アース・ガイドⅠ
<1>
目の前を歩く複数の男の子達に向けて右腕を差し出すように手を向け駆け出す。しかし、彼らに追いつけるわけもなく、ふと姿を消す彼らを探すように周囲をキョロキョロと見回しつつ、息を整えていると足元に血塗れの彼らと血が周囲をちょっとした水たまりのようになっていた。
―――――そして、自分の両手を見てみると、彼らの血で真っ赤に染まっている。
不意に恐ろしくなり汗をかき、息が乱れてくると、焦点が合わなくなる。
こんな……!!
血が付いた両手で顔面を覆うように手のひらを置く。指を手のひらを少しづつ下におろしながら俺―――――ビスケット・グリフォンは叫び声をあげて夢から覚める。
<2>
大きな叫び声をあげてベットから起き上がる、嫌な汗が全身から吹き出すように寝間着と自身の素肌を気持ち悪くくっつける。
今すぐ脱いでしまいたい。
ベットから体を外へと移動させ、足を床につけるとそのまま力を込めて体を起こすとフラフラさせてしまう体を、何とか足に込める力を増やし踏ん張ると、俺は洗面所へと移動し、顔に水を叩きつけ、洗顔し、タオルで拭く。洗面所の鏡に写る自身の表情を眺める。
丸い目に小さい鼻、その反面顔や体は脂肪が付いた大きなものだ。濃い目の肩にギリギリ付かないくらいの茶髪で多少顔を小顔に見せようという俺の涙ぐるしい努力は全く無意味だ。むしろサブレのように痩せているほうがかっこよく見えるのに―――――
寝間着を脱ぎ下着姿になり突き出た自身の情けない腹をさすってみる。
毎朝走っているのに全く効果が出ない。
走り出すように濃い緑色のジャージを上下で着込み、タオルを首にかけ飛ばないようにジャージの中に入れて固定する。玄関を開け、電子キーを掛けるとそのまま歩いてエレベーターで降りていく。
マンションの入り口は朝早くということもあり閑散としている。特にこのマンションはそこそこ高めのマンションであり、住んでいる人も都市在住としては金持ちに近い人種が多いだろう。
俺や弟のサブレもここに住んでいる。
マンションから外に一歩出ると、少しだけ冷たい空気が風となって俺の体を突き抜ける。軽く身震いを起こして歩き出す。
ビルやマンション群に囲まれた月面都市アルンの中心部は俺が所属している傭兵企業である『経済防衛機構』通称『EDM』の本拠地が置かれている。アルンの町は左右上下に伸びていて、それぞれの道の先は港につながっている。そして、その道が交わる場所にEDMの本拠地である高層ビルが高々と存在する。
俺が出たマンションから上下に伸びるアルンで一番大きな中央道である。アルン中央通りとその左右に大きく分けられた道にはさまれた中央公園は昼時は昼食を食べる人が集まってくるし、まっすぐ伸びるこの道は朝やお昼問わず走ったり、運動している人にとってはここはちょうどいい場所だろう。かくいう俺もここで毎朝走っているわけだし。
最初走り出したときシノや周囲は俺のそういう行動に「ダイエットか?」と面白おかしくみんなの話のタネになったものだが、俺はそんな気持ちで走ろうと考えたわけじゃない。
マンションを見上げて自分の生活の豊かさと鉄華団での『働く』と他の『働く』では別だと思い知らされた。実際一人暮らしをしてみて、生活習慣の差や酷さなんてものを痛感させられた。毎朝走ることで少しでもマシになればいいと思い、今こうして歩いている。
横断歩道を駆け足で通り過ぎ、芝生が広がる公園に出る。人工芝が足元で心地よい踏みごたえと感触を与えてくれる。
肌寒さからジャージに口を隠し、両手をポケットに入れている。芝生に立ち芝生の感触を確かめる。屈伸し、ストレッチを入念に行い、そしてポケットから手を出して走り出す。
とたん、俺は七年前のことを思い出す。
マクギリス・ファリド事件の直後の事を―――――
<3>
今思えば、サブレは火星帰りだったのだろう。
