今回から章ナンバーがついております。編が変わる毎に章ナンバーもリセットされますので!
5
アイン・ダルトンの正体に迫ることがEDMに所属している俺『サブレ・グリフォン』の最大の目的になっていた。
そもそも、アイン・ダルトンとは何なのか?どんな人物なのかを知る為にギャラルホルンからの受け入れを許可した、と言っても過言ではない。
そして、アフリカ戦線が終わってから半年がたった今、ようやくアイン・ダルトンの正体に迫る為に俺達は動こうとしていた。
彼が誰でどこから来たのか?その正体に迫る為に呼んだ人物こそが情報局局長『テマル・マイス』だった。
彼が降りてきたのは俺がアイン・ダルトンと書かれたディスクを取りに行ったほぼ同時期の事だった。
6
大きすぎる会議室の席に俺とレレが距離を置いて(俺がではなくレレがであるが)座っており、対面の席(この場合は教卓のような場所)にテマルがいつもの優男ぶりを発揮するような笑顔をこちらに向ける。
胡散臭そうな笑顔だな。
「胡散臭そうな笑顔ですね」
俺と全く同じ感想を口に出すレレに対してジト目を向けてみるが、鼻でフンと反論されてしまうだけだ。俺は他の反応を窺う為にちょっかいを出してみる。
「話があるからき、きゃぁ!」
話をしている最中に俺がレレの横腹を優しくなでてあげると、こそばゆい感覚がレレの全身を駆け抜けたのだろう。悲鳴を上げて涙目でこちらを睨む。
「あなたが参加しろと言ったから参加したのですよ!?」
「反応が面白いなっと思いましてね?いや、普通ならしないんだけど君は面白いなって。ついついからかいたくなる(笑)」
「言葉の最後にわざとらしく(笑)とか付けない!」
「じゃあ( ´∀` )」
「今どんな言葉を発しましたか!?」
「君たちは仲がいいな」
テマルの言葉にレレがいち早く反応し反論しようとするがテマルはそれをわきに置いて話を切り替えた。
目の前のスクリーンにアイン・ダルトンなる人物のプロフィールが書かれているぐらいのものだが、それ以上に気になる項目は存在しない。
「質問何だが、そこにあるダルトン夫妻の息子っていうのは本当なのか?」
俺からレレに対する質問なのだが、どうやら先ほどからかったのがまずかったらしく、同じように鼻を鳴らして返されてしまった。仕方ない、またわき腹をいじるか。っと思ったが即座にガードされてしまい口惜しさが残る。
残念だ。
「経歴上ははな、本当はどうだか分からん」
ニコニコ顔を決してやめないテマルを見ていると反対に怒り心頭のレレとの違いに笑いが噴き出しそうになる。肩をプルプルと震わせている俺をキッと睨みつるレレはため息を吐きながらテマルの方を向く。
「私が把握している限りでは、鉄華団の一件の少し前に紹介という形でギャラルホルンに配属されたらしく、当時のクランク二慰が面倒を押し付けられていたそうです。ですが、クランク・ゼントとアイン・ダルトンとの仲は決して悪くなくむしろ良好だったそうです。クランク・ゼントはアイン・ダルトンを差別することなく接していたそうです……これも鉄華団が結成されるまでだったそうですが。鉄華団が結成されてからの前後でクランク・ゼントは単独で戦いを挑み、亡くなったそうです」
亡くなったという言葉に多少重みを感じるくらいで、話はよくありそうな話ではなある。差別されていた環境でしない人に敬愛か信頼を寄せようとする。きっとアイン・ダルトンからすればクランク・ゼントという男はそういう男だったのだろう。
だったら死んでからの動向がすごく気になるが……
口をジュースで潤すと再びを口を開いた。重たい口を―――
「クランク・ゼントを失ってからは鉄華団への復讐の為に行動していたそうです。それが筋違いだと理解できないまま」
「筋違いとは?」
テマルはすかさず質問をはさむとレレは一度だけうなずくとその理由を語りだす。
「クランク・ゼントは上からの命令と自分の中にある良心との葛藤が存在していたようです。鉄華団は子供の集まりで、彼らを殺すという行為に抵抗を覚えていた。故に彼は鉄華団に討たれることで事件が幕を引くことを願っていたのではないでしょうか?私達はそう判断しました」
「アインという火星出身者を差別しないような奴だしな、葛藤しておかしくはないだろうな」
