ロクでなし魔術講師と死なない少年   作:ハムちゃんず

4 / 4
 
かなり久々のSS投稿。



前回から半年以上経っている……


四話

 

 

 夜の帳が降りて数時間が経過した、ある建物のある一室。その一室は照明などの灯りが点けられておらず唯一その室内を照らすのは窓から差し込む月の光のみ。

その室内において現在、蠢く影が一つ存在していた。その影はまるで芋虫のような形で何やらゴソゴソしている。そして、ジッパーを降ろす音が聞こえ始め音が止むと芋虫のような影から人型の影が現れた。その影は何かに気付いたように突然窓の方に歩き出す。それにより月の光に照らされその全貌が露になった。

 

「綺麗な満月だな」

 

 その影の正体はクロノ・ローグ。そして、場所はアルザーノ帝国魔術学院の教室。

 ただ今の時刻はPM10:00。何と、この少年は現在に至るまで熟睡していた。額に肉の文字を残したまま。

 

「…………もう夜か~」

 

 クロノは眠り続ける自分を誰も気に掛けてくれなかった事にほんのちょっぴりだけ落ち込んだ。まあ、編入初日から授業中に寝袋を使い眠り続ける人物と関わりたいと思う者もそうはいまい。そう考えるとただの自業自得とも言える。

 しかし、このクラスにはそんなクロノの事を起こそうとした者もいた。二名ほど。

 

 

 

 

 昼休みも終わろうとしていた頃。

 昼食を摂り終えた学生達が食堂から教室に続々と戻って来るなか、午前中から眠りっぱなしのクロノは額に落書きされながらも幸せそうに寝息をたてていた。それは、昼休みが終わろうとしても変わらず、午後の授業も受ける気が無いのが一目瞭然。そもそも授業と言っても自習なんだが。それでも魔術を学ぶこの学院で何もせずに眠り続けるクロノを看過できない生徒がいた。その生徒は白に近い長い銀髪を揺らしながらクロノの前まで歩いて膝をつき、寝袋を揺らし始める。

 

「ちょっと、いつまで寝る気なのよ!! いい加減に起きなさい!」

 

 その生徒システィーナは何度も何度もクロノを揺するが一向に起きる気配が無い。それどころか

 

「…………楽園は……此処に在ったのか……フフッ……」

 

 一体どんな夢を見ているのか幸せそうにそんな寝言を(のたま)いだした。そして、その幸せそうな顔と寝言により彼女の中の何かが切れた。システィーナは徐にクロノに手の平を向け——

 

「《雷精の紫「システィ⁈」……どうしたの? ルミア」

 

 ——【ショック・ボルト】を放とうとしたところで親友であるルミアに止められた。ルミアの方を向いた彼女の顔はそこらの男子が見惚れるような笑顔であったが、目が、笑っていなかった。そんな、彼女に若干苦笑いしながらもルミアはシスティーナを宥めようと試みる。

 

「えっと……流石に魔術はやりすぎじゃない?」

 

「止めないでルミア。今日は朝から色々あって我慢の限界なの……」

 

 そう、彼女は朝からクロノとグレンという型破りな二人によって多大なストレスを負っていた。それでも親友が寝ている人に魔術を放つのを見たくないのかルミアは両手でシスティーナの手を包み込み彼女の目を見つめ。

 

「きっと、ローグ君も編入の事で疲れてるんだよ。今は寝かせてあげよう?」

 

「そんな風には見えなかったんだけど……まあ、私も、魔術はやりすぎだったかも……」

 

 ルミアの説得によりシスティーナは渋々ながらも今日だけは、と思おうとしたところでまたもやクロノが寝言を吐く。

 

「…………セリカさん……学院とか、面倒……」

 

「…………《雷精の————》」

 

 その寝言をシスティーナが聞き、今度こそ【ショック・ボルト】が放たれようとした瞬間。昼休みの終わりを告げる鐘の音が学院中に響き渡った。

 

 

 

 

 放課後。

 その日一日の授業も全て終わり生徒達も帰宅し始めている中、結局午後も寝ていたクロノは今だ、夢の中。まるで、物語に出てくるような呪われた姫のように眠り続ける彼にクラスメイト達は呆れを通り越して少し心配に思えてきていた。当の本人はそんな事露知らずに幸せそうな顔をしているが。そして、クラスメイト達は少し心配してはいるものの彼に自ら近づこうとは思わず、一人、また一人と教室を後にする。それは、自己紹介や授業中など、あまりにも普通から掛け離れている彼に関わりたくないと言うのもあるのだろう。

 

「えっと、ローグくん? もう、放課後だよ?」

 

「もう、ルミアったら……そんな奴放っておけばいいのに……」

 

 それでも、この二人は違った。

 この二人、ルミアとシスティーナは他のクラスメイト達がクロノを避ける中、彼の異質さを気にする事無く彼の元に赴いていた。システィーナの方は不満顔だが。なぜ二人が彼の元に来たのか。それは——

 

「でも……もう放課後だし……それに先生もローグくんを置いて帰っちゃったから……」

 

 ——そう、彼の保護者のような存在であるグレン・レーダスが放課後を告げる鐘が鳴った直後、いの一番に教室を去ったために彼を起こす人が誰もいなくなったためだ。

 

「ホントにあの人は! 何を考えてるんだか!」

 

「まあまあ、落ち着いてシスティ」

 

「はぁ、それもそうね。文句は明日まとめて言ってやるわ! それにしても…………本当に全く起きないわね……」

 

「……うん」

 

 クロノは自身の傍でシスティーナが大きな声を上げたにも関わらず起きる気配が全くなく、寝続けている。

 

「……やっぱり【ショック・ボルト】を撃った方がいいんじゃない?」

 

「あはは……流石にそれはちょっと…………」

 

 ついには魔術の行使も視野に入ってきていた。それも怒りに身を任せていた昼とは違い純粋にクロノを起こすための手段として。

 その後も二人はクロノを揺すったり、何度かシスティーナが魔術を撃とうとしたりしたが、ついに彼が起きる事は無く、日も沈もうとしていたので二人は仕方なく家に帰っていった。

 

 

 

 

 

 そんな事があったのが数時間前。

 起こそうとしてくれた者がいた事など彼は知らず、あまり気にしてもいない。ただ、窓から覗く月を見上げているだけ。

 そうして数分の時が流れ。

 

「……帰ろ」

 

 クロノは寝袋を袋に詰め込み背に背負う。そして、教室から出ようと扉に手を掛け横に引く——

 

「…………あれ?」

 

 ——が、扉はびくともしない。

 

「…………いやいやいや。そんなわけ……」

 

 何かの間違いだというように首を振り、先程より強めに扉を引くが当然のごとく扉は動かない。それもそのはず、今の時刻はとっくに講師の者たちも帰宅している時間帯。当然、戸締りも終わっている。

 

「……マジですか?」

 

 教室に一人閉じ込められたクロノ。そんな彼がとった行動は——

 

「I can fly!!」

 

 ——教室の窓を開けての大ジャンプ。重力に引かれ地面に落ちていく中、彼の脳裏にあったのは

 

「扉を壊してセリカさんを怒らせるより、飛び降りた方が断然マシ!」

 

 

 

 

 その後、セリカの家に戻った彼は結局、こんな時間まで寝ていた事でセリカを怒らせ魔術の的にされ、グレンはそれをみて爆笑していたが、クロノを起こさなかったとして彼も的になり、深夜の鬼ごっこが始まったのであった。

 

 

 

 




 次は決闘の話になると思います。いつになるかは分かりませんが……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。