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リミッター強制解除をソニアから聞かされているのは俺、サブレ・グリフォン以外に兄などの一部の幹部のみ。その時に俺達が言われたことはリミッターを解除してはいけないという事だった。
「本来パーティクルドライブ搭載型エイハブ・リアクターは出力上半分までしか出せないようになっているわ。これは出せないわけではなく、現在の機体開発技術では100%の出力を出した場合機体がもたないからなの」
ソニアはもし最大出力を出せば作られた高濃度圧出粒子が消費しきれないほど生産される。しかし、消費しきれない粒子が行き場を失いフレーム内で爆発してしまうそうだ。
高濃度圧出粒子になるとエイハブ粒子は視認できるほどである。しかし、どんな効果を持つのかいまだ分かっていない。
『HCOCPモード』
そう命名された名前の由来は『高濃度圧出粒子』の英語の略称『High concentration of compressed particles』の頭文字であるHとC、O、C、Pからきた名前だ。
ジムなど様々な機体が試してきたが全滅してしまった。
そんな場面を見てきた俺がこのモードに躊躇をしなかったといえばうそになるが、ここで躊躇して仲間に死なれたら困る。
サイガやオルガの事を思い出してしまい、結果俺はリミッターを解除してしまった。
12
戦場の方から赤い粒子がかすかに見えた気がした。俺はとっさに画面を拡大して戦場の状況を正面の画面に映す。
そこにはバルバトスが真っ赤な粒子を機体中からまき散らしている姿が見えた。
とっさに艦長席から体を浮かせて叫ぶ。
「それだけはだめだ!!サブレ!」
全身から漏れ出しているエイハブ粒子が行き場を失い始めている。
クレアは両手を胸の前でギュッと握りしめ、震える体を落ち着かせようとしている。
リミッター解除してはいけないというソニアからの言いつけをものの見事に無視した形になる。
と、思ったところでそもそも人との約束事なんてよっぽどのことが無い限り守ろうとしないサブレがいつものように約束を破ったといえばいいのかもしれない。
という勝手なことを想っている間にも状況は変わっていく。
13
昔からサブレが約束事を守ったことがあまりないことをビスケットはよく知っている。小さいころ学校の行事であった遠足で朝の9時集合だったにも関わらず、サブレが集合場所に来ることは無かった。
その後遠足している最中に反対側で遊んでいる姿を見付けた瞬間に先生が走って追いかけたことは同級生の間では語り草である。
もともと人との約束事なんてほとんど聞いていない上にいざとなったら逃げてしまう性格をしている。結局遠足の時も先生から逃げきってしまった。
だからこそなのかもしれない。
ビスケットは知りたいと思った。そんなサブレが守り抜こうとしているオルガとの約束を。
いざとなったら約束を破り、逃げて生きて来たサブレが守ろうとしている約束がなんなのか。
しかし、いくら聞いても教えてくれない。時折する儚い表情を想えばこれ以上聞こうとは思わなくなった。
怖くなったのではなく、聞けばオルガを裏切ることになりそうだったから。
あのサブレが話そうとしないということは、それだけオルガとの関係が大切という事なのだろうということはビスケットにも分かっていた。
妬けてしまうし、嫉妬もしていしまった。
オルガにとってビスケットと過ごした数年間と、サブレと過ごした二年間ではどちらが大切だったのだろうと比べてしまう。
もしかしたらオルガ・イツカにとって自由奔放なサブレが羨ましかったのかもしれない。
自由でありながら、大切なことの為に戦い、時に冷たく突き放し、時に温かく受け止める。それはオルガ・イツカには無いことだし、できなかった事なのだろう。
だからこそ彼の周りには人が集まっているのだろう。
明楽、レオ、サラ、メアリー、イオリ、メイデン。数え始めたらきりがない。
彼がEDMの教習学校時代に培った人脈が結果的にラスタルは敗北することになった。
ビスケットはEDMの教習学校に入学したときにサブレの話を聞いた。
「いつだって楽しく、いつだって厳しく生活していた」
いつだって大切な者の為に戦うサブレがこの時も約束を破っただけの事だった。
14
解放された高濃度粒子が行き場を失ってしまい、そのまま体中から放出されている。このままでは五分と経たずにバルバトスは動けなくなるだろう。
