機動戦士ガンダムE   作:グランクラン

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アフリカ編後編です。


生きた証Ⅰ

 

 EDMの教習学校に通い始めて一年が経つと俺の元にもある程度のグループができていた。イオリとメアリー、メイデンと集まって一緒に遊んだり、一緒に学んでいたりしていると、ある日マハラジャ・ダースリンがやって来た。

「この子の面倒を見てやってほしい」

 マハラジャの足元に隠れて顔だけをこちらに向けてくるのは黒髪の少年だった。10代にしてもさらに幼いように見える童顔と出会ったのはそのころだった。

 ひたすら笑顔を向けるその童顔を疑いながら俺はマハラジャに問う。

「誰?おっさんの知り合い?」

「お前が助けたパイロットの息子さんだ」

 先月の話だと確信したのはそういう説明を受けてから30秒経ってからだった。

 確かに先月初頭に初めて教習生としてパイロットに参加した際、自由気ままに動き回っていたら海賊十機に囲まれている機体とパイロットを発見してしまった。

 成り行き上見捨てるわけにもいかない俺は助けることになってしまう。さすがに十機ぐらいなら時間を稼げるだろうと意気揚々と突っかかっていった。そして、全ての敵機を倒すことができたのは驚きでしかなかった。

 こんなつもりじゃなかったんだ。

 まさか、その結果こんな子供になつかれるとは思わなかった。

「明楽・アルトランド………です!」

 どこか楽しそうに笑っているその少年を見ながら頭を掻く。困り顔でマハラジャを見ると、マハラジャは俺に押し付ける気が満々の顔をしている。

 どうやっても俺に押し付けようとしている。逃げようと思考するが、その結果は従ったほうが楽だという結論になった。

「……サブレ・グリフォン」

 明楽の満面の笑みと共に俺の騒がしい学校生活が進んで行った。

 

 

 バトルアックを持ち上げるサイガの機体は村を蹂躙するギャラルホルン製のグレイズのコックピットに叩きつける。

 サイガの視界いっぱいに炎が広がっていく村の姿と、村人を守る為に革命派のモビルワーカーがやられていく光景だった。

 村の奥から指示を出すキマリスとバエルの姿を見付けた。倒すべき敵を見付けたサイガはキマリスの方に機体を走らせてバトルアックスを構える。キマリスは攻撃に気が付き、ランスでバトルアックスの攻撃を弾く。

「貴様ぁ!!よくも!よくもぉ!!」

 キマリスはさらに距離を取り、ランスを構える。ガエリオは戦いながら指示を出す。

「こいつは俺がやる!お前たちは革命派の拠点を潰せ」

 心苦しい気持ちはガエリオにも存在する。しかし、革命派と穏健派の紛争を終わらせることができる一石二鳥の機会がようやく回って来た。うまく立ち回ればファントムブラット隊を叩くことができる。だからこそこの作戦に乗ったのだ。

 この村の人間を犠牲に多くの人、この場合はアフリカ大陸全土の人々の安全を手に入れると考えるなら必要な犠牲だと諭された。

 元々、この村の人間は革命派の手が及んでいるとガエリオは聞いていた。

 この光景を目にして心苦しさを覚えるが、そんなことで心ぐるしさを覚えていては戦っていられない。

 キマリスのランスを低めに構え、丸盾に仕込んだ爆薬をサイガの機体に向けてはじき出す。爆薬が足場を揺らし、ガエリオは機体を走らせランスを下方から上方に向けて突き上げる。しかし、コックピットを下からの攻撃をバルバトスのダガーが軌道を逸らさせる。

「革命派を襲うだけならこの村を攻撃する理由は無いはずだ」

 サブレの言葉にガエリオはあえて返さず、再び距離を取る。すかさすバエルが両腕に持っているバエルビームソードをバルバトスへ向けて斬りつけようとする。しかし、今度はサイガがバトルアックスで攻撃を弾きバエルに隙を作る。

