6
ライドがどんな思いで数年を過ごしていたのかは想像しかできない。三日月に、昭弘に、シノに、オルガに守られた彼がどんな思い……悔しさをその身に宿していたのかなんてのは、シノから話を聞いていた俺にはわかっていたはずなのだ。
俺だって色んな人に守られ、支えられて生きている。しかし、サブレはきっとこう言うだろう。
「人っていうのは様々な人に支えられて生きているんだ。誰かから助けられることを負い目に、誰かに支えられることに後悔してはいけない」
俺達人間は誰かから支えられる事を忘れてはならないし、支えることができることを忘れてはならない。
俺達がそれをライドに教えておけばよかったと、のちに俺は後悔した。
しかし、そんな後悔もきっとなんの役にも立たないのだから。後悔すらも飲み込んで進んで行くしかない。
これはきっとそういう話なのだろう。
7
これから出立する俺、ビスケット・グリフォンを見送ろうとクッキーたちがそろって見送ってくれた。軍港には多くの戦艦が出立をしており、乗組員が家族との別れの時を迎えていた。
泣き出す子供、覚悟を決めた表情で涙を瞳にため込む妻や夫、「がんばってこい」と見送る両親など、多くの人でにぎわっていた。
俺達の元にも多くの家族が見送りに来ている。絵里さんも明楽への見送りをしており、俺の元にもクッキーたちが見送りに来てくれていた。
クッキーは泣きながら俺の腰にくっついており、クラッカは泣くことを我慢しているが、それでも瞳に涙をため込みその表情は逆に面白さをかもしだしている。
「二人と暁は任せておきな。ちゃんと面倒を見ててあげるから」
そういうおばあちゃんはいつものしかめっ面をしながら俺とアトラをの方を見ている。
「暁も、おばあちゃんのいう事をちゃんと聞いてるのよ」
アトラは心配そうな表情を浮かべながら俺の足元にくっついている暁にそう言い聞かせる。いい加減おばあちゃんが暁を離す。
みんなが集まって出発の準備の確認をしていると、ユージンが後ろから俺の襟をつかんで引っ張てしまう。
「ライドの事をよろしくな」
「分かってるよ」
ライドの事を頼むといわれたのは数日前の事だった。火星に行くという事をユージンに報告すると、ユージンはこっちの仕事が完全に落ち着いたら絶対追いつく。そういって話を切り替え、ユージンはライドが心配だといった。
ライドはノブリス・ゴルドンを暗殺して以降、行方をくらませていた。ユージンはクーデリアさんの人脈を駆使して探していたが、見つかることは無かった。
その後もユージン達が探し出してはいたが、結果として見つかることは無かった。
俺の方でも別に探してはいたが結果として見つかることは無かった。
火星に行く際は俺が代わりに捜しておくという事をユージンに伝えていた。
「でも、あまり期待しないでよ?」
「分かってる。でも……あいつが一番つらい思いをしていたんだろうなって今なら分かるんだけどな。あいつが今どんな思いでいるのか知ってみたいんだけどな」
気にしても仕方がないとユージンと一緒に心に刻んでおく。
気が付いたら探すぐらいの気持ちでいこう。
「ビスケット!そろそろ行こうぜ」
そういってヴァルハラへと足を進ませると、最後にみんなの方を向くと、ようやく明楽がおかしさに気が付いたらしく大きな声でそれを指摘する。
「なんでサブレ先輩がそっちに居るんすか!?」
するとシノや周囲の人間もサブレが見送り側に立っていることに気が付いたみたいだ。周囲からサブレへのブーイングが降りかかるが、サブレは一度睨んだあとに理由を口に出した。
「エデンの追加ユニットがまだ調整中らしくてな。お前たちとは遅れて戦場に現れるから気にするな。俺が行かなくてもお前達なら生き残れるだろ」
すると、明楽が黙っていればいいのに、口を出してくる。
「俺達が死んでいた場合は?」
「地獄まで追い回して説教する」
「「「怖い」」」
「そして俺はお前たちを忘れて生きる」
「「「ひどい!」」」
「そう思うんなら生きてみるんだな」
そういってサブレは行けっとジェスチャーで送り出す。みんなでヴァルハラに乗り込むと、それぞれの持ち場に付く。
俺は艦長席に座り、格納庫にある新型バルバトスの様子を確認する。
それ以外の場所をそれぞれ確認した後、俺は改めてメイデンに指示を出す。
「ヴァルハラ上昇」
ヴァルハラが上へと上昇していくと、目の前に多くの艦隊が並ぶように待っていた。次々と艦隊へと合流していく。
俺たちのヴァルハラが艦隊に合流して三十分後に火星進行総司令官から全員にむけてメッセージが届いた。
「火星進行総司令官の三番隊総隊長《オータム・ダン》である。先ほど全戦力がそろったと報告が上がった。先に向かっている先遣部隊が苦戦しているという事だ。我々の仕事は先遣部隊の撤退援護と降下部隊の掩護になる。今回の作戦には皆の命を懸けてもらう。今回の作戦の合否で木星帝国との戦いの有利不利が決まる。皆!行くぞ!」