疲れ果てたサブレがどんな仕事をしていたのか、当時に本人に何をしていたのか尋ねたことがあったが、本人は何も答えてくれなかった。しかし、その後に俺はEDMの地下格納庫にボロボロで大破していたバルバトスとグシオンを見た。おそらく火星に赴き二つのガンダムフレームを回収したのだろう。
フラウロスは事前に回収できたと聞いていたし、シノの無事もその後に聞かされた。最もシノの場合は生身の体に刻まれた傷より精神的な傷の方が致命的だった。俺が立ち直り本人に会いに行ったとき、シノとは思えないほど精神的に弱り切っていた。
短い茶髪も、耳につけたピアスもどこか痛々しいほどに包帯を巻かれている。
「よお……ビスケット」
小さくつぶやくように吐き出されたその言葉は耳を澄まさなければ聞こえないようだった。
オルガが、三日月が、昭弘が、みんなを失ったことと、今までの失敗がまとめてシノを襲ったのだろう。シノにとってブルワーズの時の失敗より、島での脱出戦での失敗が一番精神的に来たらしい。
―――――どうやってはげませばいいのだろう。
そういって相談したらサブレは、
「しらない」
と冷たく突き放してくれた。
むしろ、清々しいとすら思える。
もう少しぐらい考えてほしいと相談すると、仕方なさそうに考えてくれて数分後に、
「分かんない」
という結論をだした。
めんどくさがりは昔から変わらない。全く考えてくれないどころか、脳裏に考えを巡らせるつもりもないらしい。
仕方ないので自分で考えたが、結局意見を出せなかった。
俺は自分の決意を述べ、シノを火星に返すために色々準備をしているところに元気のいいシノが現れた。どういうことがあったのか分からないが、どうやらサブレが何か対策を講じたらしい。
「これからお前を守ってやるよ」
右頬から鼻まで傷が残っており、ピアスも一新している。周囲にムードメーカーになろうとするシノに俺はどこか安心してしまう。
そうだ、この楽天的な性格がシノなんだ。周囲に安心感を与えてくれるシノがいてくれてよかった。肝心のシノは昭弘の親戚である明楽・アルトランドとは仲良くしているらしい。二人が仲良く騒いでいると、サブレが忌々しそうに表情を曇らせ毒づく。サブレは小さな舌打ちをしながら二人が仲良く騒いでいる姿をしり目に俺はサブレの元に歩いていく。隣に一緒に並んで立っていると俺は不意に思い出す。
俺が目覚めたとき、サブレの寝室で『鉄華団の最終報告書』と書かれたデータをタブレットから見つけてしまった。最初から最後まで見た後に俺は全身から汗を吹き出し、呼吸が乱れ過呼吸に陥ると、汗と涙と鼻水がちょっとした水たまりを作る。
とたん、ドアが開く音と共にサブレが入ってくる。「やってしまった」という表情で立ち尽くす、俺はそのまま駆け出し立つ激するようにサブレの体を何度も叩いた。
「なんで!?」とか「どうして!?」とか「助けてくれなかったの!!」という訳の分からない理不尽な叫び声をあげている俺をサブレは何も声を発することなくただ殴られていた。
それからの数日間の俺はひどいものだった。眠って夢を見ればみんなの死ぬ夢を見るし、それを恐れ不眠症に陥ると見る見るうちに食欲もわいてこなかった。それに見かねたのは弟であるサブレだった。
パッンという音と共に俺は驚きと後ろに軽く飛ぶ。尻餅をつくと俺はそこでようやくひっぱたかれたと認識できた。ジンジン痛む左頬と真っ赤なサブレの右手のひらが俺の思考をまとめるのに時間がかかる。
「な、なにを……!?」
サブレは俺の襟首をつかんで俺にはっきり聞き取れるように言葉を発した。
「いい加減にしろよ。ふてくされて、辛そうな表情で、死にそうな面しながら何もしないことが今兄さんがするべきことなのか?」
そんなサブレの言葉に俺は憤りを覚え、サブレを押し倒してそのまま殴ろうと右こぶしを上げる。
「なんだよ!?サブレに何が分かるの!?オルガを!三日月を!昭弘を!みんなを失った俺の気持ちがサブレに分かるの!?分かるんだったら言ってみろよ!!」
