを結晶化するために、大型ドラゴンの体内には膨大な量が備蓄される。ドラゴンにとって浄化であると同時に魔法陣や強大な力を発露させるためのエネルギー源でもある。故に、大型ドラゴンの死骸は、無くてはならないものだ。
思い当たる節がある。アンジュが喪失になった時、あの島で見た凍結したドラゴンの死骸を輸送する船団を気になっていたが、これでようやく謎が解けた。
どうして10年前に起きた反乱でノーマが粛清されなかったのか。どうしてドラゴンを狩る必要があったのか。どうしてそれが『ノーマ』でなければダメだったのか。改めて胸糞が悪くなる。
「分かっていただけましたか? 偽りの地球、偽りの人間、そして、偽りの戦いと言ったその意味を。それでも、偽りの世界に帰りますか?」
その問いにアンジュは一瞬逡巡するも、険しい顔をして答えた。
「当然でしょう、仮にあなたの話が全部本当だとしても、私達の世界はあっちよ!」
「ちょ!ちょっとアンジュ! 話を聞いてたの!?」
タスクはアンジュを慌てて止めるも全く聞かず、グレイスは少しばかりアンジュの勝手癖に飽き飽きしていた。
それは己の迷いを振り切るためのものだったかもしれない。だがサラマンディーネはやや失望したように嘆息する。
「では、あなた達を拘束させてもらいます。これ以上、私達の仲間を殺させるわけにはまいりませんから」
凛と告げるサラマンディーネに気圧されるも、アンジュは反射的に身構える。
「やれるもんならやってみなさい! 私がおとなしく拘束されると!」
握っていた破片を振り上げようとした瞬間、するとアンジュはタスクが隠し持っているナイフを取り出して、それにタスクは慌てる。
「アンジュ!!!」
「黙っててタスク!! 私が大人しく捕まると思って!」
パシュッ!!
「っ!!」
突如サラマンディーネの尻尾がアンジュが持っているナイフを叩き落とし、彼女の翼が大きく広げられて、それにグレイス達は目を見開く。
アンジュは叩き付けられた手を抑えて、笑みを浮かばせる。
「本性を表したわね! トカゲ女!!」
っとアンジュはサラマンディーネに殴り掛かるも、いとも簡単にかわされる。
「アンジュさん!無理だって!相手は翼も尻尾も持っているんですよ!」
「そんなのやって見ないと分からないでしょ!!」
言った通りアンジュはサラマンディーネに簡単に後ろを取られてしまう。
「殺しはしませんよ、私達は残虐で暴力的なあなた達とは違います」
「アルゼナルをぶっ壊して置いて、何を!!」
アンジュが強引に振りほどくも、すぐに間合いと取られる。
「あれは【龍神器】の起動実験です。あなた達はアウラ奪還の妨げになる恐れがありましたから。ですがタスク殿達を除いては…」
その事にグレイスとタスクはその事に反応し、アンジュはサラマンディーネの事に意味が分からなかった。
「はぁ!? 何よそれ!! 何でタスク達は除かれるのよ!? それにそれで何人死んだと思ってんの!!」
「許しは請います」
アンジュは再び殴り掛かるも、すぐにかわされて空に浮かぶ。
「私の世界を護る為です、あなたも同じ立場なら同じ選択をしたのではありませんか? 皇女アンジュリーゼ」
「えっ!?」
「貴方の事はよく聞いていました、『リザーディア』から。近衛長官リィザ・ランドックっと言えば分かりますか?」
その言葉を聞いたアンジュ、そしてグレイスは目を開かせる。
「リィザ……あっ!! アンジュさんのお兄さんの側に居たあの人だ!!」
グレイスは救出時の事を思い出す。ミスルギ皇室の近衛長官であり、ジュリオの側近。ジュリオに従い、アンジュを『アルゼナル』へと送り込んだ。
「リィザが……あいつが、あなた達の仲間……?」
上擦った声で呟くと、肯定するようにサラマンディーネは笑った。それが酷く不愉快なものに見え、アンジュは悔しげに歯噛みする。
「バカにしてぇ!」
怒りに顔を真っ赤にし、アンジュは激情のままサラマンディーネに殴りかかろうと再度駆け出した直後、グレイスの中の何かが鼓動をし、グレイスの銀の短髪が黄金の長髪へと変わり伸び、アンジュの前に出た。そして、
ドゴォッ!!
