ビスケットの家の玄関が開き、中に多くの人が流れ込むようにはいってくる。しかし、入ってくるメンバーの中にビスケットはいない。
ビスケットは墓での再開の直後に本部からある伝令を伝えられ、サブレと共に本部へと向かってしまったからだ。
タカキもアルン議会に呼ばれて一旦別行動をしていた。
そして、サブレ・チルドレンのメンバーの殆ども興味を失ったかのように別行動、現在残っているのはシノと明楽だけだった。
クッキーとクラッカやユージンですら表情はあまりよくない。本来ならビスケットの家を堪能するところであるが、「木星帝国の火星侵攻」という悪いニュース、火星に残してきた鉄華団の元メンバーやクーデリア達、そんな仲間たちが心配だというクッキーとクラッカやユージンに対して、アトラや桜は意外と落ち着いていた。
シノはそんなアトラと桜に素朴な疑問を尋ねる。
「二人は心配じゃないのか?」
そんな質問に対して桜が真っ先に答えた。
「まあ、心配したってしょうがないしね」
そんな淡白といってもいい答えに対し、アトラも自然な表情で答えた。
「きっと大丈夫だよ。それに、私達が騒いでも仕方ないし。みんな~お茶だよ」
そういって桜と二人で淹れたお茶をテーブルに置き、それぞれに配る。
みんなが気が気でないような時間が二時間だけ続くと、玄関のかぎが開き、中に入ってくる人物が三人。
真っ先にタカキが、続いてビスケットにサブレが入ってくる。その後、激しい音と共にクレアとそれを追いかけるレレが入ってくる。二人はサブレの周りをくるくるしながら追いかけ合いをしている。
「あのな、いい加減にしてくれないか」
困った表情で立ち尽くすサブレに、追いかけられながら微笑むクレア、必死な表情で追いかけるレレを微笑ましく見守るビスケットという微妙な空気を周囲にいる深刻な空気を纏う人達に襲い掛かる。
どうしたらいいのかというユージン達にアトラがビスケットの袖を引っ張りどうなったのかと尋ねる。すると、ビスケットは真剣な表情を浮かべる。
「どうも火星に木星帝国が侵攻したのは事実みたいだよ。クーデリアさんの安否は不明だけど、議会がテロにあった時、誰かと一緒に逃げる姿を目撃されているみたいだから、多分無事だと思うよ。現在火星連合の議長はテトラ・ギュウジャンという女性だそうです」
ギュウジャンという名前に反応したのはユージンとシノ、アトラ、タカキだった。
「ギュウジャンって名前に心当たりがあんだけどよ」
シノの言葉に三人は同意する。ビスケットだけが首をかしげて疑問顔を作る中、全てを知っているサブレがクレアにいじられている間にレレが答える。
「おそらく、皆さん鉄華団が対峙したテラリベリオンの代表の人ではありませんか?アリウム・ギュウジャン」
「「「ああ!!あの人か」」」
「忘れてたんだね、みんな。自分達が殺した相手を」
すっかり存在を忘れていたシノたちは半分照れつつ、ビスケットは呆れ顔だった。しかし、ビスケットはレレに「よく知ってましたね」っと聞くと、レレはさも当然のように答えた。
「サブレの家に泊めてもらっているときに鉄華団の活動報告というレポートを確認させてもらったのですが、その中に夜明けの地平線団との戦いの経緯が書かれていたので」
シノと明楽が「泊まった」という単語に反応し声を上げようとした瞬間に、ビスケットからあからさまな黒い怒りのオーラを放ち始めた。
その怒りの矛先がシノ、ユージン、タカキに向けられていることがなんとなくわかってしまった三人はその場で黙って正座した。
「どういうこと?夜明けの地平線団との交戦って?」
「えっとなんといいましょうか」
明楽がサブレの後ろで怯えている中、ビスケットはその場で三人に説教が始まった。サブレはクレアと明楽をめんどくさがって対処していながらビスケットの代わりに答えた。
「ここからはEDMの判断だが、テトラ・ギュウジャンはおそらく木星帝国の幹部か、それにあたるメンバーではないかという判断だ。それ以外にもそれらしいメンバーが目撃されている。それでだ、クレア。この写真の束の中に木星帝国の幹部は何人いる?」
クレアは渡された写真を見ると、テトラ・ギュウジャンを含めて四人を選び取った。
「左端のテトラ・ギュウジャンを覗けば、隻眼のテラ、この優男っぽいのがFでピエロっぽいのがペペロです」
「四人か……多いのか、少ないのか」
「多い方でしょう。少なくとも、幹部が四人も作戦行動に参加しているとは聞いたことがありません」
クレアは珍しく真剣な面持ちを続けている。その表情が事の深刻さを現していることはサブレがよく分かった。
「それに……テラが出てきているなんて」
「有名ない人物か?」