涙を流し情けない表情で叫ぶ言葉をサブレにストレートにぶつける。サブレは少しだけ間を開けると、体を起こし俺の額に自分の額を軽くぶつける。ゴツンという音と共にサブレの表情がまじかに見えてくる。俺の眼前にサブレの無表情が見えてくる。
「昔……こうやって母さんに額をぶつけられたことがあったな。その時の言葉を覚えてる?「私達やサヴァランや大切な友達がいなくなった時……自分の隣に兄弟がいることを忘れないでね。あなた達は二人で一つなのだから。もし、何かを見失いそうになった時、何かを失った時、ビスケットはサブレを、サブレはビスケットを頼りなさい。あなた達は双子の兄弟なのだから」って」
俺はそれを覚えている。母さんが事故で亡くなる一週間前のことだった。それを俺は今の今まで忘れていた。いや、違う、忘れていたわけじゃない。思い出そうとしなかったんだ。母さんと父さんが死んだとき、死んだことがショックで俺はそのことを今の今まで忘れようと努力して記憶の片隅に押しやったのだ。
今こそその言葉が本当の意味で力になるときだ。何のために生き、何と共に生きてきたのか……、今の俺はそれを見失っている。目の前にあるサブレの表情を、視線にまっすぐ答える。
みんなを失った俺はみんなと向き合う事を恐れるように、逃げるように生きている。死に向かって生きている。
―――――ふざけんな!
みんなからそんな風に叫ばれそうだ。俺は今生きている。みんなの代わりに生きるというのも何か違う。今日から、今から俺は自分の為に生きなくちゃいけないんだ。
やっと笑顔になれる気がする
そうだ……俺は―――――みんなの事を忘れないために生きていこう。
<4>
走り出して一時間後には息を整えるために小さな木の木陰でペットボトルに入ったスポーツドリンクを口に含んで口内を潤し、体に活力を取り戻させる。休んでいる間に体に体力が戻っていくのを感じて、体中に気持ちのいい汗をタオルで拭いていく。気が付けば空は先ほどより明るくなっていく。
空を見上げると青空が見える。
この空も人工のドームに映し出された映像に過ぎないが、こうしてみると本物の空に見えてしまう。
このアルンは地球圏では最大規模の都市になるが、それ故にそこで使われる技術は厄祭以前の技術も含まれている。宇宙港自体も厄祭以前に存在したものをそのまま修理し使われた。お陰でこのアルンに停泊しているEDMの戦艦は50隻を超える。
俺達が使っている戦艦に搭載されているエイハブリアクターと連結されている『パーティクルドライブ』は厄祭戦以前には存在しなかった技術で使われている。
<5>
パーティクルドライブ―――――エイハブリアクターと連結することで本来の出力を上げ、違う兵器を開発できた。ビーム兵器を。パーティクルドライブが作り出すビーム兵器はただの熱線兵器ではない。
元々エイハブリアクターとナノラミネートアーマーに熱線兵器は通用しない。ナノラミネートアーマーは熱を拡散させることができる上に、エイハブリアクターを壊すことはできない。ただし……パーティクルドライブはその常識を打ち砕く事が出来た。
ラスタル・エリオンが生きていたころ、マハラジャと共に共同で開発したこのドライブは本来の目的としてエイハブリアクターでは出せない出力を出すことを目的としていたのだが、これがほかの副産物を作り出すことになった。それがビーム兵器だった。
パーティクルドライブが作るビーム兵器は拡散することが無く、貫通能力と切断能力を底上げしたのがパーティクルドライブだった。つまり、ナノラミネートアーマーでも防げないほどの高出力の熱線兵器を作ることができる。そして同時に、推進剤を必要としない機体を作ることができる。それが、EDMの量産型機である『ジム』だった。