「!?」
「「!?」」
グレイスがアンジュとサラマンディーネの間に入り、アンジュの腹部に向けて拳を叩き入れる。
意識が薄れてく中、アンジュはグレイスの行動に問う。
「な、何で…?」
「いい加減にしろ、好き放題にキレてんじゃねえ」
そうグレイスは言い残して、アンジュはそのまま気を失う。
気を失ったアンジュをグレイスはタスクに渡す。
「グレイス! 何で!?」
「こいつの身に何かあったら、お前が一番大変だろ? だから止めたんだよ」
そう言ってグレイスは元の髪に戻りサラマンディーネの方を向く。
「僕もあなたの仲間を大勢殺した者、その事にはどんなに頭を下げても許せるかどうか分からない。だから…」
グレイスは両膝を着き、頭を下げる。
「本当に…申し訳ない」
「グレイス…」
タスクとはグレイスの行動をただ見ていて、ジェームズ達は少し困った表情をしながら顔を見合わせる。
そしてサラマンディーネは微笑みながら床に降り立ち、羽を仕舞いながらグレイスに近づく。
「やはり、アカリ達の言った通りのお方ですね。エンブリヲと違って、何処かでは見せない所で優しい心の持ち主…」
そう言ってサラマンディーネはしゃがみ込んでグレイスの手を取り、それにグレイスは頭を上げる。
「…?」
「グレイス、貴方に会わせたい人物がいるのです…」
っとそれを聞いたグレイスは目を見開いてサラマンディーネの話を聞いた。
宮殿に戻って、気を失ったアンジュを医務室へと連れて行ったグレイス達、タスクはアンジュのそばにずっと居て、グレイスは近くの壁やベットの上にのっていた。
「痛たたた、まだヒリヒリする…」
「仕方ないです。お兄様がまさか……」
殴られたグレイスの頬をティアが看病しながら、先ほどのサラマンディーネが会わせたい人物の事を思い出す。
─回想─
バゴォォンッ!!!
「「っ!!?」」
《っ!!!》
サラマンディーネが会わせたかった人物……名はヒョウマ。ティアの実兄で、特徴的な銀髪の長髪、純白の肌、そして左目に傷、右胸に火傷の跡がある青年がグレイスに飛び掛かり、頬を殴っていた。
「おいリベロ!!どの面下げて、ここへ来たんだ!!」
「うっ!!」
ヒョウマは防御するグレイスに殴り掛かり、暴言を吐きまくる。
「よせ!ヒョウマ!!」
「落ち着くんだ!!」
アツマとダストが興奮状態のヒョウマをグレイスから離させる。
「離せ!!ダスト!アツマ!!」
「ヒョウマ!!あいつは確かに許されないことをしたが、記憶が失った状態で病人なんだ!!」
「そうだ!忘れたのか!?彼女の遺言を!!」
「姉さんの遺言は関係ない!!なんでお前らはアイツの味方に付くんだ!!?」
暴れまわるヒョウマは振りほどこうと、ダストとアツマに暴言を吐きまくるのであった。ティアは口から血が垂れているグレイスを起こし上げ、医務室に連れて行くのであった。
─回想終了─
グレイスはそう考えていると…。
「おーい! 皆ー!」
グレイス達は聞き覚えのある声が聞こえて、その方を振り向くとアウラの民の服装を着たヴィヴィアンがやって来た。
「ヴィヴィアン!?」
「ヴィヴィちゃん!?どうやって戻ったのですか?」
「さあ~ここでクイズです、私はどうやって人間に戻ったでしょうか!」
っとここでヴィヴィアンのお得意のクイズが出て来て、それにグレイス達は少々困った。何も知らないのにどうやって人間に戻ったか分からないからだ。
「ぶ~!残念! 正解は…え~と~…何だっけ?」
「知らないならクイズにするな……」
それには何故かグレイスがツッコミを入れる。っとそこに医者の『ドクター・ゲッコー』がやって来る。
「D型遺伝子の制御因子を調整しました、これで外部からの投薬なしで人間の状態を維持出来る筈です」
「って事でした~♪」
「いやヴィヴィアンが答えた訳じゃないでしょ…」
グレイスの言葉にヴィヴィアンは舌をペロっと出しながら笑う。
「ところでアンジュは?」
「まだ目が覚めないんだ」
タスクがそう言ってるとドクター・ゲッコーがグレイス達に問いかけて来た。
「失礼ですが、貴方のどちらか私の所に来てくれませんか?」
