誰にも語らない話
「―――なあ、サブレ。頼みがあるんだ」
そうオルガは俺に一つの頼みごとをした。俺はその頼みごとを決して忘れることは無い。
「ああ……分かったよ」
そういって切れる電話を前に俺は少しだけ呆けてしまった。
止めることができなかった。
革命に参加する。もしもの時は鉄華団のメンバーを頼む。それを止めることができたはずだ。しかし、俺はその言葉を口にすることができなかった。
俺はどうしたいのかそれが今の俺には分からなかった。
革命までそこまで時間があるわけではない。もし、革命が失敗するのならせめて鉄華団のメンバーだけでも助けてやりたい。それがオルガとの約束なのだから。
俺はもしの事を考えて一人で行動することにした。
しかし、俺の行動はメイデンに見抜かれていた。
「なんでわかった?」
メイデンにそう尋ねると、メイデンはギャラルホルンから横流しを受けたレギンレイズのカスタマイズを済ませながら答えた。
「ここ最近行動がおかしかったから。みんな気づいてる」
無表情で作業すると、奥の方から明楽が頭を下げながら歩いてきた。しかし、問題はその後ろの人物だった。
一番隊から五番隊の隊長クラスの幹部が勢ぞろいだった。
「明楽~てめぇ~!」
「俺の所為じゃないですよ~」
言い訳をするように両手をこすり合わせて謝ってくる明楽よりも俺は幹部にどう言い訳をしたものか悩んでいる。
「面白いことをしているじゃないか。私達も一枚かませてくれ」
「断ったら?」
幹部クラスへの疑いの目線を向ける。
「話が代表に漏れる。なぁに、君のすることに協力をしようといっているんだ。その代り君の事情には決して立ち入らないと誓おう。どうだ?」
俺は悩んでしまう。
断ることは簡単だ。協力したほうが何をするのも楽なのは確かなのだ。しかし、この五人が俺の事情に立ち入らないという保証はどこにもない。
いや、問題はその言葉を信ずるか否かである。
信じてみるか、信じず自分だけで作戦を遂行するかの違い。
少しの間悩んだ末、俺は決断を下す。
「分かった……ただし、俺の事情には決して立ち入らないという事」
「分かっているさ。ここでは聞かれる可能性がある。どこか隠れられる場所に行くか」
そういって移動する俺たちの後ろからソニアもこっそりとついてきていた。
近くの会議室に入って誰にも聞かれていないことを確認すると、メンツを確認する。一番隊の幹部が立った一人の人物に問いかける。
「ソニア、君を呼んだ覚えはないはずだが?」
ソニアはとってもいい笑顔で答えた。
「暇なのよ。それに開発局が総出で手伝うのよ、お得でしょ?」
出ていく気が全くないソニアを無視しようという意見でまとまると、まず俺は自分が知っている限りの情報を開示した。
「数日後にギャラルホルンのマクギリス・ファリドを中心に革命派が動くらしい。ターゲットはラスタル・エリオン。鉄華団のメンバーを含めたメンバーが革命に参加する。どちらが勝ってもいいように動きたい」
本心はラスタルなどどうでもいいが、それをおくびにも口にも出さない。
五人は目の前のタブレットの情報を見ていると、一番隊の幹部が意見を出してきた。
「タービンズという組織にダインスレイヴを使用したというのは本当か?」
「間違いないそうだ。実は記録映像も手に入れた」
俺はオルガから入手したダインスレイヴを使用する瞬間と、その攻撃で輸送船に当たる瞬間が記録されていた。
「証拠映像だな。言い逃れのできないレベルの。だが……ラスタルなら使用する可能性が高いな」
俺はさすがにっと思ったが、他の幹部ですら何度もうなずく姿に俺は嫌な想像をしてしまう。ソニアですら「やるでしょうね」とつぶやく。
彼らはEDM結成時からのメンバーでラスタルを知る数少ないメンバーである。そんな彼らがラスタルなら撃つっと言っているのだ。間違いないのかもしれない。
「でも……確証は?」
俺は確証が欲しかった。すると、一番隊の幹部は重い口を開いた。
「ラスタルの事だ、たとえ自分の悪事の証拠を押さえられても他人の上げ足を取ることで回避するだろう。そんなことであきらめるのであれば、あいつは今の地位に落ち着くことは無かった。もし、マクギリスとラスタルが戦うのであれば、ラスタルにとっては鉄華団という不確定要素が一番不安なはずだ。実際、資料にも鉄華団に何回か後れを取っているようだし、警戒はしているはずだ。確かにアリアンロッド艦隊は確かに戦力が膨大だ、しかし、数が戦力に直接なるわけではない。それは君がよく分かっているはずだが?」
そういわれると反論しにくい。俺達EDMは数の差を質で盛り返すやり方を何度もしてきた。俺達サブレ・チルドレンはそういう戦い方を得意とする。
一機当千、戦略と戦術をもって敵を叩いてきた。それに地の利も重要になってくる。
「そんな不確定要素を一気に叩くことができるのがダインスレイヴだ。モビルスーツのナノラミネート装甲ですら防ぐことができないほどの貫通能力。使えるなら使ったほうがいいだろう?」
しかし、それは使えればという話である。使おうにも使えないのが禁止兵器なのだ。それをあの男はどう使うのだろか?