「罪のない子供たちを!未来を生きる者達を!どうしてそんなことができるんだ!!」

 バルバトスがダガーでバエルのコックピットに攻撃を仕掛けようとするが、キマリス盾を攻撃を弾く。

「お前達が流してきた無駄な血が多くの人を不幸にしているのだ。その不幸の連鎖をここで断って見せる!」

 ガエリオの強めのセリフにサブレの感情が高まり声を荒げる。

「正義という気前のいい言葉に酔いしれ、正義の名のもとに行う行動が全て正しいと思ったら大違いだ。お前たちの正義は欲望と同じ意味だ」

 ジュリエッタも感情を高ぶらせ、大きな怒鳴り声をあげる。

「世界を乱すものを討つことが我々の仕事なのです!そんなことも理解できない人間に!」

 しかし、ジュリエッタの言葉に憤りを覚え、この場の全員のこころに響く声を放ったのはサイガだった。

「死んでいった者への敬意を示そうとしない子供が口をはさむのか!?人の死を数でしか理解しないものが!!守ることを知らないものが!!死んで守りたいという気持ちを理解しない者達が世界を支配するのか!!!」

 バルバトスがダガーをまっすぐキマリスとバエルの方に向ける。

「お前達は正しいという言葉に酔いしれるのかもしれないが、これだけは言えるぞ……。お前たちは『悪』ですらない。ただのわがままな『子供』だ」

 ガエリオはそんなサブレの言葉に心に刺さる痛みを抱えながら反論を口にする。

「正しさを突き詰めていくことは間違いではないはずだ。君は『正義』を間違いというつもりか?」

「この世界に『正義』なんて存在しない。世界を『正義』と『悪』で分けようとすること自体が幼い証拠なんだ。『正義』と『悪』なんて周囲の人間が見て、聞いて決めていくことなんだ」

「彼らの戦いが多くの血を流しているんだ!それを『悪』ではなく、それを止めようとしている我々が『悪』だとでもいうのか?」

「革命派が流した血とお前たちが流した血では意味が違うんだよ。革命派が流す血は仲間の血だ。お前たちが流した血は罪なき子供達の血だ。足元を見ろ!周りを見ろ!!流れている血をちゃんと目に入れろ!!!言い訳をするな!目を背けるな!!これはお前達の責任なんだぞ!!」

 サブレの最後の咆哮にたじろぐガエリオはバルバトスたちの後方から革命派とファントムブラット隊の増援が駆け付けてくる姿を見ると、撤退の合図をあげる。

 ガエリオ達を撤退していく姿をサブレをサイガを止めながら見つめていく。

 

 

 俺が村に再び足を踏み入れた時、炎が燃え盛り、血の匂いが鼻につく。一歩一歩ゆっくりと歩いていき、村のあちらこちらで救助活動をしているが、こんな状況で助けることができるのか疑問が残る。

 ふと、何かを蹴ったことに気が付きそれを拾う。拾ったそれが子供の靴であるとわかっり、その靴がデマルと呼ばれていたあの子供のものだと気が付いた。

 このあたりのあの子の家があるのかもしれないと、小走りで探していると、ファンが顔を地面にうずめて泣きながら苦しんでいる姿が見えた。ファンの目の前には燃えてつぶれている家があり、ゆっくり近づいていく。

「ここは………ここはデマルの家なんだよぉ……。俺達になついていて、いつか俺達と一緒に戦うんだっていつも………いつもよぉ………なんでだよ……」

 俺自身ショックから立ち直れない。すると、大きな通りのど真ん中で明楽とサブレが立ち尽くしているのを見付けた。後ろから近づいていき、話声が聞こえてくる。

「俺の所為で………ごめんなさい」

「お前の所為じゃない。気にするなとは言わないが、自分を責めるな」

「でも………でも……」

 サブレが明楽の頭を軽く叩き救助活動へと向かわせる。

 明楽とすれ違いで俺がサブレの隣に立つ。サブレの表情は右側からよく見えない。子の惨状に涙を流しているのかもしれない、怒りに表情を歪ませているのかもしれない。

 しかし、そんなサブレの顔を真正面から見る根性が今の自分にあるわけが無く、恐ろしくて見ることができない。

 サブレ、今どんな気持ちなのだろう。どんな気持ちでここにいるのだろう。

 そもそも、サブレが戦う理由は何なのだろう?サブレはどうして戦い続けるのだろうか?いつだって、みんなの前で戦い、今だって……これからだって……。

 どう話しかけたものか悩んでいると、後ろからイオリが駆け足で近づいてくる。

「先ほど本部と連絡が付きました」

 