テマルが勝手に納得しただけだが、俺の方からは文句は特にない。なので沈黙を貫くことにした。変にちょっかいを掛けたら睨まれるでは済まないだろうし。
「その後、アイン・ダルトンは地球からの監査官として同行していたガエリオ・ボードウィンの部下として同行し、鉄華団を討つための戦いに明け暮れていたそうです」
ガエリオ・ボードウィンという名前を前にして小声で「死の渡り鳥め」と口を滑らせる。レレが軽く反応して見せるが意識しないようにして話を続ける。
「しかし、彼らの願いとは違い鉄華団は順調に航路を進めたそうです。その為に二人は地球外縁軌道統制統合艦隊司令官であるカルタ・イシューを頼ったようです。しかし、再び取り逃がしてしまいます」
その辺の話は兄やシノから聞いているので大体は理解しているつもりだが、二人の話を思い出せばここから分岐点だと思うが……
「アイン・ダルトンは地球降下阻止作戦の際に回復不能の重傷を負ったようです。その為……急遽阿頼耶識の処置を施すことを極秘裏に決めたようです。これが私が知るエドモントン市街地戦までの流れです」
兄とシノとの話と通じるから本当なんだろうけど、この話にはマクギリス・ファリドがどの程度関わっていたのかが分からない。まあ、やったことは阿頼耶識云々ぐらいだろう。
問題は……と考えたところでテマルが俺の思考を読んだように思ったことを口に出した。
「問題はなぜそんな短期間に阿頼耶識研究を成功させたかということだな。元々のデータがあったと言ってもだ。本来研究とは失敗を繰り返してミスを一つずつ潰していく行為だ。たとえアイン・ダルトンが研究に参加していたとしても一週間もしないうちに成功するとは思えないが……」
そこなんだ。俺が気になったのは。
何かあるんだ。彼らが実験を成功させた背景に、それこそマクギリス・ファリドが隠しているような何かが……
そう思っているとテマルはスクリーンの内容を変更してしまう。今度は今現在の場所から数キロ離れている場所をさしている。
「ここはこの辺でギャラルホルンの情報を手に入れられる受信システムが存在する旧施設の場所だ。ここに侵入すれば最低限の情報が得られる可能性がある」
ああ、この話の結論が見えてしまった。
「よするに、私達二人でそこに侵入してギャラルホルン本部のデータからアイン・ダルトンの情報を調べてくればいいのですね?」
そういう事である。前線に出ない俺と出れないレレを捕まえて調べに行って来いということだ。下手をすればギャラルホルンからの妨害を受ける可能性があるにも関わらず……
ニコニコ顔をやめないこの男の表情をどうやれば崩せるのだろうか?
俺達を勝手に動かすことに何のためらいが無い。
「あんたはどうするんだ?」
「私は戦いはできないのでね」
嘘つけ!っと文句を言っても仕方がないうえに何を言ってもついてこないのだろう。こうなっては俺達で行くしかない。レレも文句を言おうとするが無駄だと知り下唇をかみしめながら俺をにらむ。
何故俺をにらむ?俺の所為ではないないのに……理不尽な。
「なぜこんな男と二人っきりで!?納得ができない!」
「この施設の中で暇人は君達だけなんだが……」
不名誉な呼び方に今度は俺が激しく不満を漏らす。
「暇人という言葉を撤回しろ!この女ならともかく俺はこれでも色々と!!」
この間までだけど……という言葉は言わずにいよう。しかし、たった一言で反論を封じられた。
「だが今は暇だろう?」
反論しずらいことを言う……と黙ってしまうと今度はレレが反論をまくしたてようとした。
「私にもキャリー様のスケジュール管理や業務関連の仕事があるのですよ」
「それは別の人物が変わってくれるそうだ」
ドアの向こう側にクレアとイオリが手を振っている姿が見えた。レレは「余計なことを……」と言わんばかりの表情で忌々しくテマルをにらみつける。
クソ!ここ数日仕事が減っていったのはこいつの所為だったのか……バルバトスに乗らないことをいいことに………レオがやけに速く来たのはそういうスケジュールが情報局とEDMの間で決まっていたのだろう。
レレもそこに辿り着いたらしく指の爪を噛みながら事前に手を打てなかった事に悔しさをにじませる。
こいつ……そうまでして俺達を行かせたいのか?