「ええ、木星帝国のナンバー2です。モビルスーツにこそ乗りませんが、生身による白兵戦では最強だといわれています。ただ……彼の右目は唯一、白兵戦で負けた証だそうです。彼曰く「鬼神のような少年だった」とのこと」
鬼神のような少年という言葉に引っかかったのはサブレ自身だった。それに、彼には右目を潰した人物に心当たりがあった。
かつて、十三年前に彼は海賊を襲った際に右目を潰した相手がいた。
しかし、ここでいうべきことでないと判断し、口を紡ぐ。
そんなことをしている間にビスケットの説教が終わり、一通りの静寂が場を襲う。そんな中ビスケットの一言に反応したのはサブレだった。
「まったく、昔モンタークとして接してきたマクギリスさんを信用する時点でどうかと思うけど、全く……」
サブレは「モンターク?」と呟きながらある一つの道を模索し始めていた。
あれから一か月がたち、クッキーとクラッカはフウカと共に海洋大学という大学の入学説明会に参加しており、アトラはビスケットからの勧めで、クレアと共にファントムブラット隊の給仕係に任命され、タカキも議会に参加で忙しくしていた。ユージンも新しい会社をビスケットの手助けで立ち上げた。その名も「鉄華宅急便」という何ともギリギリの名前を使っていた。
ちなみにその名前を聞いたときの兄であるビスケットを含めた元鉄華団メンバーは苦笑いを避けられなかった。兄に関しては「それはどうなの?」っと突っ込んだほどである。
そんな中俺はある情報を探して日夜データーベースを検索していた。
「モンターク」という名前を探し出して。
そして、一か月たち、ある情報と道具をもってアルン刑務所への階段を下りていく。
俺の後ろにはメイデンが付いてきている。本来であれば目立とうとは思わないメイデンはこの一か月の調査について口をはさむ。
「で?モンタークの調査結果は?」
「マクギリス・ファリドが別名義で活動するさいに使用した名前だった。モンターク商会という名前を使って当時の鉄華団に接触していた」
「でも、それならマクギリス・ファリドが亡くなったのちに会社として終わってそうな気がするけど?」
「いや、それが……その後はトド・ミルコネンという人物が一年前まで代表を務めていた」
「一年前?という事は……戦争が始まった前後位?」
「いや、その直前だな。ちなみにトド・ミルコネンは行方不明になっている。その際に調査の手が入っている。さらにちなみにだが、その二か月後に身元不明の死体がインド洋の海岸で見つかっている。死後かなり経っており腐敗がきつかったために身元不明で処理されている」
一連の説明を聞いたメイデンは表情を引きつらせていた。メイデンは「それって……」といいつつドン引きをやめない。
やめてくれよ、説明している俺も嫌なんだから。
「殺されたってことだよな?それも……状況からしたら……木星帝国?」
「そういう事だな。多分アイン・ダルトンが関係していると思うけど……もしかしたらアルミリアかもな。彼女からすれば、マクギリスの後に我が物顔で会社を使われていること自体が不愉快だろうし」
階段が終わり刑務所の外周を歩いていると、牢屋の中にいた元ギャラルホルンのメンバーの罵詈雑言が俺にむけられる。
癇に障る野郎共だな。
思いっきり牢獄を蹴り、怒鳴り声をあげる。
「てめぇら!!負けた時ぐらい大人しくしろや!死刑にされないだけましだとおもえよ!!それとも全員死刑にしてほしいってか!?」
「どこのやくざだよ」
メイデンからのツッコミはめんどくさいので無視するとして、俺は反抗する気が失せたギャラルホルンのメンバーにもう一度睨みつつそのまま中心のエレベーターまで距離を詰めていく。
「それで?これからどうするんだ?」
「あの男に再起してもらう。そうでなければ償うという事にはならない」
生きて償わせる、それがあのガエリオ・ボードウィンにしてほしいことだ。
そう思い、エレベーターで下へと降りていく。
あっという間に最深部に辿り着くと、そこには一つの牢獄が真っ白な外壁を明かりで明るく照らしている。内装が多少変わったというのは聞いていたが、本当だったか。
俺は鍵を牢屋の外で待機していた職員から受け取ると、メイデンと共に中に入っていく。
牢屋の中には拘束衣を来たガエリオ・ボードウィンが椅子に座っていた。
いつからだろう。ガエリオ・ボードウィンの事を腹立たしく感じ始めたのは。初めて会ったのは災いの地での決戦の時だったが、その時だって別段話したわけではない。しかし、当時から彼に対してイライラしていたのは事実だ。
何に対してのイライラだったのかがはっきり分からなかったが、分かったことは……彼の態度に対してだったのだろうことだけは分かった。
