放浪、数ヶ月目。そろそろこの森から出たいものだ。
あの世パワーで何も食べなくても休憩しなくてもいいとは言え、流石にもう飽き飽きだ。幾ら彷徨ってもマトモな人間すら居ないとは幾ら何でも運が悪過ぎはしないだろうか。こういう状態に置かれると、やはり人とは容姿ではなく内面が大切なのだと気付かされる。
―まぁ、自分は割とイケメンだと自負してるけど
最近心の中で独り言を言う事が多くなった。クールなキャラクターを貫いていたあの頃はどうしたのだ、自分よ。
どう考えてもこの不気味の森のへシアン状態のせいである。私の平穏な戦場の日々を返してくれ。戦場に平穏はあるのか?ある。少なくとも今よりは。唯一の暇潰しが狩りとか、頭が狂いそうだ。
ほら、愛馬も心配してくれている。願わくばコイツとはずっと一緒に居たいものだ。結婚しよう。
不意に、小枝の折れる音で全身を引き締める。殺気は出していた筈だ。
それでも尚近付いて来ると言うことは、つまり、敵だ。マトモな奴なら逃げ出している。精霊ですから、普通は近付こうともしない。それでも尚近付くと言う事は、絶確固たる勝利のイメージがあるという事。
―ならば、一撃で仕留めるまでだ。
その振り向きざまに、辺りにある数人分の太さの木を両断する程度の力具合で鎌を振り抜く。が、地面の抉れ方から跳んで回避された事を悟り、反射的に鎌を上方向に向ける。
それに合わせる様に、大槌でも、叩き付けたかのような轟音がが鎌を弾き、その衝撃に流されるように回転しながら距離を取る。
―強い。と、言うか…殴った…のか…?
見た目的には、何の変哲もない男だ。が、鎌その拳にはアザがあり、鎌で弾いたのはあの拳の可能性が高い。と思考する。
―一体どうやれば拳が鉄の塊を全力で殴ってアザで済むんだ。と言うか、こっちの鎌の方が今のでかなり不味い…!
続けて殴り掛かって来る男の攻撃を鎌で受け流し切り裂こうと鎌を振るうが、男は何かを呟いたと思うと超人的な速度で回避行動に移る。
あの世から出て来た英雄か何かか、と思考するがすぐに思考を振り払う。
動きが荒い。隙が多い。殺気が足りない。
―これなら…殺せる。
その確信と共に、更に何かを呟く男に向かって一歩を踏み出す。この魔境で成長したこの
自身の持つ最高の速度、最高の力、そして意識の途切れる最高のタイミングに乗ったと直感し、そのまま刃を振るう。首に刃が入り込み、両断して行くのがゆっくりとした動きで確認出来た。前に死の淵を彷徨ったらしい戦友が、死の間際には目の前がゆっくりに見える…と言っていたが、私も今は別方面からその境地に達しているのだろうか?男が未だに呟いている言葉すら、ハッキリ聞き取れる。今更だが、所謂ドルイドやこの辺りに住むと言うシャーマンの様な、所謂…魔の術を使う輩では無かろうか?と考える。となれば、この呟きは魔術の行使であろう。何を言っているのかと、耳を傾けた。
「―憐れな亡霊に、死の安永を」
男の首が落ちる。その瞬間、私は全てを理解した。
次回、とりあえず最終回です。