しかし、これといった反論ができずにいるとテマルはスクリーンを閉じてそそくさと部屋のドアを開けてしまう。
「直ぐに支度して向かってくれたまえ」
「お前ろくな死に方をしないぞ」
呪詛を投げかけると、テマルは手を振るという形で回避した。
7
明楽の目の前でグシオンが出撃前の調整を終わらせよとしていた。グシオンは半年前と同じように背中に大きなフライトユニットを背負っている。しかし、武装に関しては変更がなされている。両方の腰に備え付けられた斧はサイガが使用していたバトルアックスを装備しやすくするために半分にされたものだった。
明楽とシノはパイロットルームの窓から忙しく、せわしなく準備をしている整備士たちを横目に見ながら飲み物を飲んで過ごしていた。
「しっかしよ~結局サブレは今回も不参加かよ。明楽、お前なんか聞いてねぇのか?」
半分飲み込んだところで「ふが?」と反応し、頭で考えてみるが結論など出るわけもなく首を黙って横に振る。
すると、パイロットルームのドアが再び開き奥からビスケットが現れた。
「サブレなら情報局から仕事の依頼だよ。なんでもギャラルホルンの情報受信施設に殴り込みに行くとか……」
「「殴り込み?」」
二人して不穏な言葉に心配になっていた。サブレではなく、ギャラルホルンの方をである。
「大丈夫なのかよ?」
ギャラルホルンはっという言葉を抜かしたセリフに反応したビスケットは誤解したままで正確なセリフを選び出す。
「大丈夫だよ。誰もいないらしいし。今はほとんど使われない施設に行くだけだから……」
「「まぎらわしい言い方を!」」
なら殴りこむという言葉は間違いではないのだろうかという気持ちが心の奥底でくすぶる二人だったが、そんな中レオが同じように部屋の中に入ってくる。
「明楽先輩!師匠も出撃するんすよね!?」
「しないよ~。先輩他の仕事で出かけるってさ~」
やる気と覇気の無い声に疑問を抱いたのはその場にいたほぼ全員だった。
「どうしたの?明楽、今回は思いっきりやる気がなさそうだけど……」
ストローに口を付けたまま少しだけ考えてみる明楽は心の内を吐露する。
「別に~この前の戦いではバエルが出てこなかったから……」
やる気がなさそうな表情や座り方をしているが、その瞳は何かを求めているようにも見える。
明楽はここ半年ギャラルホルンのバエルを倒すことに執念を燃やしているように思えたのはビスケットだけではなかった。バエルとキマリス二機相手に互角以上の戦いをしてくれるおかげでシノも木星帝国相手に奮戦できている。
「ていうか……師匠が最近前線に出ていないっていう噂は本当だったんだ……」
レオがそう呟いて見せるとビスケットが上を向き考え込みながら答えた。
「うん。ここ数か月は最前線に出ていないね。なんでもバルバトスのシステムとサブレの操縦技術が合わなくなったって嘆いていたよ」
合わなくなったという言葉に引っかかったのはレオだった。
「どう意味っすか?合わなくなった?」
「うん、なんでもサブレが避けれると判断して動かすんだけど、バルバトスがその反応についていけていないんだって。『ずれる』って言ってたよ。すごくギリギリの戦いになるんだって。早く『エデン』が欲しいって文句を開発局に出したらしいよ」
シノが苦笑いを浮かべてジュースを飲み干す。
「そんなことで苦情を出されたら開発局の連中も苦笑い浮かべるしかないだろうな」
「そもそも、バルバトスにはサイコ・フレームが使われていないからシステム的なショートカットができないんだよね。グシオンやフラウロスは阿頼耶識システムを改良したシステムを搭載していて、サイコフレームが二人の脳波をダイレクトに受け取ってそれを機体のシステムに適応することで微調整をしてくれたりするけど、サブレはそれができない。だからどうしても機体的な限界はあるんだよね」
シノはごみをゴミ箱に投げ入れる。
「でもよ、そんなシステムを使わなくても十分強いだろ?」
「本人は納得できないんだって。どうも例のエヴォ・エクスとかいうパイロットも最近また出てこなくなったし……」
サブレが異様に警戒している相手があのパイロットだということは既に分かっていた。
8
何のために自分が戦っているのか既に理解できていないと感じているのはガエリオ・ボードウィンだった。
七年前には感じたことも無い無力感と居場所の無さ。
マクギリスを討った後の戦いで彼は不可能を可能したあのパイロットを目撃してしまった時、自分の世界の小ささを感じてしまった。
バルバトスのパイロットだったあの少年にもできなかった、ダインスレイヴの攻撃を弾くという大業をなした瞬間を今でも覚えている。
災いの地で罠を張っていたEDMのパイロットだったサブレ・グリフォンと明楽・アルトランドはダインスレイヴの攻撃を避け、弾いて見せたのだ。
『貫通力があるだけだ。当たらなきゃどうってことは無いさ』
そんな言葉を平然とはき、それを実行に移すあの人物にガエリオは無理矢理マクギリスを重ねたのかもしれない。しかし、そんな幻想はあの強さの前に霧散してしまった。