ジム―――――無個性なほどの単純な角張ったデザインに頭部のモニターはゴーグル型が採用された。コックピットは360度全方位モニターが採用され、システムの最適化と進化が促された。それに伴い三機のガンダムフレームも同じような改良案が出された。そして、同時に進められたプロジェクトが『ネオ・ガンダムフレーム・プロジェクト』だった。
しかし、このネオ・ガンダム・フレーム・プロジェクトは全く進んでいない。
単純な連結と違い、最初から一体化されているエイハブリアクターとパーティクルドライブを2つ同時に並列動作させることが難しかったのと、肝心のエンジンが開発されたのにも関わらず、フレームの1からの開発に難航したためであった。
そんなプロジェクトの裏でグシオンとフラウロスはスムーズに進み、数か月前にはロールアウトになった。しかし、バルバトスは違った。
「違う!もっとスピードがほしいんだ!」
サブレのその一言が開発を難航させていた。
<6>
マンションへの帰り道の途中に自身のスマートフォンにメッセージが届いた。否、メッセージではなく指令書である。
『本日0900にガンダムバルバトスリファインの回収任務を行うため軍港から出立すること。ただし、ノルバ・シノは別任務中である為に参加不可とする。パイロットはノルバ・シノとサブレ・グリフォンを除いたメンバーで行う事。追記:周囲にギャラルホルンと思わしき艦隊が数隻不可侵条約を無視する形で目撃されているため気を付けること』
ギャラルホルンは宇宙に上がることを条約で禁止されている。それを破ってまで近くにいる理由が分からない。
ラスタルが一年前に亡くなって以降、ギャラルホルンは軍事力と支配力の速度に拍車をかけて拡大させていった。各経済圏はその支配体制に逆らうことができずにいた。
現在の代表である。ロロ・デブリンは軍事力を拡大させることをラスタル生前の頃より唱えており、ラスタルが死んだことをいいことに軍事力の拡大と、それに反対する者を遠ざけようとするなど、本格的な軍人気質だと思わせる人間だ。
最近ではガエリオ・ボードウィンがそんな状況の中でラスタルの遺志を残すことを目指して前線に戻って来たらしい。ジュリエッタ・ジュリスを伴って前線に姿を現している。しかし、そんな彼らもある人物の下についているらしい。確か『エヴォ・エクス』とかいう名前の顔を全部隠した仮面を付けた変わった男らしい。
噂ではいつからギャラルホルンにいるのか分からないとか。
俺はそんなことを考えながら足をそのままマンションに進めていく。
<7>
エイハブリアクターとパーティクルドライブを搭載した最新式の戦艦で、その姿形はほかに似ている戦艦を探すことが不可能なほどだ。全体的に横に広くモビルスーツの格納数は最大で十機。階層はそこまで大きくなく、ブリッジは戦闘時に収納されるようになっている。カタパルトデッキは左右に出ており、まっすぐ伸びたカタパルトデッキは従来のうつ伏せ状態での射出式ではなく、スキー状態での射出式に変更された。それ以外にも主砲は高出力のビーム兵器に変更し、地球圏での運用も前提されており、単体での大気圏突破と大気圏離脱が想定されている。
外から見るとやはり今までの戦艦とは違うことが把握できる。俺の所属する『ファントムブラット隊』の唯一の戦艦であるユグドラシル級三番艦『ヴァルハラ』がその白いカラーリングが周囲の明かりが反射しているように見える。
ヴァルハラの中央に向けてまっすぐ伸びた連絡路を通り、エレベーターでブリッジまで移動していく。ブリッジのドアが自動で開くと艦長席を中心に後ろに二つほどCIC席が設けられており、前には操舵兼砲撃手席しか存在しない。
CIC席に座っているうちの赤い左側に寄せたサイドポニーテイルの女性である『メアリー・シュシュ』が俺に向けて怒鳴り声を上げた。
「ちょっと!艦長が遅れるってどういうことですか!?」
俺は完全にひるんでしまい、苦笑いを浮かべながら艦長席に急ぐ。艦長席に飛び座ると、反対側に座っていた妹である『イオリ・シュシュ』が右側に寄せた赤いサイドポニーテイルを振りながら姉のメアリーをなだめる。
