《地球編エピローグ》
『ビスケットサイド』
世界は変わるのかすら分からない。
自宅であるマンション前で迎えの車を待っていると、後ろからクレアさんの声が聞えてきた。俺もそんな声に導かれるようにマンションの方を向く。
「先ほどアルベルトさんから連絡がありましたよ。もう少しで到着するとのことです」
俺は笑顔で「ありがとうございます」っとお礼を言ったところでさらにその後ろからレレさんがエプロン姿で姿を現した。
「ちょっと!掃除の途中で逃げないでください!」
そういってレレさんはクレアさんの右手首をがっちりつかんでしまう。そこで俺はようやく二人がマンションの中から出てきたことが不思議になった。
「あの~お二人はどこに住んでいるんですか?」
クレアさんとレレさんは首をかしげて答えてくれた。
「「サブレの家ですが?」」
明楽とシノが悶絶しそうな話だな。ある程度秘密にしておいた方がいいかもしれない。
そのままレレはクレアを連れてマンションの中に入っていってしまった。
俺は苦笑いを浮かべながらその光景を見ていた。すると、本社ビルの方とは逆方向から一台の車がやってきた。すると、それに乗り込もうとクレアさんがレレさんの拘束を逃げ出して止まった車の中に入ってきた。
「ちょっとクレアさん!?」
「早く出してください!」
「ちょっと待ちなさい!」
車の運転手はその必死の表情におびえた様子でそのまま車を出してしまった。後ろから車を追いかけるレレさんの姿は少しだけおかしかった。
強引に押し込まれる形で入ったため車の中に誰がいるのか全く分からなかった。
誰かが後ろにいるような気がする。嫌な感じがするのでそっと後ろを振り向くとそこには……。
「君は副代表の上に乗ろうとするのかな?」
俺の後ろには副代表であるアルベルトさんが怒りで身を震わせながら下敷きになっているのを確認できた。
「うわぁ~!!すいません!!!」
俺は勢いよく立ち上がりその場から素早く移動し、素早く土下座する。
すいません!すいません!すいません!
何度も心の中で謝り、その度頭を床にぶつける。
アルベルトさんは「もういい。座れ」というので俺は近くの席に座り、多少落ち着く。
「まったく。少しでも落ち着くということができないのか?」
「本当に申し訳ありません」
指をもじもじさせながら反省していると、クレアさんも多少悪いと思っているのか俯いている。
アルベルトさんは服装をただし改めてこちらに向く。
「まったく。君たちは……。クレア君。ついてくるのはいいが、最下層まではついてくれんぞ」
クレアさんは小さくうなずく。
俺達はこれからアルン最下層に向かうことにしていた。アルン最下層に位置する場所にいるある人物に会いに行くことだった。
もっとも会うのは俺だけだが。
アルベルトさんは迎えと事後処理の報告の為に来てもらった。
「今のところギャラルホルンの残党勢力はほぼ駆逐済みだ。サブレ・チルドレンのメンバーの力で各地の残党は勢いを落ち着かせている。捕縛された士官たちを含めて現在はアルンの地下刑務所でおとなしくしている人物ばかりだ」
あれから四日が過ぎ、ギャラルホルンは歴史の教科書に載るような悪の組織に成り下がってしまった。ある意味ギャラルホルンに所属していたという事が汚名になるだろうと言われている。
もちろんEDMにとっても完全勝利とはいかなかった。多くの命が失われたし、一部の人は批判的な言葉を口にする。しかし、それでもEDMをはじめ、各経済圏の議員たちの一部はの努力により少しづつ立ち直ろうとしている。
「現在アルン議会が開かれている」
クレアは聞きなれない言葉に首をかしげる。俺が答えようとしたところでアルベルトさんが一歩速く答えた。
「現在アルンでは各コロニー圏の代表者を募って、話し合いの場を設けようというのが一年前から試みとして、続いていた。そこから、ギャラルホルン崩壊を切っ掛けに地球圏の意思を統一し、これからの戦いに備えようという話になった。まずはコロニー代表者が今、話し合い各経済圏との間に共通の法律を作り、平等な立場を望むという意思を示したい。ようするにコロニーにも独立を認めよ、という事だ。その結果でアルン議会が開かれているんだ。議題内容は経済圏統一政権を自立させる。そして、今後はEDMを入れた新防衛軍の創設だ」
俺がホッペを膨らませていると、クレアさんはよく分かったと微笑んだ。
俺は少しは良い所を見せようと頭をひねらせる。
「アルンには五段階の警戒レベルが存在するんです。一段階は市街地です。二段階が一般港と民間移送会社が使用する港。三段階はEDM本社ビルと軍港。四段階はアルン議会などの議会関連施設と開発局と情報局。そして、最後の五段階めが全部で三つ存在するんです」
そこまで話をしたところでアルベルトさんが話を持って行ってしまった。
「まずはEDM本部ビル直下にあるアルン最高司令部。さらに、コロニーレーザー。そして……これから向かうアルン刑務所がそこにあたる」
「アルン刑務所ってどこにあるんですか?」
クレアさんの疑問に再びアルベルトさんが答えた。
「最高司令部からさらに地下に建設されたんだ。縦に作られた穴の外周の壁一つ一つに牢屋が造られた。今から行くのはそこの最下層警備レベルのある人物への面会だ」
また言葉を遮られた。
先ほどの恨みだろうか?