そもそも、ダインスレイヴを勝手に使用したからこそ追い詰められているのだ。
しかし、そんな答えは簡単に出された。
「マクギリスに使わせればいいんだよ。一発だけ、それだけでラスタルは使用する権利を得る。その為なら自分の部下を殺すぐらいはするだろうな。そして、その一発で状況を一変させる。それぐらいダインスレイヴは魅力的な兵器だ」
信用したくない。そう思う傍らで、説得力のある話でもある。
結局話はラスタルとマクギリスの戦い次第で決めようという事になった。
結局ラスタルがどう出たかというと、彼はダインスレイヴを使用した。それによって、作戦が決定された。
俺は戦艦に乗って火星に他の誰よりも素早く向かうことになった。
会議室に集めたサブレ・チルドレンのメンバーとメアリーとイオリを入れたメンバーで作戦内容を告げることになった。
「まず俺たちの部隊がラスタル陣営が動く理由になるような行動をとる。これは実際の経過を見て判断する。作戦を実行するにあたりギャラルホルン火星支部が手伝ってくれるように今四番隊が交渉しているところだ。俺達はそれの実行役と作戦開始時に敵の目を引く役目をおう」
明楽が手をあげて質問をしてきた。
「何をするんですか!?」
俺は明楽の方にタブレットを投げつける。明楽はタブレットを鼻っ面で受け止めつつ後ろに落ちてしまう。サラが軽蔑を含めた目で見つめ、レオがさらに手をあげる。
「俺達も火星に降りるんですか?」
「ああ、火星で直截戦うことはしないが、何をするにも多い方がいいからな」
ゲームをしているマークははなっから話を聞く気が無いらしく、代わりにサラが気になったことを尋ねる。
「だったらどこで戦うのですか?」
「災いの地。そこで迎え撃つ」
サラが「理由は?」っと訪ねてきたのを俺は事前に話あって決めたことを話した。
「理由の一つがダインスレイヴを封印するという意味がある。さすがに俺達が優秀でも、なん十本も同時に攻められたら勝てない。しかし、ダインスレイヴにも弱点は存在する。なんだと思う?」
サラとレオが真剣に考えるとマークが声を出す。というか、聞いていたのか。
「弾が質量を持っているという事。特殊弾頭は摩擦熱に耐える為に人一倍重力の影響を受けやすい、だったら周囲から重力を発生させられているデブリ帯ならダインスレイヴは効力を持たないから」
「マークの言うとおりだ。だから重力場であり艦隊で戦うことができる『災いの地』で戦う」
重力場があり艦隊が容易に入れるのは『災いの地』だけである。だからこそ、この作戦が成立した。
火星に降りた俺達を待っていたのは鉄華団掃討作戦だった。
一連の戦いが約二時間前の事であり、ダインスレイヴによる攻撃は地響きを響かせるにいたった。
レオはため息すら吐き出し、攻撃の余波にある意味感動すら覚えていた。
「すっごい戦いだったな~混ざりたくないけどさ」
「あなたならいい戦いするわよ。何だったら混ざってくればよかったのに」
サラとレオが言い争いをしている傍らで、メイデンとジョニーとノインは準備に入っていた。
「じゃあ、素早く回収を頼む。アリアンロッド艦隊が地球圏へ撤退している今がチャンスなんだ。せめてガンダムフレームだけでも回収しろよ」
ソニアが欲しがっているっていうだけなのだが、おくびにも口に出さない。
すると、俺の考えを見抜いたようにぼそりとマークがつぶやいた。
「ソニアが欲しがっているだけじゃない?」
渉とジョシュアが追いかけっこを繰り返している中、俺は誤魔化すように二人を注意する。
「お前たちも仕事をしなさい」
「誤魔化したな」
俺はマークから視線を回避するために自ら仕事へと向かっていく。
三十分ほどで回収を終わったが、問題は鉄華団の遺体をどうするかという事だった。