この姉妹は顔だちは似ていて小顔で目は丸く、口も小さいうえ鼻も低い。この姉妹を見分けるコツは胸だ。姉のメアリーを悪く言えば胸が小さく、妹のイオリは大きい。互いに小柄であることは違いないが、メアリーは運動神経がいいがその反面性格的に勝気で妹に対して過剰なほどの過保護な一面を持っていたりする。妹であるイオリは運動はあまり得意ではない反面優しく、包容力がある。
そんな会話を無言でかつ無表情で聞いているのは一瞬レスラーかと疑うほどに体格のいいごつごつした顔をしている『ノノメ・レイデン』だ。
そして俺、ビスケットを入れて全部で四人で運用している。基本は最低限の機能を機械がオートで行うため、そこまでの人数を必要としない。しかし、それ以外にはかなりの人数を要する。
俺はそれを確認するため姉ではなく妹であるイオリに視線を向けて問う。
「イオリ、他のメンバーは全員そろってる?」
「は、はい。あとは出発するだけです」
俺は艦長帽をかぶり直し、全身真っ白な制服に黒のネクタイを付けた服を今一度確認し、不備が無いことを確認する。CIC席に座るメアリーが赤い制服をなびかせ怒鳴ってくるのを俺は右から左へと聞き流しつつ、レイデンに出発の合図を送る。
「出発進行!」
レイデンは無言でうなずき、ヴァルハラを少しずつ上へと上昇させていく。上部ハッチが開くとそこには一面の星々が輝いていた。
「目的地廃棄コロニー!前進微速!」
ヴァルハラは少しずつ出力を上げていくとまっすぐと廃棄コロニーへと向けて進んで行く。
<8>
月面都市アルンより高速戦艦でも3時間かかる場所に廃棄コロニーがデブリに囲まれるように存在していた。デブリを外から眺めてもコロニーの存在感は隠せまい。実際、ガンダムバルバトスの全方位モニターに映るコロニーの存在感と言ったらない。
戦艦の残骸のようなデブリを強くけり、その瞬間にサブレは足元のペダルを強く踏みつけ、同時にバルバトスの背中のブースターが強く火を噴き少しだけ速度を上げる。
しかし、その反面俺の求める速度にならないことにいらつく。
実際、バルバトスリファインの速度は従来のモビルスーツが出せる速度のある意味限界なように思えた。単発な速度や回避や小回りを見ても今までのモビルスーツやガンダムフレームで最大の物に思える。
でも、俺の思い描く速度にはならなかった。
パイロットスーツの中が湿ってくると短い癖のある茶髪の前髪に汗が滲んで視界の邪魔になりつつある。
俺は周囲への警戒を、速度を緩めずに一回首を振り汗を弾く。弾かれた汗はゆっくりと周囲に飛び散り、大破したモビルスーツにぶつかりそうになる直後にバルバトスの左腰に備え付けられた白い長細い筒を取り出し、ブゥンという音を奏で熱線事ビームが円状に伸びる。バルバトスの首から腰までの長さの通称『ビームサーベル』を取り出し、モビルスーツの体を左腕から右腕にかけて斜めに切り裂いた。
その間も速度を決して緩めず、さらに速度を上げていく。
周囲に移るデブリの流れる景色はもはや流星のように流れている。俺の目の前の小さな画面には速度に対する警告が現れる。これ以上速度を出せないようにシステム的なロックが掛けられており、そればかりは俺でも外すことができない。
ビームサーベルで次々とモビルスーツを切り裂いていき、戦艦を蹴って回避しながら速度を緩めないように走り切る。
デブリのを脱した瞬間に全方位モニターの端に移るタイマーを確認すると、目標タイムをぎりぎりのところで守られていた。
一息つき、パイロットスーツのヘルメットを脱ぎ足元に置く、途端周囲が静かになったような錯覚すら覚える。モニターに映る星々や存在感の多い月や地球を眺めると、俺は自分という存在がちっぽけなものに思える。
「地球って……小さいよな」
ヘルメットに映る俺自身の顔を見る。
兄と違い目つきが悪く釣り目で短い鼻、癖のある短めの茶髪がバイザーに写る。