俺は壊れそうになっているバルバトスのスラスターを最大まで吹かす、背中のスラスターが悲鳴を上げながらバルバトスはモビルアーマーのうちの一機の側面に拳を叩き込み、装甲を無理矢理剥がす。
「先輩!!」
「サブレ!」
「来るんじゃない!!」
サブレの怒鳴り声が周囲の人間を一気に制止させた。バルバトスの対艦刀を抜き出し、モビルアーマーのテールビームブレードを切り裂こうと振りかぶる。しかし、テールビームブレードが変形し対艦刀と同じ形に変わってしまう。
バルバトスの対艦刀とモビルアーマーの対艦刀がぶつかり合い弾かれる。バルバトスが素早く後ろに距離を取り、背中のバスターライフルを別のモビルアーマーへと向ける。
「落ちろーー!!」
叫び声と共にモビルアーマーのIフィールドが弾ききれないビームがモビルアーマーの側面を焼く。しかし、威力が削られ過ぎて表面を多少焼く程度にとどまっている。
モビルアーマーの口から放たれたビームを屈曲させてバルバトスを襲う。バルバトスは縦横無尽に動いて屈曲するビームをギリギリで回避する。
「当たらなければ!!」
Iフィールドが完全復活する前に叩くつもりで距離を再び詰め、対艦刀を振り下ろす。モビルアーマーの腕が対艦刀を受け止める。
その瞬間、彼らの深層心理の奥深くに一瞬だが入れそうな気がした。
サイコ・フレームさえあればという想いが心の奥底から沸々と湧き上がってくる。言い出してはキリが無いし、思っては仕方がないこと。
彼らを知ればアイン・ダルトンとエクスの真実にたどり着けそうな気がする。
心に生まれた一瞬の隙をモビルアーマー達は見逃さなかった。取り囲むように襲い掛かってくる。対艦刀で衝突の威力を受け止めながらスラスターを吹かせて均衡させる。
すると彼らの声が聞こえてきた。
「殺す殺す殺す殺す殺スコロスコロス!!」
殺意があるにもかかわらずそれを感じさせないほどの平坦な口調。人形のような声がこちらの心を襲い掛かる。
戦うための単純な人形。もしかすると機械の方が人間味を感じられるかもしれない。
三人からの全く同じ声が脳内で反復する。
「「「殺す殺す殺す殺す殺スコロスコロス!!」」」
その声を聞くたびにククナというあの女を思い出す。冷徹で底冷えするほどに冷たい。彼女の傑作でもあるのかもしれないが、命をもてあそび、実験のための道具くらいにしか思っていない彼女に怒りを覚える。
俺はその怒りを彼らに向ける。
バスターライフルを構え引き金を引くがバスターライフルが高濃度圧出粒子に耐えられなくなり、ライフルの根元から爆発してしまう。
「だったらぁ!!」
対艦刀を引き抜きモビルアーマー達のテールビームブレードの攻撃をかいくぐって一機のモビルアーマーの背中に突き刺す。しかし、対艦刀も根元から折れてしまう。
モビルアーマーは最後の抵抗と出力を最大まで高めて自爆覚悟の特攻を俺に向けてきた。
回避しようとスラスターを吹かせたところでスラスターも限界に達して大きな爆発音とともに潰されてしまう。
「お前だけでも絶対に倒す!」
ビームサーベルを抜き出してモビルアーマーの胴体に突き刺す。モビルアーマーと共に月面に向けて吹き飛んでいく中、俺の視界には二機のモビルアーマーと戦う明楽達の姿が写っていた。
15
ユージンはサラからもらったジュースを飲めないまま窓の外の風景を眺め、思考をほぼ停止に近づけていた。
サラが去り際に告げた一言を思い出しては無意味な思考を続けていた。
「ありゃ……どういう意味だ?」
「ハニートラップにでもひかかったの?」
隣にクラッカ・グリフォンが立っていることに気が付かなかったユージンはジュースを取りこぼしそうになりながら数歩後ろに後ずさる。
「な、何の話だよ!?」
ユージンの顔を覗き込むことやめないクラッカはユージンが一歩逃げる度に一歩追いかける。
しかし、クッキーがクラッカの襟をがっちりつかんでユージンから引き離す。
「コラ!クラッカ!」
「捕まったか……」
クラッカは残念そうにしながら舌をだす。さらに後ろからアトラも追いかけるように姿を現した。しかし、そんな中に暁と桜がいないことに疑問を抱いたユージンはクッキーがクラッカを説教している間にアトラに尋ねることにした。
「桜の婆さんと暁はどうしたんだ?」
「桜さんはなれない船旅で疲れたって、暁は遊び疲れって寝ちゃった」
しかし、そんなアトラの後ろから暁がトテトテと歩きながら姿を現した。
「あれ?暁、あんた寝てたんじゃないの?」
