機動戦士ガンダムE   作:グランクラン

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ここから地球圏も佳境を目指して爆進していきます!新キャラクターが多数登場する今編をお楽しみに!


仕組まれていた事Ⅰ

 

 笑う孤児院の子供達は桜農場のトウモロコシ畑のトウモロコシ回収作業を楽しそうにしており、そこに同じように手伝いをしているのはクーデリアだった。彼女が初めてトウモロコシの回収作業をし始めてから何回か目の仕事。毎年のように回収しているのですでに数えていないが、今では日課の一つになってしまった。上下の簡易作業着に身を包み、厚手のグローブでトウモロコシを回収しては籠の中に入れていく。

 あの頃は隣に一人の少年がいたことにいつも感傷的になってしまう。

 命の値段などあの頃は考えもしなかった。

 厄祭戦後の世界はギャラルホルンが支配している一方で反ギャラルホルンが活発化し、孤児やヒューマンデブリが増えていく一方だった。だからこそ、彼女はそんな支配体制を変えるため、そしてそんな世界で犠牲になった大切な人の為にこの七年間を戦い続けてきたつもりだった。しかし、そんな行動も半年前の宣戦布告に消えてしまった。

 地球圏ではギャラルホルンとEDMと木星帝国による三つ巴の戦争状態に移行しており、今も犠牲が増えていく。そばで見ることも叶わず、願うことしかできない今の自分と昔の自分を重ねたとき、何も変わっていないことに落ち込んでしまう。

 手元にあるトウモロコシを眺めていると鉄華団の人々を思い出してセンチメンタルな気持ちになる。

「三日月、団長さん、昭弘さん、皆さん私は何ができるでしょうか?」

 小声でそうつぶやくもそんな答えが返ってくるわけがなく、思い出だけが脳裏をよぎり作業に集中できない。

 地球行きがいまだに決まらない中クッキーたちも農作業に集中しており、家の中から漏れ出すニュースではEDMの幹部らのインタビュー内容を映している。もっともビスケットがニュースに姿を現したことは全くないが……

『では、続いては地中海戦で指揮を執るファントムブラッド隊隊長のビスケット・グリフォン氏にお話をお聞きします』

 そんなニュースコメンテーターが話を続けると、クッキーやクラッカだけでなく、アトラやユージン達旧鉄華団メンバーであるほぼ全員が反応した。もちろんクーデリアも反応してテレビに近づいていく。ただ、この場には雪之丞たちはいない。

『ビスケットさんは地中海戦を指揮しておりますが、今のところ戦局に変化はないとみてもいいのでしょうか?』

 綺麗な黒髪の美人がマイクを移動させると同時にテレビ画面に見慣れたビスケットの姿が映し出される。ユージン達の知るビスケットより多少背が伸びている以外は変化が見られない。

『そうですね。しかし、ギャラルホルンの方はかなり疲弊が見えていますから、一か月以内に大きな変化があるかもしれません』

 穏やかそうに答える声のどこかに力強さがうかがえる。懐かしさにクッキーとクラッカは泣き出しそうになり、ほかのメンバーも死んだと思っていたかつての仲間の存在に心に来るものを感じていた。

「変わんねぇよな~。しかし、ああいう制服が似合わねぇな」

 ユージンがどこか茶化すような声を放つと周囲に笑いが起きる。

「確かにな、でも指揮官っていうのは分かるな。あいつオルガよりうまいしな」

 ダンテが同意しつつチャドもおかしそうに笑うが、クーデリアだけが浮かない顔をしていた。アトラが隣に近寄りながら小声で話しかけた。

「どうかしたの?浮かない顔だけど」

「え?私そんな顔をしていましたか?」

 クーデリアは驚きの表情と共に声を出す。数秒後には再び俯き低めの声を放つ。

「どうしてビスケットさんは戦うのでしょうか?オルガさん達が犠牲にして手に入れた世界なのに……」

 周囲にいるみんなも同じように俯くが、アトラだけが顔をあげたままなんとなくの答えを出す。

「多分……オルガさんだけじゃないからじゃないかな?今のビスケットはいろんなものを抱えているんだと思うんだ。戦わないと手に入らない物ってどうしてもあるでしょ?クーデリアだってこの七年間戦ってきた。ビスケットもきっと同じ……」

