<18>
ファントムブラット隊の旗艦であるヴァルハラがギャラルホルンの艦隊相手に大立ち回りを廃棄コロニー一帯で演じたのは三十分ほど前になる。すでにギャラルホルンの機影や艦艇の影がレーダーに映らないことを確認すると、ビスケットは警戒態勢を一段階下に落とした。
イオリは姉であるメアリーに任して彼女も休憩がてらヴァルハラのどこかへと姿を消した。ビスケットも船の操縦などをメイデンに任せて自身の部屋に向かおうとしたとき、休憩室前で眩暈がビスケットを襲った。
「こ、こんな………時に」
「隊長!」
誰かの声が聞こえた気がした。
<19>
倒れてから何分が経ったか分からないが、何やら後頭部に柔らかい何かがあるのがはっきりと理解でき、うっすらと目を開けると視界にイオリの優しい笑顔が見えてきた。
そこでようやくはっきりと自分がイオリに膝枕されていることに気が付いた。
意識が覚醒し、羞恥に顔を赤らめて慌てながら飛び起きる。
「イ、イオリ!?ななな……何で!?」
イオリは微笑みを絶やさないようにしながら口を開いた。
「びっくりしましたよ。廊下を歩いていたら隊長が急に倒れるんですから。話には聞いていましたけど……後遺症でしたっけ?」
「うん。蘇生治療の後遺症。仕事が終わったらというか……緊張状態が切れたら意識が途切れることがあるんだよね」
申し訳なさそうに、そしてどこか笑顔で答えるとイオリは俺の顔を自身の谷間に押し付けるように抱きしめる。これが何を意味しているのかも理解できないまま、俺は顔を赤らめた。
「イ、イオリ!?」
「隊長はもうちょっと私達を頼ってもいいですよ」
イオリの声と共に休憩室の壁紙である森林のイメージに沿ったBGMが俺の耳に届く。
「隊長は優しくて思いやりがあって、そしてすごく強い人です。でも、だからこそ頼ってほしいんです」
その言葉を耳に入れようと努力をするが、この体勢が俺の頭からあらゆる情報を抜き取ってしまう。
ダメだ、胸の柔らかさが―――――
「エロいですな~、お二人さん」
突然の声にイオリの意識は自分の胸部を向いてしまい、瞬間に表情を変えてしまう。顔が真っ赤に染まった後にあわあわと慌ててしまい、ソファから体を浮かせると飛ぶという表現が似合っているほどに飛び逃げていく。
俺は呆ける意識でソファを挟んだ先にいる人物に意識を向ける。
俺の双子の弟であるサブレはニヤニヤしながテーブルから顔だけを出して笑っていた。俺も再び意識を覚醒させて頬を赤らめたあと、サブレに強烈な視線を向ける。
「いつから!?」
「最初っから」
へらへらと答えたサブレの表情に怒りを覚え、怒鳴りそうになる気持ちを何とか抑えて息を整えた後に、もう一度視線をサブレの方に向けるとサブレは既にソファに座っており俺の方を見ないで首に耳当てが革でできている旧式のデザインであるサブレが愛用しているヘッドホンを首にかけ、ミュージックプレイヤーを操作している。サブレのヘッドホンからジャズ特有の独特な音楽が漏れて聞こえてくる。
「今の流行りはジャズ?この前までクラシックを聴いていたくせに」
ほんの数週間前までクラシックを聴いていて、その数か月前には大衆音楽であるPOPに手を付けていた。定期的に好みの音楽が変わるらしく、数か月から数週間の間に音楽が切り替わる。
俺は本を求めようとするが、今はそばにそれが無い。この数年で周囲の環境や状況は切り替わった。電子書籍がメインが今では昔ながらの一冊一冊の重さを持つ本が市場ではメインに変わりつつあり、音楽や電子機器もだいぶ様変わりを遂げた。
そばにあの重みのある本が無いことが少しだけ寂しい。
ソファをさみしくなでると俺の鼻先に堅い何かがぶつかる。その何かはソファの上に落とされると、俺は鼻を押さえながらサブレの方を強烈ににらむ。サブレはどこ吹く風と音楽を楽しんでおり、俺は仕方なしにソファの上に落ちたそれに触れる。
