8
俺と明楽が出会ってからどれだけ経ったのか忘れてしまったが、いつの間にか明楽と常に一緒に行動するようになった。気が付けば俺は教習学校を卒業していた。
卒業してすぐにEDMから幹部クラスへの招集をへてすぐに幹部になった。
明楽はまるで自分の事のように喜び、嬉しそうにはしゃいでいる姿を見ていた。
「幹部クラス就任おめでとう!さすが先輩!今度何か奢ってください」
「お前は黙って祝うということができないのか?」
結局奢らされた上に店から店へとはしごさせられてしまう。そんな時、あの事件が起きた。ドルトの革命が。
「サブレ。ドルトに向かい、仲介をしてこい」
マハラジャから無慈悲な命令を受けた俺は不機嫌と拒否の表情を半々で浮かべつつ、露骨な拒否の姿勢を示す。
「嫌。絶対嫌。それは代表の仕事でしょ」
「拒否権に拒否権を行使する」
不毛なやり取りをしていると我ながら思う。拒否をしても無駄そうなので話を先に進めることにした。
「で?何?ドルト?なんかあったの?」
「ああ、ドルトで従業員がデモ行為を行おうとしていると情報提供があった。クーデリア・藍那・バーンスタインがドルトを訪れるらしく、それに合わせてデモ行為を行うらしい。最悪の場合は戦闘にもなるそうだ」
ドルトがそこまで追い詰められていたとは知らなかった。
元々ドルトをはじめとしたコロニー圏出身者は過酷な労働条件で仕事をしている。しかし、そんな労働条件に対して保証も何もない。働けなくなれば斬り捨てられ、働ける限りは最低限の賃金で働かさせられる。それに対しての行動だろう。
しかし、クーデリアという人の事は知らなかった。何だろう、革命家なのだろうか?
そんな疑問をマハラジャが吹き飛ばす。
「クーデリア・藍那・バーンスタインは火星で独立運動を起こしているバーンスタイン家の令嬢だ。地球への航路の途中にドルトに寄るそうだ」
「寄るというのが気になるが……何で寄るんだ?」
マハラジャが知るかっと突き放すように声は発する。俺もそれ以上聞くわけにはいかないし、少しだけ考え込んでしまうと最後に最大級の爆弾を落とした。
「最後にアリアンロッド艦隊が今回の一件に関わっているからなよろしく」
「……………はい?」
顔を上げ、マハラジャがいたであろうその場所を見ると既に逃げていた。唖然とした表情で数秒だけ呆けていると、明楽が俺を押さえながら叫んだ。
「ざけんな!!最後の最後に面倒なんてレベルじゃないこと言いやがって!!!」
「先輩!落ち着いて!!」
「てめぇ!!出てこいやクソおやじ!!!めんどくさい仕事を率先して俺に回しやがって!!」
暴れ回る俺は明楽に抑えられながら叫び続けていた。
9
バルバトスの正面に位置する機体の名前を聞いたのはシュミレーションで戦う前の事だった。ゲイレールとグレイズの名前を合わせた造語らしく。名前を『ゲイグ』というらしい。胴体と頭部はゲイレールで両腕と両足はグレイズがくっついている感じだ。パーティクルドライブの連動率はそこそこ悪いらしいが、グレイズほどではないとは本人の弁だ。
ゲイグはバトルアックスという名前の大型の両刃斧を両手で構えており、俺はバルバトスのビームアックスを両手で両方ともを持っている。
シュミレーションを始めてから軽く一時間が経っており、いまだに互いに決定打が決められずにいた。
攻めのゲイグと守りのバルバトスという感じになっている。最もこちらから攻撃することもあるので完全に分かれているわけではない。しかし、サイガの攻撃的過ぎる攻撃に対して少々防御よりに偏っているのは認めるところだ。
外では革命派のメンバーとファントムブラッド隊のメンバーが一緒になって戦いを眺めてはざわざわしている。
サイガは再びバトルアックスを振り回しバルバトスの腰をだるま落としの要領で落とそうとするが、俺はそれを後ろにステップで回避しつつ態勢が崩れたところにすかさず切り込む。
バトルアックスで崩れた体勢を持ち直しバトルアックスを反対方向に向けて振り回す。バトルアックスのビームの刃とビームサーベルの刃がピンク色のスパークを放ちながらせめぎ合う。