 テレビの奥でインタビューに答えるビスケットの方を見ながら懐かしい表情を浮かべ、みんなも同意したようにうなずく。

「あの時、三日月や昭弘さんが命を懸けて私達を守ってくれたからこそ私達はここにいる。同じだよ。守るためにも戦うの、あのビスケットが守りたいものだよ?信じてあげようよ」

 アトラに促されるように首を縦に振るクーデリア。信じて見守るしかない。

 

 

 兄であるビスケットがインタビューをしている間にシノと明楽がおかしなアクションを起こさないようにと口にガムテープを張り、体中をロープでグルグル巻きにされた二人がその場で放置されており、動いてロープを緩めようと必死になっている。

「そのロープから這い出たら承知しないからな」

 見下すように睨む俺の視線に再びひるむ二人は黙って兄のインタビューが終わるのを待っていた。美人インタビューアーが頭を軽く下げ一歩引くと笑顔で去っていく。美人インタビューアーへ鼻の下を伸ばし続けている兄の元に赴き(その間にロープから逃げ出した明楽とシノも追いかける)、後ろからこそっと脅かすことを目的に話しかける。

「美人さん相手に随分鼻の下を伸ばしておられたようで……」

「「いいな~」」

「うわぁ!?」

 俺の言葉に続いてシノと明楽も恨めそうな低い声を放つ、悪寒が走りそうなほど鳥肌を立たせて驚きながら体を百八十度回転させる。

「は、鼻の下なんて伸ばしてない!!」

「よく言うよ、美人さんがいなくなった後でへらへらしてたら誰だってそんな感想になるっての……」

「「いいな~」」

 再び恨めそうな声を放つ二人の頭を叩き大人しくさせると幾分か冷静になったシノがはっきりとした声を出した。

「しかしよ、これで火星の奴らにおめえの生存がばれちまったんじゃねぇか?チビ共もこっちに来ちまうぜ」

 シノのそんな声に今度は俺が代わりに返す。

「だとしても戦場状態の地球に行くシャトルは無いだろ?」

 シノの体に乗っかって明楽が会話に混ざってきた。

「でも、荷物を運ぶ輸送船なら話が別でしょ?金さえ払えば行けそうな気がするけど……」

「重てぇって!」

「ふが!?」

 シノが強引に立ち上がり明楽がその拍子に頭を強く打ってその場に転がってしまう。頭を押さえたままその場でゴロゴロと苦しんでいる姿をみんな内心「ざまーみろ」と返しておき、シノが心配した表情で返すと、兄は「大丈夫だよ」と返した。

「いつまでだってごまかせるわけじゃないからね。俺は生きているよって伝えるいい機会なのかなって」

 空を見上げ遠い場所を見るように目を細める。それは俺も同じことだった。二人だっていつまでも子供じゃない。真実を自分で知る日だって訪れるだろう。自分で歩き、考え、そして行動する日が必ず来る。俺や兄さんがそうやって今この場所を歩いているように、あの二人も。そう思ったからこそ兄もインタビューに答えようと思ったのだ。

『俺はここにいるよ。生きているよ』

 そう伝える為に、だとしたら俺が伝えられるメッセージは……

『自分の意思で決めて生きろ』

 そう伝えたい。人一人の命の価値は自分で決めるしかない、他人に決めさせるか、それとも価値を見出すために戦うか、それしかできないのだ。鉄華団がそのために戦ったように。あの二人も戦っていくしかない。自分と、他人の価値観と……

 話が落ち込んでくると、空気を読まない、読めないで絶賛有名な明楽がKYを発揮した。

「ところで!二人の妹って美人なんすか?」

 この状況で妹の容姿を尋ねる明楽……マジパネェ。明楽はニコニコしたまま悪意の無い笑顔を見せ、兄の表情が一旦止まる。シノが内心汗をかきつつ数歩後ろに下がっていく。兄の性格を分かっているシノには明楽が踏んでしまったとびっきり大きな地雷に恐怖してしまう。明楽の笑顔とは別種の笑顔を明楽に向けつつ明楽の手首をつかむ。