そんな話をしているとあっという間にEDM本部に辿り着いた。
「では……クレア君はここで帰りたまえ」
「ブー!」
クレアはホッペを膨らませながら車で再びマンションまで送られていった。
アルベルトさんとは本部の中で別れ、俺は地下刑務所への道を進んで行く。エレベーターである程度まで降りていくと、そこから歩いて階段を下っていく。十回ほど降りたところで大きな縦穴に辿り着く。
一つのフロアに十個ほどの真っ白な牢屋があり、それが十階まで伸びている。一つの牢屋に四人が集まって捕まっている。
一番下に降りるには中心に伸びているエレベーターへと外周を歩いていく。そして、中心のエレベーターへの一本道になっている桟橋へと足を懸けた瞬間に、周囲の牢屋から一斉に罵詈雑言が俺に向けられた。
「てめぇ!幹部!!」「こっち来い!殺してやる!」「あんた達の所為で!!」
様々な罵詈雑言を聞かないように中心のエレベーターへ向かう。
この中心のエレベーターはEDMの幹部や議会、情報局の人間でなければ使用できない。なので、自然とこの桟橋を渡るEDMの制服を着ている人間は幹部かさらに上の代表、副代表クラスという事になる。
なのだろうか、捕まっているギャラルホルンの人達は俺に対して敵意を向けてくる。しかし、彼らの言い分は実に身勝手だと思う。だって、彼等だって勝っていたらそうしていたはずなのだ。
身勝手な意見を無視してそのままエレベーターに乗り込む。
一番地下へのボタンしか用意されていないので、自然と一番地下へのボタンを押す。エレベーターは素早く下へと降りていく。少しづつ暗くなっていき、一番地下へとたどり着く。
薄暗く狭い空間に小さな牢獄がいくつか用意されており、使用しているのはたった一つだけだった。
一番奥の牢獄に辿り着くとそこには拘束衣を身にまとい、革のベルトで両腕を拘束衣に縫い付けており、両足には足かせが付いて、椅子に固定されている。顔だけを見るとあちらこちらにむち打ちの跡が見える。
昨日情報局が尋問を行ったと言っていたからその名残だろうことはすぐに理解できた。
紫色の髪がだらしなく伸びており、あちらこちらにに傷が残っており、それでも元セブンスターズの跡取りとしての名残はきっちり残っている。
俺は牢獄の中に入るとその人物の元まで近づく。その人はゆっくりと顔を上げ、俺の顔を覗き込むように視線を上げる。
「お久しぶりですね。ガエリオ・ボードウィンさん」
「君は……十年前に火星にいた三日月・オーガスと一緒に……そうか、君はEDMに入っていたのか」
声に勢いが存在しない。拷問時に恐らく何かしらの自白剤もしようしたのだろう。セブンスターズだけが使う何かを求めて。
俺はこの人に言いたいことがあった。しかし、ガエリオは先に言葉を出す。
「まるであのころとは逆だな。報いというべきなのだろう。友を信じ切れず、その挙句の果てに裏切った。きっと……俺には」
その言葉を聞いて俺はかつてのサブレの言葉を思い出す。
俺はサブレにガエリオの事を訪ねた際、サブレは自分という個性を持っていない人間という評価を下した。
「彼には正義が無い。しいて言うなら他人の正義が自分の正義なんだ。カルタ・イシューと一緒にいたころはカルタ・イシューの正義が彼の正義だった。だが、彼の前に現れたマクギリスはカルタが惚れた男、彼の中にいる優先順位はカルタからマクギリスに変わった。だからこそ、ガエリオの正義はマクギリスの正義に変わった。兄さん達が初めて会ったのはそのころのガエリオだろう。ある意味一途で、まっすぐだが逆にそれは他人に任せっきりになっているという証拠だ。だが、それは彼からの裏切りを経て曲がってしまった。分からなくなったんだよ。彼の正義を信じていもいいのか、だから彼はマクギリスの正義かラスタルの正義か、悩み、自身が裏切ることで彼は新しい正義を手に入れた。しいて言うなら彼に正義なんて存在しない」
そんな人間がオルガ達を追い詰めた。そう思った時、俺はこの人だけは許せなかった。だが、サブレはこの人を許さない為に生かすことを決めた。
この人がここに収容されたと聞いたときは絶対に会うと決めていた。
俯き、小さな声でボソボソとしゃべるこの人にいら立ってしまう。つい彼の胸元をつかんで引き寄せる。