本だ。分厚い表紙に栞代わりに赤い紐が付いている。赤い紐は俺が呼んだページに挟まっていて、俺はそれが自分が読んでいる本だと気づかされる。
そして、再び視線をサブレに向け尋ねようとするが……そこには、すでにサブレはいなかった。
<20>
音楽を楽しんでいると、廊下の先で黒髪の背の低い男である明楽を見つけた。冷汗をかきつつ、慌てながら一歩一歩下がりがら逃げ腰になっている。正面には怒りの表情のメアリーがいた。激怒の真っ赤に染まる顔面がメアリーの目つきをさらにひときわ上にあげているようにすら見える。
メアリーは右握り拳を構え、明楽の左頬に鋭く当てると、明楽の体を遥か後方に吹き飛ばす。
その一連の過程を廊下で見守った俺はメアリーに近づいていく。メアリーは怒りを抑えて俺の存在に気が付いてうえでサブレの方を向く。何かよく分からないが、多分泣いたイオリを見て誤解したとか、そういう話だろう。
メアリーは俺の方に近づくと要件を済ませるために業務的なセリフを吐いた。
「三十分後にオセアニアコロニーの『リリアン』に向かい、EDM宛ての荷物を受け取る様に。帰還のルートは別に通知する。以上」
面倒な話になったな。
メアリーはすべきことを終えたのか、すっきりとした表情で再びブリッジへと帰って行った。俺は取り敢えず明楽の横腹に蹴りを入れてそのまま格納庫へと足を進める。
エレベーターで降りると、そのまま曲がることなくまっすぐ進んで行く。一番奥のドアを開けて奥に進むと、そこでは格納庫が多くのモビルスーツと整備班が大忙しで仕事の真っ最中だった。
俺は歩いてバルバトスの右肩へとよじ登り、右手をバルバトス頭部の左側面にそっと触れる。コックピットハッチ周辺では様々なコードが付いていて整備班の男達は俺には理解できない難しい言葉を繰り返しながらいじる。
俺の側にゼム・ロックが近づいてくると、俺の背中を強く叩く。
「おまえさんができることはなんもねぇぞ」
「そういうわけじゃないけど……」
優しくなでてもバルバトスの機械の体は反応しない。勿論右隣にいるグシオンも何も言わない。
俺はもう一度優しくなでてやるとバルバトスの目が光ったような気がした。
<21>
リリアンは商業コロニーとしてはコロニー群の中で飛びぬけて高く、特に火星圏や木星圏からの輸入輸出が収入のほとんどである。
変わった建物も少なく、ビスケット・グリフォンが幼い時に過ごしたドルトコロニーに比べてもさほど大きな違いが見受けられない。実際俺が入った建物もドルトにもあるようなぼろいヒビが入った建物で、看板には『book store』と書かれていた。棚のいたるところには分厚い本や薄めの本まであらゆる本が飾られていて、俺はその中から三冊ほどの本を取り出し、懐に抱えるとそのままレジへと急ぐ。レジで呆けていたお婆さんは俺の本を受け取ると、素早くという言葉とは縁遠いゆっくりとした動きで会計を行う。
お婆さんの会計を終えて、俺は多少駆け足で外に出ていくと、出た先で俺は何かにぶつかり尻餅をつく。何とか本だけは落とさないようにとガッチリつかむ。
「すみません。前をよく見ていなかったもので……」
差し出される手をつかもうと右腕を伸ばし、その人の顔を見ようと視線を向ける。男?女?それが分からないのは目の前にいる人物が髪や表情まですべてを隠すほどの真っ白な仮面が付けていたからだ、頭部全部を隠した白銀の仮面。目の部分に斜めの隙間が付いているが、その隙間からは人物の目が見えない。
実際、俺はこの人物が男か女か判断できずにいたが、先ほどの言葉で彼が辛うじて男だろうと判断できた。
俺は差し出される手を受け取ると、そのままゆっくりと立ち上がる。立ち上がるその瞬間までも警戒の目を持ちつつ、感謝の弁を述べる。
「あ、ありがとうございます」
「いや、気にしなくていい。そもそも、私が注意していたら済んだ話なのだから」
そういって男は人込みの多い通りの方に姿を消すと、俺は人込みをかき分けるように追いかける。しかし、男の姿を見付けられなかった。