クラッカがクッキーからの説教から逃れたいがために話を逸らしにかかるが、それを逃がすクッキーではない。クラッカはその場で説教をやめようとはしなかった。
「ついた?」
窓の外を眺めたいとよじ登ろうとするが中々上ることができずに不機嫌そうになる。見かねたユージンは暁を抱えて窓際まで運んでやる。
暁は窓に両手を添えジーっと窓の外を眺める。
「まだ付かない?」
「まだまだだよ」
すると、暁は予想もつかないことを言い始めた。
「パパにもうすぐ会える?」
「「パパ?」」
暁にとっての父親は三日月に他ならない。しかし、暁は一度として父親に会ったことが無い。それどころか暁は父親の写真を見ても「パパ」などとは言わなかった。
そんな暁が初めてパパと呼んだ。
「やっぱりあの覆面の人が……」
「クッキーまた言ってる。クッキーとおばあちゃんの前に現れたっていう覆面の人でしょ?ありえない」
クラッカはポケットから取り出した鉄華団のメンバーの写真を暁に見せる。
「パパってこの背の低い人の事でしょ?」
三日月・オーガスをまっすぐ指さすクラッカに暁は数秒だけ眺めると首を横に振って否定して見せた。
「違う」
そう端的な言葉と共に暁は別の人物を指さした。
パパと呼ぶその人物は三日月・オーガスに似ても似つかない人物だった。鉄華団の中で唯一太っていて、ツナギの上に鉄華団トレードマークの緑色のジャケットを羽織っていて、特徴的な帽子をかぶっているのは、今から会いに行く『ビスケット・グリフォン』その人であった。
唖然としてしまう一行を代表してクラッカが否定しようとする。
「違うよ。暁のパパはこの三日月っていう人」
「ううん。この人がパパ」
頑固として意見を変えようとしない暁にどうしたものかと思っていると、これまた唐突に後ろからサラが話しかける。
「その子は覚醒者かもしれませんね」
ユージンのドギマギは一気に高まったが、サラはゆっくりと暁の視線に合わせるようにしゃがみ込み暁の視線と視線を合わせる。
「覚醒者って何ですか?」
クッキーが疑問に思うことを素直にぶつけた。
「覚醒者とは進化した人類の事だと言われています。実際の能力としては脳波を使ったテレパシーや殺気などの感覚を感じ取ることができると言われています。多分、幼いころからビスケットさんが常に駄々漏らしになっている脳波を無意識に感じ取っていたのでしょう。この子とビスケットさんはどこか似た脳波の波形パターンがあるのかもしれませんね」
微笑むサラに言葉の難しさに首をかしげてどこかへと逃げていく暁、それを追いかけるクッキーとクラッカ、アトラがその場から移動していく。
自然とサラと二人っきりになってしまうユージンは、ドギマギしながら内心を悟られたくないと自然さをにじませながら話を切り替える。
「でもよ、火星と地球でその……脳波っていうのは届くもんなのかよ」
実際に思った素朴な疑問をサラにぶつけると、サラは顎先に指を置きながら多少悩むそぶりを見せる。ユージンからすればサラの行動の全てでドギマギしてしまう。
「う~ん、私も詳しいわけではありませんからね。脳波がある程度似ていれば可能らしいですよ。勿論、何かを感じる程度の間隔でしょうけど。私も覚醒者じゃないから何とも言えませんね。才能はあるとは言われましたけど」
笑顔を浮かべユージンの瞳とサラの瞳がガッチリかち合う。ユージンはとっさに視線を外へとそらすが、まるでユージンの心が読めるかのような言動を吐き出す。
「もしかして少し前のセリフを気にしてくれます?」
「気にしない奴なんているのかよ?」
そっけない態度を取りつつユージンはあくまでも平静を装う。
「いましたよ。サブレ先輩は私の態度を見てもウンともスンとも言いませんでしたから。あれは……悔しかったな。結局告白しても振られるだけでしたから」
「へ~、サブレってやつは相当な鈍感野郎なんだな。俺だったらあんたから告白されたら速攻で付き合ってやるけどな」
軽口を叩きだすとサラはとってもいい笑顔で返した。
「なら付き合ってみます?」
「いいぜ」
振り返り最後に「冗談だよ」と返してやろうと首をサラの方に向けるとサラからの不意打ち気味のキスがユージンの意識を停止させた。
「ファーストキス……」
そういってからかいながらその場から去っていく姿をユージンは再び呆けたまま眺めるだけだった。
16
バルバトスはモビルアーマーの下敷きになる様に月面を移動し行く。ガリガリと削れる音と共にバルバトスはすっかりエンジンを停止させていた。
