ロクでなし魔術講師と死なない少年 作:ハムちゃんず
「もう‼ 信じらんない‼ 何なのあの二人!」
「まあまあ、システィ少し落ち着いて」
午前の講義も終わり現在は昼休みの時間。アルザーノ帝国魔術学院の食堂にて銀髪に翠玉色の瞳の少女システィーナ・フィーベルが憤りの声を上げていた。その対象の二人とは言わずもがなクロノとグレンの二人組の事である。隣に座る金髪の少女ルミア・ティンジェルは一先ずシスティーナを落ち着けようとしているが一向に彼女が落ち着く気配はない。そもそも何故彼女がこんなに憤っているのか? その理由は二人の自己紹介後に遡る。
クロノの嫌いな物発言の後の教室。そこはまるでお通夜のように静まり返っていた。ほとんどの生徒達はクロノが発言した時の感情の抜けた顔を目にし彼に恐怖を抱き彼を直視することが出来ずに俯きがちになっている。そんな折、空気を読んだのか読んでないのかグレンが授業の開始を宣言した。
「あーじゃあ、俺たちの紹介も終わったし授業を始めるぞ~」
この言葉を聞き生徒達は皆一様に彼に注目した。グレンは大陸屈指の魔術師であるセリカ・アルフォネアが推薦した人物だ。そんな彼がする授業とは一体どのような物なのかと期待の籠った視線を生徒たちはグレンに向ける。そして、その注目の彼の口からとんでもない言葉が飛び出した。
「じゃあお前ら自習な」
生徒達は彼が何を言っているのか理解が出来なかった。期待していた授業の内容が自習。そんな現実を受け入れられないのか皆一様に固まってしまう。そんな中一人の少女システィーナが最後の望みと言わんばかりにグレンに質問する。
「えっと……それって私達がどこまで出来るのか見たりするためですか?」
しかし、彼女の望みはあっけなく断たれた。
「いんや、眠いから」
「はい?」
自分達の実力を見るためと思っていたシスティーナ。されど現実は非情で件の非情勤講師の口から出たのはただ自分が眠いからというもの。これにはさすがに生徒達も呆然としている。
「グレンさん……」
その時、転入生であるクロノは動いた。彼は真剣な表情でグレンと向かい合う。
「……どうした?」
教室に入ってきた時の眠そうな表情とは全く違う真剣な顔。その顔を見て先程まで彼に恐怖の感情を向けていた生徒達は打って変わって期待を籠めた目を向ける。グレンと知り合いであるような彼ならグレンにきちんと授業をするように言ってくれると。
そんな期待など露知らず彼の口から出た言葉は——
「……さすがです」
自分が眠いからなどという理由で最初の授業を自習にしたグレンを称賛する言葉だった。
「ふっ、当たり前だろ」
この称賛を受けグレンは得意げな笑みを浮かべる。
そして、その称賛の言葉を述べた本人は背負っていた袋を下ろし中から何かを取り出す。
その何かとは
((((((寝袋⁈))))))
そう、黒色の寝袋だった。これにより生徒達の困惑は増すばかり。
「お前……準備って、そんな物用意してたのかよ……」
これにはさすがのグレンも呆れ顔。そんなグレンに不満があるのかクロノはグレンを睨み。
「そんな物とは失礼ですね……いつ、どんな時でも俺を包んでくれる俺の最高の
寝袋の事を相棒なんてのたまう彼に当初恐怖を感じていた生徒達はその恐怖心の事など完全に忘れ、クロノの事を駄目人間を見るような目で見始めた。
「相棒ってお前、てゆうか寝袋は流石に……まあ、いっか」
((((((いいの⁈))))))
このクラスの生徒達は何度驚けばいいのだろうか。授業中に平然と寝袋を出す転入生にそれを注意しない先生。普通では考えられない事態に生徒達はどうすればいいのか見当もつかない。そこで動いたのはまたもやシスティーナ。彼女は立ち上がり二人に対してキツイ視線を向け。
「一体何考えてるんですか! 授業もまともにしないで挙句には寝袋って、普通ありえませんよ!」
正論。圧倒的な正論。システィーナの言い分は何も間違っておらず他の生徒達も皆頷いている。まあ、そんな正論でどうこうなる二人でもないが。
「あのなぁ、普通普通ってそんな事ばっか言ってて楽しいか? 誰かが決めた事をそのまましてるだけじゃ何も前には進まねーぞ」
「うっ……そ、それは……って、今この状況で言う事ですか⁈」
グレンの反論に一瞬納得しかけたシスティーナだが寸前でこの状況で言う事ではないと気付く。流石に授業中には授業をするべきだろう。
「てか、こいつもう寝てるぞ」
「えっ?」
グレンがある方向に指を指しそちらに全員が目を向けると其処には
「…………Zzz」
何処から取り出したのかアイマスクを付けて寝袋に入り既に夢の世界に旅立ったクロノがいた。
(((((((早っ⁈)))))))
「もう、もう……一体何なのよー‼」
そして、受け入れがたい現実に少し涙目になったシスティーナの悲痛な叫びが教室に木霊した。
2話目です! 文字数は相変わらず少ないですが慣れてきたら次第に増やそうと思います。