「明楽、奥に行こうか?」

「???」

 笑顔の奥にある殺意に気が付くわけのない明楽を連れて物陰に隠れると、数秒後には明楽の悲鳴が周囲にいる人々に驚きを与えつつ、静かに物陰から明楽を連れて兄が姿を現した。明楽は白目をむきつつ気絶しているようにも見える。

「踏むかね、ビスケットの一番大きな地雷に」

「KYの極みだな。考えれば分かりそうなもんだが」

 明楽をその場に放置しつつ怖い笑顔をシノの方にも向ける。

「まさかとは思うけど、シノもクッキーとクラッカをそういう目で見ているの?」

 目が据わっていらっしゃる。まっすぐシノの目を見るその様は一種のお化けすらほうふつとさせる。瞳の感情を分析すれば、怒り半分、疑い半分だ。おかしな感情を吐露すれば同じ目にあうことは既に理解できるだろう。よどんだ瞳にひるんでシノは首を横に強く振る。別種の笑顔に変わるとビスケットは部屋の中へと姿を消していく。

 明楽を残して。

「久しぶりに見たぜあんなビスケット。昔から鉄華団のメンバーにも言えることだけどよ、チビ達に手を出す奴は誰も許さないからな」

「シスコンの極み……そしてKYの極み。ここにいるメンバーは何かを極めないといけないのかね?」

 呆れ半分でその場を後にする俺は明楽をその場で見捨てる形で移動していく。

 

 

 この半年で戦局は大きな変化はなかったが、ギャラルホルンからEDMに流れてきた人は大きく、俺達アフリカ降下部隊に流れた人はいる。

 大きな廊下にいくつもの人が流れていくが、そのうち3割はギャラルホルンからEDMに流れてきた人物だ。

 俺達ファントムブラッド隊が現在駐屯しているこの施設は別命『移動要塞』であり、その理由はこの要塞が用途によって移動することができるように分離飛行機能を持っているためだった。各所が分かれて移動することができ、大気圏突入や離脱まで自由にできる。元々は拠点攻略用の施設として開発されたものだ。その為に非常に複雑な造りになっており、組み合わせ次第でどんな形にもなる為に、施設の内装は色を含めて全く同じで、そんな点も迷子にさせる要因になっている。真っ白な色調に窓のほとんどついていない廊下、一定間隔で自動ドアが左右に広がっており、同じように一定間隔で十字路が必ず存在する。より多くの人間を施設内に入れておくための造りが逆に複雑にしている。

 シンプルゆえに複雑である。

 ほかにも大量の格納庫に訓練施設などが配備されており、ギャラルホルンのメンバーが最初に見た感想は支部の施設よりかなりマシという意見だった。施設の中身は基本的に充実しており、ギャラルホルンの本部に比べたら見劣りすることは確実だが、支部から見ればかなり充実しているそうだ。

 そんな複雑にしてシンプルというおかしな構造の建物を縦横に移動していくと、ついに廊下の十字路の左角より銀髪の女性と金髪の童顔の女性が姿を現した。

「あら~修羅君じゃない」

 銀髪の女性はひらひらと手を振り笑顔で接してくる。金髪の童顔は逆に俺を睨むように鋭い目つきをするようになる。苦手なんだよな~この二人。

 元ギャラルホルンの士官にして、別命氷の女帝と恐れられるモビルスーツ乗りである銀髪の女性『キャリー・ランジュリー』と、その副官の『レレ・キャン』。キャリーは所謂大人の女性という感じの風貌、腕組をしていると大きな胸が協調されてしまう。それ以上に整った綺麗な顔立ちは嫌が応でも大人な女性として認識させる。その反面レレは童顔をしており、体つきもどこか幼く見えてしまう。明楽ほどではないにしても、背も低く体型敵にも凸凹の無いスレンダーな体格をしている。しかし、副官としての能力と肉弾戦の高さは俺自身評価してもいいレベルだ。

「こんなところで何をしているんですか?まさか……」

 この施設の構造上迷子になりにくいというのは俺は先日よく理解したつもりだし、実際今もマップが手放せない状態だ。そういう情報を開示したうえで彼女の状態を見ても、副官のレレはタブレットを持っているが、彼女の方は特に何かを持っている様子はない。そして、副官が案内をしているというより彼女が勝手に歩き回っているという表現が正しそうだ。だとすると……