グレイスとタスクの二人はどちらかが行くため、じゃんけんでタスクが勝利することになった。
「それじゃ、俺が…」
「ありがとうございます、ではこちらへどうぞ」
ドクター・ゲッコーの案内に付いていくタスク。その数分後、アンジュが目覚め、元の姿に戻ったヴィヴィアンに問う。
「ヴィヴィアン!?」
「おいっす!」
「あなた、どうやって!?」
「さあ~ここでクイズです、私はどうやって人間に戻ったでしょうか!」
っとここでヴィヴィアンのお得意のクイズが出て来て、それにグレイス達は答えを知っているが。
「ぶ~!残念! 正解は…え~と~…何だっけ?」
「忘れたのかい!!」
それには何故かまたグレイスがツッコミを入れる。っとそこに医者の『ドクター・ゲッコー』がやって来る。
「D型遺伝子の制御因子を調整しました、これで外部からの投薬なしで人間の状態を維持出来る筈です」
「って事でした~♪」
「そうなんだ……!!」
突然アンジュが、グレイスに睨み付ける。
「あれは違う!!僕でもなんでもないから!!」
「どうだか……ん?グレイス、その頬どうしたの?」
「色々あって………「助けて〜〜っ!!!」」
《!!?》
壁越しに聞こえた悲鳴は当のタスクのものだった。あまりの音量に一瞬驚きに固まるも、アンジュが慌ててベッドから起き上がり、グレイスもやや緊迫した面持ちで聞こえてきた部屋に飛び込んだ。
「タスク!どうした……」
ドアを潜って飛び込んだ先で繰り広げられる光景に戸惑う。ベッドに拘束されていると思しきタスクの回りには何人もの女性が群がっており、皆一様に顔を赤くしながらも黄色い声を上げて興味津々に見ている。
「何やってるんですか?」
思わずグレイスがそう漏らす。拷問を受けているわけでもなさそうだが、タスクは先程から必死に抵抗しているも、顔を赤くしており、首を傾げるのみだ。
「ちょ、ちょっとあなた達何やってるのよ!?」
我に返ったアンジュが女性陣を掻き分けながらタスクに近づき、ようやく状況を視認した瞬間、顔を真っ赤に染めた。
「な、なななな!何やってるのよ!?」
「ご、誤解だ!俺は何も、って!そこはダメー!」
頭を振るタスクは女性が触れる場所に情けない悲鳴を上げ、それに対して周囲の女性陣の黄色い歓声はますます強くなる。
「何やってんだか……」
グレイスは心底呆れた面持ちで頭を掻き、ティアはタスクのあれを見てしまい、顔を真っ赤にし、頭から湯気を出しながら気を失う。その背後から近づいたゲッコーが含むように妖しく笑う。
「人型の男のサンプルは非常に珍しいので、協力を願い出たのです。彼は喜んで受けてくれましたよ、『性教育』のね」
「……『性教育』に、協力?」
「はい♪」
聞き留めたアンジュは怒りに震える。
「へ〜〜…人が大変な目にあってるのに……そう〜」
青筋を浮かべて笑うアンジュが何故か金棒を持つ。
「待って!?…アンジュ!落ち着いて〜!!」
「こんのっ!!直結下半身野郎がぁぁ〜〜〜っ!!!」
「あああああああああぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!」
アンジュは叫びながら金棒を振り下ろすと同時にタスクの悲鳴が轟く。タスクさん…ご愁傷さま……。
外に出ると、既に陽は暮れ始め、茜色に染まっていた。
整えられた庭の中には小さな屋根に覆われた手水舎があり、備え付けの龍の置物から水が流れている。徐に近づき、水で顔を洗う。
「ふぅ……」
思わず小さく息が漏れる。
水で顔を洗うなど久々だ。柄杓で水をすくい、飲み干す。冷んやりとした水が喉を潤し、一息ついた形だ。その横でアンジュもホッとしたのか、リラックスしている。
「アンジュ、落ち着いた♪」
横で見ていたヴィヴィアンがタオルを取ってきて手渡す。
「私汚れちゃった……欲求不満なら、トカゲでも何でもいいのね!あのバカエロタスク!!」
タオルで顔を拭いていると、アンジュが不機嫌そうに顔を顰める。
憤慨しながら愚痴るアンジュに小さく失笑し、思わず語り掛ける。
