10
俺達鉄華団にとって仲間とは家族であり、共に暮らす尊い親類でもある。しかし、それは結果的にオルガ・イツカ―――――鉄華団の団長を止める者が居なかったという事である。
だから、鉄華団に必要だったのは中立的な立場から常に意見が言える人間だったのかもしれない。例えば、サブレのようなバランサーが必要だったのかもしれない。
サブレはある意味そういう意味では非常に適任な人間かもしれない。
サブレからすれば敵は敵、味方は味方、人は人である。
差別をしない、区別をしない、人を見下さないし見上げない。まあ、冗談ではよくするけど。
常にバランサーとしての機能がサブレにはある。だから……そういう存在を常にそばに置いておくことは鉄華団にとってプラスになるはずなのだ。
だとしたら、俺達鉄華団にとって一体どこでミスをしてしまったのだろう。
俺がサブレを紹介していれば解決したのだろうか?
それだけでは終わらないだろう。
きっとサブレはこう言う。
「俺がいたから鉄華団を救えなかっというのは過大評価のしすぎだな。結局は見本となる大人がいるかどうかだろ」
そうだろう。過大評価のしすぎというものだ。サブレにそれ以上の何かを求めるのは酷と言う者だろう。
しかし、それでも俺は考えてしまうサブレならと……もしかしたら、出会ったすべての存在は彼に期待するのかもしれない。
サブレにはそんな期待を乗り越えてくれる何かがある。
そう考えたとき、俺はライドと言う名前の若者を思い出す。俺ではなくきっとサブレと先に出会っていればあんな結末にはならないのかもしれない。
そんな考えを抱いていても今更なことなのだろう。
サブレもこの時はかなりの激戦の途中だったのだから。
結局俺はあの頃からちっとも成長していないという事なのかもしれない。
11
ゲイナーが腰を落ち着ける施設はいくつか存在するが、現在はクリュセ郊外に存在する渓谷の中に作られた施設から動く気配がない。
元鉄華団のメンバーも少しづつではあるが集まりつつあった。
くすんだ赤に近い茶髪のダンテと呼ばれた若者がほかの同じ孤児院で過ごしていた子供たちと一緒に避難していた。
そんなダンテは未だベットから動けずにいた。お互いに言葉はいらず拳をぶつけ合う事でたたえ合う。
子供達が部屋の中に入っていく中、何気なく広げた一言が周囲に不安を広げた。
「そういえばクーデリアさんがいるって聞いたんだけど、どこにいるんだ?」
チャドは「さあ?そういえば最近見てないな」そんなことを言いながら周囲を見回す。
そもそもチャドがいる小さい部屋にはダンテや子供たち以外に他に居ない。だからこそだろうが廊下を偶然歩いていたライドへと話が移る。
「ライド。クーデリアさんいなかったか?ダンテが来たって報告したいんだけど?」
ライドは「そういえば見てないっすね」っと言いつつ別の部屋へと探しに行く、少しづつ物騒な空気が漂い始める。
最終的にチャドの部屋の前でライド、三日月、コットン、ゲイナーがしゃべり始めた。
まずコットンが「やはりどこにもいませんね」と冷静に状況分析結果を口にした。
多少焦り気味でまくしたてるのはライドだった。
「やばいですよ!あの人は木星帝国から狙われているんだから。このままだとテラが動きかねないっすよ。今いる場所だってばれてしまう」
そんな状況でも落ち着いているのはゲイナーだった。
「落ち着けライド。彼女が行きそうな場所はクリュセと元鉄華団本部か。コットンお前はモンタークに連絡を取って捜索に協力してもらえ。三日月、お前はクリュセに向かい捜索しろ。ライド、お前は念のために鉄華団本部へと足を向けろ。あそこにいる可能性もあるからな」
全員がうなずき、閑散していくなかダンテがゲイナーにおどおどと話しかける。
「あの~俺達もなんかできませんか?子供たちを預かってもらうにあたってなんかしたいんすけど」
「そうじゃの……」
ゲイナーは嫌な微笑みを浮かべながらダンテに近づいていった。
コットンはバイクを走らせながら乾いた大地を疾走していた。
メイド服にフルフェイスのヘルメットをかぶり、手袋を被っているとどこのカリスマメイドなのかと誤解してしまうだろう。
少しづつ周囲にモビルスーツの残骸が増えていくと、その中心にガフェイン・マークⅡが立ち尽くしていた。
その辺のモビルスーツではモンタークの相手にはならないのだろう。しかし、モンターク自身の実力もだろうが、モビルスーツ自体の性能の良さがにじみ出ている。
汎用性が高く、装備も扱いやすいように調整している点も評価できる。
「なるほど、ゲイナー様がおっしゃってた通りですか。ソニア……ゲイナー様が「いずれは業界に名を残せるほどの人物」でしたか?」
