1
アカシックレコードなる存在を簡単に説明すれば、宇宙が誕生してからのすべての事象、想念、感情が記録されているという世界記録の概念の事であり、過去に起きた全ての出来事を記録しているとされている。
そんな存在が実際にあるとは思わなかったし、あるとしても俺とは一切関係の無い事だと思っていた。しかし、そんな存在が外部端末を介して俺に接触をもってきた。
アカシックレコードと名乗る存在の外部端末として自身を紹介したPN01、彼はいわゆるアンドロイドであり、機械であり、ロボットである。
その存在理由はある計画を遂行し、その経過をなるべく自身の手を銜えない形で行うことが理由であるらしい。
しかし、それはあくまで「なるべく」であり、「絶対」ではないのだ。
実際彼は地球での戦いに介入したらしいし。
そんな存在が俺に何の用があり、何を目的に存在しているのか分からなかった。そもそも、俺自身はそんな存在に興味はなかったし。
しかし、彼が放つ一言は俺を……嫌、俺達を否応なしに渦中まで導こうとしていた。
あらゆる戦いが犠牲と間違いを誘う戦い。
誰も目を背けることは許されず、誰もが運命という名の残酷な存在に挑まなければならない。
火星戦役が始まろうとした。
話は火星戦役が始まる少し前から始まる。
俺がPN01と接触するところから始まる。
2
俺、ビスケット・グリフォンはみんなと娯楽施設を詰め込んだコロニーに遊びに来ていた。
先日完成したばかりのこのコロニーはあらゆる娯楽施設がそろっており、今日はその初日にして、プレオープンという事もあり、関係者などを含めた限られた人間が呼ばれている。
本来であれば、出資者である『マハラジャ・ダースリン』が来るはずであったのだが、火星侵攻の部隊編成の最終チェックがあるという理由から参加できず、ちょうど火星侵攻前の休暇が取れた俺達兄弟とユージンや明楽達サブレ・チルドレンのメンバーが代わりに行くことになった。勿論、クレアさんやレレさん、アトラや暁たちなんかも参加することになった。
しかし、そんな俺の表情はいまいち晴れない。
別に火星進行が不満だとか、不安だという理由ではない。単純にマハラジャさんがもっていたチケットにしては数が多すぎる気がするのだ。それもきっちり人数分を持っているのだ。不安という言葉以外に言える言葉を持たない。
何かを隠しているという確信に似た感情を覚え、俺は受付を超えたところで提案した。
「おのおの自分で行動しない?三つもフロアがあるし、全員で一か所を同時に移動していたら邪魔になっちゃうし。俺も用事があるから別行動するし」
そう言うとクッキーだけが怪しんでいたが、ほかはおおむね了承を得られた。というのもほぼ全員の意見が全く違うものだから不満が残る残る。
そう言う言い訳をしたのち、サブレも「俺も用事がある」といって別行動をし始めたのをきっかけにみんながそれぞれの所に移動したところで俺は別の場所に移動するふりをしてサブレを追いかけることにした。
サブレは遊園地フロアに移動すると、そのまま人込みをかき分けながら人の入らないような狭い通路に入る。その後、関係者以外立ち入り禁止と書かれた看板を超えてさらに奥へと移動する。
無論俺も看板を超え、あとからついていくと、サブレは一番奥の通路に辿り着いた。
一番近い角から覗き込むようにしていると、サブレの他にもう一人いることに気づく。
スーツを来た銀仮面のように見える男(?)とサブレが互いに向かい合う形で立ち尽くしている。
銀仮面の男を俺は知っている。コロニーですれ違った人に違いない。あの時と服装がかすかに違うが、それでも特徴的な仮面はよく覚えている。
「私は一人で来てほしいと告げたはずだが?」
ばれてる!?
銀仮面の男はそうサブレに告げるとサブレもサブレで表情を一切変えずに帰す。
「勝手についてきただけだ」
こっちにもばれてる!?
出てしまうか、それでも隠れているか悩んでいると向こうから声がかかってきた。
「いい加減出てきたらどうだ?兄さん」
サブレからそういう誘いがかけられ、あきらめたように出ていく。
「で?どうするんだ?邪魔だっていうならひとしきりお仕置きした後にどこかに閉じ込めるが?」
閉じ込められるの!?
どこに?どんな風に?
そんな嫌な予想に相手はすっかり黙ってしまった。
これだとまるで俺が怒らせてしまったみたいだ。しかし、相手はそんな俺の予想を無視するように意外な答えを出した。
「別に構わないと上から許可が出た。ただし、ここでの話は他の人間には他言無用だ」
上から許可が出た?特に連絡を取り合っていた風には見えないけど?