 

 ヴァルハラの会議室に集まったのは整備班のゼム・ロック。開発局長のソニア。モビルスーツ隊隊長のサブレ・グリフォン。ファントムブラット隊隊長のビスケット・グリフォンだった。

 目の前にある大きな画面にはマハラジャの渋めの顔を映っている。ビスケットの説明に表情を変えず、事の成り行きと、通信ができなかった理由。そして、村の惨状を含めて全て説明した。

 マハラジャは最後の説明を聞くと大きく息を吐き出す。

「通信妨害が起きているのだろうということは分かっていたが、まさか穏健派とギャラルホルンがひそかに手を結んでいたとはな……ラスタルが死んだ後かな?」

 マハラジャの疑問にサブレが代わりに答えた。

「だと思うが、キッシュの実戦テストのデータを効率よく手に入れるには本格的な介入は控えたんだと思うけど……」

 サブレが言葉を濁した理由をなんとなく理解したマハラジャはその先を口にする。

「穏健派と革命派の両方を潰したのはキッシュが完成が近づいたためだろうな。両方を潰したうえで、アフリカ大陸全域にモビルスーツの生産工場を配備しようと考えていたんだろうな」

 ソニアは眼鏡を光らせながらうなずく。

「あの工場で作れるパーティクルドライブとモビルスーツの数には限界がすぐに来るでしょうから。その為には革命派は邪魔でしょうし、工場を作れば穏健派も抵抗を示すでしょう。そもそも、自分達にとって余計な情報を知っている穏健派を生かす理由はあまりないでしょうし」

 ソニアは先ほどまで工場を実際に視察し、生産データの確認をしていた。黙っていたゼムもそこで口を開いた。

「どちらにせよ動くなら早い方がいい、穏健派はともかく革命派は近いうちにギャラルホルンへの敵討ちに動くぞ」

 それはビスケット自身感じていることでもある。彼らの纏っている空気は鉄華団を連想させる。鉄華団はビスケットを失ったのち、敵討ちに走ってしまった。

 敵討ちを止めることも真剣に考えたが、鉄華団ならいざ知らず、革命派を止めることができるとは思えなかった。

「止められないのか?降下部隊を配置するにも時間がかかるぞ」

「多分、無理だと思います。高まった感情を沈めることができるとは思えません。鉄華団の時だってそうですけど、一度高まった感情を強引に落ち着かせれば逆に俺たちが敵になる可能性があります」

「ふむ。そうなると、降下部隊の準備を急がせるしかないが……誰でもいい革命派のリーダーと一度話をさせてくれ」

 誰が行くか視線での押し付け合いがソニアとゼムがはじめ、ビスケットは視線をサブレの方に向ける。怖い表情を変えないままサブレが口を開いた。

「俺が適任だな」

 そういって部屋を出ていった。

 

 

 村の端には大きく盛り上がった高台が存在し、その高台の上には革命派の亡くなった仲間たちが眠る墓標が存在する。新しく亡くなった仲間たちもそこに集められていた。

 サイガはそこで酒をもって死んだ仲間たちの分だけ盃を用意する。用意した盃に酒を濯ぐ。最後に自分の分の盃に酒を入れ座って酒をゆっくり飲み始める。

 そこへ後ろから近づいてくる気配に気が付き後ろへと振り向く。サブレがちょうど丘を登ってくるところだった。

 サイガの隣に座ると言いにくそうにしているサブレの横顔に「クス」と少し笑ってしまった。サブレは照れながら「笑うなよ」とつぶやく。

「ありがとな。こいつらまで見つけてくれて、お陰で……助かったよ」

 真剣な面持ちにサブレも気持ちを引き締め、本題に入ることにした。

「さっきEDM本部と連絡が取れた。それで本題なんだが、代表がお前と話をしたいと言っているんだ。お前も代表と話をしたがっていただろ?出来れば今から話をしてくれないか?」