<22>
俺の隣を歩いている明楽は殴られた頬をさすりながら一緒に荷物のあるコロニーのコンテナ置き場まで歩いていると、俺に向けて愚痴を絶やさない。常に「サブレ先輩はどう思います!?」なんて言われても困るという話だ。最も、その原因の一因は間違いなく俺の所為なのだが、だからと言っても謝ってやるつもりはない。そもそもはイオリが無意識のうちだったとはいえ兄を自分の谷間に押し付けたことが原因だったのだから。でも、そんなことは口にも出さないし、口に出せばこいつの性格上確実にメアリーに告げ口するため、俺と兄が間違いなく被害を受けるからだ。
「さっさと行くぞ」
俺は明楽の愚痴を聞き流しながら、宇宙港の人込みを避けながらコンテナ置き場への細い通路に入ろうとすると、視線の先に白銀の仮面を着けた人物が見えた。白銀の仮面の人物もこちらに気が付いたのか、俺達の視線から外れてしまう。
気になりはしたが、追っても仕方がないことだし、そもそもそこまでする意味がない。
俺達は広く大きな空間に出ると、そこには多くのコンテナが山積みになっており、手元のタブレットを操作しながら俺たちは目的のコンテナを探すために右往左往する羽目になった。
あれでもない、これでもない。そんな言葉を吐きながら俺たちは一番奥であり端に捨てられるように置かれているコンテナを見つけた。
俺はタブレットとコンテナのキーを連動させつつ中に実際に入って確かめる。実際に中に入るのは明楽の役目で、俺はちょくちょく中に入った明楽を閉じ込めては悲鳴を上げるのを楽しんでいたが、三つ目のコンテナを開けた瞬間に俺達の視線はコンテナに入っていた《それ》に向いた。そろって声を発する。
「「女!?」」
金髪でタマゴ型の顔つきと整った顔立ちは彼女が目覚めていなくても綺麗だと判断できる。背丈はそこまで高くなく、スタイルは良い方だろう。
スヤスヤと眠っている彼女を起こすことに気が引けてしまうが、しかしこのままにもできないので起こしたものかどうかと悩んでいるとむしろ彼女の方から目を覚ました。
「うにゅ?」
可愛らしい声を発して、目をこすりながら意識を俺達二人に向けると彼女は微笑み返してくれる。
「おはようございます」
「「お、おはようございます」」
無意識で返してしまうが、そんなことが気にならないくらいに俺たちは彼女の存在に身を引いてしまった。彼女の瞳は綺麗なクリアブルーで顔立ちも綺麗、華麗という言葉がとても似合う。言葉使いもとても丁寧で、上品さと共に高貴さが見えてくる。
彼女はゆっくりと起き上がりまず明楽の顔を覗き込む。すると―――――
「幼い顔立ちですね。そして、どこかおかしなことを考えていそうな顔立ちです」
明楽はショックを受けるとその場で膝をつきぶつぶつとつぶやき始める。今度は俺の顔を覗き込み、再び―――――
「綺麗な目。まっすぐな目ですね」
俺の手を握り笑顔を向ける。彼女の笑顔に一瞬ひるむと俺は視線を感じ、警戒を強める。コンテナ置き場の人が出入りする場所は一か所しかない。もちろんコンテナの出入り口はほかにあるが、今回視線を感じたのは俺たちが来た方向だったからだ。
まっすぐ視線を向け、出入り口を凝視すると視線はどこかへと消えてしまった。
彼女はとてもいい笑顔で最後の爆弾を投下した。
「私をあなた様達の代表に会わせてください。私はそのためにここに来ました。私の名前はクレア・ファン・フレイヤと申します」
<23>
白銀の仮面を着けた男はスマートフォンいじりながらメッセージを飛ばした。
『ターゲットをリリアンで発見」
その後すぐに別の人物から画面越しの通信を受け、彼は借りた部屋の一室に入るとそのまま大きな画面に通信を繋げた。
画面に出てきた男は初老の男で、年齢は六十代に見える。白髪としわしわの顔と共に鋭い目つきが彼の風格に威厳を与えてくれる。
「PN01、報告を聞こうか」