そんな俺の疑問にサブレが「互いに自己紹介が必要だと思うが?」っと提案した後、律儀にもサブレから名乗り始めた。
「サブレ・グリフォン」
サブレが名乗ったのなら俺がしないわけにもいかない。
「ビスケット・グリフォン……です」
「PX01……アカシックレコードの外部端末だ」
外部端末?まるで機械みたいな言葉を選んだな。っと思ってしまうとサブレが「なるほど」っと何かに納得したような声を出す。
「それでさっきから違和感のある波長を出していたのか。あんた……機械なんだな?」
サブレの素っ頓狂な問いに空いては声のパターンを一切変えることなく答えた。
「その通り。私は機械。アンドロイドだ」
3
そもそもどうしてこんなことになったのかというと、そもそもサブレチルドレンのメンバーやメアリー姉妹達と一緒に最後の休暇をどうするかと悩んでいるときだった。
明楽が一人で「テーマパーク・コロニーで遊びたい!!」っと駄々をこねていたところからが事の発端である。
メアリーが「鬱陶しいわね」っと本気で嫌気がさしていたのを俺が一人聞いている、俺はそのとたんにいい事を思いつき、それをメアリーに耳打ちするとメアリーもいい感じの悪い笑顔を浮かべる。
メアリーはおなかを触りながら明楽の方をちらりを見る。
明楽は一旦首をかしげてこう告げた。
「おなか減ったの?」
メアリーの額に血管が浮かんだ気がするが、ここは我慢とばかりにグッと感情を抑える。
「違うわよ……アンタとの子が私のおなかの中にいることが分かって」
俺以外の全員の空気が一旦凍り付き、イオリと明楽以外が冗談だと理解するのに5秒ほどかかると、イオリは驚きを、明楽はドン引きしていた。
いや、お前……ドン引きって。
「俺はお前の事好みじゃないのに!?」
そういう問題なのだろうか?
っというか、子供ができたという話を聞いて真っ先に言うべき言葉がそれなのか?ふつうは「いつの間に!?」っとか、「俺記憶にないのに!?」っとかいう反応をするべきじゃないのか?
すると明楽は余計な一言を放つ。
「大体貧乳はそこまで好きじゃなぐへ!?」
「どういう意味よ!?私が予想した反応とは別の反応をするんじゃないわよ!」
明楽の首を絞め持ち上げるメアリー、明楽の体が地面から微かに浮かんでいる。
少しづつ明楽の顔が青くなっていく、酸欠になりかかっているようにも見えるが、そんな隣でイオリは涙を流しながら悲しいのか嬉しいのか分からないような複雑な表情をしている。
「おね、お姉ちゃん……そんなぁ」
「ちょっと!あんたまで本気にしないでよ!!」
とたんに明楽が解放され、全く状況が飲み込めずにいた。そんな明楽にシノから一言。
「嘘に決まってんだろ?お前が鬱陶しいから騙しただけだっての」
明楽はそれを聞くと心からホッとしたのか、最後にして最大の地雷を踏んだ。
「よかった。貧乳と結婚して娘まで貧乳なんて嫌だなって思ってたんだ」
性欲に忠実に生きているなお前は。
メアリーはイオリを説得し終えると、最後にして最大の怒りを明楽の顔面目掛けて拳に乗せておくる。
「誰があんたなんかと!!!」
拳がめり込む様子が見えていて。そんな光景に笑いが込み上げてくると、俺のスマフォに見たことも無いアドレスからのメールが届いた。
迷惑メールか?