一番後方に控えていた超大型空母級『テムシン』が十隻ほど見える。
テムシン最大の特徴は何を言ってもその大きさである。スキップジャック級のざっと倍以上で、格納できるモビルスーツ数は30機ほど。
そんなテムシンが十隻も控えている姿は壮観という言葉が一番合っているだろう。それ以外にもヴァルハラと同じくユグドラシル級がニ十隻ほど、残りはハーフビーク級クラスが四十隻も配置されている。
「すごい……どこからこんだけの戦力を」
イオリは圧倒され、メアリーですら声を失っているほどだ。レレも驚きを隠せていない。
「では、全艦隊!惑星間航行システムを起動後最大出力で火星を目指す!」
旗艦からの指示のもとハーフビーク級がはじめに消えていき、次にヴァルハラを含めたユグドラシル級が飛んでいく。
流れていく景色はまるで流れ星のようにも見えた。
8
見送りを済ませた者が一人一人と解散するように散開していく。そんな中俺、サブレ・グリフォンはユージン・セブンスタークと共に開発局へと足を運んでいた。
そんな中、ユージン・セブンスタークはゆっくりと口を開き始める。
「全ての作戦が失敗して、三日月達のお陰で俺達は生きていることができる。オルガの最後の命令を聞くことができた。アジーさん達が地球まで送ってくれたおかげで今を生きていける。それに、お前たちがアリアンロッドと戦ってくれたから生活が保障されている。あの時、アジーさん達に助けられた時、マクマードさんにイサリビを渡した。今後の俺達がもっていても必要のないものだしな。下手に戦力を持っていたら何されるかわからなかったし。聞きてぇんだが、どこで『イサリビ』を見付けたんだ?」
どこでと尋ねられるとその辺でというしかないが。本当にその辺だったんだけどな。
「どこって……その辺だけど。マクマードという名前で一方的にメッセージが送られてきたのが失踪する直前だった」
テイワズが失踪する直前、もっと言えばラスタルが暗殺される直前だった。
「場所の指定と、その場所に『イサリビ』などの元鉄華団が使用していたであろう道具が一式揃って置かれていた。勿論近くに歳星はいなかった」
時と場合を考えればおそらく木星帝国がラスタルを暗殺するとわかった為、姿を隠すところだったのだろう。
「マクマードさんはラスタルが暗殺されるかもというのは分かってたのか?」
「おそらくはな、暗殺しようとしている奴らの中に元ジャスレイの部下が絡んでいるとわかったんだうな。まあ、止めることには失敗したわけだが」
だから姿を消す際になるべく鉄華団のメンバーに迷惑が掛からないよう、EDMに証拠になるようなものを引き取ってもらったのだろう。
ユージンは小声でぶつぶつと呟き始める。
そもそも、俺達が急に開発局に行くことになったのかというと、開発局ではユージンがひっそりと頼んでいたのが『イサリビ』を改良してほしいという事だった。
元々は鉄華郵便局が各地への移動の際に使用する予定であった。
しかし、ユージンはいざとなったらクーデリア達だけでも助け出したいといい、その他の改良にも手を出した。
二人で黙って開発局に入ると、指示された格納庫まで移動していく。
開発局内は閑散としており、ごく一部の人間はエデンの追加ユニットの最終調整を行っていた。
そして、目的地へとたどり着くと、ソニアはいつもの笑顔で俺達を出迎える。
「いらっしゃい。さあ、見て言ってちょうだい。これが『イサリビ改』よ」
そういって目の前に現れたのはイサリビと呼ばれた戦艦であった。大まかな形こそ変わっていないが、細部の形状や大きさが変わっている。
まず頭部がとがった帽子のようなデザインに変わっており、ついていた鉄華団のマークも鉄華郵便局のマークに変更されている。
モビルスーツを格納する場所にはより多くの荷物も入れられるように広く作られており、対ビームコーティングも表面につけられており、左右に惑星間航行を前提とした追加ユニットがつけられている。
元々地味な色であったが、今回は薄緑に変更されている。まあ、どっちもどっちな感じであるが。
「おおー、頭部が変わっているだけに結構変わったように見えるな」
「でしょ?結構内部も変わっているのよ。まあ、実際は中を見てもらってからにしてもらおうかしら」
そういって中の方に案内していく。中は薄暗いイメージが多少あったが、現在は白で塗装されなおされていて、中身の設備もできる限り最新式に変更されている。
歩く靴音がコツコツと心地いい。
壁を触ってみると、ヴァルハラにも通じる滑らかな触り心地。
まずブリッジに辿り着くと、ブリッジの内装すらがらりと変わっており、椅子もふわふわのものに変わっており、ここだけで寝られそうだ。
ブリッジの画面も昔とまるで違うものである。
一体誰が金を出したんだか。
「もちろん私のポケットマネーよ」
いい笑顔で返してくるソニア。あんたの何がそこまでさせるんだ?