PN01と呼ばれた男は深々と頭を下げ、白銀の視線を初老の老人に向けた。
「申し訳ありません。彼女はEDMに回収されたようで」
先ほどサブレたちを覗いていたのはPN01だった。彼はサブレにバレた為にその場から逃げ出し、再びコロニー内の小さな公園の近くの借家の中に入っていった。
初老の老人は目つきをさらに鋭くさせ、声を荒げる。
「お前の役目は奴の監視役だ。その辺に文句をつけるつもりはない。しかし、彼女を野放しにしておくことはできん。殺してでも接触を阻止しろ!お前達は既に一度作戦をしくじっているのだからな!なんの為に奴をそちらに放ったと思っている!」
「奴に指示を出しておきます。皇帝陛下」
皇帝と呼ばれた老人が通信を切ると、PN01はそのまま家を出ていき大通りへと出てい。すると、先ほど撒いたはずの恰幅の良い大人に出会った。丸っこい顔に肩に付かないぐらいのギリギリの茶髪。そして、野球帽を深くかぶっている。ジーンズに茶色いジャケットを着こんでいるところを見ると先ほどと同じく休暇中なのだろう。もっとも彼がどこの人間か分からなかったが、少なくともこのコロニー出身者には見えない。
彼は丸い目でPN01を発見すると、数歩距離を取る。
「あ、あなたは……」
PN01はその場から逃げるように足早に立ち去ろうとする。すると、彼は少しばかり大きな声で尋ねてきた。
「俺と会ったことがありませんか?」
しかし、PN01はそれに答えることは無く、その場から逃げ出すように人込みにまぎれた。
<24>
表情を隠すように額から顎まで隠す仮面は顔の形をかたどっており、髪は透き通るような金髪で長めの前髪が二本伸びており、ギャラルホルン製の制服の上から黒い長めのコートを着込んでいる。体格から男であることしか判断できず、彼自身はひたすらある存在を眺めていた。それがジュリエッタは不服だった。
真っ赤な装甲に金色の装飾、ガンダムフレーム特有のツインアイと二本の角、全体的に曲線美と言ってもいフォルム、背中には大きな鳥の羽を連想させる翼が付いている。コックピットをはさむようにつけられているエイハブリアクターに、翼に装着されているパーティクルドライブが連結されている。武装は両腕に爪型の武器である『ビームクロウ』と同じように両腕についている機関銃こと『ビームガトリング』、背中の翼は変形時には飛行形態の攻撃手段には翼に隠している『ビームウィンド』は翼ごと敵を切り裂くことができる。最後にビームサーベルを二つ装備している。
ジュリエッタは不満たっぷりの皮肉に満ちた言葉を容赦なく放つ。
「そんなに見ていて楽しいですか?」
ジュリエッタは最近髪をバッサリ切り落とし、昔のように金髪を短く切り揃えている。仮面の男はジュリエッタの方に向きなおすと、おどけて返す。
「なんだ?私と話がしたいのかな君は?」
ジュリエッタが憤怒の表情でその場から立ち去っていく姿を仮面の男は少しだけ笑うと別の方向へと移動していく。
通路へと足を踏み入れると正面からしかめっ面をしながら仮面の男の行く道を塞ぐのは濃いめの青い髪と整えられた顔だちのガエリオ・ボードウィンだった。
「どういたしました?ガエリオ・ボードウィンニ佐」
「君は楽しそうだな。エヴォ・エクス准将。俺は知りたいな、君は何のために戦っている?」
エクスは口元に手を置いて少しだけ考えると躊躇せず答えた。
「自分の為、自分が生きる為だな。そいうあなた達は他人の為に戦っているのかな?」
エクスはクスクスと笑いながら答える、その行動がガエリオの機嫌を悪くする。「何がおかしい?」と反論にすらならない言葉を放つとガエリオはショックを受けるような言葉をすれ違いざまに放たれる。
「だから負けるのですよ、サブレ・グリフォンに」
サブレ・グリフォンという名前にガエリオは反応し、憎悪に近い表情をエクスに向ける。エクスは笑いを絶やさず、はっきりと答える。