しかし、サーベルと大型の両刃斧では攻撃の重さが違う。互いにぶつかり合えば負けるのはサーベルだ。勿論二本のサーベルで受ければ互角だろうが、今回は攻撃をするために右腕のサーベルだけで攻撃をした。
バルバトスの体勢が大きく崩れゲイグも同様に崩れる。再び互いの距離が開き、武器を構える。
「あの体勢からバトルアックスを返してくるとは。サイガもなかなかやるな」
俺が小声でつぶやきつつ再び戦う為にサーベルを構えようとする。しかし、その瞬間に正面の画面に『タイムアップ』の文字が表示され、途端に周囲の明かりが落ちていく。コックピットが上へと上がっていき、俺の視界が一気に明るくなっていき、周囲の景色はヴァルハラの格納庫だった。
隣では背伸びしているサイガの姿があった。こっちを見ながらにやける。
「流石だな。EDM最強の男の噂はほんとうらしいな」
あと数日で作戦準備が整うという段階でできれば時間を稼ぎたい、サイガと共に革命派の特訓を言い訳に時間稼ぎをすることになった。
しかし、サイガはともかく俺の実力を見せておく必要があると判断した。それゆえの俺とサイガの一騎討ち方式の特訓をして見せることで俺の実力を示す必要がある。
サイガの言葉に俺はニヒルな表情で返す。
「そっちこそ。明楽ぐらいだからな俺と互角に戦えるのは」
すると下の方から様々な声が俺の元に集まってくる。
「お、俺を鍛えてくれ!」
「俺もだ!」
そんな言葉を俺は大きな声で返す。
「五人ほどでまとめて来い!まとめて鍛えてやる!」
サイガが笑いながら下へと降りていく。
10
数機のモビルスーツを使ってサブレに襲い掛かってくるが、サブレはそれを難なく叩き潰している。
サイガは画面越しにその姿を確認していると、サイガの視線は一番後ろでコンテナの上で呆けている明楽の姿を目撃した。
(確か……明楽・アルトランドだったか?)
サイガは明楽の元へと歩いていき話しかける為に右手を伸ばし明楽の肩を叩く。
「よう、どうしたんだ?前にあった時は結構元気そうな感じがしたが……」
「……俺の所為で」
明楽はいまだにこの間の作戦の失敗を引きずっていることにサイガは気が付いた。サイガはサブレからその辺の事情を聴かされていた。
実際にその姿を見るまで信じているわけではなかったが、こうしてみると落ち込み具合は半端ではない。いつものテンションが全くというほど無い。
サイガは笑って誤魔化すことができない。はっきり言うべきだろうかと悩み口を開く。
「……お前が失敗したからじゃないって言われたんだろ?」
サブレはそう言ったらしい、聞いてはいただろう。しかし、そんな一言で気持ちが立て直せるほど気持ちの落ち込みは軽くない。
「でも、いつもいつも俺だけが失敗してる。なのに先輩はどうして俺なんかをいつも……」
明楽が心配しているのはサブレがどうして自分なんかをいつもそばに置いておいているのかという事なのだろう。
サイガにはその理由位はなんとなく理解できた。
サブレとはここ数日の付き合いだが、今では親友と言ってもいい立場になっている。サイガからすれば気の合う間だと理解できた。
ああいう人間を親友というのかもしれない。
「俺には理解できるけどな……あいつが君をそばに置いておきたい理由」
明楽は驚きながら食いつくが、サイガは笑うだけでそれ以上は答えてくれない。
サブレが明楽をそばに置いておく理由。
それは―――――
11
要塞に帰還したガエリオは作戦の失敗を司令官に報告すると、その場を後にした。
司令官がため息を吐き出しながら両手を額に置きながら呆れかえる。司令官の正面のソファでは細めの目としわが広がっている顔が特徴的な顔面年齢だけを言えば50代、60代に見える外見をしている男がいた。
司令官は申し訳なさそうにしながら頭を軽く下げる。
「申し訳ありませんイズナリオ様。証拠を隠滅するための作戦がこうして失敗しまして。せっかくイズナリオ様が協力していただいたおかげでキッシュが完成いたしましたのに」