そのうち押しつぶされるのではないかというところでバルバトスの背後の地面が開く、途端にバルバトスを地下深くまで突き落とす。モビルアーマーはその巨体で穴をふさいでしまう。
落下していく間もバルバトスは常に体で壁を削っていく。
ものの数秒でバルバトスは一番下までたどり着くと静かに鎮座してしまう。
「動け……頼む!!」
「いらっしゃい。サブレ」
広い空間の端に横長の窓が付いておりその奥にソニアがいつもの白髪姿をこちらに見せる。しかし、俺の視線はバルバトスの隣に立っているガンダムフレームの方に向いていた。
「ソニア……これは?」
「ガンダムエデン。あなたが求めていたガンダムよ。でも、このガンダムは一つだけ問題があるの。サイコ・フレームとのシステム連動の際に強い脳波を持つものしか起動できなくなってしまってね。武器とサイコ・フレームとの連動もあったし……それで、ぶっつけ本番で悪いけど、戦いたいなら今すぐ起動実験を試すわよ」
俺はソニアの話を聞きながら黙ってコックピットの中に入っていく。座席が沈んでいき、お決まりの小さな画面が座席の下から小さな画面が上がってくる。
ここでいつもと違う行動が起きた。周囲を囲む360°モニターが虹色の光を一瞬だけ輝かせた。
その瞬間にコックピットをはさむように設置しているパーティクルドライブ一体型エイハブリアクター通称『PHリアクター』(名前が長いから略称が欲しいというほぼ全員からの願いで命名された)を起動させる。
小さい画面では両サイドのPHリアクターの連動率が上がっていく、順調に上がっていた連動率が60%の段階で止まってしまい、少しずつ落ち込んでいく。
「なんでだ!?順調に上がっていたのに!!」
「やっぱり……これでも一番高い方なんだけど……」
ソニアの表情に微かな焦りが見え始める。俺は操縦桿を力強く握りしめながら何度も何度でもつぶやく。
「頼むよ……頼むから動いてくれ!!」
おれが叫ぶと同時に俺の両手に色々な人々の手が重なる。
『君の願いは何?』『ガンダムは人の願いの象徴』『ガンダムは希望の象徴』『いつだってガンダムは人々を助けてきた』『争いが起きる度にガンダムに乗るパイロットたちは人の心と心を繋いできた』『君だってできるはずだよ』『あんたもガンダムのパイロットなのだから』
『『『さあ、最後のガンダムを起動させよう』』』
俺は祈りを拳に乗せる。
「ガンダム……目覚めてくれ!俺は救いたいだけなんだ。仲間を!家族を!!彼女たちを!!だから目覚めろぉ!!!」
とたんガンダムの連動率が再び上昇し始める。
「ソニアさん!!連動率が一気に上昇していきます!」
「70、80……100!やったわ!」
しかし、連動率はさらに上昇していく。作業を手伝っていた作業員が少しずつ声のトーンを落としていきながら告げていく。
「120……150………200%突破」
すると、ガンダムエデンの体中から虹色の粒子が格納庫中を包み込んでいく。
とたん様々な人の意思が俺の体を突き抜けていく。
どこかで赤子が泣いている、子供が遊んでいるようだ、家に帰ろうとする大人たち、縁側でぼんやりしている老人たち。そのすべての光景がその場に居るような感覚になる。
それだけではない、コロニーが落ちてくる光景から様々な戦争の様子が見えてきた。
そんな中には奇妙な形をした金属生命体のような存在や、ガンダムに見えないようなヒゲのモビルスーツが戦っている光景まで様々な戦いが一瞬で過ぎ去っていく。
そのすべてに出てくる『ガンダム』という機体。そして、戦う少年たちの苦悩の連続。
俺はようやく自分が生まれてきた意味を知ったような気がする。
ゆっくり目を開き静かな声でソニアに告げる。
「ソニア、上部ハッチを開けてくれ」
「え、ええ」
いまだガンダムエデンが起こしている現象に結論が出ないようであり、混乱しながら上部ハッチが開く。ソニアは一瞬で脳内を切り替え、アナウンスを格納庫内に響かせる。
「EDM-Ω01ガンダムエデン、発進どうぞ」
俺は一瞬だけバルバトスの方を眺める。
ありがとなバルバトス。
「サブレ・グリフォン!ガンダムエデン!出るぞ!」
勢いよく旅立つエデンは戦場に向かっていく。
サイガ、オルガ……見ていてくれ。俺は今度こそ守って見せる。仲間を家族を彼女たちを!
どうだったでしょうか?面白かったと言っていただけたら幸いです。いよいよ次回ガンダムエデンVSモビルアーマー戦になります。同時進行で起きているユージンのラブストーリーにも期待を(笑)
次回のタイトルは『アイン・トゥルーⅣ《最後のガンダム》』となります。お楽しみに!