「だってそうでしょう?あなた達は火星での討伐任務後にバルバトスとグシオン回収後の彼らと戦い負けた。応急処置しただけの両機相手にあなた達は敗れたのでしょう?」
「あれは……彼らが阿頼耶識を……」
ガエリオがどこか言い訳をするようにつぶやくとさらに大きく衝撃を与える言葉を放った。
「彼らは阿頼耶識をしていないよ。彼らはジュリエッタ氏と同じ操縦方法であれだけの戦闘ができるのだよ。特にサブレ・グリフォンは化け物じみた実力をしている」
ガエリオは疑うような視線をエクスに向け、探るような言葉を発する。
「やけに彼らの事を知っているのだな」
「いえいえ、何も何も………ただ、ギャラルホルン上層部は彼らの事を要警戒対象として見ている節が在りますからね。何せサブレ・グリフォンの通名は『修羅』ですから」
と笑いながら通路の奥へと進んで行くとエクスは最後に今度の方針を告げた。
「バルバトス回収部隊と合流後ファントムブラット隊を討つための罠を張りますよ。作戦開始は一時間後にします」
通路の奥の闇へと消えていく姿を最後まで見る。ガエリオはエクスという人間を最近知った。
ガエリオが初めて彼を知った時、マクギリス・ファリドではないかと疑いの目を向けたが、どこか彼とは違う雰囲気を漂わせている。エクスを多くの人に尋ねると、様々な意見があった。
ある者は短気と、ある者は優しそうだと、ある者は電波系に見えると、ある者は冷徹な人物だと見えたと人によって様々な意見がある。実際ジュリエッタからは淡白や辛辣な態度をとるとよく愚痴を聞かされていた。
見る人によってその人物像が変わってくる。では、エクスという人物の本質はどれなのだろう?どれこそが彼の本質なのだろうか?そう考えてしまう。
エヴォ・エクスは誰なのだろうか?
<25>
明楽はクレアから言われた言葉がショックでヴァルハラへと帰っていった。俺はクレアを連れてヴァルハラへと行くかどうかで悩んでしまった。安易に彼女をマハラジャの元まで連れて行ってしまっていいのだろうか。最近マハラジャは本部から出てこようとしない。一年前に月面都市アルンで起きた不審者事件の後、ラスタル・エリオン暗殺事件が起きてしまい、それ以降用心に用心を銜えたマハラジャが彼女にあってくれるかどうかわからなかった。
そう考えたとき、マハラジャが急に荷物を取ってこいと言った意味を探る。
もしかしたらマハラジャはクレアという女性の事をどこかで把握していたのかもしれない。だとしたら彼女を連れていくことに意味はあるかもしれない。
いや、彼女を荷物として扱っていいのか?
うんうんと悩んでいると、クレアは満面の笑みで彼にまっすぐな視線を向ける。
なんか、振り回されそうな女性だな。俺はため息を吐き出す。
「サブレさん。どうかよろしくお願いしますね」
艦に乗せてから悩もう。
あきらめて、手を引きながら歩き出す。クレアは歩き出すサブレに尋ねる。
「サブレさんはどうして戦うのでしょうか?」
どうして戦う事が分かるのか?なぜそんなことを聞くのか?という疑問が脳裏によぎったが、尋ねることはせず、はっきりと答えた。
「自分の為、自分が生きるために。そして、知り合った人間を忘れない為にかな。死んだ人間に責任を持つことは大切だと思う。だからこそ、俺は自分の為に戦う。俺が誰かを守り、知る為に戦う」
「……素敵な理由ですね」
微笑み、返すサブレに微笑んで返す言葉に偽りがないことがはっきりと理解できる。良くも悪くもまっすぐで優しく、そして変な女だ。
そう思うと俺はクレアの暖かな手を引っ張って艦へと急ぐ。
どうだってでしょうか?面白かったと言っていただけたら幸いです。今回初登場のキャラクターが多くいたと思います。彼らを含めて今作の結末がどんなものか一緒に楽しんでいただけたらと思います。どうか楽しみにしていてください。
次回は『アース・ガイドⅣ』になります。もう少しだけアース・ガイド編が続きます。楽しみにしていてください!