「アンジュ、ヤキモチ焼くんだったらもっと素直になったら?」
アンジュの態度が微笑ましくなり、そう声を掛けたのだが、アンジュは意味が分からずキョトンと眼を白黒させる。
「ヤキモチ? 誰が誰に?」
「タスクさんですよ♪うかうかしてたらホントに靡くかも。一途な子には弱そうだし♪」
グレイスの言葉にアンジュの表情が瞬時に赤くなり、同時に激しく狼狽したように取り乱す。
「ち、違うわよ! なんで私があんな奴に! 私はただ、あいつがあんなトカゲ女に不埒な真似をしないように……そう!それだけよ!私はあいつのことなんかなんとも思ってないんだからね!」
「はいはい♪」
必死に弁解するアンジュに相槌を返しながら視線を向けると、奥の通路から見知った顔が現われ、思わず顔を硬くする。その様子にアンジュも振り返ると、苦手そうに顔を顰める。
「もう起き上がっても大丈夫のようですね」
歩み寄ってきたサラマンディーネがそう話し掛けると、アンジュには嫌味に聞こえ、小さくそっぽを向く。
「ええ、手加減なんてしてくれたおかげで」
横柄な口調で返すと、控えるナーガやカナメは小さく睨むも、サラマンディーネは些かも害した様子を見せず、クスリと笑う。
「そうですか、あの子には手加減を少し覚えてもらわねばならないので」
そう切り返され、アンジュはまたも口を尖らせる。セラは不意にサラマンディーネが見知らぬ女性を連れているのに気づき、眉を顰める。
その女性は先程から自分の隣を凝視している――正確には、隣にいるヴィヴィアンをだ。戸惑うセラの前でサラマンディーネは真剣な面持ちで視線をヴィヴィアンへと移す。
「ラミア、『彼女』です。遺伝子照合で確認しました、あなたの娘に間違いありません」
そう呟く内容に眼を見開く。
「へ……?」
「娘?」
「ほえ?」
セラやアンジュは戸惑いの声を上げ、告げられた当人は自身を指しながらも意味が分からずに首を傾げる。そんなセラ達を余所にサラマンディーネは言葉を続けた。
「行方不明になったシルフィスの一族、あなたの子『ミイ』よ」
「ミイ? 本当にミイなの!?」
告げられた内容に弾かれたように駆け出す女性がヴィヴィアンに抱きつき、涙を流す。その光景に眼を丸くするセラやアンジュだったが、ヴィヴィアンは突然のことに混乱する。
「ああ、ミイ」
「いや、だから…あたしはヴィヴィアン…?」
抱きしめる女性に戸惑っていたヴィヴィアンは何かに気づき、思わず鼻をきかす。
「この匂い、知ってる…エルシャの匂いみたい……あんた誰?」
その問い掛けに抱擁していた女性は静かに離れ、涙を流しながら微笑み、口を開いた。
「お母さんよ」
「お母さん、さん?…何、それ?」
意味が分からずに首を傾げるも、見守っていたサラマンディーネが優しげに告げる。
「あなたを産んでくれた人ですよ」
「ヴィヴィアンのお母さん!?」
その意味を理解した途端、傍で聞いていたアンジュの方が驚き、グレイスやティアも驚きに眼を見張っている。確かに、ヴィヴィアンがドラゴンだった以上、こちらの世界に家族がいてもおかしくはないが、それでもいきなり母親と名乗る女性が現れれば、戸惑いもするだろう。
現にヴィヴィアンは未だに泣くラミアという女性にどう接していいのか分からずに困っている。アルゼナルで親のことなど教えられることはないから無理もないが。
「ええ、彼女はお母さんを追って、あちらの地球に迷い出てしまったのでしょう」
ドラゴンによる侵攻はもう何十年と続いている。そう考えれば、確かに納得はできるのだが、それでもよくアルゼナルに捕まって無事でいられたものだ。
(あのボケ司令ども)
改めてヴィヴィアンを利用した連中に悪態をつくも、それでもそのおかげでヴィヴィアンが母親と再会できたのだから、悪いことばかりではないが。
親子の再会にナーガやカナメなどももらい泣きをしており、サラマンディーネは柔らかく微笑む。
「ナーガ、カナメ、祭りの準備を…祝いましょう、仲間が10年振りに、還ってきたのですから……」