明楽やシノが良くアダルトサイトで引っかかるため、時折被害がここにいる全員にまわることがある。そのたぐいかと思ったが、明楽やシノは大概引っかかったら何か言ってくるはずだ。それが無かったという事は迷惑メールではない可能性が高い。
恐る恐るメールを開くとそこにはこう書かれていた。
『君だけと話がしたい。テーマパーク・コロニーで待つ。チケットはそちらに添付させてもらった』
っと書かれており、確かにメールに大量のプレオープンチケットが添付されていた。
怪しいと思う手前、無視する理由が見当たらない上に、うるさい明楽を黙らせる道具を手に入れたのだからむしろ相手には感謝しなければならないだろう。
そう思い俺は全員に提案することにした。
「テーマパーク・コロニーにいくか?」
それがきっかけだった。
4
目の前にいる人は自らを機械だと言い切り、俺はそれを唖然としながら聞いていた。肝心のサブレの方は特に動揺することも無く、むしろ「だろうな」ぐらいしか思っていないように思える。
先ほどからの話し方を見ていると機械だとは思えない。いくら人を模しているとはいっても、限界があるように思える。
「私の人格は死んだ人間の脳をコピーすることで完成する。この体の人格は『オルガ・イツカ』と呼ばれる者を使用している」
オルガの人格?通りで誰かに似ていると思ったが、オルガを模していたとは。
サブレは特に動揺することも無く、普通に聞いていた。
「で?俺を呼び出した理由を聞きたいんだけど」
「私は君にある伝言を伝えるために来た。その前にアカシックレコードが何なのか、何をしているのかを君に語らねばなるまい。それでなければ伝言の意味がない」
そういって一旦間を置き、語りだす。
「アカシックレコードとはある二人の男女が作り出した宇宙の歴史を記録させる記録媒体であり、人類が宇宙に上がってから作られた存在だ。その製造年は軽く二千万年を超える」
二千万年!?途方もなさ過ぎて全く予想もつかない。
「今から九百万年前にアカシックレコードが地球の歴史の観測をしていた外部端末である私の元を訪れた。アカシックレコード本体は長年の間、永久に記録を取り続けることができる記録媒体を探していた。そんな旅も終わりを告げ、地球の歴史を回収するために現れたアカシックレコードに一人の人間が通信をしてきた。それが『イオリア・シュヘンベルグ』だった」
イオリア・シュヘンベルグという人物に聞き覚えは無いが、九百万年前という途方もない年数を考える気にもならない。
「彼は人類が外宇宙に進出するためには人類の意思を一つにする必要がある。っと語り掛け、その方法を我々が知っているのではないかと尋ねてきた。しかし、アカシックレコードが告げた言葉は残酷なものだった。進化の手前で呪いに掛けられている今の人類が外宇宙に進出しても失敗するだけだ。実際、何度も外宇宙に出ている人類は失敗を続けている」
話が多少壮大になっているような気がする。それに呪いなんていわれてもいまいちしっくりこない。
「人類は宇宙に進出した際、やってはならない過ちを犯してしまった。結果、開発者の男は人類を憎み、人類が進化できないようにと呪いをかけた。それを解くことができ、そして人類を進化の糸口を見つけることができる存在。我々はそれを『選別者』と呼んでいる。私達の計画はその選別者を見つけ出すこと。その為に我々は何度も人類のシュミレーションを地球を使って行ってきた」
……へ?今、なんて言ったの?地球を使った人類シュミレーション?もし、そんなことを九百万年前からずっとしているのだとすれば、今俺の前に居る機械は恐ろしいことをしていることになる。
サブレの表情が無表情から怒りをにじませるものに変化する。
怒りをにじませる声を放つのはサブレだった。
「今、自分が何を言っているのか分かっているのか?あんた人類を使ってシュミレーションをしたって言ったんだぞ?人類が繁栄して滅びるさまをお前はずっと見ていたってことだ。それに、『選別者』っていう存在を見付けるのが目的なら、お前たちが全く介入しなかったわけがないだろ?」
PN01はまるで悪びれることも無く告げた。
「最初の一回が失敗することは最初から分かっていた。やはり、人工的なやり方で進化さえた人類では呪いを解くことはできなかった。地球外生命体との接触で逆に人類の間に格差を作る結果になるとわかった。そこまで分かれば十分だった。私は地球外生命体を回収後、人類の一割を残して滅ぼすことにした」
滅ぼした?せっかく人類が地球外生命体と分かり合ったというのに?そのうえで滅ぼしたの?
「君たちはせっかくと思ったかもしれないが、外宇宙に出るうえで必要なことをいまだ満たせていない人類では、無理なのだ。だから滅ぼした。そんな経過を何度も繰り返した」
何度も繰り返したっという言葉を反復し考えているとそれを今日まで何回繰り返したのだろうかっと考えてしまう。そんな俺の気持ちを読み取ったのか、PN01は端的に答えた。
「大体人類が栄えて滅びるまでケースが約一万年毎に起きていると考えれば、約九百回」
九百回。その過程の中でどれだけの人類が犠牲になったのだろうか?そう考えてしまう。
それに呪いって何のことだろう。
その答えはPN01がすぐに答えてくれた。
5
「先ほど私はアカシックレコードを作った男女がいたといったな?彼らは他の人類よりはるかに優れていた。いわゆる人類初の覚醒者だった。だからだろうな、彼らは他の人類よりはるかに優れていた。それは、ほかの人類から見れば脅威にしかならなかった。男の目の前で彼女は殺されてしまった。それは男を絶望させるには十分だった。男は死に際に叫んだ『呪ってやる!お前達人類が繁栄することは無い。俺の魂はお前たちを滅ぼし続ける!』そういって彼も死んでいった。その言葉は真実だった。ただ、男自身に問題があったとしたら、それでも彼女の信じ続けた人類を信じたいという願いが男にも残っていた事だった。その二つの心は分かれ、人類に繁栄を願う心と滅びを願う心に分かれ、まるで幽霊のように憑りつき続けた」
そこまで話したところでサブレが「恐ろしいな」っとつぶやいた。まさか……今回憑りついた相手ってサブレじゃないよね?