足元にバイクを止め、モンタークはようやくコットンの存在に気が付きモビルスーツから降りる。
モビルスーツの足に背を預け腕を組みコットンの話を聞いていた。ある程度話を聞いたところでコットンは「どうですか?」と聞き始めた。
「あなたはクーデリア嬢がどこに行ったか分かりますか?」
そう尋ねられたモンタークは腕組みをしたまま多少悩み自身の考えを口にする。
「この場合クーデリア嬢がどこに向かいたいかという事だが、おそらく原因はこの前にクリュセ一帯で行われた摘発だろう。あれはクーデリア嬢関連の人間を捕まえると言う物だったからな。かなりの人間が捕まって収容されたと聞いた」
そうなのだ、クリュセに居たクーデリア関連の人間がほぼ全員が捕まってしまったのだ。
ナディ・雪之丞・カサッパ、メリビット・ステープルトン、デクスター・キュラスター、ククビータ・ウーグなどが既に捕まっており、クリュセ郊外にある収容所と砂漠地帯に作られた高重力作業施設へと分けて捕まってしまった。
メリビットなどの女性は収容所に雪之丞などの男性は高重力作業施設で強制労働に使われているだろう。
モンタークが言っているのはそれが理由なのだろうという事はコットンにも把握できた。
「あれを開放してもらう。彼女からすれば彼らは自分の行動の犠牲者なのだからな。心を痛めていてもおかしいことはあるまい。むしろ、彼女の性格を考えれば今すぐにでも助けに行きたいと思うだろうな」
その通りではあるのだろう。そんな中モンタークは気になってしまったことがあった。
「そういえば、彼等には子供がいるのではなかったか?まさかではあるが子供達も収容されたのか?」
モンタークは内心穏やかではいられなかった。
もしそうであれば自分だけでも助けに行くべきだと考えたからだ。
「いいえ、彼らの子供はダンテという男の人が引き取って私達の施設に連れてきましたよ」
モンタークは「ならいい」と落ち着き、話の軸を戻すことにした。
「さて……そもそも、どうして木星帝国が彼らを捕まえたのかという事だが、理由を探れば『クーデリア・藍那・バーンスタイン』その者を捕まえてでも何かをしたいんだろう。と、考えれば理由は私達にはわかっているはずだ」
コットンにもその理由は把握していた。だからこそ、ゲイナー一派はクリュセ攻略を進めていた。
クーデリア・藍那・バーンスタインがクリュセにある議会に隠したとされる二枚存在するカードキー。マクマードが失踪前にクーデリアに託したカードキーは二枚。そのうちの一枚はヤマギという若者に託しそのまま彼と共に行方不明になってしまった。おそらくは今頃マクマードの手に渡ったころだろう。
しかし、もう一つはいまだにクーデリアがもっているはずだった。しかし、クーデリアをゲイナー一派が保護した際には彼女はもっていなかった。
なら木星帝国が先に見つける可能性が高いだろう。その為にクリュセを真っ先に抑えたのだから。しかし、この段階でクーデリアを呼び寄せるような作戦を立てるわけがないだろう。
だとするなら木星帝国はいまだにカードキーを見付けていないのでは?という結論になる。
「しかし、木星帝国がカードキーを求めているとは限りませんよ」
「そうだろうな。しかし、君だって分かっているのだろう。木星帝国がコロニーレーザーを完成させたにもかかわらず使用しない理由。そこにクーデリアの元に届けられたカードキーを合わせれば理屈としては十分だろう。だから求めているのだろう」
「なら、カードキーの内の一枚はコロニーレーザー起動もしくは使用するための者なのでしょう。という事は……」
「もう一枚は自爆か破壊するためのカードキーという事だろうな」
二人の間に沈黙が続き、モンタークはモビルスーツの方に歩き出す。
「なら私もクリュセに向かおう。君はどうするんだ?」
「私は二つの収容施設を見て回ります。では」
そういって先にコットンはバイクに乗り込んでそのまま姿を消してしまった。
モンタークもモビルスーツに乗り込んでそのまま渓谷の隙間を通りながらクリュセに近づいていく。
「しかし、彼女が捕まる前にこちらも行動するべきなのだろうな」
そう思っていると空でまばゆい明かりが光った気がした。本格的にEDMと木星帝国の戦いが激化していることに誰もが気づきつつある。
モンタークはクリュセまでさらに近づいていく。
12
エデンの追加ユニットのバハムートの拡散ビーム砲の一撃が正面に展開していたモビルスーツ隊を襲った。空いてしまった敵陣形に強引な形で入り込んでいき、大型ビームサーベルでさらに艦隊を薙ぎ払う。