その後も、彼の事を間接的に聞いていく間に彼に対してのイライラは増していくばかりだった。
そのことをはっきりと理解したきっかけは彼を捕まえる時の彼の表情からだった。
俺はあの情けない顔を見たとき、殺したいではなく、哀れだとすら思った。
だから殺さなかった。
殺してしまうのは簡単なことだ、しかし彼の為にはならないだろう。何より、俺自身は納得できない。
そんな時に、モンタークの名前を聞いた。
これなら彼の償いになるかもしれないと思ったからだ。仮面をもって彼の元へと行く。もしかしたら、仮面も彼の元に行きたがっていたのかもしれない。
ガエリオ・ボードウィンの前に立ちふさがり、落ち込んだままの彼に殴りかかりたい感情を抑え、彼に語り掛ける。
「久しぶりだな。ずいぶん情けない表情でおとなしく投獄されていると聞いている」
「君か……情けない表情…ね。そうかもしれないな」
そんな姿を見ても何とも嬉しくない。
あんたに再起してもらわなければならないんだ。
「マクギリス・ファリドを裏切った自分への思いからの落ち込みか?それとも自分がかわいそうだからか?どうなんだ?」
その辺ははっきりしておきたかった。
「両方かもしれないな」
「後半の方なら殴りたくなるが」
はっきり言ってやった方がいいのかもしれない。俺の考えをこいつに伝えよう。まずはそこから始めるべきだ。
「兵士としてでも、たとえそうでなくても、一度銃の引き金を引いた以上、引いた人間は責任を取るべきだ。そこから逃げることは不誠実だ。そうだろ?引き金を引くという事は命を奪う事だ。奪う命に責任を取ること、それは人として大切なことだと思うが?アンタはどうなんだ?奪った命に責任を取っているか?」
そういわれてガエリオは顔を上げる。
「よく分からない。多分、そんな重要なことだと思わなかったんだろうな。家柄上、ギャラルホルンに入ることは義務化していた。セブンスターズの子となれば自然と周囲から期待もされる。それに、ギャラルホルンは俺の頃には既に経済圏の平和を維持する組織としての義務感もあった」
「それを義務感って言葉でかたずけないでくれ、それは逃げているだけだ。義務感や家を言い訳の道具にするな」
きっと俺は真剣な視線を向けているだろう。
「どんな理由があったにせを、銃の引き金を引くことへの言い訳にしてはいけない。あんたが殺した相手を考えろって言っているわけじゃない。せめて、殺した分だけ誰かを助けられるようにしろって言っているんだ」
真摯に真剣な表情で語り掛けてみる。
「そうだな……俺は逃げてきたんだ。殺すことの意味も考えないようにした。友人の気持ちすら」
俺はモンタークの話を口にする。
「あんたがドルトの作戦に参加している際に、マクギリスはモンタークの名を名乗ってクーデリア・藍那・バーンスタインに接触している。きっと、アンタが黙って行動しなければ彼はあんたには真実を告げたんじゃないのか?カルタ・イシューだってそうだ。あんたの因縁に巻き込んで、いざとなったら彼女を見捨てた。いざっという時にまるで役に立たず」
傷に塩を塗り込む行為と分かっているが、これだけははっきりさせておきたい。
「あんたは周囲の事を考えているようで自分の事しか考えていない。それどころか、周囲の事を考えていると勘違いすらしている。いいか?」
いいか?分かっているのか?
俺ははっきり告げよう。
「人は生きる限り一人だよ。だからこそ、他人のぬくもりを感じることができるんだろ?手を握った時感じる体温、話すことで相手に傷つけられることもあるだろう。だけど、人と話すことでしか人は本当の意味で気持ちを伝えることができるんだよ。自分だけ傷ついたふりをするな。自分の中だけで完結させるな、どうせ傷つくなら誰かに話してみろよ。あんたのそれは自分の事を他人の事としてしか処理できていないんだよ。マクギリスに裏切ら事への怒りを周囲への裏切りへと解釈することでしか行動できなかったんだろ?その時にもっと他の誰かに相談できていたら変わったんじゃないのか?自分の中で完結させるな」
きっとこの人に必要だったのは教えてくれる人間だったのだろう。信じることと、自分の気持ちを伝えることは別だと。自分の気持ちを伝えないで他人を信じるなんて愚かなことだ。
「一人……か。俺は自分の中でしか完結できなかったんだろうな。もしもう一度チャンスがあれば……」
本来の予定と大きく違ったが……ここしかない。
そう考えた俺はメイデンがもっていたある道具を取り出し、ガエリオに二つの選択肢を選ばせる。
「選択肢は二つだ。まず一つ目、ここで一生後悔と懺悔で過ごす。二つ目が……」
俺はある道具ことモンタークの仮面を取り出す。カツラと一体になった顔上半分を隠すための仮面。それを突き出す。