 そんな俺の考えを理解したのはレレであり、睨む目をより上に上げ一歩俺の前に出て見せる。

「キャリー様が迷子になるはずが無かろう!!」

「何も言っていないだろうに……むしろお前が発言することで確信すら得られるぞ」

「うぐ……キャ、キャリー様は今食堂を目指しておられて……」

「食堂は今出た来た場所を戻っていけば行けるはずだが?」

 話せば話すほどドツボにはまるというのはこのことを指すのだろう。睨む目にかすかに涙を浮かべはじめ、さすがに憐みの同情の念が生まれるがそれすらも察してくる。

「同情するな!!」

「おお!ついに以心伝心すら!?それとも心を読んで見せた?」

「顔に書いている!!」

 なんだかんだ言って彼女といると少しだけ面白くいられるから不思議だ。性格的には苦手だけど。

 前に一歩出ていき睨むように俺の瞳を移す。するとキャリーがクスクス笑い出し、レレは驚きと共に振り返る。

「相変わらず仲がいいのね?」

「そんなことはありません!!」

「そんな強めに否定しなくてもな~」

 ますますキャリーが笑い出し、笑顔でその場から去っていく。食堂とは別方向へと。俺の視線はレレの方に向き、レレは苦し紛れに顔を逸らす。

「食堂は全く逆方向だといったばかりでまっすぐ進みますか……方向音痴にこの構造は逆効果だな」

「せめて……方向が分かる様に案内掲示板のようなものがあれば……!」

 心からの言葉だな。

 レレは置いてかれまいと駆け出していく姿を後ろから眺めながら彼女たちが無事食堂に辿り着けることを祈る。

 俺はプライベートルームへ向けて再び歩き出すと俺の部屋の目の前でもう一人の元ギャラルホルン士官と七番隊所属のパイロットが話し込んでいた。

 元ギャラルホルン士官である通称『隻眼』の異名をとる『ワインダー・グラスリー』はめんどくさそうな表情を浮かべながら話を聞き流している。隻眼の異名通りの片方の目がつぶれており、少々年老いたその顔つきと共に貫禄さえ見せている。

 そして、もう一方の男がこちらに気づいた瞬間に俺は内心ゲッと思ってしまった。

 さわやかフェイスに短めの癖の無い金髪、シノ同様に細身の鍛えられた長身、一番苦手な誰にでも親しく接するあの態度は苦手だ。

「師匠じゃないですか!?」

「師匠と呼ぶな」

 今回から七番隊に所属することになった『レオ・クリスハイト』が笑顔で近づいてくる。俺が直接モビルスーツテクニックを教えた数少ない人間の一人。今回の地中海戦において招集をかけた人間なのでどこかで会うだろうと心していたが、まさかプライベートルーム前で会うとは……。

 ワインダーは面倒ごとを押し付けられたと気が付かないうちに姿を消している。

 正直に言えばこいつは苦手なんだよな~。悪気が無い分断りずらいし。

「師匠!俺を呼んでもらってありがとうございます!」

「べ、別に……俺が前線に出ない分の補給分だし……本部で腐らせておくにはもったいないと思っただけだし………あと近い」

「本部に居ても訓練だけでつまらないと思っていたところなんです!!やはり実戦を経験しないと強くなれませんし!」

「そう、そして………近い」

 いい加減に離れてほしく最後の言葉は多少強めに行ったが、ようやく離れてくれた。すると、すぐ隣の窓には金色のジムが見えた。

 大型パーティクルドライブ一体型エイハブリアクターを搭載した初のモビルスーツにして、近接戦闘に特化させたレオ専用機。頭は十本のアンテナが設置されており、このアンテナはより正確に索敵ができるようになっている。そして何よりも最も特徴的なのが背中に存在感を感じさせる大剣と高速戦闘を可能にする大型スラスターである。

「次世代型の試作型ジムだったか?よりガンダムフレームに近づけるようにと開発されたという……フォルムもジムより大型か?」

「はい!これは近接用になっていますが、遠距離型はもっと大型ですよ!」

 さらに大型である機体を想像してみる、お相撲さん体型なのだろうか?まあ、大型ライフルやミサイルの発射時の反動を押さえる為に機体を重くしているのだろうが、移動時はどうするのだろう?なんか特殊な素材や装置が存在するのだろうか?