バルバトスはゆっくりと廃棄コロニーへと戻っていく。
<9>
コロニーの側面にモビルスーツが一機ほどがギリギリ通れるほどの隙間を通り、バルバトスはコロニー内の格納庫の中へと仰向けの状態で倒れる。
眼鏡をかけたEDMの整備・開発チーム担当の制服である黒の上に白衣を懸けた女性がサブレの目の前に立ち不がるようにクールに立ちふさがる。ガーターベルトの存在感や短めの白髪、しわの無いつやのある細めの顔、少しだけ上を向いた目などのすべてがクールに見せる。
そんな開発チームの所長である『ソニア・ペルジン』は微笑むでもなく、怒るでもないようなある意味無表情に近いシニカルな微笑み方をする。
サブレは一瞬後ろに後ずさり、逃げ出そうとする。
ソニアはカツカツと足音を立てながらサブレとの間を数センチでとどめながら立ち尽くす。
「で?どうだったかしら?これ以上の速度を求めてもいいけど、それじゃあバックパック変更方式の意味がないけど?」
「いいよ……納得する」
胸の谷間を見ないように視線を外へとふらつかせ、脳の思考を無理矢理バルバトスの方へと向ける最中、ようやくの思いでソニアはサブレの右隣を通り過ぎ、バルバトスの前へと歩んでいく。
ソニアとの無意味なドギマギをやり過ごし、一気に眠気が襲うとサブレの意識は奥の仮眠室で途切れてしまった。
<10>
ドカン!
そんな大きな音と共にサブレの思考をたたき起こし、すぐに異常事態だと認識させた。手元の腕時計を確認する。先ほどから四時間が経っていた。本来のスケジュールによれば今ヴァルハラがガンダムバルバトスと開発チームの回収に訪れているはずだ。
仮眠室のベットから飛び降り、廊下に飛び出る。遠くの視界に燃え盛るビル群にギャラルホルン製のグレイズシリーズの最新型である『グレイズオーレス』が緑色の体に角張ったデザインにビームライフルを放ちながらコロニー中を燃やしていく。
俺は格納庫の奥へと足を進めていくと、開発チームが撤退の準備を終えていた。本来ならパイロットスーツに着替えなければならないのだが、そんな余裕がない俺はEDMの緑色の制服のまま飛び乗る。座席が俺の重さを確認すると自動で座席がコックピットの中へと沈んでいく。その間に足元から小さなモニターが姿を現し、視界の邪魔にならない位置で停止する。
機体の起動画面の確認と異常状態の確認作業を進めると、モニターの一部にソニアのクールな表情が写る。
「現在、コロニー内にグレイズオーレスが三機、外に五機と、指揮官用レギンレイズオウガスが二機。あなたはコロニー内のモビルスーツを頼んだわよ。私達はヴァルハラに避難させてもらうわ」
「了解。兄貴にマルチスタイルの射出を頼むって伝えてくれ」
ソニアは「了解よ」と答え似合わない慌てぶりを披露して通信を切る。
小さなモニターに英語でガンダムの名が浮かび上がる。
『ガンダムバルバトス・リファイン』
バルバトスの右足を地面につき、左足も同じようにつく。右腕で機体を支えながら起き上がる。強引に格納庫の屋根を破壊しながら起き上がる。
メキメキという音を立てながらバルバトスは格納庫を壊しながら立ち上がり、コックピット内のモニターに燃える廃墟の都市部が写る。
バルバトスは新たな主を得、新たな力をふるおうとしていた。
―――――行こう!バルバトス!!
どうだってでしょうか?『アース・ガイドⅠ』というタイトルで分かる通り、このタイトルはいくつか進めるつもりです。話を見た方なら分かると思いますが前作と比べて長いです。これでも短くしたつもりです。本気で書いていたら多分2万近くまで文字数がおよびそうでした。それも大して話は進まずに……。削ったというより、書き方を工夫してここまで短くできました。主人公はサブレ・グリフォンとビスケット・グリフォンになります。次回は廃棄コロニー戦が始まる経緯と戦いを描くつもりです。
次回のタイトルは『アース・ガイドⅡ』になります。