 サイガは何かを言いかけようとするが、すぐに言葉を飲み込み、最後の酒を飲み干してしまう。

「分かった。もう少ししたらそっちに行こう」

 そう言って立ち上がり、まっすぐ仲間たちを眺める。サブレは気になったことを聞くことにした。

「村の人達もここに?」

 サイガは首を横に振り村の西の方へと視線を向ける。

「村の人達の遺体は村から西へと一キロ走ったところにある集団墓地に埋めてある。今頃墓の中に埋めているところかな」

 サイガが丘の上から降りてくると、サブレは丘の上に並ぶ遺体に向けて黙とうを数秒だけ祈り丘を降りていく。

 

 

 サイガをヴァルハラ内で案内していくと、会議室の前で一旦止まってしまう。

「ここが会議室。で、マハラジャとすぐにつなげるか大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ」

 サイガの覚悟を決めた表情にサブレも覚悟を決め部屋の中へと入っていく。部屋の中にはソニアもゼムもいないところを見ると、別件の仕事にかかっているのだろう。

 しかし、問題もある。会議室の通信機が普通に切っている。仕方なしにもう一度通信を繋げると、壮絶ないびきが聞こえてきた。

 咄嗟に耳を塞いでしまい、兄の方に意見を求めると兄は平然とした顔で耳をふさいでいる。

「サブレを待っている間に寝てしまったんだよ。あまりにもいびきが大きいから通信を切ったんだよ。起きないし……」

 俺は心に抱く怒りを何とか抑えてマハラジャに声をかける。

「おい、起きろよ。革命派のリーダーを連れてきたんだぞ?」

「ぐがーー」

「おい!起きろって言ってんだろ!!」

「ぐがーーー」

「!!!(怒)(怒)(怒)」

「ストップ!!サブレ!それだけは勘弁して!!通信機を壊さないで」

 俺が通信機を壊そうと両腕をあげたところで兄が後ろからガッチリつかんでくるのを俺は忌々しい気持ちで見ていた。

 その後イオリを連れてきてモーニングコール代わりのけたたましい警報音を鳴り響くとようやく目を覚ました。

「始めまして。革命派のリーダーをしているサイガと申します。今回は彼らに協力してもらいこうして話し合いの場を持たせてもらいました。大変長くお待たせして申し訳ありませんでした」

 サイガが社交辞令を混ぜた見事な手本というべき言葉を選んでしゃべりだすと、マハラジャは顎に手を置き一瞬だけ考え込み、口を開く。

「堅苦しい言葉は止めておこう。俺自身そういう言葉はあまり好きではなくてな。単刀直入に聞こう。ギャラルホルンの連中への攻撃はいつ行うつもりだ?」

 マハラジャの鋭い指摘に眉を一瞬だけ動かし、表情を決して動かさないようにしながら口を開く。

「準備を終えて突撃を仕掛けるのは多分一週間以内には……今はそれしか言えない」

「そうか、一週間あればこちらも最低限の準備ができる。できれば一週間待ってほしいがな」

「こっちのメンバーを押さえていられない。一部のメンバーは今にも走り出してしまいそうだ。今回の攻撃はあまりにも……ひどかった。俺達への攻撃ならまだ抑える手段が色々とあったが……今回は無関係な人へ向けての攻撃だ。抑えられる気がしない」