 そんな疑問を抱くが、俺は途中で考えることをやめ自分の部屋に向けて歩き出す。後ろからついて来ようとするレオに対して指をさし言ってやる。

「ついてくるな!!」

 俺はそのまま部屋の中へと入っていく。そして、一つのディスクを手に取りそこに書かれている名前を口にする。

「アイン………ダルトン」

 俺の知らない人物の名前。

 

 

 ダルトンの名前自体は聞いたことがある。まだ俺が研修生時代に火星で起きた変死事件をEDMが調べた際の死体の名前だったと記憶している。

 クリュセのスラム街の下水道に浮かぶ二つの死体。そのうちの一つはギャラルホルン士官のダルトンという男だった。拳銃で殺された痕跡が残っていることから他殺が検討され、ギャラルホルン内部で暗殺騒ぎが起きたことはEDMでも話題に上った。

 その際にアーブラウ政府から極秘裏に依頼がやってきた際に四番隊が調べに行くことになった。そんなメンバーの中に俺も含まれていたのでよく覚えている。

 クリュセで起きた変死事件ということもあり俺は兄や妹たちに合わないで済みますようにと存在するか分からない神様にお願いをした。しかし、神様は無残な性格をしていたらしく、俺は危なく妹たちに会いそうになった。走ってその場から駆け出した俺が偶然にもダルトン夫妻の死体現場に辿り着けたことは幸運だった。しかし、その後ろから二人の妹たちと兄の声が聞こえてきた時、俺は日汗をかきながら人込みをかき分けていき、捜査官に紛れ込んだ。

「お兄!なにこれ!?」

「危ないですよ!」

 EDMと胸に書いており制服を着ている姿を見てもどうやら兄にはピンとこなかったらしく、危ないという言葉にいち早く反応し素早くその場を後にした。

 内心ホッとしながら立ち上がり、死体を見ると、既に腐りきっており異臭が激しいことに気が付いた。鼻を押さえて一歩だけ後ずさる。

「くっさ!」

 すると周囲の民間人は俺の姿を見ると全員が同じ感想を抱いたらしく、声に出して俺の耳に届いた。

「「「なんで子供がこんなところに?」」」

「子供っていうんじゃねぇよ!!」

 反射的に怒鳴ってしまうが、その声にかすかに反応したのか兄の声が聞こえた。

「?今声が聞こえなかった?」

「いろんな人がいるから分かんない」

 俺はとっさに口を紡ぎその場に座り込む。四番隊隊長がシラーという目を向ける。内心「何をしているんだお前は……」と言われているような気がする。ジェスチャーで「好きでしているわけじゃない」と返す。

 その際に知ったのがダルトン夫妻だ。しかし、ダルトン夫妻には子供はいなかったと調査結果が上がっている。

 同時にダルトン暗殺疑惑が上がったのがコーラル前支部長がノブリス・ゴルドンと結託した結果ではないかと推測されたが、明確な証拠が出てきたわけではなく、結果的に調査を引き上げざる得なかった。

 帰る前日の夜に俺は桜農場へと赴いて桜ばあちゃんに会ったことは兄には秘密だ。

「会っていかないのかい?」

「いいよ。無事そうな姿を見れたし……」

 俺はフードを頭にかけて遠くに止めた車に乗り込もうとするが、後ろから声がかかる。

「マハラジャによろしく伝えておいておくれ。彼が言うなら三人を送ることも考えるさ」

「何も言わないと思うけどね。あの人、基本は放任主義だし」

 俺は苦笑いを浮かべながらその場から立ち去っていく。家の中から聞こえてくる兄と妹たちの話声を今でもよく覚えている。

 父さんと母さんと一緒にみんなで楽しかったあの頃に戻れるだろうか?

 ダルトンの事より、俺はそのことだけが心配だった。




どうだったでしょうか?新キャラクターが多数登場する今回の話は面白かったでしょうか?今回登場したレレは今編の相棒になります。サブレの戦いと真実への話をお楽しみに!
次回のタイトルは『仕組まれていた事Ⅱ』です!お楽しみに!
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