すると、どこから姿を現したのか、老人が現れた。俺はその老人に身に覚えがあった。混乱する周囲に居たいして俺は冷静にその名を呼ぶ。
「初めてお会いしますね。ゲイナーさん。今回はどのようなご用件で?」
ゲイナーの後ろには見慣れないメイドが立っているが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「なぁに、鉄華団の遺体のうちガンダムに乗っておった二人を引き取りたくてな」
困ったことになったな。遺体は鉄華団にこっそり返却することにしていたのだが、どうしたものかっと悩んでいると、サラ達が意見を言い始める。
サラは『反対だ』といい、レオとマークは『賛成だ』といい始めた。
俺は渡すことへのメリットを求めることにした。
「遺体を引き渡すことへのメリットを求めますが?」
「まずは、蘇生治療での貸し借りを無し。もう一つが、鉄華団団長のアリアンロッド艦隊への降伏勧告の記録映像でどうじゃ?」
ここで感じた事はまずやはりという事だった。
オルガはアリアンロッド艦隊に降伏したという事だ。しかし、ラスタルはそれを拒否したのだろう。理由としては鉄華団を滅ぼした方がギャラルホルンの権威を復活できるからとかそういう理由だろう。なのだとしたらその記録映像は俺達にとっては持っていてもいいものだ。
そしてもう一つの感じたことは疑いであった。
しかし、疑っても仕方がないので、ここは聞き入れることにした。こんなことでゲイナーを敵に回したくはない。
「分かった。しかし、ガンダム二機はこちらがもらうからな」
「いいじゃろう。取引成立じゃなコットン、持っていけ」
にこやかに立ち去っていく彼らをしり目に俺は他のみんなに指示を出す。
「ガンダムを積んで上に上がるぞ!作戦が控えているんだからな!」
作戦実行まであと少しというところで俺達はそれぞれの場所で待機していた。
俺と明楽とメイデン以外は各場所で隠れており、サラ達はすでにデブリに隠れており、後はバルバトスとグシオンの修理が終わるのを待つだけだった。
俺と明楽は二人でバルバトスとグシオンの前で待機していた。すると、ソニアが修理と小規模の改修が終わった合図を送る。
明楽はグシオンに、俺はバルバトスに急ぐとソニアは俺に最低限の説明を口に出す。
「いいわね。バルバトスも基本はグシオンと同じようにコックピット周りの取り換えと、システムの最適化、装備などの一新を行ったわ。特にあなたの要望でブースターには力を入れたわ。といってもほとんど入れ替えただけだから改修といってもいいのか疑問になるけどね。装備は太刀を二本、両腕に内蔵式のマシンガン。最後に対艦用のメイスを腰に装備させているわ。装備も最低限だからね?壊さないで帰ってきてちょうだいね」
俺は座席に座ってコックピットへと降りながら「保証しかねる」とだけ答えた。
EDMのモビルスーツシステムには、キーを差し込むことでシステムが起動するようになっている。ガンダム用に改良が進んでいるだけで基本は変わっていないはずだ。
システムが起動すると俺は念のためにメイデンに指示を出す。
「メイデンは最初の攻撃を受けたのちに素早く船を安全圏まで離脱、その後出撃だ。イオリ、あとは作戦開始合図はお前に任せる。合図で各艦隊が作戦行動に移る」
メイデンとイオリから返事が返ってくると、俺は作戦開始まで目をつぶって大人しく待っている。すると、イオリはすぐに作戦開始のカウントダウンを始める。
「敵艦との戦闘可能距離まであと十、九……」
少しづつカウントが進み、一と同時に正面にアリアンロッド艦隊が姿を現した。それと同時にイオリの号令をもって作戦が始まった。
「オペレーションホルンブレイク!開始します!」