「そうか……こちらもなるべく早めに部隊を下ろせるように準備をしよう」

 サイガはもう一度マハラジャを強めに見て頭を下げた。

「あんたの直轄部隊を好き勝手動かして悪いと思っている。最悪の場合は俺達だけでも戦うつもりだ」

 覚悟を決めた男に説得は無駄だろう。サイガは決めてしまったのだ。報復を、戦い、そして散っていくことを決めたのだ。

 仲間たちの元へと帰ることを決めたのだろう。そんな男の覚悟に俺は文句を言えない。

「覚悟はある。俺たちは戦う」

 そう言って部屋から出ていくサイガ。ビスケットもマハラジャの前に出ていく。

「では、俺たちもそのつもりで動きます」

「ああ、最悪はお前達だけでも動け」

 部屋から出ていく兄を見ながら腕を組み、一番後ろで考え込んでしまう。すると、マハラジャはニヤニヤと笑いながらこちらに視線を向ける。

「随分仲良くなったようだな。明楽と違い短時間で仲良くなったようだな」

「別に……仲良くなんて」

 といったところで否定しきれない自分がいると確認する。

「そうだな……明楽の時は随分時間がかかった」

「当時の明楽のハイテンションにお前はついていけていなかったな。どうだ?ああいう男の方が友人としては安心するのではないか?」

 少しだけ笑いながら答えた。

「そうかもしれないな。それでも、明楽と出会わなくてよかった何て思った日は一日も無いよ。俺は明楽と出会えて本当に良かった。明楽は俺の道だ。あいつはいつだって正しい感性を持っている。だからこそ俺はあいつを指針にできるんだ。どんだけあいつがうざかろうとな。いつの日かサイガと出会えてよかったと言える日が来るんだろうか?」

 マハラジャは優しそうな表情を浮かべて返してきた。

「来るさ。どんなに辛かろうと、苦しかろうと、悲しかろうと、いつの日かそんな出会いや別れが良い思い出だったと言える日が来る。お前がそうなる様に努力を怠らなければな」

 とても意味深な言葉で、とても深みのある言葉だ。今の俺には完全には理解できない。それでもいつの日かそう思える日が来ると信じてみよう。

「お前は何も知らない。お前が知らないことはこれからお前が色々な人と関わり色々な人と戦って理解していくことだ。ゆっくり時間をかけて答えを出せ」

 ゆっくりと時間をかけて答えを出す。それも今更なのかもしれないが、答えを出さなければならないときなのかもしれない。

 気が付くとマハラジャとの通信が完全に切れている。

 本当に分かったようなことを言ってけむに巻く人だ。

 

 

 ある日、EDM教習学校の中庭を歩いていると、池の端で池の中を凝視している明楽の姿を見付けた。

 明楽と出会ってから2か月がたったときの事だった。

 二か月経っても明楽という少年の事はよくわからない。いようにハイテンションで、にぎやかで、うるさい。正直一人でおとなしくしたい時ですら大騒ぎだった。

 教育係を命じられている身としては話かけるべきなのだろうが、どうしても抵抗を覚えてしまう。話しかければ騒がしい時間がやってくる。

 しかし、どうしても気になったのは明楽の後ろ姿がどこか悲しげに見えたからだ。

 騒がしくなることを覚悟に決め後ろから話しかけた。

「どうした?何かあったのか?」

「先輩。ここの魚が元気が無くて……最近どんどん元気がなくなっていく」

 そういわれればそうかもしれないが、そこまで詳しく見ているわけじゃないし、少なくとも毎日見ているわけじゃないし、魚だって寿命もあるだろうし。

 そんな文句にもならないような言葉が喉の奥から出てきかけるが、ぐっと飲み込む。

「寿命だろう?お前はそんなことをしている場合か?一週間後のテストで赤点取ると俺も困るんだがな」

「……でも」

 どうしても気になるらしく、魚から視線を外そうとしない。どうしたものか。ここで遊んでいる場合ではないし、かといってこのままでは梃子でも動かないだろう。

 仕方なしに、学校側に直接お願いし、魚を見てもらうことにしたが、もちろん魚の状態が分かるまで梃子でも動こうとしないこの男を待っていた。

 魚が数日で元気になると聞いているときの明楽はとてもいい笑顔だった。

 不意に不思議に思い尋ねてみた。

「なんでそんなに魚が気になるんだ?」

「だって、かわいそうじゃない……生きれるんなら生きていてほしいし………」

 そんな言葉に唖然としながら聞いていた。当たり前のように見えるが、いちいち気にする奴なんていない。それでも、気にしたのだ。

 少しだけ気にしてみてもいいかもしれない。

 そういう気持ちにさせた。




どうだったでしょうか?楽しかったと言っていただけたら幸いです。明楽編も混じったお話になっています。
次回のタイトルは『生きた証Ⅱ』になります。楽しみにしていてください!
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