しかし、俺の考えは恐ろしい勢いで誤解していることになる。
「しかし、男の魂も二千万年という年月の間にすり減らし、結果として限界になろうとしていた。それが君があったばかりのアインだ。分かれていた魂もバラバラになり、その欠片がアインに宿っていた」
そういわれたらサブレが言っていた最初のアインの薄さみたいな理由が分かった気がした。あれは乗り移っている魂が薄かったためにその影響をアイン自身が受けてしまっていたのか。でも、どうしてサブレと戦う事でそれが急に覚醒してしまったのだろう?
「アインが覚醒した理由、男の魂が覚醒した理由は……サブレ・グリフォン、君が女の魂が生まれ変わった姿だからだ」
乗り移ったではなく、生まれ変わった。それがサブレと言われてもいまいちピンとこない。
「女の魂は二千万年の月日をかけて生まれ変わった。彼女はいささか変わっていてな。普通人間は生まれたばかりの状態では基本的な差異はあまりない。脳波というのは個性が出来始めると使えるようになる。今までの覚醒者たちも基本的にはそのパターンだ。最もそれとは違うパターンを持っていたのが彼女であり、君なんだ。君と彼女は生まれてすぐに太陽系全域に脳波を響かせた。そんな人間は君達だけだ。だから分かったんだよ、君が『選別者』であると。それが分かったから男も目覚めたのだ。君が許せなくなったから」
サブレはさらに小さな声で「という事はアインと俺は前世で付き合っていたという事か?」っと青ざめていた。そう考えてしまったら俺も嫌だ。
「彼女は優しく強い女性だった。自分が死ぬとわかっていても、死んでもなお人間を信じ続けていた。それが男は許せないのだろう。自分が二千万年もかけても答えが出ない答えに、迷わず進むことができる彼女が。私も聞きたい、どうして君たちは人類を信じることができる?アカシックレコードですら、人間を一方的に信じるなどできない。人間は常に争い、殺し合う。なまじ個性がある分お互いを誤解して殺し合う。その上、他人を蹴落とすことにまるで躊躇しない。何故信じることができる?」
俺でも人を信じることは難しい。サブレは味方を信じ、敵も信じ、その上で全てを大切にしようとする。しかし、サブレは全てを信じているわけではないだろう。それでもサブレが、人類を信じていようとする理由、疑いながら信じる理由を俺も知りたい。
サブレはさも当たり前のように答えた。
きっとそれはサブレにとって当たり前で、彼女にとっても当たり前だったのだろう。
二千万年かけても言い続けることができる『当たり前』で、変わらない信念。
「俺が信じないで誰が信じるんだよ」『私が信じないで誰が信じるの?』
俺にはサブレと見たことも無い彼女が重なって見えた気がする。
きっとPN01にも見えたはずだ。
「誰も信じないからこそ、信じあえるように信じるだけさ」『誰も信じないからこそ、信じあえるように信じるだけよ』
変わらぬ正義、変わらる気持ち、貫く信念、信じる可能性を貫き続ける。
「俺はそれしかできないから」『私はそれしかできないから』
PN01は告げる今回の本題を。
「……アカシックレコードは全ての真実を知っている。すべての歴史を知り、その上でサブレ・グリフォンとアイン・ダルトンを待っている。先に付いた者の答えを聞き、その答えを人類の総意として受け入れる。そのうえでアカシックレコードの居場所を知る人物の名前を君に教えておく。ゲイナー。彼がアカシックレコードの居場所を知る唯一の人類だ」
言い終えた途端後ろから物音がし、そのとたん一瞬だけ後ろを向いたのち何もいないことを確認し、そのままもう一度PN01の方を向くが、そこには既にPN01はおらず、人がいた面影すらない。
俺は周囲を見回して探したが、サブレは彼が立っていた場所の下にあるマンホールを見ていた。
「液体になることができるのか?あのPN01とかいう存在は。なるほど、地球外生命体……ね」
不穏な気持ちだけが俺の心に残っていた。
どうだったでしょうか?面白かったと言っていただけたら幸いです。今回の話は今後にとっての重要な話です。
次回のタイトルは『マーズ・アタックⅡ《戦いの幕開け》』になります。次回もお楽しみに!!