クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 アドベント・オブ・チルドレン 作:オービタル
第二話:アルゼナル
島でタスクと別れたグレイスは、リベリオンのソナーとコンパスを頼りに、アルゼナルへと向かっていた。
「地形や機体の残骸……ドラゴンの死体や骨……こんなに多いと言う事は、アルゼナルの近くまで来ているって言うことになるのか……」
グレイスはそう思っていると、空が黒くなる。
「?」
上を見ると、悪雲がなだれ込むかのように、現れ、稲光が発する。
「雲行きが怪しくなったなぁ……とにかく、急がないと!」
グレイスはそう思い、リベリオンを発進させるのだった。
その頃、グレイスが向かっている島…『アルゼナル』
絶海の孤島に造られた軍事基地であり、「兵器工廠」という意味を持つ対ドラゴン戦闘機関で、ローゼンブルム王家管轄の、世界で唯一の対ドラゴン用軍事基地。
そんな中、アルゼナルの別の部屋では黒髪のポニーテールをした女性―アルゼナルの責任者であり、司令官『ジル』と監察官の『エマ・ブロンソン』は1人のノーマの少女と対峙していた。
彼女の名は『アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ』洗礼の儀で兄:ジュリオに己がノーマであることを暴露され、眼の前で母親を喪い、堕落した元皇女。
だが、生来のプライドの高さから、自分ががノーマである事を頑なに認めず、必死に抵抗しようとするが、抵抗も虚しく、ジルは拘束具を解いて気の緩んだアンジュリーゼに強烈な一撃を与え、経験したこともない痛みに呻くアンジュリーゼに現実を突きつけられる。
「身体検査を行う。覚えておけ、お前はもう皇女ではない」
うつ伏せの状態で呻くアンジュリーゼにジルは機械の義手を調整しながら無情に告げる。そんな迫るジルにアンジュリーゼは恐怖に憶え、必死に首を振る。
「や、やめなさい! やめろ! 私はミスルギ皇国第1皇女、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギなるぞ!」
この期に及んで、まだ皇女アンジュリーゼ、とかつてはそう呼ばれていた様に振舞う彼女の姿は余りにも滑稽に見えた。冷めた眼で見下ろすジルの目からは、この期に及んで、まだ皇女の様に振舞う彼女の姿は余りにも滑稽に見え、冷酷に告げた。
「違う。今からお前の名は、アンジュだ!」
そして、それは実行されるのだった。
「イ、イヤアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!!」
アンジュリーゼ、いや、アンジュの悲鳴が雷鳴と共にアルゼナルに響き渡るのだった。
一方、嵐が吹き荒れる中をリベリオンが飛ぶ。グレイスは前方に見えてきたアルゼナルを見る。
「見えた…アルゼナルだ!」
グレイスは早速アルゼナルに通信を開く。
「こちら、グレイス…アルゼナル、応答をお願いします…。」
そしてアルゼナルの司令部では、
「…?、通信?」
『こ…ら、グレ…す……ゼナル…応答を…願いします……こちら、グレイス…アルゼナル、応答をお願いします。』
「男!?何で男の声が!?」
オペレーターは驚き、尋問室にいるジルと連絡する。指令室へ来た。
「通信から男の声だと?」
「はい、どうしますか?」
「…私に繋げ。」
オペレーターは回線をジルに繋ぐ。
「私はこのアルゼナルの責任者『ジル』だ。貴様は何者だ?」
『繋がった!こちらグレイス、補給をお願いします。アルゼナルの着陸許可を。』
「グレイス?……(男がどうしてここに?)…良いだろう、補給を許可する。但し、裏で会おう…」
『……了解』
グレイスと名乗る男の通信が終わり、ジルはアルゼナルの裏の海岸へと向かう。アルゼナルの海岸に着陸したグレイスとリベリオンを見たジル、そして医療を担当するマギー、アルゼナルのショッピングモールを取り仕切るジャスミン、パラメイルと言うリベリオンに似て異なる機体の整備を取り仕切る整備班班長のメイも驚いていた。
「これは!?」
リベリオンを見て驚くジルは側にいるグレイスを見る。
「(何故…奴の機体がここに?だが…形状が奴とは違う…同型機?なら何故、それにあの小僧……)」
するとグレイスがジルにある物を渡す。それはタスクから預かった手紙であった。
「ジル司令官…これ、ある人からです。」
「見せろ…」
ジルはいぶかしみながらも手紙を受け取り、読んでみる。すると1枚目には短く、こう書かれていた。