イズナリオは「フン」とふんぞり返り杖を強めに地面に打ち付ける。ガエリオとはすれ違いになったためにあっていないが、そもそもガエリオとは会うつもりは無い。
「そもそも、ガエリオ・ボードウィンの奴がエヴォ・エクスの裏をかきたいと言ってきたからこそ我々の計画に組んでやったというのに……役に立たん男だ。マクギリスのような奴も嫌だが、あいつのように役に立たん男も考えものだな」
司令官も同意するようにうなずき報酬の金を振り込んだタブレットをイズナリオに手渡す。
「イズナリオ様が穏健派との仲介役をかって出てくれたお陰でキッシュを完成させられました。本当にありがとうございます」
イズナリオはタブレットを受け取り、報酬の金額を確認しつつタブレットを手元の鞄の中に入れる。
「こっちからすれば金がもらえれば何でもいいがな」
司令官は立ち上がりキッシュの生産データをイズナリオに見せる。キッシュのデータには『ヤマジン・トーカ』と掛かれていた。
「そもそも、ラスタル派の一人であるヤマジン・トーカが生きていればそもそも済んだ話なのですが。ヤマジン・トーカはラスタル暗殺の前後で行方不明ですから」
イズナリオはどうでもよさそうにふんぞり返り、キッシュの生産計画へと画面を移す。
「そもそも、ヤマジン・トーカ自体はゼム・ロックの弟子のひとりだったからな。最もラスタル自体がマハラジャ・ダースリンの劣化コピーのような存在だ。アリアンロッド艦隊自体がEDMの劣化組織ともいえる」
司令官はイズナリオの言葉に関心に似た感情を浮かべて何度もうなずく。イズナリオは話の続きを一人話し続ける。
「ラスタルにはどこかでマハラジャの事を尊敬しているようなところがあったからな。それは我々の間ではある程度理解しているところはあった。まあ、ラスタルとマハラジャの違いを簡潔に述べれば」
司令官の秘書が出した紅茶に口内を潤しながら睨むように答える。
「ラスタル派思想の伴わない実力主義者であるのに対し、マハラジャは理想家であると同時にそれを現実に変えることができる実力主義者であるという点だ。常に周囲の人間に気を配ることができるのがマハラジャだ」
「では、マハラジャ・ダースリンの方が人間の中ではよっぽど上という事でしょうか?」
イズナリオはカップを机に置く。
「だから言っただろ?ラスタルはマハラジャの劣化コピーでしかないと。むしろ理想が無い分ラスタルの方が幾分がひどいだろう。マハラジャより警戒するべきなのは……この場合は『修羅』が最も恐ろしいと聞く。あのラスタルを土下座させたと聞くからな」
司令官が驚きと共に顔を前に突き出す。イズナリオは驚いた司令官の表情を楽しみながら再び紅茶を飲む。
12
ビスケットは考え込みながら休憩室で集まった情報を脳内で纏めようとしていた。すると休憩室のドアを開けて中に入ってくる人影を見付けた。
「クレアさん。どうしたんですか?」
「いえ、格納では皆さんが必死な表情で訓練にいそしんでいるので話しかけづらくて……その点ビスケットさんは話しかけやすいんですよね」
微笑みながらビスケットの向かい側に座るとビスケットは苦笑いを浮かべる。
「それって褒めてませんよね」
いわゆる威厳が無いと言われているようなものだ。訂正を求める意味で言った言葉だったが、そんなビスケットの言葉をクレアはニコニコしただけで訂正しない。
「そんなことより……」
「そ、そんなことって……!」
そんなことと言って話を逸らすクレアにビスケットが軽く食いつくが、クレアは完全に無視しながら話を続ける。
「何かあったんですか?先ほどから唸っているようですが……」
「いいえ……誰が穏健派にキッシュとパーティクルドライブ情報を与えたのかなって思いまして。パーティクルドライブの構造は同じでも使っているパーツは全く違いますからね」
ビスケットは手元のタブレットをいじってデータを整理しながらしゃべっている。すると、クレアは思い出したように口を開いた。
「そういえば、ゼムさんがおっしゃっていましたけど……キッシュのパーティクルドライブと革命派のパーティクルドライブは全く同じパーツを使用していたっと」