「私って基本的に金の使い道なんて大してないのよね。それに、鉄華郵便局にはこれからもごひいきにしてもらいたいしね」
使いまわすつもりの目をユージンに向け、ユージンは深く頭を下げつつお礼の言葉の口にする。
そんなもったいないことに金を使いたいとは思わない俺としては素直に感心してしまう。
あちらこちらを回った後に、イサリビ改を降りる。すると、やせ細ったような男がよろよろとした足つきで近づいてきた。
その辺の路上で近づいてきたのだったら速攻で捕まえて尋問するけど。目的を吐くまで。
そんな勝手な妄想を端に置いておくとして、やせ細った男はソニアに報告をする。
「ソニア開発局長……完成しました」
「そう……今にも死にそうな顔ね」
そう思うなら手伝ってやればいいのに。あんたが手伝うか手伝わないかで仕事が終わる時間や負担が変わってくるだろうに。
そんなつもりなど全く無いソニアは男を端に追いやってそのまま例の追加ユニットの元へと急ぐ。
さすがにここからはユージンを案内させるわけにはいかないので、男に外まで案内させるところを見送ってそのままエレベーターでエデンの元へと移動していく。
広い部屋にガンダムエデンが寂しそうにぽつりと立っていた。
寂しい部屋だな。
そう思っていると、エデンの周りの床が急に開き地面から大きな追加ユニットと呼ばれている兵器が姿を現した。
追加ユニットは二つの大型ブースター一体式の戦艦の主砲級のバスター砲。さらに小型化された上方には拡散ビーム砲が二丁装備され、下にはつかアーム付きの大型ビームサーベルと大気圏突破できるようにと付けられた大型シールドが付いている。
「追加ユニットの名前は……!?」
思い切って宣言しようとしているという事は今決めようとしているのだろう。だったら……!
「名前は『バハムート』だな」
「……シクシク」
名前を付けられる権利を奪われたのか、涙を流しその場で崩れ落ちてしまうソニア。勝ち誇る俺。そして、それを微妙な表情で見守る開発局員達。
実にカオスな環境が出来上がっていた。
しかし、完成したのなら俺はさっさと前線に向かうだけだ。そう思いエデンに乗り込もうとしたところで開発局員が総出で俺を拘束しようと腰回りにまとわりついてくる。
「鬱陶しい!!」
「駄目なんです!!まだドッキングした後、システムの接続、エネルギーがちゃんと送られているかどうかの確認があるんです」
「分かったから離れろ!!」
蹴っ飛ばそうかとしていると開発局員達はすぐにドッキングと最後のチェックに入っていく。
俺は通り道で邪魔になっているソニアに一言浴びせてパイロットスーツへと着替えていく。
エデンの元へと戻るとすっかり元気になったソニアが立ち尽くしていた。
回復するのが速いな。
「気を付けて行ってね。まあ、私もついていくかもしれないけどね」
「まさか!ハハハ!」
「そうよね!ウフフ!」
嫌な笑いが周囲に寒気を誘う。
まさかソニアがこいつの中に入ってついてくるわけじゃあるまいに。
そう思いエデンが置かれている格納庫へと移動し、コックピットに入ると、外から開発局員達が「もう少しだけお待ちください」と連絡を入れてくる。
俺は各部へのエネルギー供給率の確認とシステムの最終チェックを済ませていると、十分ほどで開発局員達が解散して部屋から出ていく。
最後に準備が整いましたという連絡を入れると足場が上へと上がっていく。
時間を確認すると兄さん達が出てから五時間も経過していた。
結構時間が経ったな。これ以上時間がかかるわけにはいかならな。
真っ黒な宇宙と星々が見えてくると、そのまま俺は進行方向へと向く。
「ガンダムエデン!バハムート!サブレ・グリフォン!出るぞ!」