戦いは唐突に始まった。
ドカン!というアリアンロッド艦隊からの攻撃を皮切りにEDMは条約禁止による反撃行動に出た。ダインスレイヴによる駆逐を即座に決めたのはラスタルの一存だった。
「ダインスレイヴによる駆逐を行う。総員構え」
ラスタルの号令と共に攻撃が行われるが、攻撃が敵艦隊に当ることは無かった。それどころか四機のモビルスーツ、バルバトス、グシオン、黒いゲイレール、金色のゲイレールが放たれたダインスレイヴの攻撃を弾いたところでラスタルはいやな予想を浮かべてしまった。
ダインスレイヴを回避することは不可能ではない… と言われている。しかし、実際に行動を起こそうと思えばかなりの難易度になる。
それに、敵の戦艦に一度も当たらないというのは明らかにおかしかった。
最初のアリアンロッド艦隊から砲撃が一回だけ当たっただけで、あとはなしのつぶてである。
明らかにおかしい。なによりこの短時間にバルバトスとグシオンを修理して実戦に出せるだけの技術力が相手にはあるという事だ。
しかし、この時のラスタルはまだ相手がEDMだという事には頭が回っていなかった。
ダインスレイヴが通用しないのであれば、もうあとはモビルスーツ隊による駆逐戦に移行するしかない。さすがに四機だけではモビルスーツ隊にかなうはずもないだろう。そう考えていたのはラスタル以外の士官たちだった。きっとジュリエッタやガエリオでさえそう考えていただろう。
実際、四機のガンダムは深追いをするまいととあまり動かない。しかし、その傍らで彼らの長距離攻撃はダインスレイヴ隊に甚大なダメージを与えていた。
「ダインスレイヴ隊はいったん後退。モビルスーツ隊は前進」
ひとまずそういう指示を出すしかないと判断したラスタルはモビルスーツ隊が一定の距離まで詰まったところで、彼らが一定の距離で止まっているもう一つの理由にようやく気が付いた。しかし、時は遅くラスタルの怒号だけがブリッジに響いた。
「モビルスーツ隊を一旦後退させろ!」
しかし、遅く、少し右に離れていた艦のデブリの中から小型のミサイルが大量にモビルスーツ部隊を襲う。
反応したものも多くいたが、彼らが引き金を引く前にミサイルはさらに小さな棒状まで分離、そのまま大きな閃光にも似た熱量を放つ。
ラスタルはそれを見た途端敵の狙いが分かってしまった。
「ナパーム弾?まさか?」
しかし、そんなラスタルの思いとは別にモビルスーツ隊には目立った被害が無いために油断しきっていた。
だからこそだろう、そのままミサイルを放っているであろう艦の元まで機体を走らせる部隊と四機のモビルスーツ隊への攻撃部隊へと別れた。
「一度引いて後続部隊と交代するように伝えろ」
しかし、時は既に遅くモビルスーツ隊の前に赤いレギンレイズが立ちふさがった。両手に装備した小太刀のような武器でモビルスーツを簡単に切り裂き、熱が通ったワイヤーが一瞬で大量のモビルスーツを切断する。
「どういうことだ!?なんでこんなに簡単に?」「いくらナノラミネートアーマーだからって!?」
モビルスーツ隊の混乱をよそにラスタルはその答えを口にした。
「先ほどのナパーム弾でナノラミネートアーマーを弱体化させ、簡単に切断しやすくしたんだ。あの状態では通常のライフルでさえ致命的だ」
すぐに後続部隊が手助けに入ろうとする。しかし、それすらも敵の思惑の上で会ったことはすぐに理解できた。
後続部隊がある程度モビルスーツ隊に近づいたところでさらにナパーム弾が別方向から姿を現した。それもほぼ真後ろからである。
そして、さらに現れたそっくりに作られたグレイズが二機、お互いを結ぶようにワイヤーで結ばれている。そのワイヤーもまたあっという間にモビルスーツをニ十機ほどあっという間に落としていく。