そこからUターンしていったん戻り、左右にバスター砲を放つ。
陣形に縦の穴が開き、それを見た司令官はユグドラシル級に指示を飛ばす。
「ユグドラシル級は敵陣の穴を突破し火星に降下しろ!」
指示通りにユグドラシル級が動き始め、同時にビスケットもモビルスーツ隊に指示を出す。
「明楽とシノはサブレと一緒に突破口を開いて。他のモビルスーツは敵モビルスーツ隊をユグドラシル級に近づかないように撃退して!」
するとサブレはビームサーベルで切り刻みつつ、拡散ビーム砲で敵を蹴散らしていく。明楽やシノもサブレと共に敵モビルスーツ隊を蹴散らしていく。
そんな姿を下唇を噛み締めながら木星帝国の司令は悔しそうに地団駄を踏みそうになっている。
EDMのモビルスーツ隊の一部が強引に味方のモビルスーツ隊を蹴散らしながら突き進んでいく姿を見ていくしかできない。
そんな戦いの最中に一機のシャトルが大気圏を突破していく姿を誰もが見失っていた。
大気圏を突破していくシャトルの中では戦いがかすかに確認でき、エデンが大きな追加ユニットが恐ろしい勢いで進撃していく姿をアインやククナは目撃していた。
無事シャトルは大気圏を突破したらしい彼らの視界は赤い大地が広がっていて、そんな中クリュセの様子が少しづつ拡大していくようだった。
黒い騎士は彼らの後ろでそのクリュセの様子を眺めながら後ろに格納してきた自分用のガンダムが気になっていた。
シャトルの格納庫は大きくモビルスーツが四機も入れられており、左上からエンペラーガンダム、右上にガンダム・レッドクイーン、右下にガンダム・ブルーレイが置かれており、左下に新型の黒いガンダムが置かれていた。
全身が黒と所々に金色で配色されており、全身はドラゴンと騎士をイメージした装飾がされており、シールドにライフルなどの基本装備を押さえっており、背中にはドラゴンの翼のような装備が付いている。
その名を『ガンダム・ブラックレーベン』であり、黒い騎士が乗り込む機体である。
そんな機体と共に赤い大地に降り立とうとしていた。
様々な思惑が交わり、様々な結末を彩ろうとしていた。
13
一人の女性はクリュセの路地裏から別の路地裏へと移動していく。そして、たどり着いたところはかつて鉄華団の元メンバーたちが仕事をしていた工場だった。活気だっていたころとは違い、会社の社長が捕まった今工場は閑散としている。
彼女はその奥で隠れていた自分達の兄弟に買ってきた食べ物を与える。
彼女はこのところの強制摘発に心を痛めていた。
たとえ自分が知らない人たちが捕まって連れていくところを目撃していた。ここでの出来事も彼女からすれば他人事ではなかった。
だからと言って彼女にはどうすることもできなかった。力の無い自分を疎ましく思い、行動もしてくれない周囲に絶望すらした。
そんな彼女が後に『革命の乙女』と呼ばれる人になるとはだれも思わない。彼女ですら思っていなかった。
そんな彼女の名前は『アスナ・エール』。明るいブロンズヘアーが似合う大人しい女性だった。
テトラの元に大量のデータが集まっており、その一部は収容した人物のリストであった。
「で?この雪之丞という男はついたのね?」
スーツ姿の秘書は手元に持っているタブレットをいじりながら報告を上げる。
「はい。先ほど高重力労働施設の方に移しました。テトラ様の予想通りで体力的にも問題なさそうですので。しかし、いいのですか?最悪の場合は一か月ほどで過労死してしまいかねない場所ですよ?」
テトラは悪そうな微笑みを浮かべながら答えた。
「いいのですよ。あそこはパーティクルドライブのパーツを製造しているのだから必然でしょ?元テイワズが使っていた労働者もそちらに送っても足りないという話だったからね。ちょうどいいでしょ?それに雪之丞という男は元鉄華団のメンバーなのでしょう?」
「はい。中でも団長や周辺のメンバーとも仲がとてもよかったようですね」
テトラなりの復讐の一つである。
テラは「やれやれ」と小声でつぶやきつつベランダに出ていき、空を見上げる。
「あの少年が近くまで来ようとしているか……もうじきクーデリア・藍那・バーンスタインも近くまで来るだろう。知り合いを取り戻すには自分がここに来る必要があるのだから。特にあんな情報を流されたのでは彼女はたまったものではあるまい」
テラが彼女にひそかに流した情報とは、雪之丞の施設移送である。この辺に存在する最も過酷な労働施設へ移送したという報告は彼女の気持ちを揺らがせるには十分だった。
その際に彼女へとひそかに送ったメールにすぐにクリュセ議会まで来るようにと書かれていた。
簡単に殺しては意味がない、だから耐えうるだろうギリギリの人選が彼であった。