「ふ、ふざけるな!そんな人が鉄華団を滅ぼしたのか!?大切にしている家族を裏切ったのか!?アンタの所為でどれだけの人間が不幸になったと思っているんだ!?」
「そうだな……俺の所為で多くの人が」
俺の叫び声で勢いがさらにそがれてしまったようだ。怒鳴り散らして殴ることは簡単だ、だけどそんなことをしても誰も喜ばないのは分かる。
さっさと用事を済ませようと俺はガエリオから手を離して小さく頭を下げる。
「あの時、妹たちを避けてもらってありがとうございました」
俺は黙って部屋から出ていく。
意外と暇になったと思いこれからどうしようかと悩んでいる。
これからオルガたちのお墓参りでもしようかな~っと考えてそのまま上を目指す。
『サブレサイド』
タカキ・ウノと呼ばれる人物を待っていてかれこれ一時間が経過していた。いつになったら現れるのだろうと議会前で車を止めて待っていた。
すると、写真と同じ人物が議会の中から歩いて出てくるのを確認した。
俺は素早く車から出て、彼に近づく。
EDMの緑色の制服で彼はEDM士官だと判断してくれたらしく、意外と警戒心は無かった。
「タカキ・ウノだね?ちょっと話をいいかな?」
「はい。それで……何でしょうか?」
俺はタカキ・ウノを連れてその場から車で移動していき、彼の家に向かう片手間で俺は要件を済ませることになった。
「俺の名前はサブレ・グリフォンだ。ビスケット・グリフォンの双子の弟だ」
「タカキ・ウノです。ビスケットさんとは鉄華団時代にお世話になりました」
「あの人に人の世話ができるかは後でじっくり議論するとして、要件はこの手紙だ」
タカキ・ウノは紙で書かれた今時珍しい手紙を開けると、中をしっかり、ゆっくりと時間をかけて読み始める。
「アルンで統一議会を始めるから一部の議員を集めているですか?それで自分を?」
「そういうことだ。各経済圏から議員になれる人物を集めているんだ。君はアーブラウ議長からの推薦だ。きっと役に立つと、同時に統一議会の議長からも同じように推薦が来ている。推薦人物はマックさん。知っているかな?」
「はい、アフリカにいたころにお世話になりました。マックさんが議長をするのですか?」
「ああ、ああ見えてあの人は元々はアフリカの内戦が起きる前に一時期議長をしていた事がある。一部じゃ有名だ」
タカキは手紙を握りしめたまま俯いてしまう。
「君が嫌なら俺の方から断っておくよ。あくまでも俺に一任してくれているしな。どうしてもっていう条件があればこちらはある程度飲むつもりだ」
タカキは覚悟を決めた男の顔をすると、こちらを真剣に見つめてきた。
「やります!やらせてください!」
俺は少しだけ微笑むとはっきりと告げる。
「だったら今から移動するぞ。早く来てほしいと言われているしな。荷物は後日管理人から送ってもらう。妹にも迎えが行っているはずだ」
タカキは唖然とした表情のまま車の進路を宇宙港方面に向ける。
アーブラウからアルンの民間移送用の港にシャトルを止め、俺たちのモビルスーツは開発局員に引き渡し、俺達はタカキ・ウノと共に忙しそうにあわただしい雰囲気に包まれている港で周囲を見回している。
「なんかあわただしいっすね」
レオがそうつぶやいたとき、渉とジョシュアがレオの体の周りで追いかけ合いをしている。明楽とシノがあわただしい港を見回しており、マークに関してはゲームをしていて既に聞いていない。
俺は奥から走ってくる三人を見た瞬間にそれが火星からやって来たのだと判断できた。できることならこの場から逃げたいことこの上ないが、それをさせまいと、久しぶりに俺の前に現れたメイデンがガッチリ俺の腰を押さえていた。
「久しぶりだなメイデン。お前いつの間にここにいたんだ?」
「お前の妹たちが来るから、お前が逃げるかもしれないと代表から告げられた」
あのクソおやじ!!どこまで俺の邪魔をする。
そう思っているとサラが突撃しようとするのを俺は明楽を使って回避する。
「明楽ガード!!」
「くっ!やりますね先輩!」
明楽を押し倒しこちらを女々しく見上げる。何っていう目で見てくるんだ。小走りでさらにその後ろから二人がやってきた。
「サブレさん」「サブレ先輩」
ノインとジャニーの順番でやってくるのをまさしく体を張って受け止めると、俺は二人の頭を撫でてやる。
奥から懐かしい人物が歩いてきた。