冷静過ぎるほどの洞察能力、大胆不敵と一騎当千のような強さ、そしてマクギリスやガエリオには無い精神的な強さ。どれをとっても自分には無いモノばかり。
それだけならそこまでショックではなかった。もっとショックだったのはそんな人物に近いレベルの人間がEDMには溢れているという事だった。要するに実戦慣れをしており、なおかつ強い。
一体多数という状況を作り、こちらはダインスレイヴを事実上封じられてしまったと言ってもそれでも圧倒的なほど有利だった。しかし、艦隊戦からモビルスーツ戦まで彼等にはかなわなかった。
気を失って、目が覚めたときは彼らの捕虜となりラスタル・エリオンがEDMと契約を強いられた後だった。
ジュリエッタは周囲悔しそうに涙を漏らしていた。しかし、自分達に彼らに勝つことができるかと言えばそれは不可能だとしか言えないだろう。
ガエリオは納得などできなかったが、それでも負けたという気持ちは自然と引退への道を選ばせた。しかし、それはあのエヴォ・エクスという男が家に現れたあの時には変化してしまった。
ラスタルが亡くなったということはすぐに聞かされたガエリオはすぐにジュリエッタの元へと急いだ。
彼女の目には虚ろで何も映してはいなかった。しいて言うならアインに似ているようにも思えた。
同時に立ち直らせるのは容易だった。
しかし、それが今でも正しかったのかはよくわからない。
ラスタルが亡くなる一週間前に自分の元を訪れたことがあった。彼は『停滞した平和は真の平和と言えるのだろうか?』と尋ねられたガエリオは、『俺はそう思う』と答えた。しかし、それ以上に今更そんなこと言うのだろうと疑問を覚えた。
今思えば彼はあの時自分が死んでしまうことを理解していたのかもしれない。
ガエリオは思った。
『なぜ俺達に何も告げてはくれなかった!?』
ラスタルは何かを知り、そしてこの戦争のための生贄になる道を選んだのだ。だったらこの戦争の真実はガエリオには理解できない。
9
ラスタルがゲイナーに連絡を取ったのは彼が亡くなる半年ほど前の事だった。彼はゲイナーの知る情報を欲しがった。
ゲイナーは彼の覚悟をした目を見たとき、彼は何かを知ろうとしているのだと思った。
だからこそゲイナーはラスタルに全てを語った。『真の平和』について。その為の道しるべを、ゲイナーが知るその険しい道のりを話した。
すると、ラスタルはある一人の若者の話をゲイナーに語った。
『私はサブレ・グリフォンという若者に出会った』
そう告げるラスタルはその若者に感じた何かを率直に告げた。
『あの若者には絶対に曲がらず突き進む信念とそれをなすための力を感じた。あの若者には何か生まれてきた特別な理由があるような気がした』
そう語ったラスタルはその意味と理由を知ることになった。
ゲイナーは語って見せた。アカシック・レコードが告げた予言に似たその言葉を。
『いずれ人類の未来を決める人間が必ず現れる。それは昔の人類『イオリア・シュヘンベルグ』が真に提唱した『イノベイター』や『ニュータイプ』すら超える存在。『選別者《セレクシャー》』と呼ばれる人間が人類の破滅か存続かを決めてくれる。人類に進化に値するのか、それとも滅ぶべきなのか。その為の人間は二人いると。その一人がきっとあの若者なのだろう』
ゲイナーがそう語るとラスタルは何かを悟ったように通信を切った。その半年後に彼は亡くなってしまった。
ゲイナーは全てを悟った。
彼は真の平和のための礎になったのだと。なら、自分達はその先を彼に伝えなければならない。その為にはここまで導く道先案内人が必要だ。
そう考えたとき、ゲイナーはその人物は彼を支えられる人間がいいと思い、クレアを選び取った。
彼女なら……そして、その弟の『ビスケット・グリフォン』なら彼を支え導けるだろう。そう感じたとき、彼はマクマードにも連絡を取っていた。
この世界の真の平和の為に自分たちが道しるべになるときが来たのだと彼は判断して立ち上がった。
そしてその一年が彼はクレアとサブレの接触に成功した。
二千万年の間人類が願った真の平和の為にも……
サブレ・グリフォンが勝てるように導かなければならない。その為の犠牲なのだから。
彼がそれを知るのはゲイナーの元を訪れるときになるだろう。
それがいつになるのかは分からない。
この仕組まれた戦争がいつまで続くのかは誰にも分からない。
アカシック・レコードが告げた最後の言葉。
『七色の光が世界を包んだ時、人類は選別の時を強いられるだろう』
その時だけは近い。それだけは分かっている。
どうだってでしょうか?面白かったと言っていただけたら幸いです。今回の最後に書いたのは結構重要なお話です。今回のある意味テーマをそのまま描いたような内容になっており、戦争の裏側をラスタルやマクマード、ゲイナーサイドから描いたものになります。この編のラストでは木星帝国サイドの戦争の裏側が分かると思います。というかそのつもりで書いております。
次回のタイトルは『仕組まれていた事Ⅲ』になります。次回はサブレとレレによるカーチェス戦と明楽達のモビルスーツ戦の二つでお送りします!