黒いゲイレールが後方からレールガンで援護しつつ、敵の船から現れた新しいレギンレイズがゲイレールに近づきそうなモビルスーツをあっという間に落としてしまう。
ラスタルの脳裏に最も嫌な予想が現実になりつつあると思っていた。
「今回の相手は……EDMの可能性が高いな。なら今ここで撤退しておかねば」
そう思い撤退の指示を出そうとしたところでラスタルはガエリオとジュリエッタに撤退までの間、時間を稼いでもらえるように頼む。
そして、ガエリオ達が出撃したタイミングで艦隊の一部をいつでも撤退できるように後退させる。
ガエリオとジュリエッタがそれぞれバルバトスとグシオンと戦っている間にそれは唐突に現れた。後退していた艦隊の前にEDMの主力艦隊と主力モビルスーツ艦隊が囲む形で姿を現した。
ラスタルはまずいという気持ちにかられ、艦隊ごと正面を突破する作戦を取ろうとする。艦隊を後方の敵もビつスーツ隊に押されたことも重なり、艦隊事部隊を戦場に近づけたところでさらに敵艦の後方から艦隊が姿を現した。
「囲まれたか……」
全て敵の作戦通りに進んでいたことにようやくの思いで気が付いた。ここに誘い出された時点で全て敵の思惑通りに進んでいた。
ガエリオとジュリエッタもバルバトスとグシオンの前にあっという間にとらえられてしまった。そこで、バルバトスとグシオン、金色のゲイレールがラスタル達艦隊までたどり着く。
バルバトスがラスタルの艦隊に近づこうとしたとき、部下の一人がおどおどとしながら報告を上げる。
「ラスタル様。鉄華団とEDMの関係を調べていたのですが……つながりがありました」
「なんだ?」
「EDMの幹部と鉄華団の死亡者に共通の性を見付けました。EDMの幹部の名前は『サブレ・グリフォン』で鉄華団の方は『ビスケット・グリフォン』です。そして……その二人の親代わりになっている者の名前がマハラジャ・ダースリンです。マハラジャ・ダースリンと二人は親戚関係だという事です」
ラスタルは歯噛みするしかなかった。そこに気が付いていれば、少なくともEDMが動くかもしれないという事には考えがたどり着いたはずなのだ。
そう考えたときにはバルバトスは正面に辿り着いた。
ラスタルは最後のあがきをすることにした。
「敵パイロットにつなげてくれ」
すぐさまつながった敵パイロットはあまりにも若かった。怒っているような表情を浮かべ、こちらをある意味軽蔑しているような目をしている。
「交渉をしたい」
「は?交渉?出来ると?」
士官の一人が立ち上がり怒鳴り散らす。
「貴様!ラスタル様になんていう。貴様達なんかギャラルホルンの総力をもってすれば駆逐なぞ簡単なんだぞ!」
そんな脅しには全く耳を傾けないサブレは脅しに脅しで返した。
「お前達の条約違反行動なんてこっちには腐るほど存在するんだぞ。それに、駆逐しようと思えばもっと手段だってあったんだ。むしろこちらはそちらにチャンスを与えてやったつもりだぞ」
そういいながらオルガ・イツカの降伏勧告を拒否する映像や、マクギリス・ファリド艦隊から放たれたダインスレイヴを撃ったモビルスーツパイロットの記録がアリアンロッド艦隊所属である証拠や、タービンズに対する過剰攻撃、そのた諸々の証拠映像の数々。
言い訳のしようもない。
「お前たちは降伏をしようとした彼らを無視して、違反兵器を無断使用した。許してはいけないことだと思うが?どうなんだ?ラスタル」
ラスタルには彼の目がある一筋の光をともしていることに気が付いた。
同時に感じた違和感の正体にも気が付いた。
そうだ、彼等にはラスタル達を殺そうとすればいくらでもできたのだ。殺した後に諸々の証拠を経済圏を通じて世界に発表すればギャラルホルン解体は簡単だった。