順番に桜おばあちゃん、クッキーとクラッカ、知らない女性と男性。多分アトラという女性にユージンとかいう男性だとは思う。
桜おばあちゃんはクッキーとクラッカをこちらへと出してくる。俺はそんな二人の頭を撫でてやる。
「おっきくなったな……クッキー、クラッカ」
本当に大きくなったと思う。赤子のような頃しか知らない俺は160㎝まで伸びた身長、苦労をしたのだろうが兄さんに合わせるのが楽しみだ。
隣を見るとユージンと思わしき男がシノの近くまで近づいていた。
「久しぶりだなてめぇ!」
ユージンはシノに向けて軽めのジャブを決め、シノも嬉しそうに俺を受け止める。
「久しぶりだな」
あの二人なりのコミュニケーション方法なのだろう。その後ろでは嬉しそうなアトラと思わしき女性が微笑んでいる。
するとサラとジャニーとノインは頭を撫でてほしそうにしているのを無視して、俺はメイデンに「手を離せ」と睨みながら告げる。
するとメイデンは俺に「ビスケットは?」っと聞いてきたので俺は兄にメッセージを飛ばす。すると、ものの数分で返事が返ってきた。
「墓参りをするってさ。先に墓地に行ってるそうだ」
「だったら行くか?」
メイデンは周囲の人間を突き動かす。
なんでお前が行動への選択権を持っているんだよ……不思議に思わざるを得なかった。
みんながお菓子などのお供え物を狩っている間に俺は先に兄の元へと移動していく。すると、ある程度の掃除を済ませていた兄がお墓の前でしゃがんで呆けていた。
俺はその隣でしゃがみ込み兄に向けてバニラアイスバーを運ぶ。すると、無意識にそれを銜えてしまう兄に俺は「おいしい?」と聞くと兄は「おいしい」と答える。
数秒だけ呆けているとようやく俺の存在に気が付いたらしく俺の方を見て驚く。
「サブレ!?いつの間に!?」
「さっきからだけど?なんで呆けているんだ?」
「その……えへ!」
「誤魔化せてないぞ」
二人で立ち上がると後ろからみんなの声が聞えてきた。俺も後ろを向くとすこしづつクッキーとクラッカの姿が見えてきた。
「あっ……クッキー?クラッカ?」
「お兄ちゃん」
「お兄」
三人はお互いの存在に驚き数秒だけ間が開くと同時に走り出し抱き合う。
「「会いたかったよ……お兄ちゃん(お兄)」」
二人が抱き合う光景をみんなが見つめる。
アトラやユージン、シノ、タカキ、フウカなんかは涙ぐみながらその光景を見ていた。サブレ・チルドレンのメンバーもどこか嬉しそうな表情を浮かべる。
これでよかったのか俺にはまだ分からない。
戦いが終わったわけではなく、これからも続いていく。
つらいことだってこれからも起きていくものだ。いっそのことつらいことを忘れていられたらと何度も思った。
そうすればきっと……こんなに苦しい思いをせずとも住むというのに……。
『たとえ……二度と会えなくなっても』
オルガのそんな声が聞えてきた。
『道を違えて二度と会えなくなっても』
サイガの声が続いて聞こえてきて、二人は俺に語り掛ける。
『『俺達の心はいつだって一緒だ。いつだってお前と共にある。今一緒に歩いている奴らとだっていつか分かれる日が来る。覚えていてくれよ……俺達がここにいたという事を』』
俺はみんなの後ろにオルガとサイガ……それ以外の多くの死んでいった人たちを見た。敵として死んでいった人や会った事も無い鉄華団のメンバーまでもがこちらを笑顔で見てくる。
『『『忘れないでくれ。ここにいたという事を。生きていたという事を』』』
俺は彼らを見つめて笑顔でいられた。
つらいとおもえてもいつの日かいい思い出だったと思える日がきっとくる。その日を信じて歩き続けよう。
どんな人との出会いも忘れずに歩く。
俺は心で彼らにメッセージを告げる。
『忘れないよ。どんな事があっても……みんなが生きていたという事を。絶対に』
彼らの思いを繋げてどこまでも歩こう。この空のように繋がって歩いていくことをみんなに誓う。
忘れずに繋げてどこまでも……
それが俺にできる俺のたった一つの道なのだから。
《レインボー・スカイ編 地球編終わり 断章開始》
どうだったでしょうか?面白かったと言っていただけたら幸いです。次回から断章になり、まず過去のお話になります。
次回のタイトルは『誰にも語らない話』になります。お楽しみに!