その言葉に二人は大きく頷き、グレイスとティアとアンジュはお互いに首を傾げ、ヴィヴィアンは戸惑いながらも、母親という女性に抱擁されたままだった。
そして夜になり、アウラの塔で皆が集まっていた。そこにサラマンディーネが儀式用の蝋燭を手に持ち、皆の前に姿を現す。
「サラマンディーネ様よ!」
「サラマンディーネ様ー!」
サラマンディーネの後ろにヴィヴィアンとその母『ラミア』が共に居た。
「何をするの?これから」
「サラマンディーネ様のマネをすればいいだけよ」
ラミアがそうヴィヴィアンに言ってほほ笑む、そしてレオンはその様子を人混みの中で見ていた。
「殺戮と試練の中、この娘を悲願より連れ戻してくれたを感謝いたします」
そう言った後にサラマンディーネは儀式の蝋燭を空へと舞い上げ、それに皆も同じように舞い上げる。
「アウラよ!」
『『『アウラよ!』』』
ラミアも同じように舞い上げ、隣に居るヴィヴィアンも同じように舞い上げる。
そしてグレイスの所にアンジュ達がやって来る。
「不思議な光景だね」
「タスクさん…玉、治りました?」
グレイスの言葉にタスクは股間を抑える。
「やめくれよ、トラウマになるから〜!」
「アハハハ♪」
グレイスが笑っていると、タスクが月を見て呟く。
「同じ月だ。もう一つの地球…か」
「夢なのか現実なのか、分からないわ」
タスクとアンジュの問いにグレイスも月を見ながら言う。
「現実ですよ、今見ている光景は…」
「ああ、だがヴィヴィアンが人間で良かった」
「うん、私もそう思います。」
ティアがヴィヴィアンの方を見ながら言い、それにグレイス達は頷く。
その中でアンジュは不安に思っている事を言う。
「これからどうなるの? 私達、こんな物を見せて、どうするつもり?」
「知って欲しかったそうです、私達の事を」
っとそこにナーガとカナメがレオン達の元に来ていて、カナメがグレイス達に話し続ける。
「そしてあなた達の事を知りたいと、それがサラマンディーネ様の願い」
「僕達の…事を?」
「知ってどうするの? 私達はあなた達の仲間を殺した。あなた達も私達の仲間を殺した、それが全てでしょ?」
アンジュがそうナーガとカナメにそう言うも、カナメは頭を横に振る。
「怒り、悲しみ、幸福。その先にあるのは滅びだけです、でも人間は受け入れ、許す事が出来るのです。その先に進むことも…全て姫様の請け売りですが、どうがごゆるりとご滞在下さい…っと姫様の伝言です」
二人は頭を下げて、その場から離れて行く。
グレイス達はそれを聞いて、何となくティアは納得する。
「確かにそうですね。人間は受け入れ許す事が出来る…サラマンディーネ様は信じれます。」
「信じるの?」
「少なくとも僕達は信じるよ?」
グレイスがそうアンジュに言い、その中でタスクが月を見ながら言う。
「…帰るべきだろうか」
「何?」
「アルゼナル、リベルタス、エンブリヲ。もし…もう戦わなくて良いのだとしたら…」
タスクのそれを聞いたグレイス達は少々思いつめる表情をして空に浮かぶ儀式の蝋燭を見ながら考え込むのだった。
その頃、エグナント達はある施設の格納庫にて、ある頭部を付けていた。
「おーっし!そのまま!そのまま!」
それはグレイスによって破れたテティスのシュトロームの残骸であり、異型な漆黒の装甲が取り付けられていく。
「もうすぐ完成ですね、エグナントさん。」
「そうじゃの……まさかアカリ殿がシュトロームを改造するなんてなぁ……」
そしてシュトロームのコックピットのモニター画面に、『Acid【アシッド】』と表示される。そして装甲や頭部、スラスターウィングが取り付けらられると、その機体のツインアイが真紅に光る。
「どうだ?体を持てた感想は?」
『問題ない。』
「そうか…ご主人と出会うのはたのしみかい?」
『俺は、ライダー支援啓発インターフェイス"マスティマ"だ。相手の機関がより良い性質なら問題ない。』
「相変わらずお主は厳しい性格だなぁ……(コイツがタスクの言う事を聞いてくれるか、心配だ。)」
エグナントはそう思い、新たなラグナメイル【アシッド】の完成であった。