それを聞いていたビスケットはソファから勢いよく立ち上がり前のめりにクレアに顔がくっつきそうになる。クレアは顔を後ろにそらす。
「そ、それは本当ですか!?」
「ええ。そうおっしゃっていましたけど……それがどうしたんですか?」
ビスケットはゆっくりもう一度ソファに座りなおす。
「その話が正しいなら革命派と穏健派にパーティクルドライブを提供したのはギャラルホルンということになります。でも……何の為に?」
ビスケットが悩んでいるとクレアが思いついた言葉をそのまま口にする。
「戦闘シュミレーションを取るためではありませんか?私のお姉さまがおっしゃっていましたが、ギャラルホルンはチェスや将棋のように戦いを捉えていると」
それを聞いていたビスケットは「なるほど……」とつぶやいたのち、一分ほど間を開けて驚きの声をあげた。
「ええ~!!クレアさんお姉さん居るんですか?」
「え?驚くところはそこなのですか?」
話が多少逸れたところでビスケットが自分の意思で話を元に戻した。
「ギャラルホルンがチェスや将棋のようにとらえているってどういう意味ですか?」
「お姉さまは『ギャラルホルンは混戦になるととても弱い。これは様式にこだわるからこそであり、その理由は三百年の支配が生んだ歪んだ認識。だから私はEDMこそが脅威になると思っているんだけどね。中々お爺様にはわかってもらえないわ』っと仰っていました」
クレアのお姉さんに興味が出てしまったが、ビスケットはその誘惑を振り切りお姉さんの話を詳しく考えてみた。
「要するにギャラルホルンは一対一での真剣勝負などの様式にこだわった戦いにこど割っているってことですよね。だから実践データを取るためにも一方的な戦いより、ある程度互角の戦いを望んでいたってことか……」
タブレットのデータを消しつつ、最後のコーヒーを飲み込んで一息つく。
「でも、そんなこと一指揮官や司令官が考え付くとは思えないけど。だとするとセブンスターズがかかわっているのかな?でも……元セブンスターズはギャラルホルン本部から出ていくとは思えないけど……だったらやっぱり司令官が勝手に?」
脳内でグルグル考えを巡らせているとクレアは思いついたことをそのまま口に出した。
「そういえば。セブンスターズで思い出したのですが、イズナリオ・ファリドという人は今でもギャラルホルン本部に居るのでしょうか?」
その名前を聞き一瞬呆けた瞬間再び立ち上がり前のめりで叫ぶ。
「イ、イズナリオ・ファリド!そうだ、その人がいた!!」
13
明楽は誰もいなくなった格納庫で一人いまだに呆けていた。やる気がいまいち出てこない。悩みから解放できず、ずっと考えている。
「先輩だったらこんな悩みあっという間に答えを出すんだろうな~」
そんな言葉を口に出しつつコンテナの上に座り込み、悶々とした悩みに苦しんでいると真後ろから声がかかる。
「らしくない悩みに悩んでいるのはどこのどいつかな?」
「うわぁ!?」
驚いて後ろを振り向こうと体を浮かせるが、途端に自分がコンテナの端に座っていることに気が付いたときには時既に遅く、コンテナの下に落ちていく。
「うがぁ!」
そんな悲鳴をあげながら悶えていると声の主であるサブレが明楽の隣に降りてくる。明楽は涙目でサブレの方を見上げる。明楽が口を開く前にサブレが口を開いた。
「明楽、今からシュミレーターを使った一騎討ちをするぞ」
明楽は口を開いたままその場で止まっているとサブレはバルバトスの方へと歩いている。数秒遅れてグシオンの方へと移動していく。
互いにコックピットの中へと入っていき、一時間のタイムリミットを設けるとスタートの文字と共に戦いが始まる。
格納庫には二人以外いないために二人の戦い以外の音が聞こえない。
バルバトス目掛けてハルバードを振り下ろすが、バルバトスはそれを日本のビームサーベルで受け止める。上へと攻撃を弾かれ、ビームサーベルの攻撃がグシオンの右肩へと食い込む。
正面の小さな画面にはグシオンの右肩にダメージが入ったという警告がアラームと同時に写る。