9
火星から最も遠い資源衛星を中心に艦隊戦が行われていた。EDMは半壊仕掛けていた先遣部隊を撤退させ、本体を広範囲に展開させた。それに対して木星帝国は囲むように陣形を広げていた。
前方に展開していた両方の戦艦であるハーフビーク級と木星帝国開発のハーフビーク級と類似する帝王級と呼ばれる戦艦がぶつかり合っていた。
もうじき激突してから五時間が経過しようとしていた。
EDMの旗艦内で怒号が飛び交う。
「ハーフビーク級が三隻撃沈!左翼が押され始めています!」
「左翼には耐えるよう伝えファントムブラッド隊にガンダムを一機援護に向かわせるように伝えろ!その隙に右翼は一気に押せ!中央の艦隊は弾幕が薄くなっているぞ!」
するとヴァルハラ内でも同じように怒号が飛び交い始める。
まず、レレが旗艦からの情報をビスケットに伝える。
「旗艦から連絡!ガンダムを一機左翼援護に向かわせたしとのこと」
「イオリ!マークに援護に向かうように伝えて。あと、明楽にブルーレイが撤退したらこちらにいったん戻る様にと伝えて!」
「了解!」
「メアリーはさらに前方の艦隊の援護射撃に入る様に伝えて!このまま中央が押される可能性がある!全員持ちこたえて!ここが正念場だ!!」
同じとき、木星帝国旗艦であるEDMのテムシンと同じ大きさの大型空母級クラスの戦艦である『天照』の一番艦で司令官である若い眼鏡をかけた男が怒号を上げていた。
「左翼には押し返させるなと伝えろ!ガンダムは何をしているんだ!?」
「ガンダム両機は同じガンダム・フレーム相手に抑えられています!」
司令官は忌々しそうな表情を浮かべ、下唇をかむ。
「忌々しい部隊だな!アインが参加してくれればいいものを!」
しかし、アインはククナの命令で降下の準備をしていた。そんなククナはさらに後方で待機していた専用巡洋艦『素戔嗚』のブリッジで戦局を見ていた。
腕を組み視線は戦場の光をしっかりとらえ、壁に背を預けているとブリッジにククナが入ってきた。
「戦局の方はどう?面白い何かは起きてる?」
「別に、基本的には我々の予想通りの結果だ。我々は降下することでいいのか?このままではこちらの予想通り彼らに降下されてしまうが?」
「いいのよ。テラの予想通りに動くなんて面白くないでしょ?それにテラを出し抜かなくちゃいけないのだから」
そういってブリッジから出ていくククナを見送ると、アインはブリッジの通信士に連絡事項を伝えて去る。
「アルミリアとジャックにガンダムエデンが現れたら撤退するようにと伝えろ」
ククナに追いつき、エレベーターへの通路に入ると、壁に背を預けている黒い中世の騎士をイメージさせる人物がいた。
「あら黒衣の騎士さんじゃない。あなたも降りる?」
「あなたの指示に従う。それがあなたにもらった仮初の命に対する対価だ」
アインは一睨みしていると黒衣の騎士はそれを涼しそうにしている。
「じゃあ、一緒に降りましょ」
そういってエレベーターに乗り込むころ、戦場ではある変化が訪れようとしていた。
EDMの全戦艦が後方からの存在に反応した。
サブレチルドレンのメンバーも、ビスケットも、みんなも同じように後方から来たその存在の名を知っている。
シノが叫び、明楽が反応する。
「遅いんだよ!サブレ!!」
ガンダムエデンのバスター砲が中央の敵モビルスーツ隊の部隊を蹴散らしてそのまま突っ込んでいく。
どうだったでしょうか?面白かったと言っていただけたら幸いです。今回は初出のキャラクターもいたと思います。次回から本格的に火星での話に移っていきます。
次回のタイトル『マーズ・アタックⅢ《赤い大地》』になります!お楽しみに!!