ラスタルは自分達が試されていることに気が付いた。同時に、彼が自分の中にある憎しみを押さえ、世界の為に、同時に守りたいものをちゃんとした考えで行動しようとしていると気が付いた。
怒りは自分への怒り、軽蔑はラスタルへのものだ。
ラスタルには戦い始めたところで降伏することもできた。いや、それが本来彼が取るべき行動だったのだ。
しかし、それでもサブレは信じた。ラスタルが考え直してくれることを祈り、同時にそれを待たなければいけない自分に怒りを現した。
ラスタルはここにいるみんなを守る為に膝を折り、両手を地につけ、土下座をする。
「どうか、ここにいる皆を助けてやってくれ」
その後、サブレの一声で戦いを収束した。
今回のエピローグ
あれから一か月がたち、EDMとギャラルホルン間の不平等条約は無事、制定された。俺達は各地で引っ越しの作業やアルン建設に大忙しになっていた。
家で朝食の為にスープを作ったり、スクランブルエッグを焼いたりしながらサラと連絡を取り合っていた。
「半年後には完全に引っ越すつもりで動いてほしいそうです。でも、よかったですね。無断行動については不問に付すという形になって」
「まあ、謹慎ぐらいは覚悟していたがな」
オルガの望み通り、鉄華団のメンバーは無事、ID書き換えを終え火星に戻っていった。彼らを守った以上もう、俺には彼らを庇ってやる義理は無い。
「鉄華団のメンバーも無事なようですし、これで一件落着ですかね?」
「どうかな。木星圏でも相変わらず不審な動きがあるようだし、これまで以上に油断できんだろう。EDMは今後ギャラルホルンから譲歩されたエイハブ・リアクター生産所を最大限利用して量産モビルスーツを生産するだろうな。それも大量に」
スクランブルエッグを皿に盛り、厚切りベーコンを今度は焼き始める。
サラは鬱陶しいような表情を受けべる。
「鬱陶しい限りですね。みんな大人しくしていればいいのに。まあ、こちらでいくつか仕事を持っていますから来てくださいね」
「へいへい……じゃあな。あっ!?」
パンを焼こうと棚を調べたところでパンが無いと気が付いた。
「買いに行くしかないか……」
近くにパン屋があったはずだから食パンを買ってくるしかない。
連絡用に使っていたタブレットの画面表示を『鉄華団の処理』という資料に変えておく。朝食を食べながら見る予定だったし。
俺は時間を確認するためにスマートフォンの画面を付けつつ、ドアに手を掛けて外に出ていく。すると、オルガとの着信履歴が真っ先に目に移ってしまった。
俺はドアを閉める前に俺はオルガとの証拠を全て削除した。
『俺との関係はみんなには話さないでくれよ。お前に支えられたって気づいたらあいつらはショックだろ?俺はあいつらの前ではかっこいいオルガ・イツカでいたいんだ』
約束は守るよ、オルガ。
これで俺とオルガは完全に関係は無かったという事になる。思い出はあくまでも俺の中だけだ。
誰にも語らない。
俺はドアを閉め、鍵を掛けながらそう誓った。
これは誰にも語らない話。
血が固まり、鉄のように固まった絆の物語。でも、その物語を俺が語ることは無い。
そして、一日が始まる。
さあ、物語を始めよう。
どうでしょうか?面白かったと言っていただけたら幸いです。基本はEDM対アリアンロッド艦隊戦のお話がメインです。正直、サブレ視点で話だったと思います。次回はビスケット視点の過去編になります。ちょうど今回のエピローグの直後からのスタートになると思いますのでお楽しみに!自分的にはもうちょっと戦闘シーンにこだわりたかったんですが、これ以上文字数を増やしたくなかったのです。
次回のタイトルは『その涙は誰の為に』になります。お楽しみに!