「流石先輩。こっちの攻撃がなかなか通らない」
自分を過小評価してしまうほど悩んでいる。
バルバトスはグシオンの攻撃を再び防ぎグシオンを蹴り飛ばす。体勢を整えようと右腕を動かそうとするが、グシオンの右肩にダメージが入っているため立ち上がれない。仕方なしに左腕で立ち上がるが、同時にバルバトスのサーベルがグシオンの喉元で止まる。
立ち上がることもできず、その場で停止しているとサブレの声が明楽の元に届いた。
「お前は俺が強いから自分が勝てないと思っているのかもしれないが、そうじゃないぞ。お前が今の俺に勝てないのは単純にお前の悩みが攻撃する手や思考を妨げているからだ。だからと言って悩むなとは言わないがな」
明楽をまるで諭すように穏やかな声が明楽の元に届く。
「悩め。悩むことをやめ、他人に考えを預けるようになると、ガエリオ・ボードウィンやジュリエッタ・ジュリスのようになるぞ。お前の悩みはお前の物だ。明楽、お前は俺が悩みをすぐに解決できていると思っているのかもしれないが、俺はお前以上にいつも悩んで過ごしているんだ。明楽……悩みと戦え。悩むことができるのは人間の最大の武器だ」
「せ、先輩……俺」
「明楽、俺は今でも覚えているんだ。兄さんの事で俺が悩んでいた時、お前言ったよな。『子供が大人の都合で振り回された挙句殺されるなんて間違っているって。助けられるなら助けるべきだ』ってな。だから俺は兄さんを助けようと思ったんだ。いや、それだけじゃないな、鉄華団の残党を助けようと思ったのもお前が理由だ。お前が俺の道を作ってくれたんだ。お前らしくあればいいんだよ。いつもみたいに俺を振り回すお前でいればいいんだ。心のままに怒り、心のままに動けばいいんだよ」
サブレの言葉に明楽はいい笑顔に変わる。
14
ドルトの一件の解決のためドルトカンパニーを訪れた俺は労働者側の代表代行を案内している際にある人に話しかけられてしまった。
「君、グリフォン夫妻の息子さんのサブレ君かい?覚えているかな君の家の隣だった……」
「あ、はい。お久しぶりです」
本当はよく覚えていなかったが、覚えているようなそぶりを見せながら適当に相槌を打つ。すると、相手の男は深刻そうな表情を浮かべると信じられないような声を放つ。
「サヴァラン君のことは残念だったね。ビスケット君にも伝えてあげたかったんだけど……」
「ビスケット兄さん?サヴァラン兄さん?何の話です?」
そもそも二人とは別れてから通信すらしたことが無いので今更なんの話をしてるのかと疑問を抱くと男は「知らなかったのかい?」と逆に尋ねられた。
「サヴァラン君は先ほど自殺したんだよ。なんでもビスケット君と何かあったらしくてね」
俺は仲介役の仕事を手早く終え、自殺した場所へと走っていく。広い空間に自殺に使ったであろう縄が天井から下がっており、二人のドルトカンパニー関係者の男がサヴァラン兄さんの遺体を入れた袋を連れて出ていくところだった。
先ほどの男から受け取った音声データを握りしめた。
ビスケット兄さんへ向けられたデータは鉄華団へとコピーは届けられたらしい。だったら俺ができることは無いだろう。
しかし、同時に嫌な予感だってしている。だが、今更兄さんと会って何を話すのだろう。そう言って悩みが加速する。
悩みを抱えたまま船に戻ると、家庭の事情を聞いていた明楽が難しそうな表情を浮かべながら近づいてきた。
「先輩!助けに行かないんですか?」
「なんで助けに行かなきゃならないんだよ。今更……」
「だって……だって……!」
明楽は一瞬だけ俯きはっきりと声を放つ。
「子供が大人の都合で振り回された挙句殺されるなんて間違っている。助けられるなら助けるべきです!そうでしょ?子供が大人の都合に振り回されて死ぬなんておかしいですよ!」
明楽の言葉は俺の悩みを吹き飛ばした。
やっぱりお前は俺の道だよ。
どうだったでしょうか?面白かったと言っていただけたら幸いです。次回から本格的な戦いになります。
次回のタイトルは『生きた証Ⅲ』になります。次回もお楽しみに!