「『彼はもしかしたら、俺達の味方になってくれるかもしれない。俺は自分の名前や身分も分からない彼に、"グレイス"と名付けた。記憶も身分もこのリベリオンって言う機体がもし奴が造った物なら……そして彼が"奴の息子"なら……これからの運命を左右する可能性が高いかもしれない。俺は信用における人物として貴女に託します。 ヴィルキスの騎士 タスクより。』」
これを見たジルは驚いた顔をして、グレイスを見る。
「("奴の息子"か、あのリベリオンと言う機体……確かに奴の機体やあの4機の機体と同型だが…コイツが果たして、私達の味方になるか、それとも奴の味方になるか……たが、本当に記憶がないなら、尋問するか……。)今からお前を検査する……付いて来い。」
「あ…はい。あ、後……。ラルス」
グレイスの呼び声に、リベリオンのバイザーが光、駆逐形態へと変形した。
「何!?機体が勝手にだと!?」
「ラルス…格納庫で待っていてくれないかな?」
『了解。グレイス様』
「喋れるのか!?あの機体は!?」
「うん……名前は…『私はラルス。このリベリオンの対話インターフェイス搭載のコンピュータです。』……そう♪」
「(まさか喋れるなんて……コイツ、使える……あの機体と共にやれば、奴等の機体も!!)」
ジルは何らかの野心を持つと同時に、グレイスをアルゼナルに案内させる。
医務室に連れられたグレイスはマギーに色々と検査される。身長や体重の測定、注射での採血、隅々までも調べられた。それが終わると今度はカウンセリングが行われた。文字の読み書きから始まり、マナやノーマの事、この世界の国の名前など様々な事を質問された。カウセリングの方はラルスに教えられており、以上はなかったが、自分が何者で、今までどこに居たのかは返答する事はできなかった。ちなみに、マナが使えるかどうかの実験もして、使えなかったのでノーマと認定された。
「ほぉ、ほぉ…まさか"男のノーマ"とは……これが委員会に知れば、一大事かもなぁ」
「…どういう事ですか?」
「一大事も何も、『初の男のノーマが出た』となれば国中大騒ぎだよ」
「そうなのですか?」
「当然、ノーマは何故女性にしか出ないかも分からない反社会的システムだからなぁ」
「……」
マギーの言葉に落ち込むグレイス。すると医務室にジルが現れ、グレイスに服を渡す。
「昔の知人が着てた服だ…それで我慢しろ」
「はい…」
グレイスはそう言い、渡された服に着替える。
「(島であったタスクさんの服と同じだ)……」
グレイスは服に着替え終えると、ジルから色々と尋問される。そして宛が無い為、アルゼナルに住まわせてくれるのを許可してくれた。男のノーマとして……。グレイスは尋問後、監察官のエマに部屋を案内される。と言っても、部屋は牢屋であり、グレイスの部屋はまだ用意されていなかった。グレイスは仕方なくの牢屋で寝泊まりするのであった。
身分も記憶が分からない青年『グレイス』、無人島の謎の青年『タスク』、身分がノーマだと知らなく、絶望へ墜ちた美少女『アンジュ』、そして……。
天井から水が滴り落ち、仄暗く先の光が見えない下水道……その奥から機動音が響き渡ると、下水道の奥から2機の青とオレンジに塗り分けられた黒い機体が下水道の水へライトを照らしながら進んでいた。すると水の中から影が現れ、青い機体は先端部のマシンガンで水の中にいる何かへマシンガンを乱射する。
「逃がさないわよ!!」
青い機体に乗っているライダー。コードネーム"TTS-254"とオレンジの機体のライダー。コードネーム"ATS-751"がマシンガンを撃ちながら影を追い掛ける。そして下水道が広くなると、影が一気に潜り、二人が水中目掛けて乱射する。水は下水道のため、濁っており、確認できなかったが、水中から赤い血が浮かび上がる。
「チッ!逃したか……」
ATS-751は舌打ちすると、TTS-254がある人物に通信をする。
「こちらTTS-254…失敗作のホムンクルス。コードネーム"MMD-008"の追撃に失敗しました。ですが、アイツの体に致命傷は負わせました。」
『良くやったTTS-254。戻って次のドラゴンの動きを観察してくれ。それと、もう一体の失敗作であるRBL-1272の監視も続けてくれないかな?』
「喜んで"パパ"♪」
TTS-254は通信を終え、ATS-751に言う。
「そろそろ帰るよ♪」
「分かったよ…」
二人は機体に乗り込み、下水道の中を飛ぶのであった。そしてミスルギ皇国湾岸の海中から、背中まで伸びたピンクのロングヘアーの美少女が荒い息を吐きながら、流木に捕まり、ミスルギ皇国から出ようと泳ぎだす。
「私は……"あの人"の道具でも駒でもありません!……何処かにいる筈!"あの人"に抗う勢力が!!」
美少女は必死に、流木に捕まり、血を流しながら泳ぐのであった。
そしてこれが……"ある男"の企みを阻止し、世界の運命を賭けた物語の始まりでもあった。