「モンタークとしてこれからの一生を償いの為に生きる。でも、誰かがあんたを信用してくれるわけじゃない。あんたが余計なことをすれば俺が直接殺しに行く。そう思いながら生きるんだ。あんたはどうする?」
「俺は……」
ガエリオの選ぶ道は………茨の道だ。
今回のエピローグ
「で?結局お前はどこまで読んでいたんだ?」
あれから数日が経ち、開発局の格納庫の一つの前にある廊下で俺はメイデンに話しかけられた。
どこまでって……どちらかといえば行き当たりばったりで話を進めたんだけど。本来立てた計画通りには全く進まなかったし……。
「別に……ただ、モンタークが火星に先に行ってくれればラッキーぐらいの感覚だっただけだ」
俺の本心まで話すつもりは無い。ただ、傷ついた顔になっていることが気に入らなかったなんて口が裂けったって言えないしな。
メイデンはまるで本心が分かったように身を引いた。
ある人物を待っていると、それは開発局長のソニアと共に現れた。
顔の上半分は全体的に金色の金属、黒いラインが伸びている仮面。仮面からは銀髪のカツラが付いている。服装はスーツを着ており、少なくとも今から宇宙空間に向かう人間の服装ではない。
「初めましてだな。モンターク」
あくまでも初めましてなのだ。彼はもうガエリオ・ボードウィンではない。ここにいる人間はモンタークという別人なのだ。
そういうことにしておく。
「さて、モンタークさん。この奥の格納庫にあんたが昔使用していたグリムゲルデを改造して作ったガフェイン・マークⅡがあるよ。好きなように使って。うまくいけば火星まで一日で行けるはずよ。失敗したときのことは……分かるでしょ?」
この時のソニアの笑顔は怖い。
モンタークは「分かっている」っとだけ答えると、むしろ機体をくれることへの感謝の言葉を告げる。
「感謝する。俺もこれで戦える」
気になるな。そう思ったところを指摘する。
「俺じゃなくて私の方がそれっぽいと思うけど?」
「そうだな……じゃあ、そうしておこう。ありがとう、君にも世話になったな」
「何のことだが」
俺はそっぽを向き、何のことやらと無視する。モンタークは口元で微笑みながら歩き出す。ゆっくりと開かれる扉の向こう側には紫色の機体事『ガフェイン・マークⅡ』が鎮座している。
ソニアは最後の連絡とばかりに武装などの説明をする。
「この機体も基本は一体式のエンジンを組み込んであるからよっぽどのことが無ければ補給の必要はないわ。武装は両腕に内蔵式のビームマシンガン、に四肢の先にそれぞれビームサーベルが内蔵してあるわ。基本は武器を持って戦うことは無い。全部内蔵式の武器よ。そういう意味でも、完全な意味で補給の必要もない機体ってところね」
ソニアの表情はドヤァって感じのドヤ顔になっている。
この「どうよ。わたしってすごいでしょ?」みたいな表情。ものすごくイラっとする。歳が大きく離れてさえいなければ殴っているところである。
「感謝する」
そういって機体に乗り込んでいこうとする彼にもう一つある物を渡す。
モンタークは疑問を持ちながらそれを受け取る。
「これは?」
「マクギリス・ファリドがモンターク時代に持っていた写真だ。経済圏が保管していたのを俺がもらってきたんだよ。ガエリオ・ボードウィンやカルタ・イシューと一緒に写った写真だ」
彼はどう思ったのか、微笑みながらそれを握って機体の中に入っていく。
俺はそれを黙って見送る。
俺だけだったんだな。信じていなかったのは。
写真をよく見える位置にはさむように置き、俺……いや、私は操縦桿を握る。
「マクギリス。カルタ。俺にもう一度力を貸してくれ」
アインを本当の意味で救ってやるためにも。たとえ、その結果が殺すことになっても……私は知らない誰かを救っていたいんだ。
君を救えるだろうか?サブレ・グリフォン。
私を憎みながら、私に道を示してくれた。
きっと殺したいほどに憎んでいたはずだ。
私も進むべき時だ。あの頃から止まった時間を動かそう。
「ガフェイン・マークⅡ!モンターク!行くぞ!」
進むべき場所はまだ見えない。
どうだってでしょうか?面白かったと言っていただけたら幸いです。ガエリオ・ボードウィンの未来をどうするかは書き始めるギリギリまで悩みました。というのも、いくつかあった案の一つでは彼がラスボスの予定でしたので。しかし、ガエリオの実力ではラスボスにはなれないなっと考えましたね。結果からすればサブレに示される道を選び、その先を自分で決めていくという結果になりました。これからも彼は物語に関わってきます。もしかしたら三日月とのダッグもあるかもしれませんよ。お楽しみに!
次回のタイトルは『鉄の華はいまだ散らず』です。お楽しみに!