ロクでなし魔術講師と死なない少年   作:ハムちゃんず

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一話

 

 

 とある貴族屋敷の一室に机を囲み二人の男と一人の女性がいた。

 朝日の差し込むその一軒家の主である金髪の女性セリカ・アルフォネアは二人の内黒髪黒目の男に視線を向け一言。

 

「働け」

 

「やだ」

 

 黒髪黒目の男グレン・レーダスは朝食であるスープを飲みながら即座に否定の言葉を投げた。

 そしてセリカはそう返してくるのが分かっていたのか手の平を今だ朝食をとる事に夢中のグレンに向け妖艶な笑みを浮かべながらある魔術の詠唱を始める。

 

「《其は摂理の円環へと帰還せよ・五素は……》

 

「待って⁈ 【イクスティンクション・レイ】なんて喰らったら俺跡形も残らないよ⁈ ってゆーかいつも寝てばっかのこいつはいいのかよ!」

 

 セリカが唱えている詠唱が神をも殺す術と分かった瞬間にグレンはさっきまで呑気に朝食を取っていたのが嘘のように慌てだし話を逸らそうとその部屋にいるもう一人の男に指を指す。

 そして指を指された本人である灰色の髪をした外見はまだ学生くらいに見える少年はといえば——

 

「………………Zzz」

 

 二人の会話など我関せずと机に突っ伏し爆睡していた。

 

「ああ、そうだな。クロノの奴にも話さないとな」

 

 そしてセリカはグレンの言葉に思い出したように自らがクロノと呼んだ少年に手のひらの向きを変え

 

「《いいかげんに・起きろ・アホ》」

 

 その手の平から特大の紫電が放たれクロノに直撃した。

 いくら適当な詠唱と初等魔術と言われる【ショックボルト】といえども大陸最高峰と言われる彼女が放ったのだ。並みの威力では無い。現に少年の方は体の至る処から煙を上げながら時折痙攣している。そして、一際大きく体を震わせるとそれきりピクリともしなくなった。

 

「いやいや殺すことはないだろ……」

 

 本来、人を殺すほどの威力はない魔術なのだがグレンの口にしたように彼が生きているようには見えない。実際に呼吸も止まっている。のだが

 

「ふんっ痛みは感じないように配慮はしたさ」

 

 二人は別段焦ることなく平然としている。まるでいつもこのような事があるかのように。

 

「う~なんか体が痺れてる? セリカさん何かしました?」

 

「いや、何もしていない」

 

「うーん? そうですか?」

 

 さっきまで確かに呼吸も止まっていた少年はまるで何も無かったかのように突然起き上がった。そして己の体の違和感に疑問を持つが大した事じゃないと即座にその事に対する思考を放棄する。

 

「それでクロノ」

 

「なんですか?」

 

「お前にはグレンが講師を務めるアルザーノ帝国魔術学院に入ってもらう」

 

「いやです」

 

「俺も働かねーっていってんだろ!」

 

 セリカは先程のようにクロノにも笑みを浮かべ要件を話すがまたもや拒否される。それ

に対してセリカは

 

「確かクロノは炎で蒸し焼きなどの苦しむような魔術が大好きだったよな」

 

「えっ‼」

 

「それでグレンは【イクスティンクション・レイ】がいいと」

 

「ちょっ⁈」 

 

 普通の男なら一発で堕ちるような華やかな笑みを浮かべながら二人に脅しをかけた。

 

「いや~どうせ死ぬなら苦しむ系じゃなく即死系でお願いします!」

 

「そうじゃねーだろ⁈ なんで死ぬ前提で考えてんだよ! お前は!」

 

 クロノは脅しに対して的外れな事を言っているが……。

 慌てるグレンと即死を希望するクロノ。対照的な二人を見て呆れたようにセリカは溜息を吐いた。

 

「全くお前達は……」

 

 これはある朝の一コマ。クロノとグレンが学院に赴く事になるその日の朝の。

 

 

 

 

 

 

 時は進みアルザーノ魔術学院のあるクラスの教室前にクロノとグレンの二人はいた。

 グレンは面倒臭そうに欠伸をしながらその教室の扉に手を掛ける。その後ろには背中に何かの袋を背負う眠そうな表情をしているクロノがついている。

 彼ら二人は結局セリカに打ち勝つ事が出来ずこうして学院に来ていた。

 

「じゃあ、適当にいきますか~」

 

「お~? ていうか何でそんなボロボロなんですか?」

 

 クロノが準備する物があるという事で現地集合することにしていた二人は何故かそろって遅刻していた。クロノはグレンのボロボロな姿に疑問を抱くがそんな事お構い無しにグレンは扉を開け放つ。 

 何とも締まらない二人が教室の中に入るとそこには既に生徒達がきちんと座っており突然現れた知らない二人組であるグレンとクロノに好奇や不信感などが多分に含まれた視線を向けた。そんな様々な視線に対しグレンはどうでもよさそうにクロノは

 

「うっぷ、人に酔いそう…………」

 

「おいおい大丈夫かよ」

 

「無理そうなんで帰ります」

 

 青くなった顔でそそくさと教室を出ようとする。が、

 

「お前だけ逃がすわけねーだろーが!」

 

 ガシッとグレンに肩を掴まれ逃走は失敗に終わった。

 

「HA☆NA☆SE!!」

 

 しかし諦めず抵抗を続けるクロノにグレンは

 

「ふんっ」

 

「ぐふっ」

 

 肩を掴んでいるグレンの手を必死に外そうと暴れるクロノの正面に回り込み腹に拳を打ち込んだ。減り込む拳。膝を着くクロノ。

 こんなコントのような光景を見せられた生徒達は呆然としていたがある生徒が何かに気付き大きな声を上げてグレンの方を指指した。

 

「あ、あ、貴方は⁈」

 

「……人違いです」

 

「えっ何? グレンさんの知り合い? 学生を誑し込むとは……もしやロリコン?」

 

「違うわ!」

 

「誑し込まれてないわよ!」

 

 声を上げた少女がグレンの知り合いと分かるやいなや戦慄した表情でロリコン認定を下すクロノ。それに対し件の二人はこれでもかと否定する。そんな二人の事はどこ吹く風と

 

「ふぁ~あ~、取り合えずグレンさん、紹介とか済ませません? 眠いんで」

 

「お前……後で覚えとけよ」

 

「ちょっと‼ まだ私の話は——」

 

 少女の方はまだ納得いってないようだがグレンは教壇に立ち自身の紹介を始める。

 

「えー今日から一か月間お前らの講師を務めるグレン・レーダスです。んでこっちが転入生の」

 

 グレンは拳を食らった腹をさするクロノを引っ張り自分の隣に立たせ自己紹介を促す。

 

「クロノ・ローグです」

 

(((((…………え、それだけ?)))))

 

 この時クラスの殆どの心は一つになった。

 そんなクラスの雰囲気を読んでか金髪の少女がクロノに質問を投げかける。

 

「えっと、好きな物とかはないのかな?」

 

まるで天使のようにハニカミながらの言葉にクロノはといえば——

 

「……好きな物? 睡眠」

 

 特に表情を変えることなく端的に述べた。

 これには金髪の少女も苦笑いで……。それを見かねたのかさっきグレンと言い争っていた少女が——

 

「じゃあ、嫌いな物は?」

 

 嫌いな物を問われたクロノは少し思案したのちに語り出す。

 

「労働と…………

 

 

         苦しい死に方」

 

 そう告げるクロノの顔は生徒達がゾッとするほどに——

 

 

 

            ——無表情だった。

 

 

 

 




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