簡単には殺したくないというテトラの願いとクーデリアとサブレを誘う出すうえで必要な人選。
テトラの「苦しめて殺してやりたい」という鉄華団への憎しみがとどまるところを知らない。
ふとテラの視界に多くの流れ星のような降下線が見えた気がした。
多くのEDMの主力級であるユグドラシル級が流れ星のような勢いで降りていく。木星帝国の艦隊を突破して彼らは火星に辿り着いたのだろう。
テラは切られたはずの目をゆっくり開いた。その目はまるでコンピューターの光回線のように輝いていた。
そんな中雪之丞は護送車で高重力労働施設へとたどり着いた。
つい数時間前に分かれたデクスターとは違う、木星帝国の士官が言うところの「最も過酷な作業施設」と呼ばれているその場所へ行くことへの不安は雪之丞は無かった。
別に罰だとか罪だとか考えているわけでは無い。
雪之丞の体の自由を奪っている拘束衣に足には足枷、首に爆弾付きの首輪がつけられている姿はまるで罪人のようである。
しかし、自分が苦しむ分だけメリビット達を楽にしてあげられるのならそれに越したことは無いと考えていた。
というよりは、それが彼がテトラという女性に出した条件だった。
捕まっている自分の知人の中で自分が一番この労働フロアに耐えられる可能性があるという選抜だった。せめて、EDMの主力隊がメリビット達を助けてくれるまで耐えると決めていた。
護送車が止まり雪之丞は外へと出される中、目の前に存在感を放つ大きなコンクリートのような質感の重苦しい建物を見た途端、全身に嫌な汗が流れ始める。
何かをこの施設から感じ取り始めているのかもしれない。
一か月前に工場前で出会ったのアインという名の若者が言っていたことは真実なのかもしれない。
「あなたは一か月後にある選択肢を突きつけられる。そのうちあなたが選べるには自分が助かる簡単な道と、みんなが助かる代わりに死に等しい苦しみをあなたが受ける道。あなたはどっちを選ぶのかな?」
その言葉通りに雪之丞には過酷な選択肢が目の前に現れた。
まるで雪之丞には自分の身に降りかかる災いを予言しているように見えた。
死ぬかもしれない。二度と愛する人に会えないかもしれない。それでも、大切な人たちを守れるのならっと考えて彼は前に歩き出そうとする。
しかし、彼の視界の上には複数の流れ星が流れていくのが見えた。
「後は頼んだぞ。ビスケット」
彼は施設へと足を踏み込んでいく。
そして………彼が生きてこの施設を出る日は無かった。
14
木星帝国の艦隊を無事突破しそのままユグドラシル級が一斉にある場所目掛けて降下し始める。
しかし、そんなユグドラシル級を襲ったのはトルネード級の砂嵐である。艦隊ならともかく、モビルスーツは少しでも油断すればあっという間に吹っ飛んでいきそうだった。
バハムートのまま降りていくサブレもまた視界が最悪になってしまった状況でもデータを頼りに降りていく。大気圏を突破した艦からブリッジの視界を開いていく。
ビスケット達の視界の正面にはマークのカノンがヴァルハラを使ってうまく降下している姿が有った。
「ちゃっかりしてるな~」
そんな風に感心していると、急に通信回線がつながると、渉、明楽、レオの順に悲鳴が聞こえてきた。
「ぎゃあああ!」
「うわぁぁ!」
「なにする!?」
そして、マーク「はぁ?」という疑問声と一緒に彼の機体は何かにぶつかって一緒に吹っ飛んでいった。
「え!?何々!?今の何!?」
イオリやメアリーが必死になって何なのかを探していると、レレが小さな声で「あっ!」っとつぶやきまるでやってしまったかのように声に出す。
「エデン、カノン、シムカス、システマ、ウイングソードの反応が範囲外へと消えていきました」
そんな中サラがジョシュアへと通信回線を開き、正面の画面では気まずそうに顔を背けるジョシュアと怒りをにじませるサラが映されていた。
「まさか!?ジョシュア!君なの!?今の!」
ビスケットが驚きを隠せないとばかりに前のめりになり、サラが怒りを抑えながら声を震わせる。
「その通りです。本当に!」
砂嵐の向こう側へと消えていった彼らと出会うのはそれなりに経過してからだった。
どうだったでしょうか?面白かったと言っていただけたら幸いです。ここから少しづつ辛い話が続いていきます。火星編の第一話で描いた通りここからが火星編の話になっていくと思います。犠牲や間違いが起きていき、最後には報われる者と命を懸ける者に分かれる戦いになると思います。どうか最後まで見てあげてください。
次回のタイトルは『マーズ・アタックⅣ《憧れる若者》』になります。お楽しみに!!